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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 敵はチート!? ゲームネクストの陰謀!!
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ライムVSゼロスティンガーその3

 相手は単なるチートツール使用者だと思い込んでいるテト。まさかその正体がゲームの開発者であるとは知る由もない。

 通常ではありえないステータスを有しているのであれば、普通にスキルカードを使ったところで勝ち目はない。炎化メタモルフレアで炎属性に変換させバブルショットを放つという手もあるが、それでも焼け石に水だろう。


 手詰まりだと悟り、徹人は拳を握りしめる。唯一の突破口があるとすれば、こうするしかない。

「スキルカード加速ブースト。これでライムの素早さを上げる」

「無駄なあがきだな。更に素早さを上げたところでどうにもならんぞ」

 ミスターSTにせせら笑われるが、構わずカードの発動を続行する。その効力で身軽になったライムは、ちょっとした助走で空中一回転を披露してみせる。

「すっごいね、テト。このまま空飛べそう」

「飛ばなくていいから。ライム、相手はおそらく滅茶苦茶なステータスになっているはずだ。こうなれば勝つ手段は一つ。相手の攻撃をすべてかわしつつ、一ダメージでもいいから攻撃し続けるんだ」

 いくら相手の防御力が高かろうが、攻撃が命中すれば一ダメージは入る仕様になっている。モンスターのHPの平均値はおおよそ千。攻撃ミスの可能性も含めると、一撃も反撃を受けずに、五百発の攻撃を命中させなければならない。


 あまりに無謀な戦法。いや、もはや戦法と称せる代物ではない。それでも、こうするしか勝ち目がないのだ。握った拳に汗をにじませるテト。そんな彼の気を知ってか知らずか、ライムは軽快なステップでゼロスティンガーへと向かっていく。

「百ターン以上も戦い続けるつもりか。まさに愚策だな。ゼロスティンガー、ライジングレーザーだ」

 さっそくゼロスティンガーのハサミよりレーザー光線が照射される。しかし、ライムは光線の間隙を潜り抜け、軽く屈伸するや上空へと跳び上がる。そして、真上よりマシンガンシードを放った。

 呆気なく命中するが、HPゲージはほとんど削ることはできない。しかも、落下するライムを待ち受けるように「シザーアーム」とアリジゴクの如く二対のハサミが迫る。いくらライムが俊敏でも、落下途中に急速方向転換することはできない。


「ライム」

 テトの叫びも虚しく、ライムの手足がハサミに挟まれる。当然、ダメージ判定が発生するので、ライムのHPが減少する。相手はあり得ない攻撃力を誇るので、たとえ回復ヒーリングを使っていたとしても一撃で葬り去られてしまう。どちらにせよ、テトの作戦は早くも瓦解するのであった。


「やはり無理だったか」

 気落ちするテト。乱暴に地面へと投げ捨てられるライムを、ただただ虚ろに見つめるしかなかった。やはり、あまりにも無謀な策だったか。被っている帽子を叩きつけようと、つばに手を掛ける。

「ふう、油断したわ」

 その瞬間、テトの足もとからあっけらかんとした声がする。そっと帽子から手を放し、ゆっくりとその方へ歩み寄る。


 テトが到着するのに合わせ、何事もなかったようにライムが立ち上がった。生傷が痛々しいものの、不遜な表情は未だ健在であった。

「ぶ、無事なのか、ライム」

「無事じゃなかったらぶっ倒れてるわよ。ほらほら、ゲージ見る」

 ライムに急かされてHPゲージを確認すると、先ほどと変わらず一ドット残されているだけであった。

「ひょっとして、またもや九死に一生か」

「正解。でも、賞金は出ません」

 ゲンとの戦いで九死に一生を二連発で発動したことがあるが、この局面でもそれを成し遂げられるとは思ってもみなかった。

 ミスターSTはパピヨンマスクの位置を直しつつも、平然を取り繕って言い放つ。

「よほど運がいいようだが、そんなラッキーはいつまでも続かんぞ。ライジングレーザー」

 容赦なく放たれるレーザー光線。ライムは地面に転がりながら回避し、その姿勢のままストーンキャノンを発動する。巨大な岩石をバズーカ砲のごとく撃ちこむ土属性の技だ。これもまた、雷属性のゼロスティンガーには有効打となりえた。


 威力も申し分ないはずなのだが、これまたHPをわずかに削る程度しかダメージを与えられない。

「これも無理か」

 頬を膨らませ、仁王立ちするライム。だが、無防備になった隙を狙われ、レーザー光線が彼女の体を包む。今度こそお終いか。


 しかし、ライムは煤汚れを払うだけでびくともしていない。HPも一ドット残されたままだ。

「三回連続で九死に一生だと」

 ミスターSTが驚愕したのももちろん、テトもまた信じることができずにいた。九死に一生の発動確率は十パーセントであるため、それが三連続で発動する確率は千分の一。宝くじを当てるよりも可愛い確率ではあるが、それでも狙って出せるものではない。


 どうにか首の皮をつないだライムは、テトの支持を受け砲撃体勢に入る。そんな彼女らを嘲笑うかのように、ミスターSTは指を鳴らした。

 すると、苦労して与えることのできたダメージが自然に回復されてしまう。「そんなのありか、卑怯だぞ」とテトは憤るが、ふとあることに気が付き愕然とする。


 ゼロスティンガーのアビリティは自己修復。僅かな量ではあるが、毎ターン自動的にHPを回復する。ただでさえ厄介な能力であるが、この局面においては徹人の反撃の可能性を根こそぎ奪う極悪アビリティと化していた。

 なぜなら、ゼロスティンガーはチートとしか思えない方法により、防御力が急上昇しているのだ。そのせいで、せいぜい一ダメージしか与えることができない。それを毎ターン回復されたのでは、HPを削り切るのは不可能。つまり、一撃でこちらを葬ることができる無敵状態の敵と戦っていることになるのだ。


 チートを使っているとはいえ、こんな戦法を編み出すとは、流石は上位ランクと認めるしかない。絶望に打ちひしがれるテトを追いつめるかのように、ミスターSTはライジングレーザーの発射を命じる。

 テトを心配したせいか、ライムの挙動に遅れが発生する。そこをレーザーが直撃し、ダメージが発生する。


 しかし、片膝をつきながらもなおライムは健在であった。発動四回目でその確率は一万分の一。これにはミスターSTも顔を歪ませ歯ぎしりをする。

「そっちがインチキで来るなら、こっちはいくらだって耐えきってみせるわよ。ねえ、テト、まだ負けたわけじゃないんでしょ」

 努めて軽快な調子でライムが呼びかける。落胆していたテトであるが、そんな彼女に応えようと笑顔を取り繕う。

「ああ、勝負はやってみなくちゃ分からないからな。どこかに必ず突破口があるはずだ」

 未だ二人の闘志は冷めることがない。ミスターSTは「こざかしい」とだけ言い残し、すぐに砲撃を指示するのであった。

スキルカード紹介

対抗パニッシュ

相手のスキルカードの効果を打ち消すカウンターカード。その凡庸性の高さから、バトルでは必須の一枚とされている。

マジック・ザ・ギャザリングでいうところの「対抗呪文」である。

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