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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
2章 ライバル登場! 大剣豪のすごいやつ!!
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ライムVS朧その2

 攻撃力を下げられたものの、攻撃しなければ勝てる勝負も勝つことはできない。

「ライム、相手は素早いから闇雲に攻撃しても避けられるだけだ。隙をついて確実に当てるぞ」

 ライムが待機の体勢に入ったのに応じ、シンはさっと右手を広げる。

「朧、三の太刀鳴神」

 予想通り雷の剣。右、左と巧みな足さばきでライムへと迫って来る。


「惑わされるな。まずは相手の攻撃をかわすことだけを考えるんだ」

 うろたえるライムにテトはアドバイスを送る。ライムは頷くと、泰然と攻撃を待ち受ける。

「あたいの剣をかわせるなんて、思い上がりも甚だしいわよ」

 ほくそ笑んだ朧は、急速に肉薄する。まざまざとスパークを見せつけつつ、上段から一気に剣を振り下ろした。

 袈裟懸けに寸断され、致命傷を負う。その未来を確証し、朧は歯を剥き出しにした。だが、実際はそうならなかった。剣を振りぬいた瞬間、ライムはとっさに後方へと飛び退ったのだ。それにより目標を失った剣は、切っ先を地面にぶつけることとなった。


 攻撃後の硬直。これを待っていたことは、徹人から指示されずとも承知している。ライムはすぐさまシャボンの弾丸を生成すると、己の身体が着地するよりも早くそれを発射した。

 完全に虚を突かれた格好となった朧は、慌てて剣を構えなおそうとする。しかし、近距離で発動した射撃技をすぐさま対処するには初動が遅すぎた。

 炸裂音とともに、朧のHPが減少する。予想通り防御力はさほどではなかったようで、攻撃力が減少していても四分の一近くまで減らすことができた。


 まさに相手の隙を突いた一撃。これには朧たちも落胆するかと思われた。しかし、そのような様子はない。たった一撃なので、まだ余裕があるということかもしれない。だが、徹人が引っ掛かりを感じていたのは、ダメージを受けたにも関わらず、むしろほくそ笑んでいたということだ。考えすぎかもしれないが、相手の罠にはまったような気がしてならない。


 普通ならそれは徹人の杞憂で終わるはずだった。しかし、杞憂どころか不安は的中してしまうのである。攻撃判定が終了した直後、ライムが胸を押さえて片膝をつく。

「どうした、ライム」

「平気。ちょっとチクッとしただけ」

 心配するテトに、ライムはブイサインで応える。とはいえ、HPはほんのわずかではあるが減少していた。動悸によってダメージを受けるなんてはた迷惑な仕様はないはずだし、そもそもライムがそんな疾患を抱えているわけがない。そんじょそこらの病原菌よりたちが悪いものを宿してはいるが。


 徹人が不可思議現象に対し首をかしげていると、朧が剣を収めて立ちふさがって来る。

「どうやら『アレ』の効力が出たようね。あんたらみたいなおバカさんには逆立ちしたって分からないだろうけど」

「お前、トラップでも仕掛けていたのか」

「どうかしらね。なんなら試してみる? 逃げも隠れもしないから私を攻撃してみなさい」

 そう言うや、両手を広げて挑発してくる。見え透いた誘いに乗ってやる義理はないが、彼女の策が分からないまま戦うのは不利というのもまた事実。逡巡した末、徹人は朧の胸を指し示した。


「せっかく敵が攻撃のチャンスをくれたんだ。ありがたく利用させてもらう。バブルショット」

 やけに揉捻に溜めを入れた後、ライムは指先から気泡の弾丸を撃ちだした。回避しないという宣告には偽りがなく、あっさりと攻撃が命中する。朧は顔をしかめ、同時に彼女のHPゲージが減少する。

 ここまでは想定の範囲内の出来事だ。しかし、すぐさま異変が訪れた。攻撃した側のライムがまたもや苦虫をかみつぶしたような顔をし、胸を押さえたのだ。それと共にライムのHPも減少してしまう。徹人はずっと朧の動きを注視していたが、彼女は抜刀するどころか、指先一つ動かしていない。それなのに、ライムにダメージ判定が発生してしまっているのだ。


「シンというプレイヤーは技を指示したわけでもないし、スキルカードを使ってもいない。そうなると、これがあいつのアビリティか」

「なかなか勘が鋭いじゃん。シン、種明かししちゃって大丈夫?」

「手の内を明かすのは嫌だけど、このくらいなら構わない」

 使い手からの了承を得ると、朧は咳払いして再び剣の柄に手を掛けた。


「お察しの通り、これがあたいのアビリティ。あたいは攻撃を受けた時に、相手に少しだけだけどダメージを与えることができる」

「攻撃するだけこっちが傷つくってアビリティか。そんなの聞いたこともないが相当厄介だぞ」

 徹人が歯噛みするのも尤もだった。下手に攻撃すると逆にダメージを受けてしまう。ダメージ量は気にする程ではないが、長期戦になればなるほど不利になってしまう。


 追い打ちをかけるがごとく、シンは新たなスキルカードを使用する。

「アビリティがばれた以上、この作戦を遂行するしかない。スキルカード脱力エナベーション

 ついさきほどライムに発生した重圧エフェクトが再現される。それにより、ライムの攻撃力が更に下げられてしまう。

 スキルカード脱力エナベーション強化エンハンスと極を為す基本カードだ。その効果は相手の攻撃力を下げるというシンプルなもの。普段なら恐れるに足りぬカードではあるが、相手のアビリティがはっきりした現状かなり凶悪な効果を発揮していた。それにいち早く気が付いたテトは青ざめた顔をしている。


「どしたの、テト。攻撃力を下げられただけだから、まだまだ余裕だよ」

「いや。さっきの天邪鬼パーバセネスと合わせるとかなり攻撃力を下げられている。そのうえあのアビリティ。僕たちはあいつの術中にまんまと嵌ってしまったんだ」

 未だ合点のいっていないライムに、テトは説明を続ける。

「攻撃するたびダメージを受けるのなら、攻撃回数が増えるにつれ被害は大きくなる。攻撃力が下げられてしまったのなら、当然倒すまでにより多くの手数が必要となってしまう。おそらくシンはこのアビリティを活かすためにこちらの攻撃力を下げてきたんだ」

「ご明察。強化を使ってきてくれたのはむしろ嬉しい誤算だった。だから、順当に倒させてもらう。朧、六の太刀桜花おうか

「御意」

 舞い踊るようなしなやかな動作と共に剣を不規則に振るう。その所作に追随するように、どこからともなく桜吹雪が巻き起こる。


 ついうっとりと見とれてしまったテトだが、すかさずライムに回避を指示する。カウンターで攻撃技を使用したいところだが、下手にそんなことをしたら余計な被害を受けるだけだ。とりあえず回避し続け、大技で一気に決めるしかない。

 桜の花びらを纏った剣を横薙ぎに払う。それは軽いステップでいなしたものの、すぐさま切り返しの一刀が迫る。

 反撃を禁じられたことを不満に思ったライムだったが、息つく暇のない連撃に余裕を奪われていった。機動力を自負している彼女でも、この剣術を対処するのは容易ではなかった。

スキルカード紹介

天邪鬼パーバセネス

能力変化の効果が発生した際に発動でき、その効果を逆転させる。

例えば、相手が強化で攻撃力を上げようとしたときに使うと、逆に攻撃力を下げさせることができる。スキルカードでモンスターの能力を強化させるというのはメジャーな戦法であるため、それに対するメタカードとなり得る。

また、ある技と組み合わせることで凶悪なコンボになるのだが、それはまた別の話。

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