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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム驚愕の正体! そして決別!?
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切り札を求めて

 その日から徹人はファイトモンスターズの攻略ページなどを読み漁り、情報収集に努めた。属性を変化させて確実に弱点を突く攻撃も厄介だが、問題はそこではない。ライムを倒す最大の障壁は、いくらダメージを与えようとHP一で耐えられてしまうことだ。なので、単純に殴っていては全く勝機がない。


 突破口としては、九死に一生が発動しない技を使って戦うこと。それはすぐに思いついたが、あまりにも確実性がない作戦だった。

 条件外となる技とは、状態異常で毒にしたり、技の追加効果によるダメージである。そうなると、相手を毒にし、ひたすら攻撃を耐え忍ぶ耐久戦法をとることになる。


 しかし、ライムの攻撃力の高さは実際に彼女と戦っていた徹人が重々承知しているところであった。よほど高レアなモンスターでないと瞬殺されるのがオチ。おまけに毒の技を使えるキャラとなると自ずと候補は絞られる。

 しかも、自爆の反動に対して九死に一生を発動させるといった離れ業まで披露している。毒のダメージにまで九死に一生を適用されたら、高火力でごり押しするのと大差なくなってしまう。


 コンセプトは決まったものの、なかなか切り札となる一手を見いだせずにいた。いたずらに日々を消費するばかりで、焦燥は募るばかりだ。

 決断を下してから一週間が経とうという頃。未だに解決法が分からず、徹人は教室の机に突っ伏していた。

「どうしたんだ、徹人。そんな死にかけのマグロみたいな恰好して」

「出荷されそうな例えはやめてくれ。ちょっと考え事しててな」

「ファイモンのことか」

「どうしてわかった」

「お前が勉強とかで悩むわけないだろ」

 失礼な言い草だが、反論できないのもまた事実であった。


 悠斗に相談してみれば、もしかしたら打開策を思いつくかもしれない。しかし、そうするにはライムがウイルスであることを打ち明けなければならない。大っぴらに拡散されるとは考えにくいが、念には念を入れておいた方がいい。


 徹人が言いよどんでいると、悠斗は深々とため息をついた。両腕を垂れ下げうなだれている。

「悠斗こそ、死にぞこないの幽霊みたいな格好してどうしたんだよ」

「悪かったな、幽霊で。いやさ、昨日大変なことがあってよ。使ってたパソコンの調子が悪いから父さんのやつを借りてファイモンやってたんだ。十年近く前のけっこう型が古いやつでさ、ホログラムを起動しても動作がカクカクしててまともに動かないんだ。

 それでも、今イベントのボスで出てるゼロスティンガーをドロップさせたくて、どうにかプレーしてたんだが、ついにフリーズしちまって。父さんから、ゲームやって壊すなとか大目玉くらってさ。ゼロスティも落ちないし、散々だったぜ」

「ファイモンって確か古い型のパソコンだと処理落ちするんだよな。ホログラム使ってたら仕方ないか」

 ファイトモンスターズをプレーするにあたって、推奨の機種が設定されている。ホログラムという最先端の映像技術を使っているため、数年内に発売されたパソコンでないと、画像処理が追いつかないのだ。ファイモンをやるためだけにパソコンを買い替えたという猛者もいるくらいだ。


「それにしても、父さんが子供の頃に使ってたパソコンなんて、もっとひどかったらしいぜ。複数ファイルを同時展開すると、処理が追いつかなくなってフリーズするらしいし」

「今でもやりすぎるとフリーズすることあるけどな。なんにせよ、処理落ちってのは厄介だよな……」

 自分で言っておいて、徹人はふとあることに思い至った。


 処理落ち。過度なデータ計算を強いることで、コンピューターの動作を鈍らせ、最悪停止にまで追い込む。もし、ライムにそれと似たようなことを起こすことができれば。

「もしかしたら、いけるかもしれない」

「急にどうした、徹人」

 会話の脈絡を堂々と無視した発言に、悠斗は首をかしげる。それに構わず、徹人はパソコンを操作し、あるページにアクセスする。それは、ファイトモンスターズのファンサイトで、スキルカードが有志たちによってまとめられていた。


 以前から目をつけていたカードがあるのだが、突破できるヒントが見つかった今、それが切り札となるかもしれない。そのお目当てのカードを見つけるや、徹人は拳を握った。

「これだ。こいつがあれば勝てる」

 不審に思った悠斗が横から画面をのぞき込み、怪訝な顔をする。

「こいつか。これって相当レアなカードだぞ。買うとしても万近い値段が付いてるって聞くし」

「そう、それが問題なんだよ」

 活路を見出したものの、経済的障壁が立ちはだかってきたのだった。徹人が切り札に指定したカードは最も出にくいレアリティが設定されている。ガチャで出そうものなら、万単位の課金は覚悟しなければならない。購買するとしても、中学生が手の出る値段ではない。


 諦めかけた徹人であったが、ふと視線をずらすと、友人の女生徒と談笑する日花里の姿があった。あの私服姿がフラッシュバックしてひときわ大きく脈打つが、それと同時にある一言を思い返していた。

 日花里の父親はファイトモンスターズの開発者。ならば、もしかしたら裏の手が使えるかもしれない。すぐさまこの作戦を伝えたかったが、教室内で堂々と相談をもちかけるような度胸は徹人にはない。それでも胸の高鳴りは抑えきれず、彼女にメールを送ることでどうにか落ち着くことができた。


 浮ついたままではあるが一日を終え、自室のベッドでくつろごうとしている頃、唐突に電話が鳴り響いた。うるさそうに端末を手にするが、ディスプレイに表示された名前は徹人に気つけを施すのに充分だった。

「田島さんだって。こんな時間にどうしたんだろ」

 呆けたことを口にしたが、すぐに自分から彼女に連絡したことを思い出した。電話を落としそうになるのを堪え、通話ボタンをタッチする。


「もしもし、伊集院君。いきなりメールしてきたからびっくりしたわよ」

「すまない。ようやくライムを倒す糸口が見つかったからさ」

「それは良かったけど、いくら私の父さんが開発者とはいえ、これは無茶なんじゃない」

「承知の上だけど、僕の作戦だとどうしてもこのスキルカードが必要なんだ」

 徹人は必至に訴えるが、日花里が渋面になるのは尤もなことだった。開発者の父親から特別にレアカードを送ってもらいたいなんて、普通は聞き入れられるわけがない。


「まあ、こんなことを依頼したのは私だし、協力してあげてもいいわよ」

「本当か、恩に着る。でも、聞き入れてくれるかな」

「それは私が心配することよ。大丈夫、こっちも切り札を用意してあるから。まあ、首を長くして待ってなさい」

 それだけ言うと、日花里は通話を切った。やけに自信があるような口ぶりだが、それでも徹人はいつまでも携帯電話を手放すことができなかった。


 徹人との会話を終えた日花里は、すぐさま父親へと連絡を入れる。時間帯からして、終業時間間際。残業していたら目も当てられない。

 だが、それは杞憂であり、さほど待つことなく通話が開始された。

「急にどうしたんだ、日花里」

「父さんだっていきなり電話かけてきたじゃない。ちょっと話があるんだけどいい」

「ちょうど仕事が終わったころだから問題ない。そっちから連絡してきたってことは、例のモンスターの件か」

「そう。それで頼みがあるんだけど」

 徹人より伝えられたレアカードの名前を挙げ、それを譲ってほしいと依頼すると、さすがに唸り声で応答された。


「そのカードをどう使うつもりかは知らんが、最上級のレアカードだから助けになるかもしれんな。しかし、運営としておいそれと手渡すわけにもいかない」

「そこをどうにかできない」

「どうにかしてやりたいが、私がこんなことをしたと知れたら面子に関わるからな」

 開発チームの最高責任者としての身の保身というやつであった。こう返されるのは覚悟していたが、大人の世界に直面したことで日花里は幻滅していた。


 だが、徹人に対して自信満々に宣言した手前、簡単に引き下がるわけにはいかない。早くも切り札となる一手を使用することにした。

「ねえ、この依頼をするにあたって、なんでも好きなものを買ってくれるって約束したじゃない。それは覚えてる」

「知らん。と、とぼけたいところだが、私が自分から言い出したことだからな。二言はない」

「ならいいわ。じゃあ、その権利を使ってレアカードをもらうってのはどう」

 その提案に田島悟は面食った。よもや、娘がこんな駆け引きを持ちだしてくるとは予想外もいいところであった。


 ダメだと一笑に付すというのも、大人の世界の現実を知らしめるためには必要なことだろう。だが、徹人という少年がこのカードを使ってどう戦うか興味があった。なにより、娘の成長が垣間見えた気がして微笑ましくもあった。

「いいだろう。業務上必要な経費と考えれば、これくらい痛くない。その徹人という子のIDに『運営からのプレゼント』として贈っておくが、それでいいか」

「ありがと。徹人には私から連絡しておく」

「それにしても、彼のためにこんな提案をしてくるとはな。もしや、日花里、その子のこと……」

「ば、バカ。違うわよ。私は依頼をこなすためにできることをしているだけ。そんなんじゃないんだから。もう、冗談ばっか言ってると切るわよ」

「ハハハ。まあ、お前もそういう年頃になったんだなって思っただけだ。では、吉報を期待しているぞ」

 通話が終了すると、日花里は赤面しながらまくらに顔をうずめた。その時に、源太郎に面と向かって対峙した徹人の姿を思い浮かび、心音が高鳴ってしまう。

「そんなんじゃ、ないんだから」

 独り言つと、もやもやした気持ちを払拭するかのように、ぶっきらぼうに「商談成功。マイページの運営からのプレゼントを確認して」とだけメールを送っておいた。

スキルカード紹介

破壊デストロイ

相手をデータごと消滅させる禁断のカード。

一般には流通しておらず、開発者の田島悟がライムを倒すためだけに製作した。あまりにも危険すぎるため、一度使用すると自動的に消滅するようになっている。

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