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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
6章 アニメに隠された目論見! 犯人の陰謀を阻止せよ!!
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銀幕デビュー

 思惑とは裏腹に視聴率が伸び悩むというパターンも考えられた。しかし、そんな楽観論を望んでも詮無きことだろう。むしろ、重大発表なんて告知を使われては、視聴率は間違いなく伸びる。

 苦心していると、ふと真があることを切り出した。

「そういえば、どうして朧たちは園田さんと繋がりができたの。なぜか親しげにしてるし」

「ああ、そいつは、だな。ライム、明かすしかないか」

「そうだね」

 ライムたちは互いに目配せしている。しかも、園田までもがそわそわしているのだ。


「公式発表はまだ先だから隠しておきたかったのだが、事情が事情だから仕方ないか。君たちにだけは特別に明かしておこう。ただし、念を押すが一般にはまだ秘密だからくれぐれも口外しないでもらいたい」

 園田が先んじて緘口令かんこうれいを敷く。アニメ関係者直々の警告とあり、徹人たちは生唾を飲んだ。

「直近までアニメの重大発表がどうのこうのと話しておったろう。ライムたちとコンタクトを取っていたのはそいつと大いに関係があるのだ」

「ライムとアニメって接点がないはずじゃ」

 ライムが全国対戦に現れてから数か月経つが、未だにアニメに登場したことはない。つい先日配信開始されたスカルプテラが活躍したりしていたので、意図的に登場を見送っているという可能性もある。


 ざわめく一同を静めるべく、園田は大きく咳払いする。そして、ゆっくりと部屋内を一望した。

「それでは、発表するぞ。実は、今度の夏休みにファイモンの映画が公開されることになったのじゃ」

「ああ、それなら知っている」

「うん、ネットで情報が出回っていたし」

 日花里と真は素で驚いていたが、反対に徹人と武藤の反応は素っ気なかった。夏休みに公開される映画の情報であれば、春休みの時点である程度出回っていてもおかしくはない。と、いうよりも小学生向けの漫画雑誌ロコロココミックの最新号で「ファイモンついに劇場化」と派手に宣伝されていた。


 出鼻を挫かれ、園田の眉間にはしわが寄っていた。日花里が徹人を肘でつつくと、「あ、ああ、楽しみだな」とわざとらしい反応をする。子供にご機嫌取りを強要する大人というのも面倒くさくはあるが、情報のためには致し方ないだろう。

 しかし、わざわざ正式に発表されているようなことをもったいぶるわけがなかった。すぐに老獪な笑みを取り戻すと、両指を組み合わせた。

「ここまでは知っていたとしても想定の範囲内だ。だが、この情報は知らんだろう。その映画になんと、ライムたちが出演するのが決まったのじゃ」

 その発言にはさすがに驚愕の叫びが巻き起こった。しかも、衝撃はまだ続く。

「そして、ライムだけではない。朧やノヴァもまた出演してもらうことになっておる」

「ちょっと待て。こいつら全員が銀幕デビューを果たすということか」

 ムドーが臆面なく取り乱すというのも珍しい。それだけ、園田の発表が衝撃的だったということだ。


「おい、ライム。いつからそんな話を受けていたんだ。全然聞いていないぞ」

「だって言ってないもん。えっと、全国大会が終わった後ぐらいだったっけな」

「割と最近じゃないか」

 銀幕デビューの依頼は同時期にライムだけでなく、朧やノヴァにも来ていた。園田直々に「パートナーたちには内緒にしてくれ」と依頼されていたので、今まで内密に進めていたのだ。

「製作会社側から依頼してきたのなら、繋がりができていても不思議じゃないわね」

 綾瀬は鷹揚に頷くが、日花里は新たな疑問を抱いていた。

「でも、わざわざライムたちに出演依頼を取り付けるなんて。そんなことしなくても勝手に出しちゃえばいいんじゃないの」

「普通のモンスターならそうしていたかもな。だが、ライムたちにはAIが搭載されている以上、個々人の意思がある。AIに人権を認めるか否かと議論されているところではあるが、念のために本人たちの許可を得ておこうということになってな」

「そんなことしなくても、オールオッケ―だったのにな」

「あたいは知らぬ間に出演していたら、テープをぶった切ってたところだった。その、まあ、変に映ると恥ずかしいだろ」

 照れくさそうに頭を掻く朧をノヴァがいやらしい顔で小突く。ちなみに、いずれパートナーである徹人たちにもあらかじめ連絡を入れるつもりだったという


 銀幕デビューの話で盛り上がる一方だが、ふと真があることに気が付いた。

「ひょっとして、今度のファイモンで明かされる重大発表って……」

「うむ、もう隠しておいても無駄だろう。ファイモンの劇場版でライムたちが登場することを正式発表する予定だ」

 確かに、重大発表にふさわしい内容ではある。この調子ならば、銀幕版の興行収入もとんでもない数を見込めそうだ。


 敵の狙いが分かり、おまけに重大情報もフライングゲットすることができた。しかし、肝心のことは未だ不明瞭だった。

「今度の木曜日に犯人が仕掛けてくることは確定的だ。しかし、どうやってそいつを防ぐんだ。アニメ製作会社が白だとすると、他に映像に手出しできるところなんてあるのか」

 ムドーの言うことも尤もであった。重苦しい沈黙が流れる中、園田がおずおずと口を開いた。

「唯一介入できるとしたら、放送電波の制御装置だろう。例えば、番組中に大地震が起きた場合、番組は中止され、臨時で報道番組に切り替わることがある。そのシステムを利用し、アニメの映像に一瞬だけサブリミナル効果を発揮させる画像を差し込んだのだ」

 あくまで一例として挙げたのだが、可能性としては十分であった。むしろ、第三者が映像作品に介入できるとしたら放送用機器を狙うしかない。


「園田さんの説を信じるとするなら、犯人はテレビ局かテレビ塔に現れるってことか」

 もちろん、徒労に終わることも考えられる。しかし、徹人たちの手で止めるとするなら、テレビ関連施設で待ち伏せするのが最善手だった。

「さて、そろそろ面会時間は終了かな。我々でも映像に不審な点がないか入念にチェックする。こんなふざけた映像は二度と流さん。

 犯人についてのヒントは与えたが、くれぐれも勝手なことはせんように。テレビ局にはこちらから手を回しておこう」

 それだけ言い残すと、園田との通話が切れた。予告された通り時計の長針が半回転していた。そんじょそこらのアニメを一話分見るよりも充実した時間を過ごしたように感じた徹人たちであった。


 犯人の目星がついたところで、さっそく作戦会議に入る。

「テレビ局に侵入するなんてことはできないよな」

「その前に、木曜日は普通に学校があるわよ。放課後に那谷戸まで行けなくはないけど、合流するのに手いっぱいで十分な対策は練れそうにないし」

「少なくとも、不正な映像が流れるのを阻止できればいいわけでしょ。ならば、ネットワークを攻めてみたら」

 綾瀬が人差し指を伸ばして提案する。本当ならずる休みして現実世界でも見張っていたいところだが、そんな不良行為を親たちが看過するわけがない。なので、ネットワークに的を絞って対策を施した方が得策だった。


「またもライムたちに負担がかかっちゃうけど、アニメのファイモンが始まったタイミングで放送機器の制御サーバーに侵入。そこで、不審なプログラムを発見したら即刻駆除する。侵入までの道すがらは私がサポートするわ」

「その作戦だと、僕たちがやることってあまりないですよね」

「ぶっちゃけ言うと皆無かもしれないわ。なにせ、相手は不正アクセスかコンピューターウイルスを使ってこんな悪行を仕掛けてきているはずだから。できることといえば応援することかしら」

「まあ、犯人がファイモンのモンスターだというのなら、俺とノヴァで叩き潰してやるが」

「ムドーはん、そんな都合がいい話あるわけないやろ」

 ノヴァはケラケラと笑っていたが、徹人はじっと考え込んでいた。


 パムゥによって解き放たれたキラーという名の最悪のコンピューターウイルス。人間への復讐を宣言してからというものの、目立った攻勢をかけてはいない。単なるうわごとと片づけたかったが、そんな矢先に発生したのがファイモンの異常な視聴率事件だ。関係性を疑うべきが筋だろう。


 とりあえず、木曜日の放課後に日花里の家に再集結するということで、この場はお開きとなった。部屋から出る瞬間、徹人は背後に強烈な眼差しを感じた。はっと振り返るが、そこにはブランク状態のノートパソコンがあるだけだった。

「まさかな」

 そっと独り言ちると、日花里の自室を後にするのだった。

劇場版ファイトモンスターズ、2036年7月公開!

……されるといいね。

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