表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム驚愕の正体! そして決別!?
36/238

徹人の苦悶

 ライムの正体の件もあり、土曜日までファイトモンスターズでは遊んでいない。さすがにパソコンの電源そのものが消されていてはライムも実体化できないようだ。

 ただ、宿題をやるために自宅でインターネットに接続した瞬間、いきなりライムが出現したことがあった。徹人がホームページにヤッホージャパンを設定していたことを探りだしたのか、そのページに潜んでいたというのだ。

「お前な、そこまでやるとストーカーの領域だぞ」

「だって私『ストーカー』って概念ないもん」

 あっけらかんと言い放ち、手を後ろに組んでほほ笑む。いつもの調子に、徹人は困り顔で頭を掻いた。


 だが、そこでふと違和感を覚える。どことなくではあるが、彼女の顔に影が差しているのだ。しかも仰々しいため息まで聞こえる。あまりの陰鬱さに徹人はつい声をかけてしまう。

「随分と元気ないな」

「だって、テトが全然遊んでくれないんだもん」

 足を振りながらそっぽを向いて拗ねている。その仕草に徹人の胸は痛む。だが、強引に頭を振って邪念を払う。

「僕だって色々忙しいんだ。ほら、テスト週間なんかは全然ゲームしないだろ」

「してたじゃん」

 一瞬で論破されて徹人は怯む。勉強するふりをしてログインしていたというのは事実なのだ。


 言い訳を必死に考えていると、突如ライムが腕に抱き付いてきた。もちろん感触はないのだが、そんなビジュアルが展開されていては自然と意識してしまう。しかもうっすらとではあるが涙目になっていた。

「ねえ、どうして遊んでくれないの。私のこと嫌いになった」

「そ、そんなんじゃない。ただ……」

「ただ、どうしたの」

 透き通ると分かっているだろうが、ライムは必至に徹人の腕を揺らす。「ねえ、ねえ」と訴えかけてくるが、まさか本当のことを白状するわけにはいかなかった。当人を前にして「お前を消そうとしている」なんて宣言できるほど徹人は鬼畜ではない。近いうちにそうしなくてはならないのだが、まだ心の準備ができていなかった。


「ねえ、どうしてよ、テト」

「ああ、もううるさい」

 怒鳴りつけると、徹人は強制的にパソコンの電源を切ってしまう。それと共にライムの姿も消え失せる。そのまま荒々しく息を吐きだすと、拳を机に思い切り叩き付けた。

「畜生、最低じゃないか」

 自分でもあんなことをしたのが信じられなかった。未練がましく再度スイッチを入れようとするが、寸前のところでその手を振り払う。「くそう」と吐き捨て、床に散らばっていた漫画雑誌を蹴り飛ばすと、徹人は部屋を後にした。このまま自室で宿題をする気になれず、もやもやしながらも図書館で課題をこなしたのであった。


 そして、約束した土曜日。日花里からは「業務連絡」と念押しされているものの、浮ついた気分は捨てきれない。

「おにぃ、突然部屋に呼んでどうしたの。それに、気合入れておめかししちゃってさ」

「ちょっとな。女子の意見ってのも聞いておきたいなって思って」

 タンスの奥の奥まで引っ張りだしたせいで、一面に洋服が散乱している。今までファッションを考えたことがなかったので、愛華の部屋にあったスタンド付きの鏡を借りる始末だ。


 服自体親から買ってもらったものしかなく、普段はそれを適当に組み合わせて着ている。そのため、いざ他人からの視線を意識してしまうと、どれもこれもダサくて鏡との睨めっこを繰り返す始末だ。

「私だって、ここまで服に悩んだことないよ。だから、そんなに参考になるとは思えないけど」

 まだ小学生ということもあろうが、愛華が親に服をねだっている場面を見たことはなかった。もしくは、血筋は争えないのか、そんなにファッションに興味はないのか。この時代に堂々と割烹着を着ることもある母親を思うと、絶望的な気分になる徹人であった。


 愛華と相談を繰り返したことで、ようやく紺のパーカーに白シャツ、黒のパンツという組み合わせに落ち着いた。

「それにしても、おにぃがいきなりファッションに興味を持つなんて。ひょっとして、彼女でもできた」

「ば、バカ、そんなんじゃ……」

 顔を赤らめて言いよどんでいると、愛華は追撃をしかけてくる。

「なーんか怪しいな。ちょっと前にエロゲーやってたぐらいだし」

「だから、エロゲーなんてやってない。っていうか、そもそも持ってない」

「そっか、おにぃにもついに彼女ができるのか。でも私、義姉おねぇちゃんに負けるつもりはないからね」

「お前、どこでそんな言葉を覚えた」

「昼ドラ」

「学校休んでる時、そんなもん見てたのか」

「そんなもんとは失礼な。ちゃんと、がんこちゃんの再放送とか見てるよ」

「むしろ、それを見ているってことを威張るな」

 病欠の時にNHK教育を見てしまうというのは小学生の性みたいなものだった。徹人も経験があるからよく分かる。


 ふと携帯電話で時刻を確認すると、もうすぐ一時を指し示そうとしていた。

「やべえ、もうこんな時間か。約束に遅れるから行かなくちゃ」

 部屋の中に大量の服を散乱させたまま、バタバタと徹人は家を飛び出していく。愛華は気遣いで片づけようかなと思ったりしたものの、兄の私物をいじくるのは気が引けたので、そのまま部屋を後にする。この後、母親がこの惨状を目撃し、体内蓄電していたというのは別の話だ。

モンスター紹介

パパンダー 自然属性

アビリティ 絆の力:手持ちのモンスターの数が多いほど攻撃力が上がる

技 笹パンチ

変身ヒーローに憧れ続けた結果、自分がヒーローになってしまったパンダ。

複数体のモンスターを使って勝負をするときの攻撃役として使われる。特に、3体で勝負を挑んだ時にアビリティを使用した際の攻撃力は、単体でボーナス値を得た時の数値を上回る。

反面、防御力が低めなので、仲間のモンスターのサポートが必須となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ