ジオドラゴンの秘密
新参者が介入したところで、徹人たちは口々にファイモンのアニメに関する発見を報告した。最初は懐疑的であった田島悟であったが、アニメにサブリミナル効果が用いられていたと説明された時にはさすがに顔をしかめた。
「映像作品においてその手法が御法度だということぐらいは知っている。まさか、姑息な手段で視聴率を伸ばさなければならないほど落ちぶれてはいないよな」
「ファイモンはそんな下劣なことはしない。でも、違法な手段が使われていることは確かなんだ」
徹人の言葉を受け、真はリモコンの再生ボタンを押す。
コマ送りの超絶スローでドクターネクロスが手を掲げていく。ムドーが初めて例のメッセージを発見した場面だ。やがて、手をまっすぐに伸ばす直前に画面が暗転し、あのメッセージが画面全体を覆いつくす。
不可解なメッセージを目撃した田島悟は口を半開きにしていた。画面越しからでも問題の文言に釘付けになっているのが分かる。
「どういうことだ、これは」
「見た通りです。あのアニメには不可解なメッセージが隠されていたんです」
終始眉を潜めていた田島悟であるが、こんな決定的証拠を突きつけられては異変を認める他なかった。もちろん、徹人たちがいたずらで映像に合成を加えるとは思っていない。そして、信頼に足る部下が戯れを起こすなんてこともないはずであった。
「こいつはさすがに園田に報告するしかないな」
頭を抱える田島悟。渋面のまま指先で机を叩いている。
「それにしても、よくこんなものを見つけたな」
「ダメ元で聞くが、犯人に心当たりはあるか」
「ダメ元とは失礼だな、武藤君。だが、皆目見当がつかんというのは事実だ。私に嫌がらせをしたいというのなら、アニメを介してという回りくどいことをせんでも、ゲーム自体に妨害を加えてくるはずだ」
「もしかしてですけど、キラーが関係しているなんてことは」
「キラー……か」
逡巡するように顎をさする。日花里を通して田島悟にもキラーのことは話してある。後に徹人はその時の様子を聞いたが、最初は驚いたものの、やはりといった態で落ち着いていたという。
「可能性は無きにしもあらずだな。と、いうよりも私が危惧していたことが現実化してしまったやもしれぬ」
「田島さん、もしかしてキラーのことを知っていたのですか」
「キラーそのものは知らん。だが、とんでもない脅威が眠っていることは薄々気づいていた。
事の発端は、AIを導入した時だった。古き良きモンスター育成RPGを目指していたため、当初は取り入れる予定はなかった。だが、もはやAI搭載が当たり前という時流があってな、これからの発展を考えると導入はやむなしだったのだ。
そして、試験的にプログラムを始動させたのだが、その際に一体だけ不可解な文字列を持つモンスターが現れたのだ。バグかと思ってマクロソフトのレイモンドと協力して精査を試みた。結果、かなり強力なコンピューターウイルスに感染していることが分かった。
こんなものを野放しにするわけにはいかず、当然消去しようとした。だが、そいつはなぜか消去命令を受け付けなかったのだ。レイモンドの手でも消し去れなかったのだから余程と言えよう。
そこで、苦肉の策としてプログラムを書き換えることでそいつの能力を抑えようとした。結果、どうにかパフォーマンスの低下を実現し、そいつは私の元で眠らせておくこととなった」
「と、いうことは、今も田島さんのもとで預かっているということですか」
「いや、残念ながらすでに公に出回っている。と、いうよりもすぐそこにいるのではないか」
思わせぶりな言い方に、一同は部屋の中を見回す。
「どうかしたのか、お主たちよ」
半ば空気を読まない形でひょっこり現れたジオドラゴン。そいつを目撃した途端、田島悟はすかさず指差した。
「私が最初に見つけた異変。そいつは日花里に託したジオドラゴンだったのだよ」
衆目を集め、ジオドラゴンはたじろぐ。確かに、日花里がジオドラゴンを手に入れた経緯は特殊であった。だが、今の話とどう繋がって来るかはいまいち不明瞭だった。
「AIをリリースしてからしばらく経ったのち、全国対戦で異常な強さを発揮するモンスターがいると聞きつけた。半信半疑でそいつの正体を探ったところ、ジオドラゴンと同じようなプログラムを搭載していたことが分かったのだ。
私があの時に調べた対象。そいつは言わずもがな、ライムだ」
説明を受け、徹人は日花里と初めて戦った時を思い出していた。違法改造されたスキルカードに翻弄されたが、サシで戦ったとしてもそれなりに渡り合えていたということになる。なにより、田島悟がやけになってライムを消そうとしていたことに合点がいく。
若干納得した徹人であったが、日花里にとってはまだ解せない点があった。
「私のジオがサーペントと融合できるようになったのも、ひょっとしてLIEのせいなの」
「いや、半分は私たちのせいだな。実を言うと、私が最初に発見した時、そいつはダイナドラゴンの姿を取っていたのだ。企画されていないモンスターが登録されていたら小学生でもおかしいと気づく。
改造を施し、ジオドラゴンへと変貌させ、真の力を封印するための鍵をかけておいた。だが、その鍵を破るパスワードが偶然にもとあるモンスターの識別コードと一致してしまったのだ」
「ひょっとして、それがサーペント」
おそらくパムゥは、ジオドラゴンを捕獲した際に内部データを詳しく調査したのだろう。そして、サーペントと無理やり融合させることで封印を破り、ダイナドラゴンへと覚醒させたのである。
意図せずジオドラゴンの過去が明るみになったが、本質的な問題はまだ解決していない。どうにか園田と連絡を取ると約束してもらったものの、それまで手をこまねいているというのも癪だ。田島悟との通信を切ると、一同は脱力した。
「やはり、アニメの制作陣と接触しないとらちが明かないわね」
「そうは言っても、肝心の接触手段がないのよ。一体どうするべきか」
綾瀬と日花里が皆の心の声を代弁する。葬式会場かと錯覚するほどの重圧が支配していた。
そんな中、進み出たのはライム、朧、ノヴァの三体であった。
「最終手段にしておきかったけど、どうやら裏技を使うしかないようね。いいでしょ、そぼろちゃん、ノヴァちゃん」
「隠しておきたかったけど、事態が事態だからな。致し方ねえか」
「せやな。うちらが一肌脱ぐしかあらへん」
思わせぶりに互いに顔を見合わす。完全に置いてけぼりにされている人間陣はイライラを募らせる一方だ。
「ライム、方法があるなら早く教えてくれ。正直、時間がないんだ」
たまりかねた徹人が声を上げる。すると、ライムは肩をすくめてとんでもないことを暴露した。
「じゃあ、単刀直入に言うよ。実は、アニメのファイモンの担当者と連絡を取る手段があるんだ」
その言葉を受け、一同は色めき立つ。防音加工がしてあるマンションとはいえ、近所迷惑になりかねない騒動であった。
実は、ジオドラゴンがキラー復活のパーツになるというアイデアは、彼をすでに登場させた後に思いついたのです。
そんな裏事情もあり、今回は辻褄合わせ&伏線回収回でした。




