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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 支配されたフィールド! 波乱の大会予選!!
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ジオドラゴンVSライトニングマン

 ファイトモンスターズを始めて一か月に満たないにも関わらず公式大会に出ている日花里。そもそも彼女は出場するつもりはなかったのだが、ライムに端を発するウイルス騒動を機に、自分でも真相を確かめたいということで飛び入り参加を決めた。

 事前エントリーが必要な大会でそんなことはできないはずだが、綾瀬曰く「一人ぐらい出場者を水増しするなんて造作ないことよ」だそうだ。苦労することなく日花里の分の出場証明書を取り寄せてきた時は度肝を冷やす思いをしたものだ。

「ネット上で出場者を管理するなんて甘いのよね。しかも、出場当確したら、証明書をプリントすれば参加オーケーですもの」

 そう綾瀬は事もなげに豪語するが、株式上場企業のセキュリティシステムを鼻歌混じりで破れるなど正気の沙汰ではない。


 後ろ黒い経歴でこの会場に立っている彼女だが、バトルもまた順調とはいかなかった。対戦相手はスカーフをたなびかせている特撮ヒーローの主人公のような男。もちろん、表示されているのはアバターであり、実際は小学校高学年くらいの少年だ。

 アバターに合わせてか、使用モンスターは光属性のライトニングマン。ヒーローシリーズとして全属性に渡って配信されたモンスターの一種で、白色の全身スーツにフルフェイスのヘルメットをかぶっている。

 日花里が使うのはジオドラゴン。一騎打ちとなったためか、両者ともにステータス補正で能力が上昇している。


 開始数ターンは様子見で単純な攻撃の打ち合いとなったが、先に仕掛けてきたのは対戦相手の少年エイタだった。

「ジオドラゴンは自然属性のはず。ならばこれを使うぜ。エンチャントスキルカード炎の剣発動」

「エンチャントスキルカード?」

 聞き慣れぬ単語に日花里は首をかしげる。エイタが発動したカードから、切っ先が炎に包まれて燃え上がっているロングソードが出現する。ライトニングマンはその剣を握るや、舞い踊るようにして構える。


「もしかして、エンチャントスキルカードを知らないのか」

「初耳だわ」

「こんなことを知らないなんて、もしかして初心者か。じゃあ、この勝負楽勝だな」

 嘲笑されるが、図星であったために口を紡ぐしかない。エイタは肩をすくめて説明を始める。

「エンチャントスキルカードはモンスターに装備させることで、バトルの間本当なら使えない技を使えるようにするカード。ライトニングマンは光属性の技しか使えないけど、この炎の剣を使うことで、炎属性の技も発動できるってわけさ。

 難点は、一度エンチャントを使ったモンスターに別のカードを使用すると効果が上書きされるってことだけどな。でも、このライトニングマンは別だぜ」

「何か秘密があるわけ」

「おいおい、ヒーローシリーズのアビリティも知らないのかよ。アビリティソードマスター。剣の攻撃属性が付与されたエンチャントスキルカードを使用し、別のカードに上書きされる時、そのカードは消滅せずに再度使うことができる。つまり、俺が別のエンチャントを使ったとしても、今装備している炎の剣は消えることなく、また好きな時に使えるてことさ」

「要するに、相手に合わせて自由に装備カードを使えるってわけね」

「予め言っておくが、俺は他に水の剣と大樹の剣を持っている。ライトニングマンが元々持っている技を合わせれば、すべての属性に対してダメージを与えることが可能だ」

 エンチャントスキルカードとヒーローシリーズモンスターを組み合わせた二倍剣戦術。対戦相手に合わせて次々とスキルカードを入れ替えることで弱点を突き、常に二倍の威力で攻撃することができる。特に、光のライトニングマンか闇のダークマンに火、水、自然のカードを組み合わせるのは黄金パターンとされていた。


 エイタの掛け声とともに、ライトニングマンは炎の剣を振るう。燃え盛る刀身で相手に切りかかる「火炎斬」。俊敏に動き回る相手に対し、回避は困難と判断し、日花里はジオドラゴンに防御を命じる。

 あぎとを食いしばっていると、その鼻面に火炎の剣が斬りつけられる。ジオドラゴンは苦悶の表情を浮かべ、HPゲージが大幅に削られる。自然属性のジオドラゴンに対しては倍の効力を持つ一撃だ。相手に有効打が生じてしまった以上、単調に殴っているだけでは競り負けてしまう。


「聖なる光の加護を受けた戦士か。相手にとって不足はない」

「なんて言ってる場合じゃないわよ。こっちも攻撃力を強化しないと先に体力を削られるわ」

「ならば主よ。あのカードを使うのだ」

「もしかして、これ?」

 たどたどしくも、日花里は一枚のスキルカードに手を伸ばす。

「モンスターに戦術を指南されてるなんて、とんだお笑い草だぜ」

 舐めきったように笑い飛ばすエイタだが、日花里が発動したカードを目の当たりにし、ぴたりと動きを止めた。


「スキルカード逆鱗インペリアルラッシュ

 龍系のモンスターに対し使うことのできる最強クラスの能力値上昇カード。対戦ではメジャー級とあって、エイタもまたその効果は熟知していた。

 けたたましい咆哮とともに、ジオドラゴンの眼が血走る。筋骨隆々とした四肢が更に膨張し、全身をオーラが取り囲む。


 ここから先は命令を受け付けないため、ジオドラゴンの裁量に任されることになる。おまけに、勢い余って自傷してしまう危険も孕んでいるのだ。相手が高威力技を有しているので、自滅してしまっては目も当てられない。

「ジオ、ガイアフォースで決めるのよ」

「無駄なことを。この状態だといかなる命令も受け付けないんだよ。スキルカード障壁バリア。これで攻撃を耐えて、自滅した時に一気に勝負を決めてやる」

 防御力を上げるスキルカードを発動したのに呼応し、ライトニングマンは膝立ちの守備体勢に入る。だが、剣の柄はしっかりと握っている。自傷を引き当てたが最後。とどめの一刀により勝利をもぎ取る。


 だが、ジオドラゴンはひときわ高く吼えかかると、そのままライトニングマンにブレスを放った。大自然のエナジーを込めた裁きの一撃。ジオドラゴン最大の攻撃技であるガイアフォースだ。

 防御力を上げていたおかげでどうにか持ちこたえることができたものの、ライトニングマンの残り体力は雀の涙だ。もはや自滅を狙うなど悠長なことを言っている場合ではない。

「ライトニングマン、火炎斬で先にやっつけろ」

「ジオ、もう一度ガイアフォースで迎撃よ」

「だから、命令しても無駄だ」

 猛進してくるライトニングマン。対し、ジオドラゴンは睨み据えると、大きく息を吸った。まさかとエイタがたじろいだ時にはもう遅い。ジオドラゴンが吹きかけた強烈な息吹にライトニングマンが飲み込まれる。自滅するどころか、二連発で最大威力の攻撃技。あえて確立を出すなら、十パーセント以下の奇跡だった。


 息吹が収まるや、ライトニングマンはその場にうつぶせに倒れ伏す。同時に、日花里の側にファンファーレが鳴り響いた。

「冗談だろ。俺がこんな初心者に負けるなんて」

 呆然とするエイタだったが、日花里もまたきょとんとしていた。

「どうした、主。我らの勝利だ」

「え、ええ。そうみたいね。あんた、よく二連続でガイアフォースを発動できたわね」

「愚問だな。主が命じたではないか」

「命じたって。まあ、ガイアフォースって勢いで言っちゃったけど、あのスキルカードが発動している間は訳も分からず攻撃するんでしょ」

「うむ。そのはずなのだが、どうにも頭がすっきりしているのだ。前にあのカードを使われた時は、我が意識は混沌の渦中へと沈殿していた。だが、先ほどは身に溢れるエナジーが明白に感じられた。無論、主からの指示もはっきりと聞こえたぞ」

「それって、暴走せずに自我を保っていられたってこと」

 まさかと思ったが、ジオドラゴンの話からするとそういうことになる。


 ライムに感染しているウイルスを貰い受けたのなら、ジオドラゴンにも何らかの変調が起きているはずである。だが、好きな属性の技を使えるといった反則技を使える気配はなく、確率操作もできそうにない。ただおっさんになることができるだけの肩透かしかと思われたのだが、あまりにも意外な所で効力が発揮されたようだ。

 ジオドラゴンがウイルス感染によって得た新能力。それは、「逆鱗を使った際に自暴自棄に陥ることなく、日花里の意思に従って攻撃できる」というものだ。逆鱗におけるデメリット自傷効果も発動することがないため、あのスキルカードは単に全能力を大幅上昇させるだけという最大級のチートカードと化してしまっていた。


 とりあえず、初心者に負けたというショックからか、対戦相手のエイタには会話が聞こえていないようだった。逆鱗を使うにしても、自我を保っていられるということは秘密裏にしておいた方が無難だろう。日花里は勝者の証であるカードを受け取ると、さっそうと立ち去っていったのだった。

モンスター紹介

ランドラゴン 土属性

アビリティ 地中の住人:光属性の技を受けると二倍のダメージを受ける

技 ランドクロ―

高い攻撃力と素早さを誇るモグラのモンスター。

アビリティが完全にデメリットだが、トップクラスの素早さを持つため、先に叩いてしまえば問題ない。

その名前から龍系のモンスターと間違われやすいのだが、由来はモグラの漢字表記「土竜」である。

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