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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 敵はチート!? ゲームネクストの陰謀!!
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ライムVSゼロスティンガーその5

 不定形モンスターの自爆は、体そのものがはじけ飛ぶという相当グロテスクな代物だった。さすがにそのモーションは適用されないようで、ライムの絶叫とともに激しい風圧が巻き起こった。ホログラムのはずなのだが、自然と息苦しくなってくる。そのうえ、ライムを中心に地面に亀裂が走り始める。

 あまりにただならぬモーションに、ミスターSTは顔をしかめてたじろぐ。すぐさまスキルカードを展開する。

「単体での自爆であれば、確かにこいつを倒せるかもしれんな。だが、それではお前のモンスターも戦闘不能になる。相討ちになったとしても、ルールで私の勝ちとなるぞ」

「そんなのは覚悟の上だ。本当にそうなるかはやってみなくちゃ分からないだろ」

「戯言を。ならば、その空虚な自信など、木っ端みじんに打ち砕いてやろう。スキルカード発動、水化メタモルアクア

 ミスターSTが使用したのはモンスターの属性を水属性に変更するカード。この局面では無意味かと思われたのだが、更に不可解な行動に出る。

「私はこのカードをゼロスティンガーに使用する」

「なんだって」

 ゼロスティンガーのボディが青い光に包まれ、雷属性から水属性に上書きされる。

「自爆は炎属性の技だからな。水属性に変えてしまえば威力は半減される。まさか、属性変換のスキルカードは対戦相手のモンスターにしか使えないと思っていないだろうな。このように味方に対しても使うことができるのだよ」

 その指摘は図星だったうえに、あまりに予想外の使い方に徹人はほぞを噛む。


 いかなる技をも防ぐようにチートスキルカードを作成した田島であったが、唯一対処できなかったのが単体での自爆である。実戦で使うことがないと想定しダメージ計算できる限界まで威力を上げた、いわば開発者のお遊びが含まれていた。それを防ぐとなると、ゲーム進行に異常が発生するレベルまでステータスをいじらなくてはならない。自らチートを使用するという開発者としての禁忌を犯しているうえ、ゲーム進行不可能なんて愚行をするわけにはいかなかった。

 なので、正式な方法で自爆に対抗する必要がある。そこで発見したのが属性相性により威力を減少する方法。これであれば計算上、HPを一桁残した状態で生き残ることができる。


 だが、テトもそんな策略を素直に許すはずもなく、すぐさまスキルカードで反撃を試みる。

「スキルカード炎化メタモルフレア。これでゼロスティンガーを炎属性へと変換する。炎属性に対して炎の攻撃をぶつけた場合、威力は等倍だ」

 ライムが水属性のバブルショットを好んで使うために控えていたカードだったが、まさかここで役に立つとは思いもしなかった。これでダメージを半減することはできなくなる。


 すると、ミスターSTは負けじと別のスキルカードを使用する。

「スキルカード対抗パニッシュ。残念だが、炎化メタモルフレアの効力を打ち消させてもらう」

「そうはさせるか。こっちもスキルカード対抗パニッシュ発動。お前の対抗の効果をなかったことにするので、残ったのは僕が使った炎化メタモルフレアだけだ」

 互いの対抗パニッシュのカードから放たれた光線弾が正面衝突し、霧散する。先行して放たれたテトのスキルカードの光がゼロスティンガーを覆い、ほのかな炎が発生する。この効果でゼロスティンガーは最終的に炎属性へと変換された。


 両者のスキルカードの応酬に決着がつくと同時に、ライムの技の発動準備が完了した。破裂寸前の風船のごとく、少しでも触れようものなら一気に爆風が周囲を蹴散らすだろう。

「いけ、ライム」

 発破をかけるように、テトは高々と右の人差し指をゼロスティンガーに向けた。ライムはひときわ大きな雄たけびとともに、溜まりに溜まったエネルギーを放出した。


 ここまであからさまな「ドッカーン」という爆音は聞いたことがなかった。耳を塞ぎつつ、崩壊した地面から沸き起こる砂煙に目を閉じる。視界が塞がれているのでよく分からないのだが、爆風とともに闘技場ステージの壁やら天井やらが崩落していっているようである。

ホログラムゆえに実害はないのだが、ステージそのものを破壊する威力と考えると、開発者のお遊びが含まれているとはいえ末恐ろしくなる。降りかかる粉塵を防ぐように、テトは頭の上で手をクロスする。


 ようやく砂煙が落ち着き、テトは恐る恐る目を開ける。真っ先に視界に映ったのはゼロスティンガーであった。耳障りだった機械音が鳴りやみ、両腕のハサミがだらんと垂れ下がっている。難攻不落と思われたHPゲージも空になっていた。

 相手は倒すことができた。それではライムは。瞼をこすり、必死に彼女の姿を探す。すると、ステージの中央。ひときわ大きなクレーターの中心で彼女はふらつきながらも佇んでいた。


 清潔感溢れる白のワンピースは無残にもあちこちが破け、煤ぼこりで黒ずんでいる。さらさらとした髪は乱れ、過呼吸になりそうなほど荒く上半身を上下させている。

「ライム、無事か……」

 言葉が途切れたのは、それが愚問だとすぐに察したからだ。ライムのHPゲージを目にするや、テトは安堵のあまり腰を折る。


 そこには僅か一ではあるが、ゲージが残されていたのである。


 こちらのHPが残っていて、相手はゼロ。そうなればコンピューターが下す判断は自明だ。勝者を讃えるファンファーレと共にテトに軍配が上がる。

 実感が沸かなかったのだが、ゼロスティンガーが消滅していくことで、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。

「やったよ、テト。私たち勝ったみたい」

「ああ、やったぜ、ライム」

 いてもたってもいられず、テトはライムの胸に飛び込む。透過して、おまけになぜか額をぶつけてしまうのだが、それでも昂る感情を抑えることはできなかった。


 その一方で、ミスターSTは呆然と棒立ちする。それもそうだろう。百パーセント勝てるはずの戦いだったのに、結果は敗北。あまりの理不尽さに拳を震わせ、声を張り上げた。

「貴様ら、一体どんな小細工を使った。引き分けならまだしも、そいつが勝利するなどありえんことだ」

 怒気を孕んだ声に怯むことなく、ライムは反論する。

「私としても一か八かの賭けだったけどね。アビリティ九死に一生を自爆の反動ダメージに適用したのよ」

「馬鹿な。九死に一生は攻撃の反動に対しては発動しないはずだ。そんなことはデータを無理やり書き換えでもしない限り……」

 そこで言いよどむと、咳払いし、努めて平生を装う。相手のただならぬ様子に、テトもまた固唾を呑んで次の言葉を待ち受ける。


 そう、本来ならあり得ない行為であるはずなのだ。しかし、このライムというモンスターにはそれを可能にするある機能が備わっている。それがゆえに、早々に排除せねばならない。ともあれ、あの事実を告げるのなら今だ。

 決心を固めた田島は声音を落ち着かせて語りかける。


「君たちを試しているようで悪かったのだが、そのモンスター、ライムにはある嫌疑がかかっているんだ」

「嫌疑? ライムが悪いことでもしたのか」

 テトにとって嫌疑という単語は刑事ドラマぐらいでしか聞いたことがなかった。作中の犯人に対して使っていたはず。ただ、ファイトモンスターズの中で意図的に不正を働いたつもりはないし、ライムがそんなことをするとは思えなかった。と、いうより、思いたくなかった。

 ミスターSTはゆっくりと首を横に振ると、静かに口を開く。

「正確には、これから脅威となるかもしれないと言うべきか。このままそのモンスターを放置していると大変なことになる」

「まったく話が見えないんだが、ライムがどうしたって言うんだよ」

「それはライムというモンスターは……」

 そこまで言いかけた時、突然回線が大きく乱れた。「ライムが何だって」という声に上書きされるように「徹人、何してんだい」という怒声が響く。

スキルカード紹介

炎化メタモルフレア

相手を炎属性へと変換する。

自然と風属性の攻撃を半減するが、水と土属性の攻撃を受けると倍のダメージを受けてしまう。

水や土の攻撃技の威力を高めるために使用されるほか、相手の自然や風の属性攻撃を防ぐこともできる。攻守両用の非常に優秀なカードである。

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