無限の戦術を打ち破れ! VSキラーその4
ジオドラゴンと目配せすると、ライムは先んじてバブルショットを放つ。キラーはマシンガンシードで迎撃する。直後、ジオドラゴンがアースクエイクで攻めたてた。わざと自分とは異なる属性の技を使い、相手の意表を突く作戦だ。
だが、ライムの自爆で学んだのか、キラーは地面に手をつくと、植物のツタを無数に生成した。自然属性の攻撃技「バイオウィップ」だが、今は地響きを防ぐ壁と化している。
やはり単純な攻めは通じない。観客に甘んじているムドーは諦観するが、途端に目を見張った。キラーが障壁として召還したツタがいきなり炎上したのだ。
自らを守るはずのツタが凶器に変わったことで、キラーは慌てて立ち去る。だが、指先にわずかながら引火してしまい、火傷による小ダメージを受ける。
ジオドラゴンの技にツタを燃え上がらせるなんて離れ業はないはず。そうなると、仕掛け人は自ずと絞りこめた。
「ライム。いや、その姿は……」
キラーが絶句したのはドラゴンが二体に増えていたからだ。一体はもちろん、緑の鱗のジオドラゴン。そしてもう一方は紅の鱗を輝かせ、咆哮と共に火炎を放出していた。
もし、放映中のアニメを気にかけている者がいたなら、そのドラゴンの正体がすぐさま分かっただろう。アニメの主人公アキラのパートナーであるグレドランであった。
戦闘中に新たにモンスターを追加することはできない。そもそも、テトもライトもグレドランを持ってはいるのだが、こんな重要な局面に出せるようなレベルに達していなかった。では、このグレドランは何者なのか。答えはもったいぶるまでもない。
「どう、すごいでしょ。グレドランに変身してみたよ」
かっこいい外見とは似つかわしくない軽快な声。ライムが変身によりグレドランへと変化しているのだ。
キラーは舌うちをし、グレドランに水属性技「マーメイドアロー」を放つ。水しぶきが弓矢を象り、標的を射抜こうとする。
対し、ライムは巨大な花弁を誇る植物モンスターへと変身する。そいつに弓矢が直撃するが、体力が減少するどころか逆に回復を果たす。
「自然属性のモンスターラフレシアン。アビリティの養分吸収は水属性の技を受けた時にダメージを無効にして体力を回復する。マーメイドアローへの返しとしては最上だろうな」
ムドーが冷静に解説を加える。ただ、せっかくの技を潰されたキラーはあからさまな焦燥を覗かせていた。
「計算が合わぬ。先の一撃も確実に致命傷となるはずであった。まるで理解できぬ」
「ならば教えてやろう。お前だけがすべての技や能力を使えるわけじゃない。僕のライムだっていかなるモンスターに変身できるんだ。つまり、お前と条件は五分なんだよ」
任意のモンスターになれるということは、すべての技やアビリティを好きなタイミングで使えることと同義。つまり、キラーが誇示してきた力をライムは元々有していたということになる。
そうなると、ライムとキラーの力は互角。差がつくとすれば、キラーが搭載しているAIと人間であるテトの思考のどちらが優れているかにかかっている。予告された時間まで十分を切った。勝負の行方はまさに、人間と機械の全面対決に委ねられた。
火花を飛ばしあう両者だが、割り込むように暗雲が天を覆った。
「私もいることを忘れないでね。アクト・オブ・ゴット」
突風と大雨がキラーを襲うが、彼女は右手に稲妻を蓄積させる。
「お前が雷属性の技で対処しようとすることは予習済みなんだよ。ライム、メガゴーレムに変身。レインストーンだ」
「オッケ。あのお人形さんだね」
巨大な花弁が勝手に散っていき、人型へと再構築される。しかも、ただの人型ではない。全身が岩石で構成された魔導人形。源太郎の切り札であるメガゴーレムだ。
アクト・オブ・ゴットの止めである自然属性の咆哮と、メガゴーレムが召還した無数の岩石が迫る。キラーは先んじて風雨を対処しようとしていたため、右手に稲妻を宿らせたままだ。今更別の技を発動させようとするなら、稲妻を引っこめなくてはならない。しかし、そうしたら無防備のまま両者の技に晒されることとなる。
やむを得ず、「デススパーク」で風雨ごとライムとダイナドラゴンの技に刃向う。四方八方に広がった稲妻は風雨の発生源である暗雲を貫く。しかし、咆哮弾と岩石の群れを突破するには力不足だった。
連続で技を喰らい、キラーの体力はついに瀕死寸前にまで減少する。あと一息で決着がつく。逸る気持ちを抑えきれず、ライムとダイナドラゴンは追撃を加えようとする。
だが、発動寸前にまで蓄積されたエネルギーが突如かき消された。それどころか、キラーが他を圧巻するほどの覇気を発している。その様相にテトは見覚えがあった。
「まずいぞ。あいつ、自爆を使うつもりだ」
ライムに変身を指示し、エイリアへと変貌させようとする。特有の技「インビンシブルモード」で無敵状態になり、規格外攻撃を凌ごうというのだ。しばらく行動不能になるが、うまくキラーの注意を惹きつけ、その間にダイナドラゴンが反撃してくれれば勝機はある。
ライムの肉体が粘土細工のように融解し、小人を象ろうとする。しかし、変化の途中で逆戻りし、元の姿に留まってしまう。
突然技をキャンセルされ、戸惑うライム。そんな彼女に容赦なく爆風が迫る。しかも、ただの爆風でないことは明白だ。
「自らを省みず、無茶苦茶な爆風を放つとは」
ダイナドラゴンが毒づいた時にはもう遅かった。あらゆるモンスターを根絶やしにする規格外の爆撃。もちろん、技を発動した当人も無事では済まされないため、文字通り捨て身の特攻だった。
ライムは腕をクロスさせ、咄嗟に九死に一生を発動させる。どうにか踏みとどまるものの、防御に回した両腕が激しい火傷に苛まれる。
一方、致命的な被害を受けたのはダイナドラゴンだった。まともな防御手段がなく、爆風が直撃してしまったのだ。
「ジオ、しっかりして」
ライトの呼びかけも虚しく、ダイナドラゴンの融合は強制解除される。それと共に、残っていた体力ゲージも一気にゼロへと尽きてしまった。
ついにテトの陣営も残るはライム一体となってしまった。ただ、本来なら相手は愚策中の愚策を犯してしまっていた。自爆は確かに相手を根絶やしにできる威力を秘めている。しかし、ノーリスクで使えるわけはなく、自らの体力をすべて犠牲にしなければならない。つまり、ライムが九死に一生で耐えた時点で勝敗は確定したはずだ。
だが、戦闘不能になっているはずのキラーは憤怒を顕わにしながら健在だった。さすがに体力ゲージは「一」まで減少していたが、自爆してもなお戦えるというのは脅威に他ならない。
「どうなってんの。自爆して生きてるって反則じゃん」
「ライム、お前が言うなよ。僕らもよく使っている手じゃないか」
テトは薄々感付いていた。技やスキルカードを自在に操ることができるのなら、アビリティもまた自由に変更できるはず。自爆を意図的に耐えることができるアビリティといえば答えは明白。
「察したか。今の我がアビリティは九死に一生。我にはいかなる攻撃も通じぬ」
互いに一発でもダメージを受けたら即死。しかも、技を凌ぐアビリティを搭載している。そうなれば根競べとなるが、テトにとっては悠長に構えてはいられなかった。なぜなら、アニメ本編がそろそろ終了しようとしているのだ。残るはエンディングと次回予告。そう考えると五分ほどしか猶予はない。
「こっちも派手にぶちかますぞ。自爆で強引に攻め込んでやれ」
「オッケ」
ライムは両腕を広げ、内より湧き出るエネルギーを放出していく。彼女の長髪が揺れ、大地が揺れる。
引き腰になりそうなほどの覇気だが、エネルギーが蓄積しきるより前に異様なことが起こった。フィールドをも瓦解しかねないほどのエネルギーの潮流が突如として途切れたのだ。
突然の異変にライムはうろたえる。そんな彼女を葬り去ろうと、キラーは規格外のエネルギーを放出させる。ライムと全く同じ挙動。繰り出そうとしている技は自ずと明らかだ。
「砕け散れ」
冷酷に死刑宣告を下し、爆風をお見舞いする。とっさに九死に一生を絡めて防御するが、自爆を二連発で耐えるなど正気の沙汰ではなかった。データ上は体力ゲージが健在でも、とてつもない倦怠感に苛まれる。もはや、バブルショットを充填するのも手一杯だった。
しかも、反撃のために人差し指を伸ばすものの、一向にエネルギーが集まる気配がない。余力はあるはずだが、強制的に打ち消されているのだ。
「さっきから思うように行動できないよ」
泣き言を漏らすライム。彼女の焦燥をテトも痛いほど分かっていた。と、いうのもつい最近似たような光景に直面した覚えがあるからだ。
いくら攻撃しようとしても強制的に打ち消され、有無を言わさず相手の攻撃は通される。端的に言えば一方的に技をぶちこまれるという小学生が考えそうな戦法だが、それを可能にできる荒業が存在するのだ。
「まさかだと思うが、あの野郎ターンコントロールを使ってるんじゃ」
懐疑的に探りを入れてみたが、キラーは含みのある笑みで返した。ほんの一挙動だけで、テトの疑念は確信へと昇華する。
ターンコントロール。パムゥが駆使してきた禁術中の禁術。ターン制バトルであるファイモンで行動の肝となるターンを自在に操ることができる。ずっと俺のターンを本当に再現してしまうというまさに反則技だ。
パムゥを倒した際は、体力に余裕がある状態で朧の自動反撃能力を発動させた。だが、決してダメージを受けられない状況下、朧の反撃の刃はあてにならない。
手札のスキルカードを逡巡するが、打破できそうな一枚が存在しない。テトの脳裏に「詰み」という嫌な言葉がよぎった。
モンスター紹介
ラフレシアン 自然属性
アビリティ 養分吸収:水属性の技を受けた時体力を回復する。
技 ローズラッシュ
世界一巨大な花がモチーフの植物モンスター。
元々水属性には強いが、アビリティで攻撃を完全無効化してしまうため、まさに水属性メタとなっている。
ちなみに、ポ〇モンに似た名前のモンスターがいるが、外見はド〇クエのロ〇ズバトラーの方が近い。




