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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム誕生! スキルカードを取り戻せ!!
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僕のスライムがこんなに可愛いわけがない

「ねえ、起きて、テト」

 朝日が差し込み、鳥がさえずり始めるころ、ベッドの上で奇妙なミノムシになっていた徹人はそんな囁きを聞いた。

 いつの間に目覚まし時計なんかセットしただろうか。それにしてはアラーム音が妙に艶めかしかった。一応目覚まし時計を持っているのだが、単純に機械音を鳴らすだけの味気ない代物であったはずだ。


 ひょっとして愛華がいたずらで起こしに来たのか。深夜の萌えアニメならありそうな展開だが、愛華は本気でそんなことをやりそうで困る。ただ、それはないとすぐに頭を振る。風邪を引いている時の愛華は「おにぃに風邪を移しちゃいけない」とあまり徹人の部屋に近づこうとしない。それに、そもそも愛華が「テト」なんていうゲーム内での愛称を使うはずがなかった。


「もう、ネボスケなんだから」

 またも耳元で囁かれる。そこに誰がいるというのは確実なのだが、全く気配を感じることができない。いるのにいない。よもや幽霊。夜中ならともかく、朝に幽霊と遭遇するのは勘弁してほしかった。


 うだうだとうたた寝しながら推測するより、素直に起き上って視認した方が手っ取り早い。そう結論づけた徹人は掛け布団を蹴飛ばして起き上がる。そして、そこで未知との遭遇を果たす。


 ベットの脇には、見知らぬ少女が腰かけていたのだ。


 青のワンピースを着て、さらさらとした髪を腰まで伸ばしていた。頭にはカチューシャをつけ、満面の笑みで徹人を覗いている。

「誰だお前」

 ベットから跳ね起きた徹人は、格闘ゲームよろしくファイティングポーズをとる。窓やドアにはオートロックが設定されており、徹人が学校に行っている間と夜間は自動的に鍵がかかるようになっている。唯一第三者が開けることができるとすれば、愛華が訪ねて来た夕方ぐらいだ。つまり、徹人が寝ている間、この部屋は密室だったわけである。

 それにも関わらず、どこの誰とも知らない少女が興味深くこちらを見つめているのだ。じりじりと後退しながら、机の上に置いてあった携帯電話に手を伸ばす。しかし、それよりも先に謎の少女が急に接近してきた。

「あー、それが携帯電話ってやつ。実物を見るのは初めてだな。それで外部と連絡をとるんだよね。うーん、そうするとちょっと困ったことになるな」

「いや、困ってるのはこっちの方なんですけどね。本当に、君は何者なんだ」

「えー、分からないかな。テトとはずっと一緒にいたのに」

「僕と一緒にいただって」

 膨れ面になる少女をよそに、徹人は目を白黒させていた。この少女は徹人に面識があるようだが、徹人当人は全く見覚えがなかった。そもそも、堂々と不法侵入してくる少女と面識があるというのはご免だ。


「あ、ベットだ。ひゃっはーい」

 このまま詰問されることを覚悟した徹人だったが、当の少女はそんなのお構いなしに勝手にベットへとダイブしている。あまりの移り気の早さに、徹人は片手を携帯電話の上に置いたまま硬直してしまっていた。

 呆気にとられたまま彼女を観察していると、妙なことに気が付いた。彼女はベットの上でバウンドして遊んでいるつもりだろうが、ベットがまったくきしんでいないのだ。

「あれれ、掴めないな。せっかくまくら投げでもしようかと思ったのに」

 それどころか、先ほどからまくらを掴もうとしているようだが、その手はまくらをすり抜けてしまい、一向に手にすることができずにいる。

 現実に存在する物体を掴もうとして掴めない。そんな光景を前に連想する存在といえば、一昔前は「お化け」が主流であった。実際、徹人もそうじゃないかと訝しんだ。だが、科学が発展したこの時勢に、そんな非科学的な存在を信じる気には到底なれなかった。そもそも、朝っぱらに現れるお化けなど、お門違いもいいところだ。


 妖怪変化の類でないとすると、ますますこの少女の正体が分からなくなるところだが、徹人にはまだ心当たりがあった。と、いうより、この時代に生きる人々ならごく普通に抱く感想だったかもしれない。

「もしかして、君はホログラムか」

「うん、そうだよ」

 あっさりと肯定されて拍子抜けしたが、彼女がホログラムであればこの怪現象の説明がつく。ホログラムはコンピューター上の画像を現実世界に3Dで投影した存在なので、現実世界の事物に干渉することはできない。ファイトモンスターズのモンスターに殴られたとしても全く痛くないというのがその例だ。

 そして、ホログラムであれば密室で突然現れたことに説明がつく。昨夜までゲームをしていてつけっぱなしになっていたパソコン。そこから何らかのプログラムが作動してホログラムを映し出したのだろう。


 とにかく、この訳の分からない少女を消すのが先決だ。徹人はパソコンの画面と対面するが、そこで絶句する羽目になる。

「嘘だろ。これはどういうことだよ」

 それは見慣れたファイトモンスターズのマイページであった。そのゲームをやっていて寝込んだのだから、それが表示されていたとしても別に不思議ではない。


 問題なのは、そこに映っていたモンスターだ。歴戦の相棒であるネオスライム。表示されているモンスターを指し示す名前は確かにそう表記されていた。しかし、肝心のモンスターの姿はどうだろう。

「こんなことってあるのかよ」

 あちこちとキーボードを叩いたり、マウスを動かしたりしてみるが、特段異常は発見できない。むしろ、中央に堂々と最上級の異常が顕現している時点で、その他の軽微なバグなど問題にすらならなかった。

「どうして、僕のネオスライムが美少女になってるんだ」

 そこにいたのは、無邪気にベットで遊ぶ少女と瓜二つの少女だったのだ。


 信じたくはないのだが、状況からして、ファイトモンスターズで育てていたネオスライムが少女になったとしか言いようがない。しかし、そう断言するにはまだ判断材料が乏しい。本当にベットの上の少女はネオスライムなのか。まずは、単刀直入な質問をぶつけてみることにした。

「なあ、お前はネオスライムなのか」

「そうだよ」

 二つ返事で決定的な証拠を得ることができた。


 あまりにも呆気なさすぎるので、徹人は尋問を続けることにした。

「いや、おかしいだろ。お前ってもっとぶにょぶにょしてなかったか。どうしてそんな女の子の姿になってるんだ」

「そんなの知らないわよ。気が付いたらこうなってたんだから。あー、今、私が本当にネオスライムなのか疑ってるでしょ。もう失礼しちゃうな。私は君の事、ちゃんとテトだって分かったのに」

 目の前に瞬間移動して、頬を膨らませて迫られる。ホログラムと分かっているはずだが、同じような年頃の女の子が手を伸ばせば触れられる距離まで肉薄しているのだ。心臓の高鳴りを抑えようにも、どうにもままならない。

「えっと、分かった。とりあえず、君は僕が育てたネオスライムだってことにしよう」

「ねえ、そのネオスライムってのまどろっこしいからさ、別の名前つけてよ」

「別の名前って、お前にニックネームをつけろってことか」

「そういうこと」

「簡単にニックネームなんていうけど、そんなの考えてもみなかったな。略して『ネオスラ』なんてよく呼んでたけど」

「あ~、たまに叫んでたわよね。ネオスラ、バブルショットって」

「僕のモノマネしなくていいから。しかも、似てないし」

 深夜の萌えアニメに出てきそうな美少女キャラの声で演じられては似るはずもない。


「ネオスラが駄目か。女の子っぽいスライムの名前。スラじゃありきたりすぎるし」

 あれやこれやぶつくさと名前の候補を口にしていた徹人だが、ふと思いついた名があった。

「ライム。スライムからとってライムってのはどうだ。これなら、女の子っぽいしいいだろ」

「ライムね。いいじゃん、可愛いし。それじゃ、今日から私はライムちゃんでよろしく」

 アイドルよろしく一回転してポーズを決めるライム。どうにも調子が狂うが、本人が納得しているので名前についてはこれでひと段落することにした。


 育てていたネオスライムが美少女化したという不可解な現象を受け入れるしかなさそうだが、そうだとすると色々と疑問点が浮かび上がってくる。差し当たって、一番の疑問はこれであった。

「なあ、ライム。お前、どうしてしゃべれるんだ」

 ファイトモンスターズのモンスターに会話機能は搭載されていないはずだ。それなのに、ライムは当たり前のように会話している。

 ライムもまた首を傾げていたが、

「うーん、よく分からないけど、最近しゃべれる機能が追加されたじゃない。それのせいだと思う」

 と、ある意味核心をつく返答をしてきた。


 それにより、徹人はあることを思い出した。昨日、学校から帰ってきた直後、ファイトモンスターズにログインした時に新着のお知らせが届いていた。その中に「AIを持つモンスターが新規追加された」と書いてあったのだ。

 運営の手違いでネオスライムにAIが組み込まれたのなら、こうして会話できることについての説明がつく。ただ、なぜ美少女になったのかはよく分からないが。

「AIとはいえ、おはようって言ったらおはようって返すぐらいの単純なのだと思ってたけど、随分流暢にしゃべるんだな」

「これこそ、科学の力ってすげーってやつよ」

「なんだそれ」

「四十年前に流行したゲームのセリフ」

 随分とマニアックなセリフを披露され、徹人は困惑していた。おそらく開発者のお遊びでこんなセリフがプログラミングされているのだろう。


「ねえねえ、テト。なんか暇だからさ、どっか遊びにいこうよ」

「いや、そういうわけにはいかないんだよな。これから学校だし」

「えー、つまんないの」

 ライムはベットに腰を下ろし、足をばたつかせている。太ももまで生足が顕わになっている状態でそんなことをしているせいで、徹人は胸がざわめいて仕方がない。どうにか「あれはホログラムだ」と自己暗示して気持ちを落ち着かせる始末だ。

モンスター紹介

サラマンド 火属性

アビリティ 炎の加護:火属性の攻撃を無効化し、HPを回復させる

技 ドライフレイム

火トカゲとも呼ばれる、炎を纏ったトカゲのモンスター。火属性の攻撃を無効化するアビリティを持つ。

テトと戦ったエースケは、自然属性であるディアマンテの弱点を狙って繰り出された炎属性モンスターを、このサラマンドで迎え撃つという戦法を取ろうとしていた。

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