アニメ鑑賞会へのお誘い
今回もまたちょうどいい場面で来週へと持ち越しになる。当然、徹人の感想は、
「またも神回ってどうなってるんだよ」
案の定大絶賛だった。愛華もまたのめり込むように画面を注目していた。そして、興奮が冷めやらぬまま、新たなる起爆剤が投下されようとしていた。
マドカ役の女性声優、早水小百合が歌うED曲が終了した直後、画面全体に「緊急告知」とのワイプが表示された。
「来週の放送で重大発表があるみたいだ。お前ら、見逃すなよ」
グレドランの声でナレーションされるが、肝心の詳細は明かされることはなかった。次回はネオ・ドクロ団の先兵としてドクターネクロス配下の研究員が勝負を仕掛けてくるようだが、それ以上に気になるのはもちろん、番組終盤で発表された重大発表についてだ。
「重大発表って何だよ」
「思わせぶりなところで終わっちゃったよね」
さっそくネットを検索してみると、今回の感想を差し置いて、重大発表に関する議論で盛り上がっていた。アニメとゲームとのコラボだったり、限定モンスターの配布だったりと出された予想は様々だ。もちろん、本編への感想も絶賛の嵐で埋め尽くされていた。
放送翌日は相変わらずクラス内でもファイモンの感想で持ち切りだった。もちろん、重大発表についても様々な議論が展開された。そして、視聴率が発表されるや、悠斗は色めきだって報告してきた。
「おい、すごいぞ。化け物みたいな数値を叩きだしやがった」
視聴率ランキングの一位。そこに鎮座していたのはアニメファイトモンスターズだったが、実数値は目を見張るものだった。
「嘘だろ。視聴率三十八パーセントって」
歴代のアニメ最高視聴率は鉄腕ア〇ムの四十パーセントだという。テレビ創成期ならばともかく、ネット配信の強化で番組全体の平均視聴率が下降一方のこの時代に叩きだしたというのは驚異的であった。
もちろん、異常なまでの高視聴率に放映していたテレビ東都はもちろん、他局もこぞってワイドショーで取り上げることとなった。見解としては、番組の最後に重大発表があると告知されたことで、次週はアニメの歴代最高視聴率を塗り替えるのではと語られていた。
「むしろ、アニメどころかすべての番組での歴代最高視聴率を更新してくれればな」
「そいつは流石に無理だろ」
徹人が試しに調べてみると、歴代最高は一九六三年の紅白歌合戦であった。八十パーセントなど、スポーツの世界大会の決勝戦ぐらいでしか望めない数値だ。ちなみに、日本で開催されたオリンピックやワールドカップの最高視聴率は六十六パーセントである。
お祭り騒ぎは盛り上がる一方で、徹人も便乗して浮足立っていた。そんな彼の元にまたもやメッセージが届く。
「ノヴァちゃんからだ。ムドーくんが用事でもあるのかな」
「またアニメのファイモンに難癖をつけようっていうんだろ」
社会現象同然の盛況ぶりに、懐疑的な見方をする者など皆無のはずだ。本気か遊びかは分からないが、アニメの感想まとめサイトに批判的な書き込みがされたことがあった。それが発見された途端に、書き込み主に対する罵詈雑言が殺到したのだ。もはや、アニメのファイモンを否定する者は非国民という勢いであった。
しぶしぶながら、徹人はメッセージを開く。前回と同じく「アニメのファイモンのことで話がある」という簡潔極まりない内容であった。
「ぶっきらぼうな口調といい、ムドー本人で間違いないな」
「手紙の内容で本人確認できちゃうって、ある意味便利だよな。ムドーにマイナンバー必要ないんじゃないの」
散々な言われようではあるが、さっそく当人と連絡を取ってみる。しばらくして徹人のマイページに馳せ参じたのはノヴァであった。
「待ちくたびれたで。あんさんら、ファイモンのアニメについてのニュースは知っとるやろな」
「もちろんだよ。ね、テト」
「ああ。今回もまたアニメについての話だろ」
「いかにも」
唐突なくムドーが会話に割り込む。気配すら感じさせないという忍者が涙目になりそうな隠匿ぶりだった。
「さっそく本題に入るが、あのアニメの視聴率は異常だとは思わないか」
「本当にいきなり核心を突くんだな。確かに伸びすぎだとは思うけど、面白いから妥当なんじゃないか」
そう返答すると、ムドーは大袈裟にため息をついた。あからさまにけなされ、テトはむきになって反論する。
「いや、だって面白いだろ。まさか、今回も見ずにそんなこと言ってるんじゃないだろうな」
「きちんと視聴させてもらった。まあ、面白いとは思う。しかし、だからといってこの視聴率はおかしいだろと警鐘を鳴らしているんだ」
ぐうの音も出ず、テトは押し黙る。ムドーを「面白い」の一点張りで論破するなど土台無理なのである。
「番組の最後に重大告知なんて手法を使ってきた以上、次回は恐ろしい視聴率を記録するのは間違いない。もし、よからぬことを仕掛けてくるのなら来週の可能性が高い。取り返しがつかなくなる前にこちらから動くべきだ」
「理屈は分からないでもないけど、僕たちにできることなんかあるのか。放送中止を呼び掛けても、すぐに反発されるのがオチだぞ」
「それは承知の上だ。抗議デモを起こそうなんて大層なことは考えていない。まずは、問題の映像を詳しく調べてみるんだ」
「調べるってどうやんの」
「急かんでもよろし。ちゃんと手回しは済んである。その内あんさんとこにも連絡が来るだろな」
ノヴァが思わせぶりなことを言っていると、新着メッセージの到着を知らせるアラームが鳴った。
ライムがメッセージを開くと、ビデオ通話システムが内蔵されていたらしく、マイページにウィンドウが表示された。
「お久しぶり、徹人君」
「綾瀬さん。どうしてまた急に」
通話の相手は綾瀬であった。自慢の巻き髪を揺らし、親しげに手を振っている。彼女もまた難なく進級を果たし、現在は大学の三年生となっている。テトの目からすると、大学の二年生も三年生も変わりなく映るが。
あまりにもタイミングよく綾瀬から通信が入ったこともさることながら、ムドーと内通していたというのがもっと驚きであった。ノヴァ曰く、
「テトはんたちが腑抜けとったから、協力できそうな人物を探しとったところ、あ~やんはんに巡り合ったってことや」
とのことだった。
「ムドー君からいきなり連絡があったけど、アニメのファイモンを調べてみるってのは興味深かったからね。キラーを追うのも手詰まりになりかけていたから、気晴らしに協力してあげよっかなって」
「俺は気晴らしというか、割と本気だったのだがな」
ムドーもあ~やんのペースにはついていけていないようだ。むしろ、ムドーを手玉に取れる方がすごい。
「で、先行してちょっと色々と映像を弄ってみたのよ。そしたらさ、とんでもないことが分かったの」
「仕掛けが隠されていたってことですか」
「確証は持てないけど、そうなるわね。それに、もしかしたらキラーの行方とも繋がって来るかもしれない」
キラーという単語を聞き、テトの目の色が変わる。アニメの異常な視聴率と結びつくのかは不明だが、かすかな手がかりでも追及してみる必要がある。
「せっかく調査するなら、日花里ちゃんとかも一緒の方がいいでしょ。だから、今度の日曜日に集まらない」
「朧はんにはうちから連絡入れとくわ。ファイモン関連のことなら、間違いなく食いつくやろうからな」
「分かった。そこまで言うなら、ファイモンのアニメが黒か白か徹底的に調べようじゃないか」
こうして、異常な視聴率の謎を調べるべく、来る日曜日に田島家でファイモンのアニメ鑑賞会が設定された。
参考までにアニメファイモンの登場人物のイメージ声優
アキラ:草尾毅 (ドラゴンボールのトランクスなど)
マドカ:早見沙織(俺ガイルの雪ノ下雪乃など)
ハヤト:神谷浩史(進撃の巨人のリヴァイなど)
ドクターネクロス:森久保祥太郎 (レッツ&ゴーのミニ四ファイターなど)
カイ:関智一(二代目のスネ夫)
マゼンダ:伊藤静(暗殺教室のイリーナなど)




