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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム驚愕の正体! そして決別!?
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ライムとの決別

 日花里からの連絡を受けマイページを開くと、注文していた通りのスキルカードが送られてきていた。ライムと対面する気まずさから、あれからろくにモンスターは育成していない。使用するのは、サブストックのために育てておいたもう一体の相棒と、手に入れたばかりで低レベルのモンスター二体。モンスターの能力差は圧倒的なので、勝てるかどうかは上手くアビリティとスキルカードが機能するかに懸っている。


「おひさ、テト。全然遊んでくれないから心配したんだよ」

 ファイトモンスターズのサーバーにアクセスしたことで、ライムが勝手にホログラムを発動して具現化してきた。徹人は努めて平生を装って応じる。

「ごめんな、ライム。勉強とかで忙しくて全然かまってやれなくて。でも、今日は必ず遊んでやるからな」

「本当。じゃあ、今すぐやろう」

「今すぐは無理だな、学校があるし。だからすまないけど、夕方まで待ってくれないか」

「え~、また待ちぼうけ。一週間ぐらい待ったんですけど」

「すまないけど、今日は絶対に遊んでやるから」

「そこまで言うなら待ってあげるわ」

 徹人が懇願すると、ライムはしぶしぶといった呈でホログラムを解除した。徹人は胸をなでおろすと、せわしなく指を動かし、日花里にメールを送った。


「スキルカードありがとう。これでライムを倒す準備は整ったから、さっそく決行したい。放課後に視聴覚室に来てくれるかな」


 明日は休日とあり、生徒たちの間にそわそわとした空気が流れる。そんな中、徹人はひときわ高揚していた。授業に全く身が入らないまま、ついに決着の時となる放課後を迎えたのだった。


 あの時とは逆に、徹人が視聴覚室の椅子に腰かけて待ちわびていると、ばたばたと日花里が駆け込んできた。

「ごめん、友達との話が長引いちゃって。待った」

「大丈夫だ。それよりも、カードありがとう」

「これくらいどうってことないわよ」

 胸を張る日花里に、徹人は微笑みかける。互いに顔を見合わせると、さっそくファイトモンスターズのページにログインした。


「ようやく遊んでくれるんだね。本当に、本当に待ってたんだからね」

 アクセスが完了した途端、ライムに抱き付かれた。普段なら鬱陶しげに追い払いながらも微笑み返すところだった。だが、徹人は沈痛な面持ちのまま、無反応を貫いている。相対する日花里も、無言でパソコンのマウスを握る。葬式会場に無駄に元気な少女が乱入してきた違和感を醸し出し、さすがのライムも押し黙った。


「ね、ねえテト。遊んでくれるんだよね」

 おずおずとライムが尋ねると、徹人は深々と頭を下げた。

「すまない、ライム」

「突然どうしたのよ。テトは悪いことしてないでしょ」

「いや、これからやるんだ」

 ライムが首を傾げたのも束の間、徹人はパソコンの画面上のあるボタンをクリックした。その途端、ホログラムが強制解除され、ライムはゲームサーバー内に逆戻りする。どうにか再度ホログラムを展開しようとしたが、その命令は強制的に打ち消されてしまう。


 ようやくライムが現実世界に降り立つことができた時、なぜか徹人ではなく日花里の傍に出現した。

「テト。これはどういうこと」

 ライムが眉間を寄せたのも無理はない。己の身に生じた現象を解析して、信じがたい事実に気が付いたからだ。

 徹人があの瞬間に押したボタン。それは、モンスタートレードを実行するアイコンだったのだ。


 日花里が父親から借りていたモンスタージオドラゴンが徹人の手持ちに移り、代わりにライムが日花里の手持ちとなっていた。プレイヤーにとってはモンスターを交換しただけだが、モンスターの視点からすると、一大事に違いなかった。まして、ライムが受けた衝撃は一塩であった。

「テトだけは、こんなことしないって信じてたのに」

 ワンピースの裾を握り、目に涙を浮かべている。彼女にとってこれほどまでの屈辱はなかった。信じていた主に捨てられた。しかも、その先がこんな女。


 恨みがましく睨みつけるライムに、徹人は滔々と語りかけた。

「僕だってこんなことはしたくない。でも、仕方ないんだ。ライム、お前の正体がウイルスであるなら、このまま放置しておけば大変なことになる。今は問題がないからって無視しておくわけにはいかない」

「もしかして、テトは私を消そうとしてるの」

 核心的なことを先取りされ、徹人は絶句する。どうにか取り繕うとしたが、ライムは諦観したように腕を組む。


「そう、そういうこと。どうにもおかしいと思ってたの。私の体の中に、変なものが入ってるって自覚はあった。それで、いろんなデータを書き換えられるようになったから、テトの役に立とうと今まで頑張ってきたの」

「ライム、お前何言ってるんだ。お前がウイルスなんじゃないのか」

 それがライムにとっての地雷だった。徹人に急接近すると、勢いに任せて怒鳴りたてる。


「信じられない! 私がウイルス? テトがそんなこと言うなんて見損なった。テトだけは絶対に見放さないって信じた私がバカだった」

 その後も、「馬鹿、アホ、間抜け」とあらん限りの罵倒をぶつけてくるが、徹人は横顔を向けたまま「すまない」と口にするだけだった。


 やがて言い疲れたのか、ライムはとぼとぼと日花里のもとへ帰っていく。哀愁漂う背中を前に、徹人はどうにか弁明しようとする。だが、それに先んじてライムは振り返りつつ宣告する。

「いいよ、テトがそういうつもりなら。だったら私も本気で相手してあげる。私の強さを思い知れば、テトだって二度と私と別れようなんて思わないでしょ」

 彼女はホログラムのはずだが、漂わせる闘気は軒並みならぬ臨場感をもたらせた。ここまで激昂している以上、大人しくやられてくれるわけがない。戦うのなら、徹人も全力をぶつけなくては間違いなく負ける。


「伊集院君、どうするの。私からけしかけておいてなんだけど、本当にこの子と戦うつもり」

 心配そうに日花里が尋ねると、徹人はゆっくりと首肯する。

「ここまでやってしまったんだ。今更素直に謝ったって、ライムが許してくれるとは思えない。むしろ、真正面から戦うことが礼儀のような気がするんだ」

「悪いけど、私本当に強くなったんだからね。テトがどう戦おうと負けるつもりないよ」

「忘れたのか、ライム。僕がいつも言ってることを。バトルはやってみなくちゃ分からないだろ」

 そう言って堂々とサムズアップを掲げる。そして、そのまま徹人は五枚のスキルカードを展開した。それを受けて日花里もスキルカードを広げる。ここまで来たらもう後戻りはできない。開幕を告げるゴングがそれを象徴していた。

スキルカード紹介

砂塵ダスト

フィールドに砂嵐を吹かせ、両プレイヤーのモンスターに毎ターンダメージを与える。

自分もダメージを受けてしまうのが欠点だが、あるカードを使うことでそれを補強することができる。

徹人がライム攻略のために選んだスキルカードの一枚である。その理由は次回更新分をお楽しみに。

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