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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
6章 アニメに隠された目論見! 犯人の陰謀を阻止せよ!!
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サブリミナル効果

「サブリ……なんですか、それ」

「健康食材かな」

「ライムはん、そいつはサプリメントや」

 聞き慣れない単語に徹人たちは首を傾げる。知らないのも無理はないと承知の上で、綾瀬は説明を続けた。

「サブリミナル効果というのは、映像中に普通だったら認知できないような画像を差し込んだりすることで、意識に働きかけることよ」

 一度聞いても理解しきれなかったようで、難しい顔が晴れることはない。唯一、ムドーだけが鼻を鳴らしていた。


「まあ、抽象的な説明をしても分かりにくいわね。今回を例にすると、おそらく三十分の番組の中に問題の画像が数十回も含まれていたと思うの。普通に見ているだけでも、ふとした拍子にあの画像を目にしてしまい、知らない間にメッセージが頭に刻まれる。すると、この物語は面白いと思い込まされ、メッセージ通りに拡散するようになる。結果、異常な視聴率へと繋がっていったのよ」

「簡単に言うと、視聴率を伸ばすように洗脳される映像を流されていたってことだな」

「ファイモンのアニメがそんな手を使っていたなんて」

「でも、そんな手段があるなら、他の番組でもとっくに使っているはず」

 真の指摘は尤もだ。番組の収益に際し、どれだけ視聴率を採れるかは重要なファクターになる。強引にでも伸ばせる手段があるならとっとと取り入れていてもおかしくはない。


「そう思うのは自然だけど、とっくに対策は為されているわ。四十年も前にテレビ放送でサブリミナル効果を用いるのは禁止するって取り決めされているの」

 かつて、とあるアニメの一場面にオウム真理教の幹部の顔が映りこんでいると問題になったことがあったが、この事件をきっかけにサブリミナル効果の使用禁止を強化するようになったとされている。今や、放送されている番組にその効果が使われているということはまずないと見ていい。


「じゃあ、もしかしてこれ以前の回にも同じ手法が使われていたというの」

「少なくとも、異常に視聴率を伸ばした直近二回は間違いないだろうな」

 無理やりに視聴を促されていたのなら、視聴率が急激に上昇したのも頷ける。また、源太郎が急に手のひら返しをしたのも説明がつく。洗脳術を施されているとはいえ、効果が及ぶかどうかは個人差がある。二話前の時点では源太郎は正気を保っていたが、前回放映時にサブリミナル効果の影響を受け、絶賛するようになったのだろう。


 視聴率を上げたカラクリは暴くことができた。しかし、まだ問題は残されていた。

「意図的にせよそうでないにせよ、このアニメに違法な手段が使われていることは間違いない」

「せやな。BPOにぶちこんだら、即処罰ものやで」

 不正を発見してしまった以上、看過するわけにはいかなかった。こんな手段で視聴率を伸ばしたと知れ渡れば、間違いなくアニメは放送休止となる。徹人としては、中途半端な形で物語が打ち切られるのは避けたいところだった。


 だが、こんな手が込んだ手段で視聴率を伸ばしているのだ。ただ、広告収益を得たいだけとは考えにくい。そもそも、ファイトモンスターズは夕方のアニメとしては悪くない視聴率を誇っており、躍起になって数値を稼ぐ必要性は薄い。

「さすがに放置するのは御法度。しかるべくところに通告すべき」

「シンの言う通りだな。あたいとしても癪だけど、こいつは成敗される必要がある」

「でも、どこに報告するんだ。警察に言って取り合ってくれるかな」

「ノヴァちゃんが言ってたBPOじゃない」

「第三者機関に通告するってのは妥当な線ね。でも、今回に限ってはそううまくいくとは思えないの」

 綾瀬は両ひざに手を添えて前のめりになる。口を真一文に結び、普段のお茶らけた様子はかけらもなかった。


「意見投与すれば、そのうち放映中止の処置がとられるでしょうね。でも、実際にそうなるまで、機関で映像を調査する必要がある。そして、それが今週末に放送される最新話までに間に合うかどうかよ」

 その指摘に徹人たちは息を呑んだ。視聴率が大幅に跳ね上がると予想されている以上、よからぬことを仕掛けるなら次の話の可能性が高い。重大な事件が発生したのならともかく、その危険性があるというだけで放送中止にするなど土台無理な話だ。

「それ以前に、俺たち子供の意見を真剣に取り合ってくれると思うか。映像に洗脳効果が潜んでいることを考慮すると、まともに審議される可能性も低いと言わざるを得ない。他機関は宛てにできないということだ」

 厳しい現実を突きつけられ、沈痛な面持ちで頭を垂れる。もはや、敵の手の内で泳がされるしかないのか。


 しかし、徹人は机を両手で叩くと顔を上げる。

「いくら対抗手段がないからといって、黙って見ているなんてできるかよ。だって、このままだととんでもないことが起きるかもしれないんだろ。しかも、そのことに気が付いているのは僕たちだけだ。なにより、ファイモンのアニメをいいように利用されるなんて見過ごせられるか」

「テトの言う通りだよ。こうなったら、私たちだけでも動くべきだよ」

 力説を受け、他の面々も意を決する。いかなる思惑が蠢いているかも分からず、まさに雲をつかむかのような戦いになるだろう。しかし、幾多の戦いを切り抜けてきた信頼に足る相棒がいる。そのことが徹人たちを熱烈に後押ししていた。


「とりあえず、このアニメの関係者と接触を図れないか探るのが先決ね。父さんに連絡を取ってみるわ」

 言うが早いか、日花里は父親へと電話を掛ける。株式会社ゲームネクストは土日定休を謳っているため、今日はオフの可能性が高い。思惑通り、数コールした後にお目当ての当人と連絡が繋がった。

「日花里か。休みの日にどうした」

「お父さん、実はファイモンのアニメで気になることがあるの」

「すごい人気だそうだな。園田のやつが何をやったかは知らんが、私としては鼻高々だ」

 開口一番、無関係だと示唆されて日花里は舌を出す。ただ、望みがないわけではなかった。


 ファイモンのストーリーモードの監修をしている園田はアニメファイモンの脚本も担当している。つまり、アニメ制作にも携わっているというわけだ。

「お父さん、園田さんと連絡を取ることはできない」

「園田とか。取れなくはないが、お前たちの相手をしている暇はないと思うぞ。アニメが人気になりすぎて、シナリオ関連の会議でてんやわんやになっていると聞いたからな。今日も仕事場にいるんじゃないか」

 ファイモンのアニメを制作している株式会社OMLオリジナルムービーラインの所在地は東都。直接会って交渉するとなると、またも長旅をする必要がある。時間的には十分日帰りできるが、そのための料金を中学生の徹人たちが工面できるとは到底思えなかった。


 直談判できれば越したことはないが、少なくともネット通話は果たしたい。

「どうにかして話せないかしら。どうしても伝えておきたいことがあるの」

「我が社の管轄ならどうにかできたが、OMLとは必要以上に干渉しないという取り決めをしているからな。余程の事でないと連絡はできんぞ」

「だから、余程の事だって。早くしないと、木曜日に大変なことが起きるかもしれないの」

「いまいち話が見えんのだが」

 難色を示している田島悟に対し、電話を取り次いだ綾瀬が説得に掛かる。


「もっしー、叔父さん」

「綾瀬か。久しぶりというほどでもないな」

「相変わらずノリが悪いな。まあ、冗談言ってる場合じゃないんだけどね。日花里ちゃんから話を聞いてると思うけど、アニメのファイモンで大変なことが分かったのよ」

「何を掴んだのか知らんが、そんじょそこらのことでは根回しせんぞ」

「へえ、放送倫理の規約違反だとしても」

 挑発的な物言いに田島悟は口ごもる。アニメでの不評は少なからずゲームへの評判にも影響を与える。できる限り不干渉とはいえ、完全に無視はできないのだ。

「こうしてわざわざ私に連絡を取ってきているということは、また徹人くんたちと集まっているのだろう。そして、悪戯でないことも確かだな」

「さすがは叔父さん。分かってるじゃないの。じゃあいっそのこと、私とサシで話すよりもみんなで話し合った方が得策でしょ」

 綾瀬の独断で新たに映像通信が起動する。ムドーの顔が映し出されていたウィンドウの横に田島悟の顔が表示された。

よいこはサブリミナル効果を使ってはいけません(使えねえよ)

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