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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム誕生! スキルカードを取り戻せ!!
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とんでもない取引

 母親の怒号を受けながらも朝食をかきこみ、全速力で自転車を漕いでどうにか始業時間に間に合った。今日もまた学校を休みの愛華が羨ましいと思ったが、病み上がりなので仕方がない。

 何事もなく授業をこなし、全生徒お待ちかねの中休みの時間に入った。その途端、徹人は嘆息とともに机に上あごを乗せる。ネオスライムのことが気にかかり、給食のカレーも半分残す始末だ。そんな無様な格好の徹人を見かけ、悠斗は声をかける。

「おいどうした徹人。そんな死にかけのアザラシみたいな恰好して」

「死にかけのアザラシで悪かったな。僕のモンスターが大変なことになったんだよ」

「ゲンに勝つ方法が分からないから落ち込んでいたんじゃないのか」

「それもある」

 結局、ゲンに勝つ決定的な戦法は思いつかず、自身のモンスターがバグっただけという悲惨な結末になってしまっていた。これで悲痛になるなという方が無理である。


 ローテンションな徹人をよそに、教室の中央は異様な熱気を発揮していた。下賤な笑い声をあげているところからして、源太郎がまたカツアゲ付きバトルを挑んでいるようだ。

「ゲンさん、また勝ちましたね」

「当たり前だ。俺は全国五百十八位だぜ。このクラスじゃ敵になるやつはいないな。と、いうわけで、約束だからな。お前のスキルカードをもらうぜ」

 半ば泣き顔になっている気弱そうな眼鏡の男子生徒からメモリカードを奪い取る。そして、金品を物色する強盗のような目つきで、スキルカードを眺める。

「こいつ、ろくなカード持ってませんね」

「これなら、また徹人を叩きのめした方がまだマシだぜ。あいつ、使うモンスター弱いくせに、けっこういいカード持ってるからな。とりあえず、雑魚カードしか持ってない罰として、ここら辺の十枚くらいもらっていくぜ」

「え、そんなにも。そんなのってないよ」

「うっせ、文句あっか、こら」

 眼鏡の男子生徒は反論しようとしたものの、鬼の形相で睨まれすくんでしまう。更に腕まくりで威嚇され、男子生徒は萎縮する一方だ。


「ちょっと剛力君。いくらなんでもやりすぎじゃないの」

 源太郎の横暴ぶりにクラスメイトは閉口するばかり。そう思われたのだが、唯一刃向っていく生徒がいた。ふわっとした短い髪が印象的なぱっちりした目の少女。田島日花里である。

 巨漢という言葉がよく似合う源太郎に真っ向から意見するのは無謀とも思えた。日花里の友人である女子たちも「やめときなよ」と窘める。だが、日花里は一切たじろぐ素振りを見せない。その様は牛若丸と弁慶、あるいは鬼と一寸法師を連想させた。

 その構図からすれば不利なのは源太郎であるが、彼は面倒くさそうに頭を掻くや、歯を剥き出しにして威圧してきた。

「級長か。俺がカツアゲしてるように見えるって。言っておくが、これはカツアゲでも何でもないぜ。俺はこいつと予め、『ファイトモンスターズの勝負に勝った方が負けた方からスキルカードをもらえる』って約束をしてバトルしたんだ。俺はその約束を守っているだけ。使うモンスターが弱くて勝負に負けたのが悪いんだ。俺は別にいけないことをしているわけじゃないぜ」

 滅茶苦茶な理論のようにも思えるが、これに反論するのは意外と難しい。両者の間でカードの賭けをするという合意が為された上で勝負が行われているのだ。男子生徒もその約束をしたことには間違いがないらしく言い返すことができない。

 日花里もまた渋面を作りつつ、苦し紛れに反論を試みる。

「そもそも、学校でゲームをすること自体が校則違反じゃない。それに、中学生が賭け事だなんて、常識的に考えて許されるわけないわ」

 根本的な違反を指摘され、源太郎は怯む。日花里に便乗し、「そうよ、そうよ」「先生に言いつけるわよ」と女生徒たちがブーイングを上げる。古来より受け継がれてきた女子学生の必殺技「集団論破」。多人数で一気に責めたてることで、場の空気を味方につけ、一気に論争に打ち勝つ究極奥義だ。男子学生にとって、この攻撃程厄介なものはない。いまいちピンとこない場合は、合唱祭の練習の時の女子を思い浮かべればしっくりくるかもしれない。


 多勢に無勢の様相を呈してきたと思われたが、源太郎は「うるせえ」という一喝で状況を覆してしまった。

「てめえら、ファイトモンスターズでまともに戦って勝つ自信がないから吠え面かいてるだけだろ。なあ、級長さんよ、文句あるなら俺とファイトモンスターズで勝負してみろよ。お前の言い草は野球選手にサッカーで勝負しようと言ってるようなもんだぜ」

「なんでそういう理論になるのよ。私は禁止されていることをやってるのを咎めてるだけで」

「またまた。勝負して勝つ自信がないから誤魔化してるだけじゃんかよ」

「ゲンさん、これ以上言っても無駄ですよ。田島のやつはファイトモンスターズをやったことがないから、そもそも勝負になりませんって」

「それもそうだな。ガハハハ」

 動物園のサルかと思いたくなるほど下品な嘲笑を浴びせる。ファイトモンスターズで勝ち残るためにはそれなりに戦略を練る必要があるため、バカ面そうに思えて妙に頭が切れるのが源太郎の憎たらしいところであった。


 日花里は拳を握りしめたまま、じっと源太郎を見上げるばかりだ。言い返そうとしても上手い言葉が見つからない。衝動的に教室を飛び出したくもなるが、それも許すことができなかった。行き場を失った胸の中のもどかしさが、次第に瞳の雫へと還元されてしまう。


 この場における悪は明白なのに手の出しようがない。歴史的独裁者が教室内に降臨したような状況に、ごく普通の中学生が抗う術はないように思えた。

 だが、徹人は一筋の活路を見出していた。今朝、ありえない力を披露した歴戦の相棒。実戦経験がないので確証はないが、もしかしたらとんでもない実力を秘めているかもしれない。

 それに、徹人を前に進ませたのは正義感などという高尚な理由ではなかった。それは男の性とでもいうべきであろう。ともかく、無言で日花里の前に立ちふさがったのは、多分に私的理由が含まれているのは間違いない。なにせ、強敵に刃向うことに対する胸の高鳴りと同じくらいに、全く別の意味で心臓がはちきれそうになっていたからだ。


 一瞬不満げな表情をした源太郎だが、すぐに獲物を狩る狩人の顔つきに戻る。そこに恍惚さえ含まれていたのは、予期せぬところでカモが引っかかったからに他ならない。

「どうした、徹人。またスキルカードをくれるのか」

「そうじゃない。昨日のリベンジマッチだ。僕が勝ったら大雨レインのカードは返してもらう。そして、田島さんに謝れ」

 教室内は一層ざわめきだした。無理もない。源太郎に挑むことすら無謀なのに、取引まで持ち掛けたのだ。勝負を振られた本人ですら鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている有様だ。


 だが、源太郎はすぐに嗜虐的に口角を上げると、徹人に指を突きつけた。

「面白いことを言うじゃねえか。またボコボコにされたいなら望み通りにしてやる。ただ、お前の言う条件だと、俺が勝った時に好きなスキルカードをもらうだけじゃ割に合わないな。そうだろ、京太」

「そうですね。レアカードを要求しているうえに、謝罪しろなんて言ってるわけですから」

「だよな。だから俺が勝ったらよ……」

 一呼吸置いた後、源太郎はとんでもない条件を提示してきた。

「お前のモンスターをいただくぜ」

モンスター紹介

ピクシー 光属性

アビリティ 癒しの力:回復効果のあるスキルカードおよび技を使った際、その効力を上げる

技 ライトニング

小人の容姿をした妖精モンスター。そこまで能力は高くないが、出現率が低いためレアモンスター扱いされている。

その姿から、主に大きなお友達に人気が高いとか。

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