表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム驚愕の正体! そして決別!?
35/238

徹人の決心

 途中で事故を起こしそうな危険運転をしつつも、どうにか家までたどり着く。

「おかえり、おにぃ。って、どうしたの、そんなゾンビみたいな顔して」

「ゾンビなら実際に会ったからもう十分だ」

「私の熱を移しちゃったかな。こんなに早く帰って来るし。お母さんに行って病院に連れてってもらう」

「大丈夫だ。ちょっと疲れただけだから休めば治る」

「ならいいけど。はい、おやつのファイモンパン。シールはもらっていいよね、パパンダーだったし」

「ありがと。パパンダーはいらないからあげるよ」

 気だるくソファに身を預けながら、日花里から受け取った「ドランの激辛カレーパン」を頬張る。ファイモンパンはファイトモンスターズに出てくるモンスターをモチーフにした菓子パンで、パンと一緒にモンスターのシールがおまけで付いている。日花里はこのシールを集めているらしく、パンダがヒーローマントをつけたパパンダーのシールをまじまじと眺める。ちなみに、徹人が食べているのはアニメの主人公が使うモンスターがモチーフとなっているパンで、炎を使うドラゴンらしく菓子パンにしては辛めのカレー味となっている。


 パンを咀嚼しながら徹人は考える。ライムを放置しておくと、コンピューター社会にとんでもない問題をもたらすことはまざまざと思い知らされた。あの能力を悪用すれば、大規模犯罪を起こすことなど造作もない。だから、ライムの正体は内緒にしておく。これは確定事項だ。

 そして、完璧に問題を排除するには、ライムを消し去るしかない。しかし、そんなことはできるのか。ライムは元はと言えば手塩にかけて育てたネオスライム。歴戦の相棒と別れるなど、容易に決断できることではない。

 とはいえ、あれはもう完全にネオスライムではないのも事実。源太郎に制裁を加えている時のあの表情。あのおぞましさは頭にこびりついてなかなか剥がれることがなかった。


「なあ、愛華。ひとつ聞いてもいいか」

「どうしたの、改まって」

「もしもの話なんだけどさ、相棒、いや、一番の親友でいいか、とにかくそいつを思い浮かべてみ」

「うん、思い浮かんだ」

「そいつが実はとっても悪いやつで、放っておいたら他の人に迷惑がかかるかもしれないならどうする」

「え~難しいな。おにぃ、それ道徳の宿題?」

「違うけど、気になって聞いてみただけ」

 愛華はそれ以上詮索せずに、徹人の問いかけに対し頭を抱えているようだ。徹人自身もこの問いに的確な答えを出す自信はなかった。ただ、煮詰まりになるよりか、少しでも意見が欲しい。


 やがて首を傾げながらも、愛華は答えをまとめる。

「難しいことは分かんないけど、悪いことをしたのならちゃんと謝らせるのも友情ってのは聞いたことがあるよ。いくら友達だからって、悪いことをそのまま許すわけにはいかないし。むしろ、そうしてあげるのが本当の友達なんじゃないかな」

 その回答に徹人は度肝を抜かれていた。手の力が緩み、カレーパンの中身がこぼれ落ちそうになる。


 徹人の間抜けな顔に、愛華は不安そうに顎を触る。

「えっと、変なことを言ったかな」

「いや、むしろ大手柄だ。よくこんな答えを思いついたな」

「自分でもびっくりしてる。なんか、どっかで聞いたことあったのよね、これ。……あ、そっか、最近の道徳で似たような話があった。友達が教室のガラスを割っちゃったけど、内緒にしてくれって言われる話。最後はその友達が素直に謝るんだよね」

「いかにも道徳って話だな。でもありがと、おかげで吹っ切れたよ」

 徹人は残ったパンを飲み込むと、ソファから勢いよく跳ね起きる。そして、意気揚々と階段を昇って行った。

「急にあんなことを聞くなんて、おにぃになんかあったのかな」

 残された愛華は首を傾げるばかりであった。


 自室に入った徹人は、パソコンの電源が付いていないことを確認する。そして、ベットに腰掛けるや、アドレス帳からある人物のアドレスを探し出した。つい数時間前に入手したものだが、まさかこれほどまで早く連絡する機会があるとは思わなかった。

 実際に通話するとなるとさすがに指が震えるが、留飲し通話ボタンを押す。三コールした後、お目当ての人物と繋がることができた。


「もしもし、伊集院君。まさかもう連絡してくるなんて意外だったわ」

「だろうね。それよりも話があるんだ」

「分かってる。ライムのことでしょ。決心がついたわけ」

「ああ。ライムは僕が倒す」

 電話口ではあるが、徹人ははっきりと宣言した。それは通話相手の日花里が気圧されるほどであった。


「やけにあっさりと決断したのね。あれほどあのモンスターを消すのに否定的だったのに」

「正直に言うと心残りがないわけじゃない。できることならライムを消さずに問題を解決したい。でも、そんな方法はないんだろ」

「父さんの話だと、ウイルスだけを除去しようとプログラムにアクセスしても、なぜか阻害されてしまうらしいの。だからライムもろともウイルスのデータを全消去するしか対処できないみたい」

「アクセス不可って予想以上にやばいな」

 ワクチンソフトをインストールしてウイルスのみを除去するというのが一般的な解決方だろう。しかし、日花里から聞くところによると、ワクチンソフトさえも弾いてしまう可能性がある。大事になる前に片づけるとなると消去しか手段がない。


「話が脱線したけど、一体どんな心変わりなわけ。私としては父さんから頼まれてたことが達成できて万々歳だけど、あれだけ語られた後だからどうにも気になっちゃって」

「このままライムがウイルスであるってことを隠すってのも考えたんだ。そうすれば、あいつが使えるチート能力でバトルに容易に勝てるし、何より消すなんて残酷な選択をしなくて済む。

 でも、チートを使って勝っても相手から恨まれるだけだ。源太郎が因縁をつけてきたのもそのせいだろう。僕自身も反則的な能力を持った相手と戦ったことがあるけど、いい気分はしなかった。

 そして、ライムをこのまま放っておくと悪事に使われるかもしれないのなら、事前に防いでおかないといけない。実際、その兆候がないわけじゃなかったんだ。ライムがスプリンクラーを破壊した時、僕は彼女から並ならないおぞましさを感じた。

 もちろん、ライムが進んで悪事をしたわけでもないし、僕もそうさせるつもりもない。でも、危険に違いないのなら、僕がこの手でどうにかするしかない」


 徹人が主張し終え、しばらく沈黙が流れた。日花里が反応できずにいることは電話の向こう側でも容易に察せられる。彼女としては興味本位で訊ねたのだろうが、ここまで熱弁されるのは予想外だったというところか。

「ご、ごめん、つい語りすぎちゃったかな」

 あまりにも無言が続いたので、徹人が慌てふためきながら取り繕う。

「大丈夫よ。あまりに真剣に話されたからつい圧倒されちゃっただけ。詳しい方法について相談したいけど、学校じゃそんな機会ないわね。また噂になってもまずいし」

 それについては徹人も同感だった。源太郎が懲りずにちょっかいを出してくるとは考えにくいが、学校で密会するのはリスクが大きすぎる。

「そこでだけど、休日って空いてる」

「基本的に暇だな。大抵ファイモンやってるし」

「本当に暇人ね」

「いいだろ、別に」

「それはまあ置いといて。できれば、ヨロヅヤの本店で話し合いたいんだけど、いいかな」

 ヨロヅヤは徹人が住む東海地方を中心に展開しているローカルスーパーである。島津市にはその本店があり、駅から離れているものの、店舗規模が大きく映画館も入っているので、ここら一帯では群を抜く集客率を誇っている。


「えっといいけど。でも、休日に二人でヨロヅヤ行くなんて、その……」

「か、勘違いしないでよ。これはえっと、そう、業務よ、業務。そんなんじゃ、ないんだから」

 否定されたのが悲しくもあったが、尻すぼみになっていく声がどうにも可愛らしかったのでよしとする。デがつく例のアレではないにせよ、休日に日花里と会えるというだけで胸躍る徹人であった。


 土曜日の午後にヨロヅヤのフードコートで落ち合う約束をし通話は終了した。電話を切るや、徹人はぶっ倒れるようにベッドにダイブした。これといった運動をした覚えがないのに、長距離マラソンを完走した直後の気分だ。壁に掛けられたカレンダーで今日の日付を確認すると月曜日を示している。あの事件のほとぼりを冷ますにはいいかもしれないが、こんな浮ついた状態で週末まで待つなどある意味拷問であった。

モンスター紹介

ドラン 火属性

アビリティ ネバーギブアップ:残り体力が20パーセント以下の時攻撃力が上がる。

技 フレアブレス

アニメファイトモンスターズの主人公アキラが使用する子竜。

アニメのために製作されたモンスターであり、ゲームではアニメ放送開始記念の特別イベントで入手することができる。

窮地になると攻撃力が上がるアビリティを有しており、アニメでもこれを利用して逆転するという展開が定番となっている。

また、アニメ55話でグレドランという上位種に覚醒して強敵を倒しており、それに合わせて特定条件でグレドランへと進化できるという要素が追加された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ