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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
6章 アニメに隠された目論見! 犯人の陰謀を阻止せよ!!
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犯人の目論見

「連絡が取れるのなら先に言ってくれよ。わざわざ日花里の父さんに電話する必要がなかったじゃないか」

「別に無駄じゃなかったんじゃない。ジオの過去を知ることができたし」

 副次的にはそうだが、本来の目的は別にある。追求したいことは色々とあるが、まずはアニメの関係者と接触を図るべきだ。


「さっそく、連絡を取ってくれないか」

「合点だよ」

 ライムは親指を突きたてると、通話アプリを起動してどこかに電話をかけている。ちなみに、ファイモンとは別のアプリなので普通は勝手に起動させることはできない。容易にやり遂げているのはLIEの能力の賜物なのである。

「あ、もしもし。私だけど。例の件で話があってさ。そぼろちゃんとかノヴァちゃんとかとも話し合って受けようかなと思って。で、担当の人と打ち合わせしたいんだけど」

 やけに親しげに会社の窓口と会話している。時折漏れ聞こえる電話先の声からすると、責任者と取り次いでもらえるらしい。


 保留音の「エリーゼのために」が二回ほどリピートし、「お電話代わりました」としわがれた初老の男性の声が聞こえた。

「えっと、園田さんだよね」

「いかにも」

 その名を耳にし、徹人たちは胸が高鳴った。田島悟が語っていたアニメのシナリオも担当しているスタッフ。その人と同一の名前であったのだ。

「前に依頼された件だけどさ。折角のチャンスだから受けてみようかなって思って」

「おお、そうか。ドタキャンでもされたらどうしようかと思ったわい。朧やノヴァも大丈夫なのかい」

「あたいも問題ないさ」

「右に同じや」

 通話に割り込み、朧とノヴァが受け応える。ファイモンのアニメの脚本家と親しく離しているということ自体が驚異的である。それ以前に、どうやって繋がりを持ったのか不可解だった。


「それで、例の件について打ち合わせたいんだけど、今から時間作れないかな」

「今からか。最新話の入稿で忙しいのだが、他に時間はないかね」

「私、なんだかんだで用事あるからな。そぼろちゃんとかも同じだと思うよ」

 実際は徹人が学校に行っている間は暇で仕方がない典型的ニートである。だが、ライムの私生活など解しない園田は真に受けているようだった。


「これからだとわずかしか時間を作れぬが、君たちがそう言うのなら仕方あるまい。ただ、せいぜい三十分ぐらいになるが、それでもいいか」

「充分だよ。じゃあビデオ通話に切り替えるね」

 デスクの上に置いてあったノートパソコンの画面が切り替わり、豊満な顎鬚を蓄えた初老の男性の顔が映る。よもや、大勢の中高生が集結しているとは思いもよかったのだろう。園田は開幕一番に瞠目していた。


「こうも大所帯で。まさか、例の件を漏らしたわけではないだろうね」

「まだ話してないから安心していいよ」

「うちらも保証したる」

「同意」

 訝しまれるが、ライムはあっけらかんと答える。なおも疑いの眼差しが晴れることはなかったが、いつまでも拘泥していては詮無きことだ。時間がないこともあり、さっそく本題に入ろうとする。


 しかし、園田が口を開くより先に徹人が画面に迫った。

「園田さんですよね。ファイモンのアニメで大変なことが起こっているんです」

「唐突に何だね、君は。突然そんなことを言われても訳が分からんわ」

 叱責され、徹人は大人しく引き下がる。心証を悪くしないためか、「私のパートナーは園田さんの大ファンで興奮してるの」とライムがフォローしていた。フォローになっているのかどうか疑問ではあったが。

「本題に入る前に、テトが言ってた通り、ファイモンのアニメでとんでもないことを発見しちゃったの」

「なんだね、その大変なことというのは。まさか、異常に視聴率が上がっていることについてケチをつけようというのではないんだろうね」

 急激に視聴率が伸びたことで、不正を働いているのではないかと抗議の電話が相次いだという。園田も対応に追われたことから、またもいちゃもんではないかと疑いにかかったのは当然である。


「違うよ、本当の本当に大変なことだってば」

「ライムはん。口で説明するよりも実物を見せた方が説得しやすいとちゃいますか」

 ノヴァの言葉に首肯し、例の映像を流すように促す。目配せを受け、綾瀬は問題のコマ送り映像を流した。


 自慢の作品を超スロー再生させられ、園田は複雑な面持ちだった。こんなくだらないことで呼び出したのであれば雷の一つでも落としてやろうと画策していたところだ。

 しかし、例のメッセージが表示されたことで、園田の顔色が見る見る間に変わっていった。酸欠の金魚の如く口を開閉している。怒りか焦燥か、体全身を小刻みに震わせていた。

「なんだ、これは。一体誰がこんな手の込んだいたずらを」

「失礼を承知で伺いますが、製作会社が仕組んだことではないですよね」

「当たり前だ。誰が好き好んでこんな真似をするか」

 おずおずと訊ねる綾瀬に、園田は声を荒げる。中学生の手前、取り乱したことに自重したが、それでも衝撃を抑えきることはできなかった。


 その後もコマ送りのまま、幾度となくメッセージが繰り返される。これにより、隠されていた手法が嫌でも分かった。

「サブリミナル効果か。映像作品の作り手としては禁忌となる手法だ。無論、こんなものを入れるように指示された覚えはない」

「社内に犯人がいるというわけでもなかろうな」

 ムドーが不遜に迫ったが、園田はきっぱりと首を振った。

「こんな反則手を使わなくてはならないほど、この会社は落ちぶれてはいないはずじゃ。三十年以上シナリオライターとして付き合いがあるが、不正を是とするような社風でないことは身に染みて分かっておる」

 重鎮として、深みのある断言であった。内部犯の仕業でないと暫定するのには早いが、やはり外部犯の仕業と想定する方が現実的だろう。


「こんなことをして、犯人の目的は何なのかしら。単に視聴率を上げたいだけなら、これ以上仕掛けてこないはず」

 真が腕を組んで思案する。触発されるように園田も顎鬚をさすった。

「視聴率を取れたに越したことはないが、あの数値は社内でも異常だという声が上がっているのだ。特に、ワイドショーで取り上げられた後の九十七話はともかく、九十六話の時点から相当な数値を叩きだしたというのは解せない」

 付け加えるなら、九十五話で記録した五パーセント前後でも、夕方アニメでは万々歳だというのだ。公式に視聴率が目標数値に届いていたと証明された以上、単に数値を伸ばすだけという説は消滅したと考えていい。やはり、犯人の目的は別にあるに違いない。


 園田はしばらく唸っていたが、ふと思い出したことがあるように手を叩いた。

「これはあくまで一例だが、テレビを利用して一種のテロ行為を仕掛けることもできる」

「テロって、いくらなんでも大それてませんか」

「いいや、決して大言壮語ではないぞ。おそらくお主らは知らんだろうが、テレビをきっかけとした事故が過去に発生しておるのだ」

 その言葉に徹人たちは聞き耳を立てる。園田の推測通り、徹人たちにとっては初耳の事実だったのだ。


「一九九七年十二月十六日。この日放送された人気アニメを見ていた子供たちが、突然体調不良を訴え、病院へと運ばれた。原因はアニメ内で使われていた赤と青の光が短期間に激しく点滅する手法にあったという」

「さすがにそいつは聞いたことがなかったな。ただ、被害はそんなでもなかったのだろ」

「いいや。当時、問題のアニメの視聴率は十五パーセント前後を記録していた。発症者も七百人に到達すると言われている。アニメにおいては最悪の事故だったと言っても過言ではないだろうな。

 ちなみに、『テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見てください』というテロップがあるだろ。そいつはこの事件をきっかけとして表示されるようになったものだ」

 ファイモンのアニメでも冒頭に同様のテロップが流される。当たり前のように出てくるので、徹人は普段気にもしていなかった。なので、その起源というのはちょっとした豆知識となっていた。


 どうして唐突に園田が過去の事例を引っ張り出してきたか。異様に視聴率を伸ばしていることと照らし合わせれば、自ずと答えが導かれる。

「もしかして、犯人は異様に視聴率を稼いでいる番組で問題の映像を流そうというんじゃないだろうな」

 徹人の思い付きはあまりにも的を得ていた。視聴率十五パーセント程の番組で数百人の被害が出たのだ。二倍以上の視聴率を誇る番組の場合、被害者数も比例して二倍というわけにはいかないかもしれない。

「下手をしたら、千人単位の被害が出るかもしれんな。そんなことをされたら、間違いなく社会問題となる。当然、アニメのファイモンの打ち切りは濃厚じゃろうな」

 アニメの打ち切りの心配以前に、天災並の被害を危惧する必要がある。犯人が本気で企んでいるとしたら、ケビンの所業が子供だましに思える凶悪さだった。

ポリゴンは悪くない、ピカチュウのせいなんだ。

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