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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 ライム驚愕の正体! そして決別!?
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アドレス交換

「その田島悟が私の父親だとしたら」

「そうか、ゲームの開発者が父親か。ならば、内部事情に詳しいから、ライムのことを知って……って、え、そうなのか!?」

 徹人が叫んだのも無理はない。ファイトモンスターズの神に娘がいたことすらも驚きなのに、それが目の前にいるのだ。

 ただ、それとともに疑念も生じる。ファイトモンスターズを製作している株式会社ゲームネクストの所在地は東都。徹人が住む島津からそこに行くには、一旦那谷戸まで出て、そこからリニアモーターカーに乗らなくてはならない。そのルートが最速ではあるが、それでも一時間強かかる。そもそも、リニアモーターカーを使わないと行き来に不便という地域に住む者同士が親子とは考えにくい。


「父さんとは訳あって別居しているから、不自然と思うのは無理ないかもしれないわね。

 小学校五年くらいまでは私も東都に住んでいたの。両親ともに仕事人間だったけど、ちょうどそのころに、母親が仕事の都合で那谷戸の支部に行くことになったわけ。日本全国に支部を構えるお菓子の会社だから、転勤があるのは仕方なかったのよ」

 そこで販売しているお菓子が「パンダのマーチ」やら「月見だいふく」やらのメジャー商品だったため、徹人は納得するしかなかった。接待ゴルフに四苦八苦している父親とはえらい違いである。

「その頃も父さんはゲーム会社で働いていたんだけど、大したヒットも飛ばせずに苦心していたわ。だから、一緒に那谷戸に移り住もうと提案したんだけど、『どうしても完成させったいゲームがある』って言って頑として東都から離れようとしなかった。だから、仕方なく、母さんの実家があるこの島津に二人で住むことになったわけ。

 別に離婚したんじゃないから、今でも盆や正月には会ってるわよ。その気になればコンタクト取れるし」

 かなり魅力的な提案がなされたが、それはさておき、話に出てきた「どうしても完成させたいゲーム」こそファイトモンスターズだったのだろう。


 開発者である父親がいち早くライムの正体に気が付き、娘である日花里を通して徹人に伝えてきた。これに関しては辻褄が合うが、だからといって、まだライムがウイルスだという事実を鵜呑みにはできなかった。

「そうだ。ライム、お前はどうなんだよ。お前、自分がコンピューターウイルスだっていう自覚はあるのか」

 先ほどから沈黙を守っていたライムであったが、急に話題の渦中に入れられてびくつく。

「えっと、私がウイルス? そんなわけないじゃん。私は見た目は美少女、頭脳はネオスライムなただのモンスターよ」

 いつも通りにおどけてみせるが、白けた視線をかわすことができなかった。

「だから、ウイルスじゃないって。もしかして、テトも疑ってるの。私は、あなたが大事に育てたネオスライム。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「そうなんだけど……」

 ただのネオスライム。そう断定するのが滑稽となるほど不審な要素が出揃ってしまっていた。頭を振って取り払おうとするも、いつまでも粘着してきて鬱憤が積もるばかりだ。


「そのモンスターに問いかけたって、不毛な言い争いになるだけだわ。素直にウイルスだって認めるほど馬鹿じゃないでしょ。

 でも、あなたがウイルスであるのもまた事実。だから、早々に消さないといけない」

「待ってくれ。ライムがウイルスであるとしても、どうして消すって発想になるんだ」

「あなた、コンピューターウイルスの性質を忘れたわけじゃないわよね。ウイルスはコンピューターからコンピューターに感染するのよ。今はまだ軽微なバグとして片づけられるかもしれない。でも、これと同じ性質のウイルスが広がっていったら、どんな影響が出るか。大事にならないうちに、ここで消しておくのが正解なのよ」


 日花里の主張は至極真っ当であった。言い換えればライムはコンピューターの病原菌みたいなものだ。それを放置しておけばろくなことにならないというのは承知しているつもりだった。

「でも、だからってすんなりライムを消せるわけないだろ。こいつは姿かたちが変わっても、僕が手塩にかけて育ててきたネオスライムなんだ。田島さんには分からないかもしれないけど、大切な相棒に対して死ねって言ってるようなものなんだぞ」

 それを聞き、日花里は思わずたじろいだ。ライムはホログラムで実在しているわけではない。大元はデータの塊だ。それを相棒なんて、片腹痛いにも程がある。

 しかし、同時に一笑に付すことができずにもいた。それを看破されたのか、

「田島さんだって、そのジオドラゴンに消えろって言われたら、嫌な気分になるだろ」

 徹人の追い打ちに口ごもってしまう。


 簡単には論破できそうもないというのは重々承知のはずであったが、このまま言い争っていても埒があきそうにない。そう考えた日花里は唐突に携帯電話を取り出した。

「そのモンスターの正体は知らせたわ。それでどうするかはよく考えてみなさい。もし、本気でそのライムを消去するって決心がついたら、私に連絡して。父さんにも協力してもらって、本格的に作戦に出るから」

「父さんってことは、ファイモンの神もバックアップしてくれるってことか。随分本格的だな」

「それだけ事は重大なのよ。ほら、さっさと携帯電話を出す」

 日花里に促され、徹人はあたふたと携帯電話を取り出す。そして、アドレス帳を開いたところで、ふと気が付いたことがあった。


「本当にいいのか」

「躊躇している場合じゃないでしょ」

「いや、連絡するってことは、その、田島さんのアドレスを教えてもらうわけで」

 そこまで言いかけると、日花里も徹人が意図することを悟ったようだ。携帯電話を落としそうにながら、

「か、勘違いしないでよ。これは、その、そう、業務連絡よ、業務連絡。言っとくけど、この件以外で無闇に電話したりしないでね。表立ったら色々面倒だから」

「お、おう。そうだな」

 必死に弁明してくるので、徹人はただ圧倒されるばかりだった。男女間の溝がまだまだ深い中学二年生。交際関係が公然となったら、どんな揶揄が待ち受けているか分かったものではない。

 ただ、徹人としては、ここまで否定されると複雑な気分であった。できれば照れ隠しでああ言っていると思いたいのだが、これ以上この件について追及するのも野暮であろう。


 滞りなくアドレス交換は終わったが、その間ずっとライムがそっぽを向いて押し黙っているのが不憫であった。彼女が徹人以上に衝撃を受けているのは明白である。あるいは、自覚したうえでほくそ笑んでいるのか。結局、彼女の口から真意を聞きだせていないため、どう声をかけるべきかも推し量れぬ徹人であった。

スキルカード紹介

大海オーシャン

フィールドを大海に変える。水属性の技の威力を上げることができ、一部モンスターはアビリティによって能力を強化することができる。

フィールド操作のスキルカードは他の同系統のスキルカードを使われるか、対抗パニッシュなどで打ち消されるまで効果が持続する。

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