第1章エピローグ
「ピクシー、ライトニングよ」
闘技場フィールドで、妖精モンスターピクシーが跳び上がりながら光の光線弾を放つ。その直撃を受け、テト自慢の美少女モンスターライムのHPが減少する。
その爆撃によりすらっと伸びる生足が顕わになり、妙に艶めかしい。ライムがそれを誘発するようなコスチュームだからというせいもあるだろう。
彼女がどんな気分かは計り知れないが、ライムはチャイナ服で戦闘していたのだ。
事は約五分前。「おにぃ、暇だからファイモンやろ」と愛華から誘われたまではいい。そこからごく自然な流れでライムとピクシーが対峙することになるのだが、戦闘開始直前になってライムが突拍子もない提案をしたのだ。
「あ、そうだ。テト、気分的に着替えてもいい」
徹人が了承するよりも早く、どこぞの魔法少女みたいな変身を披露され、チャイナ服姿に早変わりしてしまった。
それで、現在へと至るというわけである。
「なあライム。どうしてチャイナ服で戦ってるんだ」
「違法アップロードされた燃えよドラゴン見たから」
「お前、それ相当昔の作品だぞ。なんでまたそんなもんに興味持ってんだ」
「うんとね、開発者の趣味」
カンフー映画を見てチャイナ服に着替えたとは短絡的すぎるが、今更彼女の性格をどうこう言っても詮無き事だった。
「おにぃ。こんなエロいコスチュームで戦うなんて、やっぱしエロゲーのキャラなんじゃないの」
「失礼ね、マナっち。私はエロゲーのキャラじゃないよ」
「それは否定しないが、妹をその妙なあだ名で呼ぶのはやめてくれ」
「別に私は気にしてないよ。学校でもそう呼ばれてるもん」
愛華が病欠している間に密かに交流があったらしく、いつの間にかライムは愛華を「マナっち」と呼ぶようになっていた。ただ、ライムエロゲーキャラ疑惑だけは未だに払拭されていないようだ。
ライムのコスチュームに気を取られていたが、戦況は正直芳しくない。先ほどからライトニングの連発を受けて、HPが大幅に削られているのだ。
ピクシーは攻撃力がさほど高くないモンスターだが、愛華がスキルカード「闇化」でサポートしているせいで、思わぬダメージを受けてしまっている。ライムの属性が闇へと変換されており、光属性の技であるライトニングは通常よりも威力が上昇しているのだ。
「よし、この調子だったらおにぃに勝てるかもしんない。ピクシー、もう一度ライトニングよ」
勢いに乗った愛華は、ピクシーに光線弾を指示する。その直撃を受けてしまったライムは、ついに瀕死寸前にまで追い込まれしまった。
「ねえ、テト。本当にやばいよ。どうにかしないと負けちゃうかも」
しょんぼりするライムだったが、対照的に徹人は口角を上げていた。すっと一枚のスキルカードに手を伸ばし、発動を宣言する。
「心配することないぜ、ライム。愛華にもこのカードをお披露目しようと思って、わざとダメージを受けてたんだ。スキルカード革命」
「ちょっとおにぃ。いつの間にそんな激レアカード手に入れたのよ」
プリプリと足を踏み鳴らすが、革命の効果によりライムとピクシーのHPが入れ替わってしまう。一気に瀕死寸前のHPにされたピクシーにライムのバブルショットが迫る。
その一撃が決め手となり、勝負は徹人の逆転勝利で幕を閉じた。
「もう。勝てると思ったのにな」
フィールドが解除され元の徹人の部屋に戻ると、愛華は勝手にベッドに腰掛けて足を揺らした。ミニスカートを穿いているせいで、妹のくせに無駄に扇情的だ。ライムが妙なことを仕込んだのではないかと訝しんでしまう。
「テト、今日も絶好調だね」
「それほどでも。もうすぐ大事な大会が控えてるからな。ちゃんと調整はしておかないと」
徹人の机には一枚のハガキが置かれている。差出元は株式会社ゲームネクスト。堅苦しいあいさつ文など目もくれず、徹人は同封されている一枚のチケットを手に取った。そこにはこう書かれていた。
「ファイトモンスターズチャンピオンシップ東海地区大会参加票」
開催日まで残り一週間を切っている。悠斗や源太郎もエントリーしているらしく、ここ最近は大会の話題で持ちきりだった。
「ねえテト。今度は全国対戦やろうよ」
「そうだな。今度はどのカードを試そうか」
「おにぃ、頑張ってね」
声援を送る妹に手を振ると、徹人はカードリストと睨めっこを始める。苦心した末に五枚のカードを選び取り、ライムとともにバトルフィールドへログインしていった。
彼と彼女の戦いはまだ始まったばかりなのである。
ご愛読ありがとうございます。この回で第1章完結です。
ライムとの邂逅がメインなので、物語としてはまだまだ序盤。まさしく、彼らの戦いはこれからが本番となります。
プロット作成のため少し間が空きますが、第2章地区大会編もお楽しみに。




