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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 支配されたフィールド! 波乱の大会予選!!
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綾瀬参戦

「現時点で一位はカズキってプレイヤーか。カードは二十三枚って独走してるわね」

 背もたれに体を預けながら、綾瀬はスマートフォンの画面をなぞる。表示されているのは予選大会における各選手のカード獲得情報。もちろん、そんなものが公にされているわけはなく、勝手にハッキングしたのだ。

「おにぃは決勝に行けるかな」

 心配そうに体を乗り出す愛華だったが、綾瀬は優しく彼女の頭に手を置いた。

「心配しなくても、徹人君は順調に勝ち星を上げているわ。この調子なら予選突破は余裕なんじゃない」

「そうか。さすがはおにぃだね」

 微笑みあうと、綾瀬はセーターの襟をつまんで何回か扇ぐ。ここのところの気温低下に合わせてか、会場内は暖房が利かせてある。それは結構なのだが、ハイパワーすぎて逆に暑いくらいなのだ。人口密度が高いせいで、蒸し暑さに拍車をかけているともいえる。


「ねえ愛華ちゃん。喉渇かない」

「う~ん、ちょっと暑いかも」

「じゃあ、お姉ちゃんがジュース買ってきてあげようか」

「本当ですか。ありがとうございます」

「ジュースぐらいお安い御用だって。じゃあ、ここで大人しく待っててね」

 ウィンクすると、綾瀬は席を離れる。気を利かせて空席になったところに自分のリュックを置いているあたり、徹人はよくできた妹をもったとしみじみと感慨する綾瀬だった。


 ホール近くにある自動販売機でオレンジジュースとコーヒーを購入し、さっさと戻ろうとする。が、ふと立ち止まって聞き耳を立てる。カツ、カツというヒールを鳴らす音が近づいてくるのだ。自販機の傍で佇んでいると、スーツ姿の女性が息せきながら走り寄って来る。

「あの人、どっかで見たことあるような」

 首を傾げつつ、通路を横断しようとする。だが、不用意に進行先を塞いだのがいけなかった。


「ごめん、どいて」

 まっしぐらに突撃してきた女性とニアミスしそうになる。反動でジュースを放り投げそうになるが、どうにか握りしめてそれを防ぐ。

「ちょっと、どこに目をつけてんのよ」

「ごめんなさい、ちょっと急いでて」

 腰に手を当てて憤慨する綾瀬に、女性は軽く一礼して去りゆこうとする。だが、踏み込んだまま静止した。その所作を不審に思い、綾瀬は女性の顔を覗きこもうとする。


 それより先に女性に肩を掴まれ、何度も揺らされた。

「どっかで見た顔と思ったら、あなた綾瀬さんでしょ」

「え? 私のこと知ってるの。別に有名人になった覚えはないんだけどな」

「すまないわね、ついはしゃいじゃって。私は木下美咲。ゲームネクストのグラフィックデザイナーといえば分かるかしら」

「ゲームネクスト……もしかして叔父さんの会社の人」

 父の妹の夫なので正式には義理の叔父になるのだが、ここで血縁関係を言明しても仕方がない。田島悟と内通している都合上、綾瀬はゲームネクストの幹部クラスと顔なじみであった。ゲームネクストに限らず、卓越したプログラミング技術から、IT業界界隈では顔が割れていたりするのだが。


「休日なのにこんなところにいるってことは、運営サポートか何かですか」

「鋭いわね。そんなところよ」

 容易く看破され、木下の額から一滴の汗がこぼれ落ちる。綾瀬は「社会人は大変ですね」と軽い調子で茶化し、ジュースを揺らしながら去りゆこうとしている。


 しかし、「待って」と木下が先回りして行く手を塞ぐ。不満そうに頬を膨らます綾瀬に、木下はずんずんと迫っていく。

「本来なら部外者であるあなたに話すことじゃないんだけど、今緊急事態が起きてるの」

「セキュリティサポートのバイトやったことあるのに、部外者とかひどいんですけど」

 おまけにそのセキュリティを破ったことも有るしとは口が裂けても言えなかった。なので密かに舌を出しておくにとどめておくが、木下は真面目な表情を崩すことなく続けた。

「あなたのプログラミング技術を見込んでお願いしたいことがあるんだけど、いいかしら」

「バイト料はずんでくれたら……なんて冗談言ってる状況じゃなさそうね」

 眼鏡を掛けなおすと、綾瀬は真剣な顔で向き直る。そこには、いつもの天真爛漫とした様相は微塵も感じられなかった。


 大方の説明を木下から受け、綾瀬は手慣れた調子で運営サーバーにアクセスする。達者な指捌きに、スマートフォンのディスプレイが割れるのではないかと心配になったくらいである。もしかして彼女が犯人かと訝しんだが、綾瀬は「ケビンなんて知らないわよ」と頭を振るばかりだ。

「ケビンって、ケビンミトニックからとってるんじゃないの。史上最強のハッカーって称されてる男みたいだし」

 すらすらとその名前が出てきたのは、大学のコンピューター史の授業で習ったからだった。こんな妨害工作を仕掛けている以上、あり得そうな推測である。

「現時点だと不審なアクセスの跡はなさそうね」

「プログラマーの秋原もそんなことを言っていたわ。履歴を残さずにゲームデータを操作するなんて、とんでもないやつね」

 不審なアクセスもくそも、目の前にいる女が勝手に予選の各選手のカード所有枚数データを盗み見ていたことなど木下には想像もつかないだろう。綾瀬もまた、サーバーからログアウトする際に、その足跡が残らないように細工しておいた。


「ここでとやかくコンピューターと睨めっこしていても詮無き事ね。尻尾を掴む手掛かりがあるとすれば、後三十分後かしら」

「どういうこと」

「そのケビンの口ぶりからすれば、フィールドを強制的に変更したいわけでしょ。ならば、最後のフィールド変更が行われる時にちょっかいを出してくるはず。それを待ち構えていれば何らかの情報が得られるかもしれない」

「なるほど、一理あるわね」

 素直に感心した木下だが、唐突に目の前に手を差し出されて怯む。恐る恐る横を向くや、綾瀬は眼鏡を光らせていた。


「この大会でフィールドプログラムを操作している人と連絡させてもらえない。この作戦にはその人の協力が必要だから」

 一瞬躊躇ったが、ここは彼女に従う方が得策と判断し、木下はオペレータールームにいる秋原に電話をつなぐ。ケビンを確保するための協力者を見つけたと託し、綾瀬に電話を引き継いだ。


「もっしー、おひさ、秋原っち」

「緊急事態なのにノリが軽いな、綾瀬ちゃんは」

「手ごたえがありそうな相手に出くわしてウキウキしてるのよ。魔人ブゥ目の前にしたスーパーサイヤ人の気分って言っておけばいいかしら」

「例えが分からなくもないが、それで、策はあるのかい」

 綾瀬から詳細を聞かされるや、秋原は難色を示す。ハッカーを捉えるためとはいえ、大っぴらに不正アクセスを許さざるを得ないのだ。それに、大会運営の根幹に関わる部分で混線を引き起こし、進行に障害が出ることも考えられる。


 反面、ケビンを捉えるためには綾瀬の協力は必要不可欠であった。苦渋の決断ではあるが、

「よし、綾瀬くんの案に乗ろう。フィールド変更のタイミングになったらまた連絡する。それまで木下と待機していてくれ」

 それだけ言い残し、通話は終了した。綾瀬はほくそ笑むと、スマートフォンをしまって会場へととんぼ返りしようとする。

「ちょっと。待機しろって言われたんじゃないの」

「ごめん、私お使いの途中だったんだ。すぐ戻るからそこで待ってて」

 木下は両手を腰に当ててヒールを踏み鳴らすが、綾瀬は口笛を吹いてごまかすばかりだった。

モンスター紹介

サイクロプス 闇属性

アビリティ スナイパー:技のクリティカル発生率を上げる

技 なぎはらう ダークラッシュ

一つ目の巨大な大鬼。棍棒を振り回すパワーファイトを得意とする。

素早さは低いが、防御力と攻撃力が高い。いわば、メガゴーレムと同じ鈍足高火力タイプ。だが、アビリティが攻撃支援なので、火力だけ見るならトップクラスの実力を持つ。

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