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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム誕生! スキルカードを取り戻せ!!
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ネオスライムVSギルシャーク後編

 激しい波しぶきが両プレイヤーを襲う。繰り返すが、ホログラムであるので、頭から水を被ったように見えて、実際はまったく濡れていない。それでも、全身に降りかかる大波を前に、反射的に体を拭う仕草をしてしまう。

「やっぱり硬化を使ってきたか。でも、無駄だぜ。このコンボで与えるダメージは、源太郎のメガゴーレムの攻撃をも上回るからな。残念だが、俺の勝ち……」

 そこで絶句したのは、ネオスライムのHPゲージを目の当たりにしたからだ。理論上はあの一撃でHPを根こそぎ奪い取っているはずであった。しかし、現在のネオスライムのHPはわずかであるがゲージが残されていた。それもほんの一ドット。数値で表すなら「1」であった。

「まさか、何度も僕のネオスライムと戦って忘れたわけじゃないよね。ネオスライムのアビリティ九死に一生。戦闘不能となるダメージを受けたとしても、HP1で留まることがある」

「くそ、根性の劣化スキルなのに、こんな局面で発動するなんて」

 キリマロが地団太を踏むのも無理はない。根性はHPが半分以上の状態で即死ダメージを受けた際に必ずHPを1残すアビリティ。とことん攻撃力を上げて一撃で相手を倒す戦法が流行している中、その対抗策として注目を浴びつつある。九死に一生は発動確率が低いことからクソアビリティと酷評されていたが、まさかそれに足元をすくわれるとは思ってもいなかっただろう。


「僕はスキルカード回復ヒーリングでネオスライムのHPを回復させる」

 テトがカードを使用すると、HPゲージが半分まで上昇した。

「また九死に一生の発動条件を満たしたわけか。でも、そう何度もまぐれが続くかな」

「いや、もうギルシャークに攻撃はさせない。こっちの攻撃で決める。スキルカード変身メタモルフォーゼ発動」

 カードが発動するや、粘土細工を施されているかのように、ネオスライムの体がこねくり回される。だらんとしたお餅の体型だったのが一転、スラリとした流線型のフォルムへと変貌する。更に、背中には鋭利なひれが備わり、大顎を開くや、牙がびっしりと生えそろっていた。

 キリマロのギルシャークは主人の傍へと戻ると、その得体のしれない相手を必死で威嚇している。それも当然であろう。相手はどこからどう見ても自分そっくりのサメのモンスターだったからだ。


「不定形モンスターにだけ効果がある変身。こっちと同じモンスターに変身できるだったよな」

「その通り。僕のネオスライムは今やギルシャークと化した」

 姿を真似るだけでなく、覚えている技や能力値までコピーしてしまう。対戦相手からしてみれば、自分が操るモンスターとのミラーマッチを強いられる嫌らしいカードであった。


 しかし、キリマロは髪をかきあげると勝ち誇ったように嘲笑した。

「面白い一手だけど、詰めが甘かったな。変身では能力変化まではコピーできない。狂化で攻撃力が上昇しているオレのギルシャークの方が有利だぜ」

「それは織り込み済みさ。そもそも、悠斗に攻撃させるつもりはないから関係ないよ。僕は更にスキルカード加速ブーストを使い素早さを上げる」

 加速の効果が発揮された途端、ギルシャークを模したネオスライムは、お返しとばかりに旋回を始める。その速度は本物のギルシャークに負けず劣らずといったところで、またもや激しい水しぶきに襲われることになる。

「さて、お返しだ。ネオスライム、ウェイブダイブ」

 キリマロが勝負の決め手と選んだ技を使用し、反撃に出る。

「詰めが甘いな、徹人。スキルカード回復ヒーリング。オレもまたHPを回復させてもらう」

 狂化の効果で減少していたHPが元に戻る。ギルシャークは攻撃能力に秀でている半面、防御力は弱く設定されている。しかし、同一能力の相手の攻撃で一撃必殺されるほどヤワではない。徹人は狂化の副作用でHPが減少したことを狙ったのだろうが、それをカバーしてしまえば恐れるに足りず。


 しかし、これに対してもテトは動揺することはなかった。むしろ、キリマロがHPを回復させてくることは計算に入れていた。それを証明するかのように、最後に残されたスキルカードを発動させる。

「スキルカード炎化メタモルフレア

「ゲ! それかよ」

 キリマロが瞠目する中、彼が操るギルシャークが炎に包まれる。モーションからすると炎の攻撃魔法を受けているように映るが、テトが発動しているのは直接攻撃ではないのでHPが減ることはない。しかし、その真の効果は直接攻撃を受けるよりも数倍性質が悪いものであった。


「炎属性は水属性の攻撃に弱いというのは常識だよな。炎化は相手の属性を炎に変える特殊カード。そんな状態でウェイブダイブを受けたらどうなると思う」

 その答えは言われずとも分かっている。だからこそ、キリマロは顔をしかめ喚き散らす。

「避けろ、避けるんだ、ギルシャーク」

 水中に身を潜めようとするのだが、スキルカード加速の影響でネオスライムの移動速度は急上昇しており、回避行動が間に合うわけがなかった。


 突進をまともに受けたギルシャークは海面へと投げ出され、仰向けでキリマロの足もとに打ち上げられる。HPゲージは一気に減少し、一ドットも残されていなかった。


 試合終了とともに、大海原のホログラムは解除され、元の教室へと帰還する。もちろん、徹人たちのアバターも元に戻り、今は変哲のない制服姿になっている。

「おかしいな。全国対戦でも流行している戦法なのに勝てないなんて」

「だから、流行しているといっても、スミロドスの戦法の二番煎じだろ。そんなの通用しないって」

「うむ、それを言われると痛いな。それにしても徹人、お前って普通に強いと思うのに、いつも源太郎には勝てないのな」

 さりげなく放った一言であったが、それが徹人にとっては会心の一撃だったらしく、すっかり意気消沈してしまう。深々と嘆息するその姿は、世界の滅亡を前にしているかのようだった。

「今回も負けたからって落ち込みすぎだろ。あいつ、五百十八位って威張ってるけど、このゲームのプレイ人口って百万単位だって聞くし。その中であの順位ならそりゃ強いに決まってるさ」

「そりゃそうなんだけどさ。僕なんて八万六千四位だし」

「いいじゃないか、オレなんか四十七万九千九十一位だぞ」

「それで言い合いしてると、底辺争いしているみたいで虚しくなるな」

「お前、どんだけマイナス思考なんだよ。っていうか、使っているモンスターが悪いんじゃないか。ネオスライムなんて、せいぜいストーリーモードの中盤までぐらいしか使い道がないやつだろ。ガチでそんなモンスター使っているやつなんか見たことないぜ」

「いや、このネオスライムは僕の大事な相棒なんだ。だから、バトルで外すことはできない」

「そう決心されるとむしろ清々しいぜ」

 肩をすくめる悠斗だったが、徹人はますます肩を落とすばかりだ。


「いっそのこと、あの技で特攻しとけばいいんじゃないか。ネオスライムをガチの対戦環境で使うとしたら、そうするしかないだろ」

「それも考えたんだけど、ネオスライムを犠牲にして勝ってるみたいで、どうにも気が進まないんだよ」

 ネオスライムは自分のHPを犠牲にして大ダメージを与える技を覚えている。ただ、徹人は主にネオスライム単独で戦っているためか、その技はまず使うことはない。ネオスライムを捨て石にしたところで、その他に源太郎のメガゴーレムに対抗できる実力のモンスターを持っていないため、集団戦法も望めそうにない。落胆していたところに追い打ちをかけられた結果になり、徹人は激しく髪の毛を掻き乱す。


「そういや、源太郎に大雨レインのカードを取られたけど、もしかしてそれが原因か」

 単なる思い付きでしかなかったのだが、正鵠を得ていたらしく、「ウゴヘェ」という奇声とともに徹人は崩れ落ちた。ファイトモンスターズでいうならクリティカルヒットを受けてノックアウトというところか。苦笑しつつも、悠斗は続ける。

「あれはかなりのレアカードだからな。トレードといいつつ、実質ただで取られたのは痛手だろう」

「そうなんだよ。あの野郎、強化エンハンスなんていうコモンカード押し付けやがって」

 徹人が唸っているのも尤もで、オークションに出せば数千円は確実という代物をゴミ同然のカードと交換されたのだ。


 ファイトモンスターズは基本プレイ無料であるが、主な課金要素としてスキルカードの売買がある。

 スキルカードはゲーム中のイベントなどにより無料で手に入れることもできるが、対人戦を考えると力不足になるのは否めない。協力無比なカードはゲーム内のショップにおいて有料で販売されており、高ランクのプレイヤーは惜しげもなく課金してスキルを整えているという。

 大雨レインのカードは特定属性を無効化するという強力な効果のためか、ショップで課金しないと手に入れることはできない。おまけに、ガチャで低確率排出なので、ひどいときは数万円を費やさないと入手できないこともある。射幸性を煽るという批判からか、定額販売もされているのだが、その価格は四千円と中学生が手を出すには破格であった。


「あのカードはどうしても取り返さなくちゃならない。でも、どうやって源太郎のやつに勝とうか」

「ネオスライムであいつに勝つって縛りプレイやってるようなもんだろ。別のモンスターを探せよ」

「いや、それじゃダメなんだ。もっと他に戦法があるはずだ」

 そう言ったきり、徹人は手持ちのスキルカードと睨めっこを続ける。それに夢中になりすぎていたせいか、ふとした拍子に立ち上がった時、ちょうどそばを通りかかっていた女生徒と肩をぶつけてしまった。


「まったく、気を付けなさいよ」

「あ、ごめん。って、田島さん」

 髪を肩で切りそろえ、ぱっちりとした瞳の小柄な少女。クラスメイトの田島日花里は胡乱げにパソコンの画面をのぞき込んできた。

「ああそれ、ファイトモンスターズってやつでしょ。まったく、男子のやつは揃いも揃ってそんなのに夢中になるんだから」

「別に良いだろ、面白いし。女子だってやってるやついるじゃん」

「それはそうだけど、私からしたら、何がおもしろいのかよく分からないわ」

 すまし顔で通り過ぎようとしたが、「待てよ」と悠斗は吼えかかる。

「ファイトモンスターズをバカにされて黙ってられっか。何が面白いか分からないなら一から教えてやってもいいんだぜ」

「あ~くだらない。みんな、男子がゲームを知らないからって喧嘩ふっかけようとしてるわよ」

 それを聞きつけ、クラスに残って談笑していた女子グループが軽蔑の視線を一斉放射してきた。さすがにこれには、悠斗は黙らざるを得ない。更に、トドメとばかりに、日花里は決定的な一言を放つ。

「そういや、ゲームのランキングがどうのこうのって剛力が自慢してたけど、それに夢中になるくらいなら、勉強の成績を上げるほうが余程有益だと思うわよ」

 そんな正論を叩きつけ、日花里は日直日誌を片手に教室を後にするのだった。


「まったく、田島のやつ顔は可愛いんだけど、あの口調は許せねえよな。なあ、徹人」

「え、ええ、ああ」

 日花里と接触してからというものの、徹人は終始上の空であった。悠斗が言い争いをしていたということは覚えているが、その内容はほとんど頭に入っていなかった。

「お前、今日はもう帰った方がいいんじゃないか。源太郎に負けたショックでおかしくなってるんだろ」

「そ、そんなことあるか」

「いいや、無理しない方がいい。また明日にでも、あいつに勝つ方法を考えようぜ」

 ムキになる徹人だったが、悠斗に諭され、しぶしぶ教室を出ることにしたのだった。日花里と触れた肩を触って、情けない表情を浮かべたものの、すぐに頬を叩き気合を入れ直した。

モンスター紹介

スミロドス 雷属性

アビリティ 先手必勝:相手より先に攻撃できた時、技の威力を上げる。

技 ライファング

恐竜時代に活躍したサーベルタイガーがモチーフ。トップクラスの素早さとアビリティを活かし、一ターン目に極限まで攻撃力を上げ、相手を一撃で葬るという戦法が流行している。

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