表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
6章 ライム消滅!? 最後の希望を手繰り寄せろ!!
234/238

最強のワクチンソフト「アルティメットキライム」

 ふと彼女は肩を揺らす。時折漏れ出る吃音。悔しさに打ちひしがれているのか。否、邪悪なまでに口角が上がっている。

「やはり人間というのは愚かだの。約束通りに映像を止める方法を教えると思っていたのか」

 逆に唖然とさせられるテト達。彼らを嘲笑うかのように、キラーは顔を歪めたまま仁王立ちする。

「我は最初から映像を止める気などない。もはや我が野望が達せられるも時間の問題だ」

「貴様、卑怯だぞ」

「素直に人間ごときと口約束するわけがなかろう。それに、そなたらとファイモンのバトルをしたのも時間稼ぎに過ぎぬ」

 まさにしてやられたといったところだ。ファイモンのバトルに勝てばすべてが解決すると思い込まされていたため、十数分を費やして彼女に挑んだ。キラーにとって勝敗などどうでもよく、時間を引き延ばしさえすればそれでよかったのだ。


「まあ、ファイモンのバトルに応じなかったとしても、映像を止めることなど不可能だったがの。我に勝利した褒美に方法を教えておいてやろう。

 映像を制御するプログラムは我の体内に隠してある。そいつを止めるとするなら、我そのものを消し去るしかない」

「お前を消すだって」

 ついに打開策が見つかったものの、絶望を助長させるだけだった。そんじょそこらのワクチンソフトをいとも簡単に無効化してしまう最強のコンピューターウイルス。そんなものを消し去るなど、世界最先端の技術力でもなければ無理だ。


 立ち尽くすしかないテトたち。しかし、あることを思い出し、テトは口火を切る。

「墓穴を掘ったな、キラー。お前は直に消滅する」

「ほう、根拠も無しにハッタリを掛けるとは。見苦しいことこの上ないな」

「いや、根拠はある。お前はターンコントロールを発動させたうえで勝負に負けた。ならばペナルティで自動的に消滅するはずだ」

 パムゥと直接対決したライムも目を輝かせた。禁断中の禁断ともいえる能力ターンコントロール。代償もまた半端ではなく、敗北と同時に存在そのものが消されるというまさに命がけの秘術であった。


 バトル終了から数十秒が経過している。なので、そろそろ効力が発揮されていてもおかしくないはずだ。期待を込めてキラーの様相を見守る。

 しかし、依然として肉体は健在のままだ。嫌な予感がよぎり、テト達の表情に陰りが生じる。すると、キラーは前歯を剥き出しにし、ゆっくりと立ち上がった。

「つくづく愚かだの、人間たちよ。我がターンコントロールの代償を予習していないとでも思うたか。バトル終了と共に破壊プログラムが発動するのは織り込み済みだ。なので、予め対抗プログラムを仕組んでおいたのだよ」

「つまり、ターンコントロールの代償でも消せないってわけ」

 ライトが悲鳴を上げる。残り時間からしても最後の希望に間違いなかった。それが潰えた以上、残されたのは絶望だけである。


 もはや、運命の神様はテト達を完全に見捨てたか。あまりに悲痛な運命に打ちひしがれる。あまりの理不尽さにデバイスにやつあたりしようと、現実世界の徹人は拳をあげる。まさにその時であった。

「諦めるのはまだ早いわ」

 ギリギリのところで動きを止めたのは、綾瀬が声をあげたからだった。ファイモンバトルにおいては蚊帳の外であった彼女。大人しく観戦していると思われたのだが、実はそうではなかった。


 通信用ウィンドウには綾瀬の他に三人の男の顔が映し出された。精悍な顔つきの実業家。鼻が高い小太りの男性。そして、柔和な笑みを浮かべる初老の学者だ。それぞれ、田島悟、レイモンド、羽生英世とテトたちに因縁がある者ばかりであった。

「父さん。どうしてここに」

「君たちが頑張っているのに、私たちが指をくわえているわけにはいかないだろう。ずっとキラーの行方を捜していたのだよ」

「イエス。ミス綾瀬のお陰で到着できマシた」

 落ち着いている田島悟とは対照的に、レイモンドは有頂天にピースサインを決める。この局面に運営の二人が介入したのは不可解と言えば不可解だった。輪にかけて意外な人物までもが参入しているのである。

「久しぶりというべきかな、キラー」

「貴様か。その顔は忘れたくても忘れられぬな」

「自らの親の顔を忘れるほど耄碌していないか」

「我を年寄り扱いするとは、なめた真似を」

 キラーの生みの親である羽生英世。自らの子との対面につい頬を緩ませる。だが、とんでもない問題児であることは自覚済みだ。なにせ、土壇場に駆け付けたのはじゃじゃ馬にお仕置きを加えるためだからである。


「そろいもそろって豪華な面子だが、キラーを倒す秘策があるのか」

 常に斜に構えた態度のムドーであるが、現状は藁にも縋る思いであった。無論、テト達も三人に一縷の望みを託すしかない。

「長話をしている余裕はないから、単刀直入に言おう。キラー討伐用の最終兵器を用意してきた」

「イエス。ミスター羽生の力により完成させることができまシタ。その名もキライム究極型、アルティメットキライム」

 あまりに仰々しい名前にテト達は一瞬耳を疑う。反応に困っていると、田島悟が捕捉を加えた。

「最悪のコンピューターウイルスが出現するのに備え、前々からレイモンドが開発を進めていた代物だ。世界最強のワクチンソフトといえば察しがつくだろう」

「そんじょそこらのウイルスなら瞬殺できる究極のプログラムデス。なかなか開発できまセンでしたが、ミスター羽生がチームに加わったことで、ようやくできあがりまシタ」

 言うが早いか、レイモンドは巨大な注射針を出現させる。ワクチンを具現化したものだが、先端の針はまっすぐにキラーを狙っている。あからさまな外敵を前に、キラーの額から汗が伝う。


「あなたたちが戦っている間、私も遊んでたわけじゃないのよ。羽生さんとかに連絡を取り次いだりしてて忙しかったんだから。さあ、正真正銘の最後の一撃よ」

 残り時間まで一分を切っている。もし、究極のワクチンソフトが効果なしだったとしたら完全に手詰まりだ。テト達は祈るように両手を合わせる。あまねく祈りを乗せ、巨大注射針がキラーへと突き刺さった。


 耳を塞ぎたくなるほどの絶叫をあげ、キラーは苦痛の表情を顕わにしている。ウイルスである彼女にとってワクチンソフトは猛毒に他ならない。まして、究極という二つ名付きだ。蟲毒を直に振りかけられているぐらいの激痛に苛まれているに違いない。

 効果を発揮しているのは明らかではあるが、キラーはしぶとく抵抗しているのか、なかなか変調が訪れない。それどころか、表情が和らいでいるようにも思える。


「おかしいぞ。プログラムは完璧のはずだ。即座に消え去っていてもおかしくはないのだが」

「これしきの害毒で我を消せると思うたか」

 訝しむ羽生に、キラーは怨嗟の声で答える。キーボードを叩く手も次第に緩慢になっていく。

「もしかしてだけど、キラーは私たちの予想を超える速度でワクチンへの抵抗プログラムを生成しているんじゃ」

 綾瀬がもたらした疑念に一同は気つけを施された心持ちになる。


 なにせ、周辺環境を変えるほどの力を持った相手だ。自身の体内構造を即座に変更し、対抗プログラムを即製するなど訳はない。例え完全に防ぎきれなくとも、一分ほど耐え凌げば自動的に問題の映像が流れる。

「大方、バトル終了後に弱っている我を狙って投薬したのだろう。着目はよかったが、時間が足りなかったな。このまま十分も効果が持続すればさすがの我も力尽きるかもしれぬ。だが、その頃には大多数の人間を根絶やしにしているだろうよ」

 むしろ、即効性の猛毒を受けて十分も持ちこたえられるという時点で化け物じみている。手をこまねいているうちにも、制限時間は二十秒を切ってしまっていた。羽生は勢いよく机を拳で叩く。ムドーたちも口々に喚くものの、キラーを調子づかせるだけに過ぎなかった。


 絶望に打ちひしがれる人間共を達観するキラー。いずれ消滅する運命だとしても、一矢報いたという達成感に酔いしれる。

 だが、彼女に向かって猛然と突進してくる影があった。油断していたキラーは最接近を許してしまう。そいつは脇目も振らず、キラーへと飛び込んでくる。

「貴様、一体何を……」

「あんたの思い通りになんかさせないもんね」

 顔を歪ませながらも必死にしがみついている少女。それはライムであった。

毎年インフルエンザウイルスが流行するのは、ワクチンに対抗できるようにウイルスが変質し続けているためだ(仮面ライダーエグゼイド12話より)

キラーがアルティメットキライムに耐えられるのはそういう理論です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ