アニメファイトモンスターズ96話 ダークネクロス脅威の秘密その3
リベンジを果たそうとしても、相手は神出鬼没。探し出そうにも手掛かりは皆無だった。アキラが初めて対面した時も、向こうの誘いに乗った結果である。
犯人は現場に戻るという理論に従い、例の草原へととんぼ返りする。アキラ達三人以外には人の気配がない。それどころか、野生のモンスターが生息している気配すらないのだ。一陣の風が吹き抜け、雑草が揺れる音が響くばかりである。
「隠れているならさっさと出て来い。それとも、俺たちに臆したか」
痺れを切らしたハヤトが挑発をかける。だが、その声もまたこだまとなって消えるだけだ。都合よく出会えるなど、虫のいい話があるわけがない。
諦めて出直そうと、アキラたちは踵を返す。すると、遠方から雑草を掻き分ける音が聞こえてきた。風が吹いているだけとも訝しんだが、だとしたらやけに大袈裟だ。しかも、無機質ではありえない、しっかりとした気配が迫っているのが感じられる。
「ついに来たな」
アキラはそう呟き、方向転換する。いつの間にかすぐそばまで接近していたのは、下あごのないドクロの仮面をかぶった純白のマントの男であった。
「カーッカカ。わざわざそっちからやられにくるなんて、探す手間が省けてありがたいッカ」
「それはこっちのセリフだ。こうも早くお前にリベンジできるからな」
「俺様に勝つつもりでいるなら片腹痛いッカ。またボコボコにしてやるッカ」
「できるかな。貴様の能力の秘密は掴んでるんだ。ソウルコネクションとやら、攻略させてもらうぞ」
ハヤトが探りを入れると、愉快に哄笑していたダークネクロスの表情に陰りが生じた。
「お前ら。ソウルコネクションをなぜ知っている」
「ドクロ団の残党と繋がりがあったからな。その様子だとどうやら図星か。やっぱり、ソウルコネクションを使ってイモータルの体力を回復させていたんだな」
「カラクリを解かれたのなら仕方ないッカね。しかし、俺様のイモータルを倒すのは不可能だッカ」
「どうかな。アキラ、まずは俺がやらせてもらう。ライガオウ、最初から本気で行くぞ」
「心得た」
ライガオウが進み出ると、ダークネクロスは魔法陣を展開させる。そこから現れたのは二体のゾンビーガだった。
出現を確認した後、ハヤトは地表に向け手のひらを広げる。すると、彼の元にも魔法陣が広がり、同時に火柱が巻き起こった。火炎を突き破り顕現したのはライガオウと同じくらいの体長のセントバーナード型モンスターだった。
「バーナードッカ。そんな犬っころなんざ怖くないッカ」
「どうかな。ライガオウとバーナード。この二体が並んでいて気づいていないわけがなかろう」
ハヤトが意図していることを察知し、ダークネクロスは身を引き締めた。申し合わせたように、両者は同じスキルカードを取り出す。
「スキルカード融合」
同時にカードを発動させたのが開戦の合図だった。二体のゾンビーガが混じり合い、紅の巨人へと変貌する。一方、バーナードが光の粒子と化してライガオウの肉体に吸い込まれていくや、ライガオウはけたたましい咆哮をあげる。すると、金色のたてがみが燃え上がり、乗じて毛並みも紅蓮に染まっていく。体躯もまた一回り成長したその姿は、ライガオウの融合体ブレイズレオだ。
「俺様のイモータルに対抗して融合モンスターを出してきたッカ。しかし、そんじょそこらのモンスターではイモータルは破れないッカ」
「減らず口をいつまで叩けるかな。スキルカード疾風爪。早駆けで攻撃」
「ハヤトの得意のコンボだわ」
ブレイズレオは素早さが高いほど攻撃力が上がるアビリティを持つ。素早さを高めて速攻で相手を倒すのは、融合を習得する前からハヤトの得意戦術であった。
二倍以上の体長差がある相手にブレイズレオは果敢に飛びかかる。巨大な手のひらで受け止められそうになるが、巧みに回避し、爪での一撃をお見舞いする。縦横無尽にイモータルの周りを駆け回り、ダメージを与える度に移動速度は上昇していく。比例してイモータルが受けている傷も深くなる。
サンドバック状態にされ、不死の王といえどノックアウトするのも時間の問題。そう思われたのだが、イモータルに一行として変調は現れなかった。
「邪神の怒りだッカ」
むしろ、漆黒の魔神を出現させ、ブレイズレオへと反撃を試みる。
「この瞬間にもイモータルに生命力を提供してるのよね。なのに、ダークネクロスはどうして平然としていられるのかしら」
マドカの疑問は尤もだった。自らを蝕み続けてなお表情一つ変わらない。実際は苦悶に満ちているかもしれないが、仮面のせいで隠匿されている。とはいえ、変わらず高笑いしていることからして、苦痛を受けているとは考えにくい。
「スキルカード雷力。そして、サンダーファング」
雷属性の技の威力を上げるカードを使い、果敢に攻め続けていく。ブレイズレオの移動速度はもはや神速の域にまで達していた。
普通ならば戦闘不能になってもおかしくないダメージを喰らってもなお、イモータルは倒れる気配はない。
「まだ倒れんか。いくらなんでもタフすぎるだろ」
「さっきから闇雲に攻撃しているが、作戦でもあるのか」
「作戦なんてあるようでないな。イモータルがあいつの生命力を糧としているのなら、連続で攻撃し続けていればいつかは枯渇するはず。そいつを狙っているのだが」
「カーッカカ。俺様は不死身なんだッカ。だから絶対に倒せないんだッカ」
「馬鹿な。不死身な人間がいて堪るか」
ハヤトが動揺を受けたのを機に、ブレイズレオの動きが鈍る。目に見えて消耗しているのが分かる。
もちろん、ダークネクロスが反撃の機会を逃すはずがなかった。
「エンチャントスキルカード村正。これまでに受けたダメージを有効利用させてもらうッカ」
体力値が少ないほど攻撃力が上がる呪いの刀。イモータルの巨体に合わせ、一メートルほどのとんでもない長剣と化している。
「さあ、終わりにしてやるッカ。エグゼキューション」
クリティカルが出やすい闇属性の斬撃技だ。俊足で動き回っていたブレイズレオと比べうとイモータルの動作は緩慢だ。なので、回避すること自体は難しくない。ただし、それは疲労していない時の話だ。ろくに動けずにいるブレイズレオでは、必殺の一撃を往なすことはほぼ不可能であった。
裂傷により、ブレイズレオはうずくまる。あまりの激痛により、融合形態が解除されてしまった。ライガオウとバーナードの二体に戻るが、どちらも戦闘を続けられる状態ではない。
「カーッカカ。俺様の秘密を暴いたようだが、対策できなければ意味ないッカ。さて、次はどいつの番だッカね」
得意げに勝ち誇るダークネクロス。単純に攻撃し続けていても無尽蔵に回復されるだけだ。規格外の治癒能力を攻略しない限り勝ち目はない。
「どうしたらいいんだ。あいつに弱点はないのか」
歯噛みするアキラ。マドカも同調して顔を伏せる。
「無限に攻撃し続けるぐらいしか攻略法がないじゃない」
それは自暴自棄になって放った一言であった。だが、耳にした途端、アキラは手を叩いた。
「もしかしたら、あいつだったらイモータルを倒せるかもしれない」
「なにか思いついたのか、アキラ」
「ああ。グレドラン、すまないけどお前は今回休んでいてくれないか」
「俺の出番はなしかよ。仕方ないな」
ぶつくさ言いつつも素直に引き下がる。単身でイモータルへと刃向うアキラをダークネクロスは卑下する。
「カーッカカ。俺様のイモータルに勝つつもりでいるッカ。無駄なあがきだッカ」
「どうかな。お前の不死身戦法に打ち勝ってみせる」
堂々と指を突きさして宣言する。どや顔を決めるアキラのアップが映り、今週の物語は終了した。
一応断っておきますが、作中に出てくるドクロ団は、ポケモンサン・ムーンに出てくるスカル団とは何ら関係はありません。
ゲーチスとかフラダリみたいに、スカル団のボスもネタにされそうな気がするな。




