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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
6章 ライム消滅!? 最後の希望を手繰り寄せろ!!
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禁断の方法

新年最初の投稿です。

そして、あと2話で完結となります。

「あくまで理想論だが、やってみる価値はあると思う。ずばり、ファイモンのアカシックレコードにアクセスするのだ」

「アカシックレコードというと、キラーが技を使う時にアクセスしていた所よね」

 ファイモンが配信されてから今までのすべてのモンスターやスキルカードが記録されているという概念体。それがライム復活とどう繋がるかはいまいちピンとこなかった。

「実は、途中からではあるが、ライムたちとキラーとの戦いを観戦していた。その中でキラーはパムゥが得意としていたターンコントロールを使っていただろ」

「そうだな。ふざけたことをしやがって」

 使われる前に脱落したムドーは余計に腹立たしかった。だが、あることに感づいて、表情を一変させる。

「ここで思い返してほしいのだが、パムゥは既に消滅している。なのに彼女が得意としていたターンコントロールを使うことができた。つまり、アカシックレコード内において、概念ではあるがパムゥはまだ健在というわけだ」

 そこまで説明されて、ライトたちも続々と衝撃を受ける。そして、テトもまた羽生が言わんとしていることを把握した。


「もしかして、アカシックレコードを利用すれば、ライムの概念を引き出して復活させることができるのか」

「いかにも。あくまで理想論だがな」

 注釈を入れるものの、まさに唯一の方法というべきだった。藁にもすがる思いで羽生を注視する。


「さっそくアクセスを開始してください」

「いや、簡単に言うが、具体的なアクセス方法は不明瞭だ。キラー当人に尋ねれば訳はないのだが、肝心のあやつは既に消滅しているからな」

「だが、全く方法がないわけではないぞ」

 落胆しかけたが、田島悟の言葉に救われる。

「開発者として言わせてもらうが、アカシックレコードなどというものを作った覚えはない。サービス開始から幾重もの時を重ね、自動的に構築されていったというべきだろうな。そんな代物にアクセスするとしたらキーとなる概念は一つ。人々の記憶だ」

「記憶、だって」

 概念に概念を重ねられ、テトは唖然とする。そんな彼を見越して、田島悟は説明を続ける。


「ファイトモンスターズのプレイヤーからライムに関する記憶を募り、集約するのだ。そのデータを分析すれば、ライムを再構築させることができるかもしれん」

「情報さえ集まれば後は私たちの腕の見せ所ってね」

 綾瀬が腕まくりをする。レイモンドと羽生も雄々しく頷く。日本最高峰レベルのプログラマーが集っているのだ。虚言で慰めているのではないことは容易に分かる。


 ただ、それでも懸念はあった。

「記憶を集めると簡単に言うが、どうやって集めるんだ。ネットで呼びかけるとしても、拡散させられるとは限らないぞ」

 不適切な動画や画像をアップロードし、あっという間に炎上する例は多々ある。しかし、人目につかないままネットの深淵に沈んでいく投稿もまた数多あまただ。奇をてらったものならともかく、単に「ライムについての記憶を集めている」という短文だけでは見向きもされないだろう。


 必死に思案を重ねるが、今一歩決定的なアイデアを出すことはできなかった。地道に投稿を繰り返すとしても雲をつかむような話だ。それに、時間をかければかけるほどライムに関する記憶は薄れていく。それだけ復活の可能性が低くなるので、できる限り即座に集めておきたい。なので、ライムの劇場版出演が公式告知された今がまさにベストタイミングであった。


 現実世界の徹人の視線にふとテレビが入る。ご長寿番組の仲間入りをしたモンスター育成RPGのアニメ版が放映されている。ファイモンの余波で後続のアニメ番組も視聴率を伸ばしているらしい。実数値を参照するまでもなく、SNSの盛り上がり具合からかなりの人数が視聴していることは明らかだ。


 半ば呆けつつもアニメを眺めていた徹人だが、そこであることに気がつく。

「ねえ、テレビ番組って利用できないかな」

「テレビを使うのか。一体どうやって」

 ムドーが訝しんでいると、テトはおもむろに一点を指差す。先にあるのはキラーが消滅した地点だ。現在は完全な空虚となっている。

「キラーはサブリミナル効果を使って急激に視聴率を伸ばしたんだよな。ならば、そいつを利用してライムの情報を集めることができるんじゃないのか」


 数倍にも視聴率を上昇させた手法。加えて、ファイモン放送終了後であればライムへの関心は高い。未だチャンネルを変えずにいるなら続々と情報を集わせられるはずだ。

 しかし、支障なくそんなチート技を使えるわけが無かった。

「方法論としては面白い。しかし、現実性があるかと問われれば否だ。第一、サブリミナル効果は使用を禁じられている。まして、個人的な望みを叶えるために利用するなど御法度だ」

 羽生に釘を刺され、テトはほぞをかむ。キラーの時は非難しておいて、いざ自分が必要になったら利用しようなんて虫が良すぎる話だった。


「これから違法なことをしようとしているのは分かっている。でも、ライムを救うためにはこうするしかないんだ。もし、問題が発生したら僕が責任を負う。だから、サブリミナル効果を使ってほしい」

 中学生の戯言と片づけられても仕方がなかった。しかし、田島悟は揺らいでいた。自ら開発したゲームのキャラクター。ただのデータだと軽んじられそうな存在にここまで入れ込んでいるのである。生みの親として放置することができようか。


 田島悟は携帯電話を取り出すと、機械的な指捌きである人物に電話をかける。ワンクッションのち、通話が開始された。

「園田か。ほんの一瞬でもいい。ライムの情報を募る文言を差し込むことはできないか」

「お父さん、本気なの」

 声を荒げたのはライトだった。下手をすれば自分の父親が犯罪者になりかねないのである。娘として黙っている訳にはいかなかった。


 彼女の心情を察し、田島悟は優しく語り掛ける。

「自分でも愚かなことをしようとしているのは分かっている。しかし、ゲームの生みの親として、プレイヤーの望みを適えるのは当然だ。ユーザーの意見を無視して利己主義に走り、結果サービス停止したゲームを腐るほど知っているからな。

 ただ、意図的にサブリミナルを仕組んだと露呈したら、このゲームは終わりだろうな。そうなれば私の首も危うい」

「父さん、まさかそこまでの覚悟で……」

 日花里としては初めて覗く父親の一面であった。これまで背けていたといってもいいかもしれない。真摯に自らの責務を果たす。肉親に対して抱くのは気恥ずかしかったが、素直にかっこいいと思ったのだ。


 通信に割り込むようにテトもまた懇願する。

「園田さん、お願いします。どうしてもライムを救いたいんです。僕の我がままのせいで迷惑をかけるかもしれない。でも、彼女がいなければとんでもない惨事が起きていたかもしれなかったんです」

 キラーの思惑は園田も知るところだった。自らが製作したアニメが凶器と化すところだった。そいつを阻止したという点では目の前の少年に借りがあるといえる。


「アニメ作家として、サブリミナル効果の使用は禁忌中の禁忌だ。だが、あえてその禁を犯そうと思う」

「園田さん」

「ただし、今放映されているアニメの提供告知の間だけだ。正直、どこにも差し込みたくはないのだが、一番実害が少ないのはそこだろうからな」

 いわゆる、「この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りします」というアナウンスが流れる数十秒の間だ。スポンサーの手前、CM本編にサブリミナルを入れる訳にはいかない。本編は御法度で、OPやEDもよろしくない。消去法で残された結果となる。


 すでにOP直後の提供告知は流れてしまっているので、勝負は「お送りしました」とアナウンスされる次回予告の直後だ。納品済みのアニメ映像を差し替えるなど普通はできない。なので、綾瀬達プログラミング組が放映ジャックで映像の切り替えを狙う。

「徹人君。君が作戦の発案者なんだ。だから、サブリミナルで差し込むライム復活のためのメッセージは君が考えてくれ」

 羽生から仕事を振られ、テトは面食う。国語の成績に自信があるわけではない。むしろ、並以下である。きちんと情報拡散に繋がるかどうかはテトの文章力に懸っている。

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