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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム驚愕の正体! そして決別!?
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日花里とのデート(?)とライム攻略法

 パーカーのフードを揺らしつつ、徹人はヨロヅヤ本店へと自転車を走らせる。自宅近くの商店街を抜け、島津駅の高架下を通過。そこから大通り沿いにしばらく行く必要があるので、同じ市内とはいえ多少距離がある。

 ようやく到着した徹人はすぐさま店内へと突入。大急ぎで最上階の三階にあるフードコートにたどり着くと、お目当ての人物はすぐに発見できた。

「まったく、遅いわよ。五分前行動が基本だからね」

「ごめん、ちょっと出発に戸惑って……」

 そこで絶句したのは、日花里の姿を目の当たりにしたからに他ならない。


 普段制服姿でしか接することのできない女子と、私服姿で会するというのはそれだけで胸躍るものだ。まして、それが殺人的な可愛さだったらどうか。

 ふわっとカールさせた髪をひまわりの髪留めで止めており、黄色のセーターにデニムのホットパンツという出で立ち。不機嫌そうなのがマイナス点ではあるが、これで満面の笑みでも浮かべられたら、まさしくひまわりのような美しさというべきか。


「な、なによ、そんなにまじまじと見とれて。これは、その、たしなみよ、たしなみ。普段友達と遊びに行くときはこれが普通なんだからね」

「そ、そうか。いや、すごい気合入ってるなって思って。けっこう似合ってるし」

「ほ、褒めても何も出ないわよ」

 両者赤面し、そっぽを向いてしまう。邂逅した途端にこの調子なので先が思いやられるが、とりあえず徹人は日花里の真正面に腰掛ける。


 日花里が待ちわびていたというのは、彼女の前に置かれていた食べかけのアイスクリームからも容易に想像できた。徹人がそれをまじまじと眺めていると、日花里は恥ずかしそうに両手で覆い隠す。

「ただ待ってるだけじゃ暇だから食べてたの。悪い?」

「悪くないけど。それってスガキヨのアイスだよな。僕も後で食べよっかな」

 スガキヨはヨロヅヤと同じく、東海地方を中心に展開しているローカルファーストフード店だ。低価格のラーメンやアイスを販売しているので、小遣いに苦しむ中高生に大人気だという。


 残ったスコーンを詰め込むと、日花里は咳払いして話を切り出す。

「さっそく本題に入るわよ。ここだって、同じクラスの子が来るかもしれないから、あんまり一緒にいるとこ見られたくないし。

 ライムを消す方法だけど、それにはこのスキルカードを使う必要があるわ」

 そう言って携帯電話に入っている画像を表示する。ファイトモンスターズのキャプチャーのようで、そこにはあるスキルカードが映し出されていた。

「スキルカード破壊デストロイ。ライムを消すことができる唯一のカードよ」

破壊デストロイ。知らないカードだけど、随分物騒な名前のやつだな」

「知らないのも無理はないわ。これは、ライム消去のために父さんが特別に作ったの。つまり、世に出回っていないオリジナルカードよ」

「ならば知らないわけだ。それで、どんな効果なんだ」

「簡単に言えば、これを使用すると相手を消せるの」

「随分大雑把だな。相手を戦闘不能にする死去デットのカードならあるけど、それとどう違うんだ」

 死去デットはその名の通り、相手を一撃で戦闘不能にできるレアカードだ。単純明快かつ強力な効果だが、発動確率が低いので単なる博打カードとして扱われている。


「これは戦闘不能だなんて、生易しいレベルの代物じゃないわ。ファイトモンスターズのモンスターにとっての実質的な死亡。データそのものを消してしまうのよ」

「なんだって」

 大声を張り上げたせいで、周囲の人々から注目を浴びてしまう。徹人は一礼して、おずおずと椅子に座りなおした。


「伊集院君が言った死亡デットは確か必ずしも成功するわけじゃないわよね」

「そう、発動できるかどうかはギャンブル。しかも、相手の手持ちが少ないほど低い。よく知ってるな」

「気になったから私なりに勉強してみたのよ。で、この破壊デストロイだけど、これの発動確率は百パーセント。相手が一体しか使ってこなかったら、これを発動するだけで勝てるわ」

「チートっていうか単なる反則カードじゃないか」

「だから、ライムを消すための特別カードって言ってるでしょ」

 こんなものが流通したら、ゲームバランス崩壊どころの話ではない。小学生が改造ツールを使ってお遊びで作りそうな代物だからだ。


「普通のモンスターなら、戦闘開始直後にこれを使うだけで万事解決。実は、伊集院君と戦った時に手持ちに入れていたから、その気になれば私が勝ってたのよね」

「おいおい、マジかよ。まさか田島さんがそんな卑怯なことするとは思わなかったな」

「見損なわないでよね。このカードが使えたのなら、さっさと使っていたわ。でも、ライム相手だとそう簡単に使用することができないの」

「どういうことだ」

「ライムはデータを書き換えることができるでしょ。だから、自身の存在そのものを消そうとするプログラムを仕掛けたら、自分を構成するプログラムを変更しブロックを発動させるわけ。だから、普通に使ったとしても、不発に終わる可能性が高い」

「前に、開発者がライムにアクセスしようとしてもブロックされるって言ってたけど、それと同じことか」

「そうね」

 チートカードさえ防いでしまうとは、改めてライムの出鱈目性能を認識する徹人であった。


「けれども、このカードが有効になるかもしれない瞬間が一つだけある。それが、ライムが戦闘不能になるとき。

 体力が尽きてしまえば、自分のデータを変更することすらままならなくなる。その隙を狙えば確実に消せるはずよ」

「つまり、ライムとバトルして倒し、その瞬間に破壊デストロイを発動すればいいんだな」

 見通しは立ったものの、同時に大きな障壁が塞がることになった。それすなわち、

「それで、どうやってライムを倒すんだ」

 この問いを発した途端、両者の間に沈黙が流れた。問いかけられた日花里はそっぽを向き、問いかけた徹人の額から汗が流れる。


「まさか、手立てがないとか」

「倒せるならとっくの昔に倒してるわよ。でも、父さんが反則的な能力を持ったモンスターをぶつけてもダメだったというし、ジオドラゴンの逆鱗も通用しなかったじゃないの。大体、あんたのモンスターなんだから、あんたがどうにかしなさいよね」

 興奮してまくしたてたせいで、またも衆目を浴びてしまう。日花里は「ご、ごめんなさい」と礼を繰り返すと、縮こまりながら居直った。


「でも、対処できる道筋がはっきりしただけでも大きな進歩だよ。元は僕の問題なんだし、ライムを倒すのは僕が引き受ける」

「そうはいうものの、ライムってあなたのモンスターでしょ。自分で自分のモンスターと戦うなんてできるの」

「田島さんの協力がいるけど、そこは問題ない。一端田島さんのIDにライムを移し、その状態でバトルを仕掛ける。後は、ライムだけを戦闘に出して放置しておけば大丈夫さ」

 普通のモンスターなら、そんなことをすれば一方的にタコ殴りにされるだけである。しかし、ライムにはAIが備わっているので、勝手に反撃してくるだろう。それだけなら可愛いものだが、あのアビリティを攻略するという難点が降りかかってくる。発動率百パーセントの九死に一生という反則中の反則技だ。


「ライムを倒す方法についてはどうにか考えてみる。もしかしたら、その間に田島さんに頼むことがあるかもしれない。いずれにせよ、進展があったらまた連絡するよ」

「分かった。じゃあ、先にこのカードは手渡しておくわね」

 そうして日花里からメモリカードを受け取った。その中に例の破壊デストロイが入っているのは重々承知であった。

「そうだ、言い忘れていたことがあった。そのカードはあまりにも強力すぎるために、一度使ったら自ら消滅してしまうらしいの」

「それじゃあ、練習で試し打ちすることができないのか」

 横流しにして悪用されるのを防ぐためには仕方のない処置であった。この場にしばらくとどまりたい気持ちもあったが、ライムの問題を解決するのが先である。日花里に別れを告げるや、徹人は自宅へととんぼ返りしていくのであった。

スキルカード紹介

死去デット

相手を一撃で倒す。

あまりに単純明快で強力な効果ゆえ、発動確率が設定されている。その確率は、相手が3体なら1/4、2体なら1/44、1体だけだと1/444である。

3体のモンスターで勝負をしかける相手に初手で使用し、戦力をダウンさせる博打戦法で使われる。

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