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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 支配されたフィールド! 波乱の大会予選!!
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ライムVSダークモノリスその2

 リサイクルによって爆破が復帰してしまったので、火力不足を安堵している場合ではなくなった。ダメージ量からして、残されたターン数は四。その間に一撃でダークモノリスを撃破しなくてはならない。

「スキルカード炎化メタモルフレア強化エンハンス。ダークモノリスを炎属性に変換。地獄の効果も適用されるので、全能力値がダウンする。そして、強化されたバブルショットで攻撃だ」

「水で弱点を突いてきたか。それでも無駄だぜ」

 地獄の影響を受けているので、防御力も減少しているはず。なのに、オズマは依然として余裕だった。シャボンの弾丸が幾度となく骨の絶壁に叩き付けられるが、中央の目玉は見開いたままで動揺した様子もない。勢いよく体力ゲージが減っていくが、それも半分を少し過ぎたあたりで停止してしまう。

「これでも削り切れないのか」

「こいつは全モンスターの中でも随一の防御力を持っているんだ。ネオスライムごときじゃ倒しきれないぜ」

 そして、自動回復によりせっかく与えたダメージが回復されてしまう。悔しがるいじゅーをよそに、オズマはリサイクルからの爆破で着実に体力を削ってくる。


「テト、後三ターンでやられちゃうよ」

 ライムが小声で相談してくる。正直、自動回復の異常回復量のせいで手詰まりになっていた。なにせ、最大火力で攻撃したとしても突破できなかったのだ。素直に戦っていたのでは、到底勝ち目はない。

「こうなればあれを使うしかないか」

 目には目を歯に歯をとはよく言ったものだ。ライムですら怖気づく邪悪な笑みを浮かべ、いじゅーはゆっくりと右腕を掲げた。


「ネオスラ、体当たりだ」

「トチ狂ったか」

 オズマが素っ頓狂な声をあげたのも無理はない。超低火力の基本技である体当たり。この局面では愚策にしかならないはずの技を選択してきたのだ。


 渋るどころか意気揚々と飛び跳ね、ライムはダークスライムへと接近していく。ぎろりと一瞥されたが、歯牙にもかけることなく視線を外される。無視された腹いせか、ライムは体が平面になるほどに全身をたわませる。力を溜めに溜め、パチンコ弾の要領で岩壁へと突撃していった。


 モーションこそ猛々しいが、ぺちっと可愛らしい音を立てて墜落しただけだった。もちろん、体力は一割すら減らせていない。

「おいおい、なんだその情けない攻撃は」

 盛大に嘲笑するや、リサイクルから爆破のコンボでまた体力を減らす。残りターンは二。もはや猶予はなかった。


 しかし、いじゅーが落胆する様子はない。あまりに堂々としていたので、オズマは次第に怪訝な表情になる。勝利の道筋は既に絶たれたはずなのに、なぜ余裕を保っていられる。

「ネオスラ、バブルショットだ」

 再び放たれた弾丸。体力を半分削るのがやっとの威力なので、恐れるに足りぬはず。


 エフェクトとしては、いじゅーがコンボを発動したターンのものと同一であった。ダークモノリスもどよめいてはいない。だが、異常は確実に発生していた。

 弾丸が命中するや、ダークモノリスの体力が呆気なく半分を切り、瀕死ラインへと到達したのだ。

「バブルショットでここまで減らされるだと」

 このまま戦闘不能となるか。否、ゲージは辛くも三パーセントほどを残して止まった。そして、それが一気に全快されてしまう。

「乱数で落とせなかったか。でも、勝機はある」

「てめえ、一体何しやがった。バブルショットでこんな威力を出せるわけがねえ」

 喚き散らされるが、いじゅーは口笛を吹いてごまかす。

「さあな。クリティカルヒットしたんじゃないか」

 自動回復の件がある手前、オズマは二の句が告げなくなる。今にも噛みつかんとする形相で睨むしかなかった。


 クリティカルというのはもちろん嘘っぱちである。バブルショットではクリティカルを引いたとしてもあれだけの威力は出せない。

 前ターンに体当たりを使った本当の理由。それは、ダークモノリスに触れた瞬間に、密かにステータス操作を行うためだったのだ。オズマは与り知らぬだろうが、ダークモノリスの現在の防御力はゼロ。体力も高いとはいえ、完全なサンドバック状態では中堅技で追いつめられても不思議ではない。


 やけになりつつも、オズマは爆破で体力を減らしてくる。次ターンで決めなければジエンドだ。しかし、オズマは額のバンダナをかなぐり捨てると、残された最後の一枚のスキルカードに手を伸ばした。

「こいつは相手が複数体の時のために控えさせていたものだ。爆破でチマチマダメージを与えていくよりもいくらか効率がいいからな。

 だが、てめえがふざけた戦法をとるのなら容赦はしねえ。こいつで叩きのめしてやる」

「そっちが先にふざけた戦法をとったんだろうが。でもいいぜ。どんなカードが来ても受けて立つ」

「言ったな。ならばこいつを耐えることはできるかな。スキルカード死去デット

「なんだって」

 いじゅーが身を乗り出したのは無理もない。相手を一撃必殺する究極のギャンブルカード。複数体ならまだしも、単体相手に発動するなら、成功確率は0.2パーセントほどだ。


 ウイルスの能力を使えば、一撃必殺の効果でさえ耐えることができる。しかし、そんなことをしたら極端に疲弊して、いざという時に能力が発動できないこともありうる。ここは、発動失敗に賭けるしかない。

 カードより浮かび上がってくる不気味なドクロ。あらゆるモンスターを死へと誘う死神の具現化だ。陽炎のように揺らめきながら、ライムへと覆いかぶさる。じっと霧状のドクロが通過するまでやり過ごす。


 ドクロが消え去った後、ライムは平然と目をぱちくりさせていた。過度に心配するまでもなく、発動が成立する方が稀なのである。空虚なカードを叩きつけるようにして地団太を踏むオズマをよそに、いじゅーは勢いよく攻撃を指示する。

「決めるぞ、ライム。バブルショット」

「お前も学習しないようだな。低乱数でしか落とせない技で決めようなんて片腹痛いぜ」

「いや、これで倒す。ライムならきっとやってくれるさ」

 ほぼ最大のダメージ量を出さなければ一撃必殺できず、その確率はおおよそ一パーセント。死去よりはマシな数値だが、狙って出せるものでもなかった。


 おそらく最後になるであろう気泡弾。徹人の期待に応えようと、ライムは標的を見定めていた。はちきれんほどに体を膨張させ、特大のシャボンを撃ちだす。それは迷うことなくダークモノリスの目玉へと直撃した。


 体力ゲージはあっという間に瀕死ラインに到達する。ここまでは予定調和だ。ゲージは残り一。これが減らせるかどうか。

「いけ、ライム!!」

 ありったけの声を振り絞り、いじゅーは絶叫する。気圧されたのか、瞬きすらしなかったダークモノリスの目玉がゆっくりと閉じられていく。それに合わせるように、僅かに残っていたゲージも消えていった。


「オレの、負けだと」

 ダークモノリスが崩壊していくのとともに、オズマはふらふらとよろめく。

「テト―!」

 歓喜とともに飛び込んでくるライムをいじゅーは片手で受け止めた。彼女なりのハイタッチというか、ハイ体当たりというところであろう。勝利のファンファーレに重なり合うように、けたたましくブザー音が鳴り響いた。


「おっと、ここで予選終了。この時点で持っているカードの枚数により、決勝進出か否かが決まるぞ」

 オズマに勝利したことで、徹人の最終的な所持カード枚数は三十五枚。全勝でこの枚数なので、決勝進出は確定的のはずだ。

「これから各選手のカード枚数の集計に入る。その結果はインターバル明けに発表だ。選手のみんなは決勝に備えて十分に休んでくれ」

 戦いが終わり、選手たちは続々と控室に戻っていく。インターバルの一時間ほど結果が分からないというのはもどかしいが、マスターのいうように休息をとるのが先決。徹人もまた体を伸ばすと、選手たちの流れに混じっていくのだった。


 会場内がまばらになったころ、オズマは支柱の影でカズキと落ち合っていた。最後の一戦を引きずっているのか、壁を思い切り拳で殴りつけている。

「ざまあねえな、オズマ。ネオスライムに負けるなんてよ」

「カズキ、決勝であのスライムと戦うのなら注意した方がいい。あいつが当たりの可能性が高い」

 それを聞くや、憐れむように詰っていた態度を一変させた。舌なめずりし、肩を揺らしながら笑い声をあげる。

「そうか、あいつか。あいつが獲物だったか。俺としたことが惜しいことをした。あいつの化けの皮を剥がせば俺は最強になれる」

 誰に問いかけるでもなく、カズキはそっと呟いたのだった。

「待ってやがれ、ライム」

スキルカード紹介

猿真似イミテーション

複数体で挑んでいる時に使うことができる。自分の他のモンスターが覚えている技をコピーして、バトル中のモンスターが使えるようにする。

控えに炎属性のモンスターを用意し、バトル中の水属性モンスターが炎技で奇襲するといった使い方が基本。

オズマが披露していたような、防御力の高いモンスターを出し、リサイクルという技をコピー、スキルカードの連続使用で攻めるといった戦法も可能。

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