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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 会場ジャック! ケビンの企みを防げ!!
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ライムVSアークグレドランその1

「いよいよ始まった決勝トーナメント。一回戦は予選をトップで通過したカズキ選手と、二位通過のいじゅー選手の対決だ。予選結果からすれば、事実上の最強決定戦。果たして、勝利の女神はどちらに微笑むのか」

 意外な事実が明かされ、会場のボルテージが上昇する。徹人自身も二位で通過していたというのは予想外だった。


「ネオスライム使っているくせに、二位通過か。インチキなんかしてねえだろうな」

「お前に言われたくない」

 怪訝にガンを飛ばしてくるカズキを、徹人は断言して切り捨てる。カズキはさっそくモンスターを召還しようとするが、徹人は手を広げて静止させた。

「バトルの前に聞きたいことがある。お前、朧というモンスターを知らないか」

 かなり打算的な揺さぶりだった。これで尻尾をつかめるとは考えていないが、もしかしたら情報がつかめるかもしれない。


 眉根を寄せたカズキだったが、片足に体重を預けて語りだす。

「朧なんて知らねえな。俺はただこの大会でライムをぶっ潰しに来ただけだぜ」

「どうしてライムに拘るんだ。あのケビンってやつも言っていたが」

「さあな。知りたきゃ俺に勝つことだ。無駄話はいいからとっとと始めるぞ。来い、アークグレドラン!」

 魔法陣を展開し、漆黒の魔龍を召還する。予選時に化け物じみた実力を披露したアークグレドランだ。


 対し、徹人は相棒のネオスライムを繰り出す。その途端、会場内に失笑が発したのは致し方ない。重ね重ね注釈するが、ネオスライムは公式大会、それも決勝トーナメントで使われるようなモンスターではない。複数体で使うのならともかく、単体で勝負するというのは愚策でしかなかった。


 互いにスキルカードを選び終え、臨戦態勢に入る。

「この大会で配信される限定モンスター、アークグレドランが早くも表舞台に登場。対するいじゅー選手はこれまた意外なネオスライム。秘策でもあるのか。面白い組み合わせになったが、さっそく始めるぞ。決勝トーナメント第一試合、バトルスタートだ!!」

 ファイモンマスターの叫びとともに、開戦のゴングが鳴る。先に仕掛けたのはカズキであった。

「てめえのネオスライムじゃ俺のアークグレドランのスピードにはついていけねえだろ。遠慮なくアビリティを発動させてもらうぜ」

「先手必滅か」

「その通り。体力が八割以上の時に攻撃力を上げる。カオスフレイムだ」

 紫がかった炎を扇状に吐き出す。相手が炎の技を使うのは予習済である。すかさず徹人はスキルカードで反撃に出る。


「スキルカード大雨レイン。炎属性の技を無効にし、水属性の技の威力を上げる」

 闘技場フィールドにも関わらず、天空にどんよりとした雲が広がる。切迫しつつある炎を大粒の雨がかき消していく。天から水滴の恵みを受け、ライムは体をひときわ大きく膨らませる。

「バブルショット」

 膨張したボディに対応するように、いつもより数倍大きい気泡弾丸を生み出す。アークグレドランの防御力は低い。大雨で強化した今なら、アビリティの発動を阻止できるに違いない。


 回避しようと飛び去るアークグレドランだったが、自身の体長の半分ほどもある弾丸をそう易々とやり過ごせるわけがなかった。爆音とともに、下腹部にバブルショットが命中する。唸り声と共にHPが一気に減少する。残り四十六パーセント。このまま押し勝てる見込みもあるダメージ量だった。


 しっぺ返しをくらった形になるのだが、カズキはまだ威勢を保っていた。

「ピンポイント形の無効カードを使うのは予想外だったぜ。だが、使うタイミングを間違えたな。スキルカード自動回復オートヒール

「カズキ選手、ここで自動回復。いじゅー選手の反撃による痛手をリカバーするようだ」

 カードが粒子状の光へと変換され、アークグレドランへと降り注ぐ。咆哮とともに、半分以下だった体力が一気に全快まで回復されてしまう。


「こ、これはどういうことだ。自動回復により回復できる値を大きく上回っている」

「不正カードだと。こんなものは無効だ」

 田島悟は身を乗り出すが、すぐにトーナメント表がケビンの顔に切り替わる。

「不正とは笑わせる。彼が使っているのは通常の自動回復だよ。仮に、毎回全快まで回復するとしても、アークグレドラン如きの防御力を一撃で突破できないようでは、それまでの実力と言うしかないがね」

 己もモンスターを「如き」呼ばわりされたのにむかっ腹を立てたようだが、カズキはすぐに取り直し、徹人に指を突きつける。

「そういうこった。このカードが発動している限り、一撃で俺のモンスターを倒さないと勝ち目はない。さあ、どうする」

 ここまで堂々と不正戦法を披露されると、むしろ清々しい。それに、相手を一撃必殺する方法が全くないわけではなかった。

「やってやろうじゃないか。インチキカードがなんだってんだ。それすらも打ち破って勝利をもぎとってみせる」

「いじゅー選手が勝利宣言を叩きつけたぞ。超攻撃力を誇るアークグレドランに、ネオスライムでどう立ち向かうのか」

 ファイモンマスターが便乗したこともあり、ホール内からひときわ大きな歓声がこだまする。


 情勢としてはアウェイだが、戦況からするとカズキの方が有利だった。ネオスライムに決定的な攻撃力がないため、自動回復に任せておけば防御面は安心できる。そして、まだまだ攻撃力を強化する余地があるのだ。

「調子に乗ってんじゃねえぞ、徹底的に叩きのめしてやるから覚悟しろ。スキルカード風化メタモルウィンド。ネオスライムの属性を風に変換する。炎が弱点となるからダメージは二倍だ。てめぇの貧弱な防御力ならオーバーキルしちまうかもな」

 属性相性というアドバンテージすら奪われては、もはや攻撃を防ぎきる手段はなかった。アークグレドランはライムすら吸い込む勢いで腹の中に空気を溜める。そして、「カオスフレイム」の号令に合わせ、紫煙の業火を放出する。


 おろおろと戸惑うライム。スライムの形態では、回避しようとしてもままならない。そんな彼女をなだめるように、いじゅーは一言だけ命じた。

「ネオスラ、じっと耐えるんだ」

 諦観したか。色めきだった会場が一気にトーンダウンする。しかし、ライムは分かっていた。証拠に、いじゅーはとあるスキルカードに手を伸ばしていたのだ。


 炎にまかれ、体中の水分が蒸発しそうになる。あまりにも気持ち良すぎるぐらいに体力ゲージが減少する。一ドットすら残るのも絶望的である。

「風属性へと変換されたネオスライムにアークグレドランのカオスフレイムがヒット。先手必滅で攻撃力も上がっているので、これを耐えきるモンスターはほとんどいない。これで勝負は決まってしまうのか」

 吹きかかってくる熱風に、いじゅーは思わず顔を覆う。目を細めつつも、ライムの動向を捉えて離さなかった。


 大地すらも焼け焦がす灼熱。それに抗するにはちっぽけすぎるネオスライム。試合終了か。そう決めつけ、ファイモンマスターはマイクを口に近づける。

 しかし、第一声を発する前に、割れんばかりの喝采が割り込んだ。それもそうだ。ゼロになっているはずのライムのゲージが、残りHP一で留まっているのである。

「アビリティ、九死に一生発動」

「おおっと、ネオスライムのアビリティが発動したようだ。低確率で、瀕死になる攻撃を受けても踏みとどまる根性スキル。いじゅー選手、間一髪で首の皮一枚繋がった」

「この死に損ないが」

 カズキは舌を鳴らして吐き捨てた。ネオスライムのアビリティの存在は知っていたが、こうもあっさり発動するとは予想外だったのだろう。

モンスター紹介

アークグレドラン 炎属性

副属性:闇 このモンスターは闇属性としても扱われる

アビリティ 先手必滅:HPが八割以上の時攻撃力を上げる

技 カオスフレイム フレアサークル

チャンピオンシップの地区大会で限定配信されるモンスター。アニメファイトモンスターズの主人公アキラが使うグレドランが闇堕ちした姿である。

攻撃力と素早さが高く、HPと防御力が低いという極端な能力値を持つ。アビリティとも相まって、先手で相手を殲滅する戦法が得意。

特に、逆鱗と組み合わせると凶悪な強さを発揮する。アニメではこのコンボにより、何もさせずに相手を蹂躙するという主人公らしからぬ極悪非道ぶりを披露した。

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