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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 支配されたフィールド! 波乱の大会予選!!
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ライムVSトラッシャー

 予選の要となる最後のフィールド変更。ここで自身に有利なフィールドを引き当てれば、一気にラストスパートをかけることも可能だ。今度こそ大海が来てくれないか。ファイモンマスターのアナウンスが開始されるや、徹人は必至に祈った。

 しかし、彼の想いは通じることなく、またもや陰鬱なフィールドが展開されてしまった。それも、水属性のライムを使っている身としては、当確してほしくなかった舞台であった。


「地獄フィールドだって」

 落胆する徹人に、ライムはスライムの身体で心配そうにすり寄った。

「それってそんなにやばいの」

「闇属性が有利になるフィールドの中では最強のやつだ。闇属性以外はすべての能力が下げられちゃうからな」

 その脅威が発揮されるのにさほど時間はかからなかった。


 地獄フィールドになって第一戦。相手はダークマン単体。日花里も戦ったヒーローシリーズモンスターの一種で、漆黒のボディスーツとマスクを纏っている。

「エンチャントスキルカード、大木の剣」

 使い手であるシゲノブは碇石通り自然属性の剣を装備させる。相性により、ライムには倍のダメージが発生してしまう。


 豪奢な造形の木刀を携え、剣道のすり足の要領でダークマンは迫って来る。喰らったとしても数発は持ちこたえられる。そう計算したいじゅーはライムに防御を指示し、ライムはまん丸に凝固する。

 袈裟懸けに斬りつけられ、HPが大幅に削られる。残り四十二パーセントといったところか。クリティカルでもないのにとんでもない破壊力だ。


 お返しとばかりにバブルショットを指示し、シャボンの弾丸を放つも、ダークマンの体力をわずかに削るにとどまった。かのゼロスティンガーの装甲が想起されたが、ダークマンは際立って固いモンスターではないはず。

 そこで、現在のフィールドが地獄であることを思い出す。ステータスを下げられてしまっており、バトル開始前から戦力差が生じてしまっているのだ。


「この調子なら楽勝だぜ。大木の剣による大自然の太刀でトドメだ」

 ダークマンが駆け抜けつつ、すれ違いざまに木刀を振りぬく。風圧により吹っ飛ばされ、針山へと叩き付けられるライム。初撃の威力からして、これで勝負ありか。

 だが、いじゅーたちの真骨頂はここからだった。相手が単独で挑んでいるのなら、尚更あのコンボの餌食にできる。


 もはや暗黙の了解とばかりに、ライムは九死に一生で戦闘不能を免れる。そして、革命により残り僅かな体力を押し付け、そのままバブルショットでトドメを刺す。徹人が勝利した内、八割以上を占める常套戦法だった。


 この一戦により、所持カードは二十九枚。トップのカズキまでは後二、三枚だが、その僅かな差がなかなか埋められずにいる。とはいえ、上位十六位の安全圏には留まることができている。残り時間からして、このまま逃げ切れるか。


 苦戦しつつ、辛くも勝利数を稼いでいったところ、妙に見覚えのあるアバターと対峙することになった。バンダナを鉢巻にしている不良風のアバター。及び腰になるが、目ざとく獲物を発見したそいつは、徹人に勝負を仕掛けてくる。そして表示された「オズマ」という名にようやく合点がいった。

 カズキが源太郎を下した際に、一緒にいた少年。彼こそ、ここにいるオズマなのだ。

「お前は、カズキが言ってたスライムを使う変な奴か。最終ラウンドまで生き残ってるなんて、相当運がいいな。

 こんな雑魚を相手にするのは退屈だろうが、俺の手持ちカードは三十四枚。この調子なら、楽勝で決勝進出だから、ちょっと遊んでやるよ」

「遊んでやるか。そう簡単に行くか、やってみなくちゃ分からないだろ」

 カズキ同様、いちいち鼻につく物言いをしてくるので腹が立つ。とはいえ、所持カード枚数が同一ということは、実力も拮抗しているはず。おまけに、残り時間が五分ほどなので、おそらくこれが最後の戦いとなるだろう。相手にとって不足はない。


 バトルを承諾し、徹人こといじゅーはネオスライムを召還する。対してオズマが繰り出したのは予想の斜め上をいくモンスターだった。

 全身が汚泥にまみれた魔人。片目が髪の毛で隠れ、露呈されている目玉はまん丸。三日月型の口のせいで、常に笑っているように見える。そして、腕やら背中やらから、魚の骨やリンゴの食べ残しやら、ゴミの代名詞がはみ出している。

「俺の一番手、トラッシャーだ」

 人間から捨てたゴミから産まれたヘドロの魔人モンスター。その設定に違わず、存在しているだけでつい鼻を詰まんでしまう。さすがにモンスターの発する悪臭までは再現しないので、特に臭いはしないのだが、本能的な反射運動というやつだ。ただ、実際に対面しているライムは別で、渋い顔で縮こまっていた。


 闇属性のゴミモンスター。地獄の効果からは除外されるものの、そこまで恐るべき能力を持っているわけではなかった。ただ、ある戦法が有名で、上位ランカーでもたまに使うプレイヤーがいると聞いたことがある。


 バトルが開始されると、いじゅーはさっそく「強化」を発動する。

「レディバグみたいに、雑魚だけど厄介な能力を持っているはずだからな。速攻で倒させてもらう。バブルショットだ」

 単体で勝負にしているため、ライムにはステータス補正がかかっている。対して、相手は二体での勝負なので、ステータスに影響はない。地獄の効果を加味すると、実力差はとんとんといったところか。


 はちきれんばかりに体を膨らませ、ライムはシャボンの弾丸を放つ。対し、トラッシャーは胡乱げに弾道を追うばかりで、回避はおろか防御する様子もない。過たずして、バブルショットが右肩へと到達したが、流れ落ちるヘドロにうずもれてしまう。それでも、無傷というわけにはいかず、トラッシャーはまん丸な目玉を閉じてくぐもった苦悶の声を発する。残り体力六十三パーセント。まずまずのダメージといったところだろう。


 オズマのターンへと移るが、下卑た笑みを浮かべると、ゆっくりライムを指差した。

「自爆しろ、トラッシャー」

「いきなり自爆だって」

 魔人の風貌ではあるが、全身のほとんどが汚泥のためか、トラッシャーは不定形に分類されている。そして、不定形モンスターが使用できる超高火力技自爆。その威力は身をもって知っていた。


 全身のヘドロを逆立て、クラウチングスタートの姿勢をとる。ライムに対し、ひたすら逃げるように指示し、飛び跳ねながら距離を置こうとする。そして、クラッシャーは耳をつんざく雄たけびを発すると、溜まりに溜まった汚泥を爆風と共にまき散らした。


 所持モンスター二体での自爆なので、会場破壊という副産物はついていない。それでも、台風を超過する暴風が汚物を巻き込んで襲来するのだ。逃げようにも、行く手を完全に爆風に塞がれてしまっている。

「ネオスラ、逃亡は考えなくていい。とにかく耐えるんだ」

 攻撃属性判定は火。水属性のライムならば半減できる。そして、あのアビリティさえ発動できれば。


 汚物のハリケーンの渦中に揉まれ、スライムの形態であることを忘れてライムは悲鳴を上げる。吹きすさぶ風の音にかき消されているのが幸いか。

 やがて暴風が収まると、残されていたのはヘドロを被ってまったいらに伸びているライムだった。残り体力六パーセント。半減できたおかげで九死に一生を使わずに済んだが、別の意味で甚大な被害を受けていた。涙目になりつつ、小声で「お風呂入りたい」と嘆いている。

モンスター紹介

トラッシャー 闇属性

アビリティ 毒まみれ:毒状態にならない

技 自爆 リサイクル

人間が出したゴミより産まれた、ヘドロまみれの魔人モンスター。魔人の姿をとっているが、全身の大部分がヘドロなので不定形に分類されている。

それゆえに、ライムも得意としている自爆を使うことができる。だが、このモンスターの真骨頂は別にある。その詳細は次回をお楽しみに。

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