ライムVS朧その3
ライムに回避を専念させたのには、テトが反撃の契機を思いつくまでの時間稼ぎという意図もあった。手っ取り早く勝負を決めるのなら、ライムのあの能力を活用した自爆が手っ取り早い。だが、反動ダメージを耐えた場合、ライムはかなり疲弊してしまい九死に一生の確率操作すらままならなくなる。仮に防がれたらこちらが一気に不利になってしまう。まして、相手はまだ三枚のスキルカードを残しているので慎重にならざるを得ない。
そうなるとテトが選ぶ行動は自ずと絞られる。相手が専ら回避しかしてこないと悟るや、シンは朧にひたすら攻撃を命じる。それもライムの弱点となる「鳴神」と「桜花」の連続技だ。雑念を捨て、相手の動きに集中しているおかげか、目まぐるしく変化する剣の軌道にも対応できている。
「うざったいな。シン、あのカード使ってよ」
なかなか命中せずに鬱憤がたまった朧はシンに呼びかける。仕方ないとため息をつきながらも、シンは所有カードの内一枚を発動した。
「スキルカード剣舞。剣を用いて攻撃する技の威力を上げる」
「攻撃力上昇系のスキルカードを使ってきたか」
特定条件付きなので、当然能力値の上昇幅も大きい。下手したら即死級の破壊力を秘めているかもしれないので、余計に攻撃を受けるわけにはいかなくなった。
「六の太刀桜花」
桜吹雪を発生させるが、花びらの数が心なしか増大している。舞踏と共に散り乱れる花弁につい魅入られてしまう。が、それが命取りだった。
「もらった」
一撃必殺。まさにそう表現すべき一刀であった。が、切っ先が到達する寸前、テトはスキルカードを発動していた。
「スキルカード炎化。これをライムに使用する」
ライムが炎属性に変換されたことで、自然属性の桜花の威力は半減される。そのおかげか、命中したものの首の皮一枚で繋がることができた。
「ちょこざいな。素直に倒れていればいいものを」
「しぶといのが私の持ち味だかんね」
「朧、案ずることはない。二の太刀霧雨」
シンの指示を受け、朧は後ろ足に力を入れ、そっと腰に剣を携える。より強く柄を握りしめ、雨あられの如く一気に数段突きを放った。
矢継ぎ早に攻撃されたせいで躱すことができず、HPが減らされる。剣筋からは水しぶきが噴き出しており、自ずと攻撃属性を判別することができた。属性変化によって防御されたのにも動じず、更にその弱点属性によって反撃する判断力。シンの使い手としての器量も並外れたものだった。
これにより勝負は決せられた。そう確信した朧は高笑いしようとするが、ライムが依然と立ち姿を維持しているのを目の当たりにし眉根を寄せた。
「そんな。あたいの一撃を耐えただと」
「残念。九死に一生を発動させてもらったわよ」
舌を出して挑発するライムだが、裏腹にテトは冷や汗をかいていた。どうにか生き残ることができたが、このまま逃げ続けていてはいずれ限界が訪れる。
だが、徹人には例の切り札がある。朧はまだ十分体力を残しているので、それを逆転させてしまえば反撃されても支障はない。
そんな考えを見越されたのか、シンが先んじてスキルカードを発動した。
「あなたがこの局面で革命を使うってのは予習済。スキルカード封印。このカードが発動したターン、相手はスキルカードを使うことができない」
「まさかこのカードの存在まで読まれていたなんて」
切り札へと伸ばしかけていた手を徹人はしぶしぶ引っこめる。
革命による逆転さえも封じられたのなら大博打に出るしかない。そもそも、一発でもダメージを与えたら、相手のアビリティで即死してしまう。もはや攻撃の選択肢すら制限されてしまっていた。
ライムと朧は互いに間合いをとるが、悠然と剣を担ぐ朧に対し、ライムは険しい表情で前かがみになっていた。ちらちらと落ち着きなくテトの様子を窺っている。
「ライム、こうなったらあれを使うぞ。あんまりやりたくないけど、勝つためには仕方ない」
「うん。まだまだ余裕だから大丈夫だよ」
軽く手を振るや、ライムは両足を広げ、気合を入れ始めた。彼女の周囲に旋風が沸き起こり長髪を逆立たせる。
「最後のあがきでもするつもりかい。無駄だと思うけど」
「その通り。攻撃力が大幅に下げられているから、どんな技を使おうと朧を倒すのは無理」
「そんなのやってみなくちゃ分からないさ。そこまで言うならこの技も耐えられるかな? ライム、自爆だ」
「馬鹿な、血迷ったか」
朧とシンは合唱した上、括目する。発動を阻害しようにも、ライムの周囲には乱気流の壁ができており、下手に接触したらそれだけで深手を負いそうだ。
「シン、何か対抗できるスキルカードはないのか」
「駄目。残ったこのカードは防御用のカードじゃない」
焦燥する両者をよそに、着実に爆撃の準備は整っている。スキルカードによる防御手段はないと吐露された。そして、いくら攻撃力を削がれようと、規格外の威力を誇るこの技の前では関係ない。なにせ、通常の四倍の防御力を誇る相手を一撃必殺したぐらいだからだ。
溢れ出たエネルギーが一挙に爆裂する。フィールドを半壊させながら敵を撃破するというとんでもないエフェクトが展開され、朧もまた為すすべなくそれに巻き込まれていく。
「くっそ、こんな最期あり」
断末魔の嘆きとともに、朧のHPがものすごい勢いで削られていく。やがて周囲は崩壊した地表の塵芥に覆われ、皆人の視界を奪っていく。
しばらくして視野が回復すると、まず確認できたのは片膝をついてうずくまる朧であった。彼女の残りHPはゼロ。予想通り、この一撃で勝負は決したようだ。軽くガッツポーズをするテト。
「勝ったつもりでいるみたいだけど、そうはいかないわよ」
見透かされたように朧から憎まれ口を叩かれる。単なる負け惜しみかと思ったテトであったが、その次に視認できたライムの姿に絶句するのであった。
彼女はHP一を残したまま突っ立っている。どうやら九死に一生を反動ダメージに適用することは成功したらしい。しかし、胸を押さえたまま苦痛であえいでいる。その様にはデジャヴがある。まさかと思った矢先、なけなしのHPがゼロへと変化してしまったのだ。
ライムと朧、両者が倒れ伏したのはほぼ同時であった。自爆の反動を耐えたのに、ライムまでもが戦闘不能になった。この現象に納得ができずにいたテトだが、シンは事もなげに言い払った。
「どうやら、朧のアビリティを忘れているらしい。自爆という攻撃を受けた以上、そっちの体力も削らせてもらう」
「そうか、攻撃するとこちらもダメージを受けるんだった」
反動ダメージをこらえた矢先に、朧のアビリティによるダメージ判定が発生したのだろう。連続して本来あり得ない挙動に対応しなくてはならず、処理に遅れが生じたのだ。
ほとんど同時のタイミングで両者が戦闘不能になる。結果からすれば引き分けだが、起こりえない現象が連続したせいか、コンピューターが下した判断は「エラー」であった。けたたましい警告音が鳴り響く中、シンがすたすたと朧に歩み寄る。
「長居していて運営に目をつけられると色々と厄介。早々に立ち去る」
「あたいはもっとライムとやりあいたかったな」
「文句を言わない。勝負を後のお楽しみにしておくのも一興でしょう」
「シンがそういうなら仕方ないか」
テトの肩を借りてライムが立ち上がった時、シンと朧は既に背を向けていた。颯爽と立ち去ろうとする彼女たちにテトは呼びかける。
「待て。お前たちは一体何者なんだ。そのモンスターはどうやって手に入れた」
「答える義理はない。どうしても知りたければわたしたちに勝つことだ」
「そうそう。弱っちいのに興味はないからね」
「それに、今日は挨拶しに来ただけ。ライムの能力が知れただけで収穫は十分」
「お前らには十分でも、こっちは分からない事だらけなんだ。いいから質問に答えてくれ」
「そうだそうだ、逃げんな、バーカ」
思い切り罵倒されたシンたちは、ため息をつくと一言だけ言い残した。
「どうしてもこの子のことを知りたければ、ファイトモンスターズの地区大会に参加するといい。そこで待っている」
「ファイモンの地区大会。そこにお前も出るのか」
その質問には答えることなく、シンと朧は共にフィールドを去っていった。だが、消えゆく直前に掲げた右手は紛れもなく肯定を意図していた。
運営者である田島悟に喧嘩を売ったばかりであり、更に発破をかけるのは得策ではない。シンに倣い、テトも手早くログアウトを済ませる。
フィールドホログラムを解除するや、ライムが勝手に実体化し、悔しそうに地団太を踏んでいる。引き分けに終わったとはいえ、ライムのHPが尽きたのはこれが初めてだった。そのうえ、自爆という反則技を使ってようやくこの結果なのだ。あまりに強大な相手に戦慄すら覚えていた。
「もう、なんなのよ、あいつ。テト、もっかいやろ。今度こそあいつを倒すの」
「ああ、このままじゃいられないよな。でも、あの能力は正直異常だ。複数の属性の攻撃を操るってのはまだしも、攻撃したら必ず反撃されるなんてアビリティは聞いたことがない」
そもそも、ライムと同じような少女の姿をしたモンスターで、あんな姿をしたやつなど見たことがない。そして、使い手であるシンと会話をしていたことから、AIまで搭載されている。
大会を目前にしてとんでもない強敵と対面してしまったわけだが、対策を施すにしてももう少し情報を得る必要がある。その頼みの綱となると……。
「田島さんだったら伝手で何か知ってるんじゃないかな」
「テト、堂々と浮気しないでよね」
「おま、そんなんじゃないし」
ジト目で睨まれ、徹人は憤慨しながら赤面するのであった。
モンスター紹介
朧 ?属性
アビリティ ???:相手が攻撃した時に反撃してダメージを与える
技 きりつける
ライムと同じく少女の姿をした謎のモンスター。
剣術の基本攻撃きりつけるを使うが、使い手であるシンの掛け声(一の太刀焔など)に合わせて自在に属性を変更できる。
そのうえ、攻撃を受けた際に相手にダメージを与える未知のアビリティまで搭載している。虚弱体質をカバーするのと、このアビリティを活かすため、シンは相手の攻撃力を減少させるスキルカードを好んで使う。
何かとライムと共通点があるが、その正体は現状では不明である。




