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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 敵はチート!? ゲームネクストの陰謀!!
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ライムVSジオドラゴンその2

「残念だけど、これで僕の勝ちだ。ライム、ヒートショット」

 ついに、ライムは炎の弾丸を発射する。もはや、迷っている暇などない。ライトはスキルカードを選択し、大声で叫んだ。


「スキルカード逆鱗インペリアルラッシュ

「そんな、逆鱗だって」

 炎の弾丸がジオドラゴンの顔面へと肉薄する直前、その巨体は一瞬のうちに消え失せた。目標を失った炎は、闘技場の支柱にぶち当たって消滅する。


 実際に姿を隠匿したわけではないが、テトがそう錯覚したのも無理からぬことであった。なにせ、ジオドラゴンはいつのまにやらライムの背後へと回り込んでいたのだ。

 鈍足であるはずの巨龍には似つかわしくない俊敏さであった。しかも、ライムが「え?」と気配に感づいた時には、その牙で腕を噛みつかれていた。


 執拗に牙をくいこませてくるが、ライムがもがきながら蹴りを入れると、すぐさま解放される。攻撃属性を持たない基本攻撃であるので、HPはそれほど減少しない。それよりも、ジオドラゴンに生じた変化の方が脅威であった。

 異常なまでに素早くなったのみならず、その眼は血走り、戯言をほざくこともなく低い唸り声をあげている。その姿は、知性を失い、ただ目前の獲物を狩る猛獣。さすがのライムも恐々と後ずさっていた。


「テト、このトカゲどうしたのよ。なんか怖い」

「計算違いもいいところだ。まさか、あんなカードを持っていたなんて」

「これが私の切り札よ。このカードは、龍のモンスターのすべての能力を大幅に上げることができる。勝手に行動してしまううえ、四分の一の確率で自傷してしまうデメリットがあるけど、それより前に倒してしまえば問題ないわ」

 高揚して説明しているライトだったが、

「田島さんって、そういうキャラだったっけ」

 テトに冷ややかに指摘されて、顔を赤らめる。

「ち、ちょっと興奮しただけよ。ともかく、あなたのピンチには変わりないわ。ジオドラゴン、やっちゃって」

 照れ隠ししているかのように、ジオドラゴンに命じる。凶暴な目つきで威嚇してくるドラゴンを前にして、テト、ライム両者ともに恐慌しつつも向き直るのだった。


「ライム、相手はすでに回復のスキルカードを使っているうえ、ジオドラゴンはHPを回復させる技を持っていない。つまり、一、二発攻撃を当てれば勝てる。とりあえずこれで体勢を立て直すぞ。スキルカード回復ヒーリング

 テトの発動したスキルカードによってライムのHPがほぼ全快まで回復する。残り体力約八分の一のジオドラゴンと比べると雲泥の差だ。しかし、あの異常な動きを目の当たりにしてしまった以上油断することはできない。


 咆哮とともにジオドラゴンはガイアフォースを繰り出す。火属性に変換されているライムにとっては半減可能の技だ。念のため回避を指示しようとするが、攻撃充填から発射までの間隔が桁外れに短くなっている。テトが口を開くや否や攻撃が発射され、あっという間にライムの身体がエネルギー砲に包まれる。

 相性の悪い技のはずなのに、ゲージが半分以下まで削られる。カード発動前の減少量を考慮すると、攻撃力も異常なまでに上昇しているようだった。


 ここまででたらめな能力上昇を前に、テトはある相手を思い出していた。それは言わずもがなゼロスティンガーである。もし、あの相手並に能力上昇しているのなら、普通に攻撃しても体力を削り切れない可能性がある。


 攻撃をためらっていると、ジオドラゴンは二発目を放とうとする。前脚で何度も大地を踏み鳴らす。

「まずい、アースクエイクか」

 この技の場合、ライムの弱点を突かれるため、一気にHPが失われるのは必至。しかし、防御のためのスキルカードは有していない。それならば他に方法は……。


「ライム、お前変身できたよな」

「またネオスライムになるの」

「いや、そうじゃない。あのジオドラゴンに変身するんだ」

 テトの意図を把握しきれなかったライムであったが、切羽詰った物言いに、文句を言うことなく変身を実行する。


 前に教室内にネオスライムに変身することができたように、ライムにはスキルカード変身メタモルフォーゼと同じ効果が備わっているようである。それならば、この一撃はどうにか凌ぐことができるかもしれない。


 テトの読みは的中していたようで、ジオドラゴンへと姿を変えたライムにアースクエイクが命中するが、首の皮一枚繋がるレベルで攻撃を耐えることができた。

 ジオドラゴンになったことで、属性は自然へと変更。これで土属性は等倍となる。更に、アースクエイクはガイアフォースより威力が低いので、結果的に戦闘不能を免れたのだ。


 ライムは元の姿に戻り一息つく。しかし、戦況は安堵する暇さえ許してくれそうになかった。たった二発の攻撃で、ライムの体力はジオドラゴンのそれを下回ってしまっている。九死に一生の保険があるが、あんな無茶苦茶な攻撃を素直に何度も喰らう義理はない。


 反撃の糸口を探っている間に、ジオドラゴンは次なる攻撃を仕掛けようとする。だが、勢い余って自分の爪で鱗を思い切り傷つけてしまう。逆鱗のリスクである自傷効果が発動したのだ。

 しかし、HPの減少量は雀の涙であった。

「自傷させて自滅させるのも厳しいか。ジオドラゴンは攻撃と防御の値がほぼ同じだから、ダメージ量には期待してなかったけど、まさかここまで少ないなんて」

 しかも、自傷が発動する確率は四分の一。ひたすら回避させてそれを待つにしても、倒しきるのに何ターンかかるのか見当もつかない。


 効果を予習してきたとは、そのすさまじさを目の当たりにし、ライトはただ棒立ちするばかりだった。だが、自らの使命を思い出し、はっと我に返る。テトこと徹人を説得するのが第一目的だが、バトルの間にもしライムを倒すことができる場面があったら試してほしいとことづけされたことがあったのだ。

 それが、逆鱗と並ぶ、いや、はるかに超える効力を持ったスキルカード。これについては父親から十分に説明を受けていたが、正直おいそれと使える代物ではなかった。

 とはいえ、この調子だと本当にライムのHPを削り切ることが可能かもしれない。その時は覚悟を決める。ライトはそっとそのカードに手を添えるのであった。


 一方、ライムはジオドラゴンの攻撃パターンに慣れてきたようで、どうにか回避を続けている。たまにヒートショットで反撃するも、全くと言っていいほど体力は減らされず、じれったさは積もるばかりだ。

「ねえ、テト。どうにかできないの」

「ちょっと前に戦ったゼロスティンガー並に防御力が上がっているなら、自爆ぐらいしか決定打はない。でも、あれだけ素早いんだ。爆風をかわされたり、攻撃準備中に阻害されたりする危険性がある。

 そうなると、もう一つの策は自傷で自滅するのを待つことだけど、それは自爆以上に現実味がないんだよな」

 テトとしては暗に手詰まりを示したつもりであった。しかし、ライムは表情を輝かせ、

「要はあのトカゲさんを自滅させればいいのね」

 浮足立ってジオドラゴンへと接近していった。


 接近用の技でも発動するかと思われたのだが、ライムはジオドラゴンの腕にそっと触れるや、それだけでテトの元へと退避していった。

「ライム、お前何したんだ」

「おまじない」

「前もそんなことしてたよな。冗談抜きで何をやらかしたんだ」

「だからおまじないだって」

 詰問するも、あっけらかんとはぐらかされる。傍目からすると、ジオドラゴンにタッチしただけ。特に技を発動した形跡もない。


 だが、異変はすぐさま表面化した。未だ暴走状態にあるジオドラゴンは雄たけびとともに攻撃をしかけようとする。しかし、爪を振り上げるや、それで自らの胸を切りさいたのだ。当然、自傷とみなされHPが微減少する。

 追撃しようとするも、牙で自分自身を噛みつくなど、自傷を繰り返している。その連続発生数は早くも五回を超えた。

「自傷って発動確率二十五パーセントのはずよね。それが五回連続ってことは……千二十四分の一!? 偶然にしてはありえないわよ、こんな数値」

 ライトが取り乱すのも無理はなかった。自傷によるダメージは取るに足らないとはいえ、ここまで連続して自滅してしまうなど、もはや異常の領域に達していた。


 両者呆然としている間に、自傷の回数は積み重なっていく。その実現確率が百四万八千五百七十六分の一となったところで、ようやく通常攻撃でも倒せる射程圏内に入った。

「このまま本当に自傷で倒すというのはしのびない。ライム、ファイアボムでトドメだ」

 ろくに身動きできないジオドラゴンに、ライムは特大の火炎弾を発射する。それが命中するや、爆音とともに、僅かに残っていたジオドラゴンのHPを削り取る。


 それによりようやくジオドラゴンは逆鱗の効果から解放されたのだが、体力が尽きたことで鎌首を伸ばし、地面に横たわるのだった。試合終了のブザーが鳴らされ、フィールドのホログラムが解除されていく。

スキルカード紹介

逆鱗インペリアルラッシュ

龍系のモンスターにのみ使えるカード。

すべての能力値を大幅に上昇させる。しかし、その後プレイヤーからの命令を一切受け付けず、ひたすらに攻撃する。そのうえ、四分の一の確率で自傷が発生してしまう。

龍系のモンスターは能力値が高いので、適当に攻撃していたとしても、それだけで勝ててしまうことが多い。バトル序盤にこのカードを使用し、残りのスキルカードでサポートしながら戦うという戦法もあるくらいだ。

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