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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム驚愕の正体! そして決別!?
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ライムの改心の一撃

 バブルショットが放たれるものの、無敵のエイリアには傷一つつけることができない。そして、テトのターンはパスとなり、再び状態異常によるダメージ判定が訪れる。

 前回は涼しい顔でやり過ごしていたが、今回は必至に歯を食いしばっている。心なしか、毒によるエフェクトがいつもより長く発生している気がする。それでもどうにか毒ダメージを耐え忍ぶが、過たずして砂塵によるダメージが発生する。

「こ、こんなの、イヤッ、平気だもん」

 悲鳴交じりの弱弱しい声が漏れ聞こえる。テトは耳を塞いでその様子を見守るしかなかった。


 砂塵までも防がれ、ついに無敵が持続できる最後のターンとなった。残り二回のダメージ判定をやり過ごせばライムの勝ちとなる。しかし、息も絶え絶えで、立っていることすらつらそうだ。それでもなお、ライムはバブルショットを放とうとしている。

「もういい、やめろ、ライム。これ以上やるとお前の身がもたないぞ」

「消そうとしているくせに私の心配するのね。でも、なんかテトらしくていいや。そうだな、普通に攻撃したんじゃ認めてもらえないよね。もしかしたら、これなら無敵も破れるかもしれないし」

 急にバブルショットの発動を中止したかと思うと、ライムは両腕を広げる。すると、彼女の長い髪とワンピースの裾が揺らめく。テトの顔面を突風が圧迫し、思わず顔を腕で覆う。

 この並々ならぬ威圧感。これもまた過去に一度だけ体感したことがあった。その時の記憶がフラッシュバックしたテトは帽子が飛ばされることもいとわず身を乗り出す。

「ライム。お前まさかあの技を使う気か!?」


 テトの叫びを無視し、ライムから発せられる突風は激しさを増すばかりだ。その風は足元の砂利を巻き込み、次第に目を開けるのもままならなくなる。

「伊集院君、ライムはこれから何をしようとしているの」

「あれはライムが使える最強の攻撃技自爆。自分のHPを犠牲にしてダメージを与える荒業だ」

「そんな、自爆ですって」

 日花里が悲痛な声を上げたのも無理はない。手持ちが一体のみの時に発動すると、いかなる相手でも一撃で葬り去ることができる威力を誇るこの技。しかし、無敵状態はそんな自爆のダメージでさえも無効にすることができる。おまけに、自爆を使えば反動ダメージで戦闘不能になってしまう。つまり、無意味な攻撃を放って自殺しようとしているようなものなのだ。


「ライム、どういうつもりだ。ここで自爆なんて使ったら、反動によって余計なダメージを受けるだけだぞ」

「だって、どうにかしないと、また捨てられちゃうもん」

 テトの大声を完全に打ち消す程の絶叫。それとともに、ライムの瞳からとめどなく雫が流れ落ちる。


「私、嬉しかったんだよ。このゲームのプレイヤーたちは揃いも揃って私をゴミ扱いしてきた。そうでしょうね。私は所詮ザコモンスター。対戦で勝てないんじゃ捨てられるのも仕方ないもん。

 でも、テトだけは私を見捨てずに使ってくれた。こんなプレイヤーがいるなんて、正直驚きだったな。だからさ、どうにかして期待に応えたいと思ってた。でも、いくら頑張ってもバトルに勝てない。テトの期待に応えたくてもできないからもどかしかったんだ。

 そんな時に、この力を手に入れた。テトとおしゃべりできるようになったというのも嬉しいよ。でも、それよりも嬉しかったのは、やっとテトの役に立てるようになったこと。これだけ強ければもう捨てられることはないし、テトの傍にずっといられる。

 だから私はここで負けられないの。もう絶対に捨てられないためにも、ここでどうにかするしかないんだから!!」


 最後の一言は彼女が出せる限りの声を絞りだす程の叫びだった。呆然自失と直立するテト。彼もまた、知らずのうちに涙をこぼしていた。

 ウイルスが彼を動揺させるために語らせた。無粋な邪推をすればそうなるだろう。だが、これはウイルス如きの言葉ではない。それはライム。スライムの姿の頃より相棒だった彼女の言葉だ。


 それとともに、テトは自らの過ちに気が付いた。ライムがウイルス。その言葉を鵜呑みにし、躍起になって彼女を消そうとしてきた。だが、彼女は本当にウイルスなのだろうか。あの主張はそんな禍々しい存在が薄汚れた気持ちで発せられるような代物ではない。それにテトは確信していたのだ。


 ライムの中には、テトと出会い、これまで一緒に戦ってきた時の心が残っている。


 そうであれば、テトはなんという茶番を演じていたのだろうか。こんな無意味な戦いはすぐにでもやめさせなければならない。だが、すでにライムは自爆発動に必要なエネルギーをチャージし終えてしまっている。彼女がその気になれば、すぐにでも暴発させることが可能だ。

「もういい、ライム。こんなバカな真似は止めるんだ」

「大丈夫だよ。その変な宇宙人を倒して、テトに認めてもらうんだから」

「やめろ、やめてくれ」

 頭をかきむしって取り乱すテト。達観したようにライムは佇み、髪の毛を扇状に広げながら咆哮する。そして、ついに凄まじい爆風がフィールド上に吹き荒れたのだ。


 大量の砂を巻き添えにしているので、テトはまともに前を見る事すらできない。そんな中でもエイリアは微動だにせずじっと固まっている。無敵というのは伊達ではなく、フィールドの地形をも破壊しかねない爆撃でさえも易々と防ぐことができるようだ。

 ようやく突風が収まり、真っ先に視界に入ったのは砂漠の毛布に顔から投身するライムだった。居てもたってもいられず、テトは彼女の傍に駆け寄る。

「無事か、ライム」

 抱き起してやりたいが、無残にもその手は透過してしまう。ライムは倒れ伏したまま起き上がる気配がない。まさか、アビリティの適用が追い付かなかったのか。


 いや、そうではなさそうだ。その証拠に、ライムのHPゲージは未だ健在である。しかし、人形の如く微動だにしないその姿は、とても戦闘が続行可能とは思えない。

 無駄だと分かってもなお、テトは彼女に触れるのを止めなかった。

「伊集院君、ライムはどうなったの」

 恐る恐る訊ねる日花里の口調には吃音が混じっていた。頬にはうっすらと涙の跡が浮かんでいる。テトとライムのやり取りを目の当たりにし、もらい泣きしていたようだ。

「HPからすると無事だと思う。でも、全然起きないんだ」

 悄然と地面を拳で殴りつける。本来の目的を遂行するなら、このタイミングこそ例のスキルカードを使用すべきかもしれなかった。HPこそゼロでないものの、今のライムに構成データ破壊という離れ業を防ぐ気力はないはずだ。

 しかし、テトはとてもじゃないが、そんなことをできる気分じゃなかった。むしろ、ここであのカードを使うのなら、鬼神にでもならないと無理だ。


 打ちひしがれていると、ようやくライムに変化があった。ピクリと上半身をひくつかせると、ゆっくりと顔を上げたのだ。

「さすがにこれはやばかったわ。でも、僕は死にましぇーんってね」

「お前、それいつの時代のセリフだよ」

「うーんとね、開発者の趣味」

 屈託なく笑う彼女と対面し、平常運行だと安堵するテトであった。


「本当に平気なのか、ライム」

「これくらいどうってことないって。ねえテト、これでもう私を捨てようなんてことは考えないでしょ」

「ああ、捨てる気なんか全然ない。自爆の反動を耐えるなんて滅茶苦茶するやつ、そう簡単に手放してなるものか」

 テトは涙をぬぐい、さっと右手を差し出す。ライムは首を傾げていたが、テトが「握手って概念はないかな」と微笑みかけたことで、満面の笑みで握り返したのだった。


「さて。これ以上無益な争いを続けることもない。何もしなくてもインビジブルモードが持続しているのでターンは流れるけど、僕はここでこのコマンドを使うよ」

 そう言ってテトがあるコマンドを発動させると、エイリアのHPゲージの横に白旗が上がった。どんよりとしたSEと共に「surrender」の文字が浮かぶ。

「伊集院君、あなた何をしたの」

 中学生にこの英単語の意味を問うのは少々酷なので、日花里が不思議そうな顔をしたのは無理からぬことだった。

「サレンダー、降参だよ。自ら負けを認めるのは癪だけど、もうライムと戦う意味はないだろ」

 それを聞いて不満そうに頬を膨らませた日花里であったが、徹人があっけらかんと破顔しているのを目にし、やれやれと両手を広げるのであった。そして、無邪気に笑いあっている二人を物欲しそうに見つめていた。

技紹介

インビンシブルモード

最大HPの半分のダメージを受けるが、3ターンの間無敵状態となり、一切の攻撃を受け付けない。ただし、その間行動することができない。

デメリットはあるが、相手からの攻撃を完全に遮断してしまう効果は強力。効力が持続している間にエンハンス系スキルカードで能力強化するなど、組み合わせによっては凶悪な技となる。

反面、相手にとっても体勢を整えるチャンスを与えることになるので、プレイヤーの力量が如実に反映される技ともいえる。

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