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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム驚愕の正体! そして決別!?
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ハリフグーVSライム

 対人戦なので、ライム側にもスキルカードが備わっているが、日花里はあくまで傍観者に徹するので実際に使用することはない。なので、ライムはスキルカードなしで臨まなくてはならない。それが唯一のハンデとなっていたが、彼女の潜在能力はそんなものを凌駕するほど強力というのは承知の上だ。

「さあテト。早くモンスターを出してよ。どんな子でも瞬殺しちゃんだから」

 煽りを受け、徹人は右手を目の前の地面に向け掲げる。地表に魔法陣が出現し、徹人が先鋒に指定したモンスターが出現する。


 その姿が顕わになるや、ライムと日花里は唖然とする羽目になった。それも無理からぬことだ。相手がとんでもないチート能力の持ち主と分かっているのなら、できるだけ強力なモンスターで応戦するというのが筋だろう。

 だが、テトが召還したのは、全身が棘に覆われたドッジボールぐらいの大きさのハリセンボンのモンスターだったのだ。目つきこそ凶悪そうだが、とてもじゃないが強そうには思えない。

「僕の一番手はこいつだ。ハリフグー、頼むぞ」


 ハリフグーは体を膨らませて威嚇するが、ライムは一笑に付し、両手を広げた。

「ねえ、テト。本当に本気出してるの。私、ファイモンについてちょっとは勉強してるから知ってるけど、その子ってあんまり強くないでしょ」

「そうさ。中盤の海ステージで腐るほどゲットできる低級モンスターだ」

 堂々と言い張るテトとは裏腹に、日花里は頭を抱えていた。


「ねえ、伊集院君。その子で大丈夫な訳。ひょっとして改造して強くしてるとかなら話は別だけど」

「そんなインチキはしてないよ。証拠にこれがこいつのステータスさ」


ハリフグー 水属性

HP 529

攻撃力 242

防御力 217

素早さ 234


 徹人の言う通り改造は施していないが、不安が増すだけの結果となった。日花里も僅かな時間とはいえファイトモンスターズを遊んだから分かるが、これは捕獲直後でろくに育成していない時のステータスなのだ。こんなモンスターをぶつけるなんて、勝負を放棄しているとしか思えない。


 両者のモンスターが出揃ったことで、ステータス補正が発生する。ライムは無頼で勝負するので、ボーナス値を得て能力値が上昇する。一方、ハリフグーには重圧がかかるようなエフェクトが発生し、能力値が減少してしまう。

「えっと、三体で勝負している場合はステータスが下がっちゃうのよね。つまり、伊集院君は後二体モンスターを残しているってわけ」

「ご明察。さすがにこいつだけでライムに勝てるとは思っていないさ。でも、うまく組み合わせれば最終的には勝てるかもしれない。そういうファイモンの醍醐味ってやつを教えてやるよ」

「そんなの関係ないもん。数で攻めて来たって、根絶やしにすればいいことだし」


 ライムは右の人差し指を伸ばし、指先にエネルギーを集中させる。先制攻撃でさっさと沈めるつもりだろうが、それより先にテトはスキルカードを発動した。

「急くなよ、ライム。まずは戦いの舞台を整えないとな。スキルカード砂塵ダスト発動」

 カードの効果が発揮されるや、ライムは攻撃充填を中止し、顔をしかめた。そんな反応をするのも無理はない。このカードはこれまでの戦いで全く使われることがなかったからだ。


 闘技場のフィールドデータが瓦解し、殺風景な荒野が一面に広がる。岩山やらサボテンやらが点在しており、足元には永遠と砂場が続いている。別に熱くないのだが、無意識に首元を扇いでしまう。このフィールドがどこからどう見ても砂漠というのも関係しているだろう。

 そして、いきなり突風が吹きつけ、テトとライムは顔を手で覆う。それはただの風ではなく、地表の砂利を含んでいるので、呆けて口を開けていたら、口の中が砂まみれになりそうだった。

「このフィールドでは、毎ターン砂嵐が吹く。それにより、お互いのモンスターは少しずつダメージを受けるんだ」

「これで私に少しでもダメージを与えようってわけ。うざったいけど、こんなの痛くも痒くもないよーだ」

 ライムは舌を出して挑発するが、テトはすまし顔を貫いている。彼女は与り知らぬことだろうが、このフィールド効果によって発生するダメージに対し、九死に一生は発動することができない。作戦の布陣として、出だしは上場といったところだ。


 出鼻をくじかれることになったが、ライムは改めて攻撃準備を開始する。指先からは稲妻を纏った小さな球体が発生している。

「私知ってるよ。その子は水属性でしょ。テトは水属性が相手だと、雷か自然属性の技を使うんだよね。だから、これをお見舞いしてあげる。サンダーボール」

 バキュンと指鉄砲で撃ちぬく動作で、稲妻の球体を発射する。それは一直線にハリフグーへと向かっていく。

「ならばこっちは針鉄砲で応戦だ」

 テトからの命令を受け、ハリフグーは全身を大きく膨らませる。大玉のスイカほどの大きさになったところで、体から突き出ている針を撃ちだす。


 球体と針。両者が真正面からぶつかり合う。だが、攻撃力からして、初めから勝負にならないのは自明だった。針鉄砲は呆気なく跳ね返され、残されたライムのサンダーボールが急接近する。

 回避しようにも砂漠では俎上の鯉、否、俎上の河豚であった。サンダーボールの直撃を受け、HPゲージが一気に減少する。


 当然耐えきれるわけがなく、ハリフグーは息絶えてしまう。絶大な能力差がある相手に弱点を突かれたのでこうなるのは分かり切っていた。とはいえ、開始早々に一体目を失ったというのは相当痛手のはずである。


 しかし、テトは落胆する様子がない。むしろ、予定調和と言わんばかりにまっすぐと顔を上げている。その態度は攻撃を仕掛けたライムに不安を抱かせるほど不遜であった。

「ど、どうよ。これが私の力よ。そんなモンスター怖くないんだから」

「ああ、すごいよ、ライム。その攻撃力もだけど、的確に僕のモンスターの弱点を狙う判断力も侮れない。

 でも、ファイモンのバトルは単純に殴り合うだけで勝負がつくわけではない。そのことを教えてやる」


 テトがそう宣言したのと、ライムの体に異変が生じたのはほぼ同時であった。体の芯から温まってくる。炎の技を受けたわけでもないのに、この変調は妙だった。しかも、次第と息苦しくなってくるのだ。ライムが人間であったなら、この症状を受けてこう判断しただろう。発熱していると。


「伊集院君、ライムの様子がおかしいけど、何かしたの」

 ライムの挙動に違和感を覚えた日花里が訊ねる。するとテトは不敵な笑みを浮かべて腕を組んだ。

「うまく発動してくれたようだな。これこそ、ハリフグーのアビリティだ」

「あの河豚さんのアビリティですって」

「その名も毒土産。ハリフグーは相手の攻撃によって戦闘不能になった時、相手を毒状態にできるんだ」

 それを証明するかのように、ライムのHPバーの傍に毒状態を示すドクロマークが表示される。これにより、ライムは毎ターン少しずつダメージを受ける羽目になる。

 加えて、フィールド効果によるダメージも待ち受けている。九死に一生を適用できない特殊ダメージの二連撃。これこそ、徹人の編み出した戦法の第一段階だった。

モンスター紹介

ハリフグー 水属性

アビリティ 毒土産:相手の攻撃によって戦闘不能になった時、相手を毒状態にする。

技 針鉄砲

ゲーム中盤のカスピアンリゾートで通常ドロップするフグのモンスター。

能力値が低く実戦向きではないが、戦闘不能にされると相手を毒にするアビリティを持つ。このアビリティを活かし、複数体のチームに組み入れるのが一般的だ。

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