アニメファイトモンスターズ96話 ダークネクロス脅威の秘密その1
騒動が鎮静化する兆しがない中、いよいよ六時半を迎える。徹人はもちろん、自室のリビングに待機していた。愛華もテレビの画面に釘付けになっている。掛山ノブヒロが歌うテーマソングが流され、本編の続きが開始される。
相手が不死身と分かり、アキラは手をこまねいていた。果敢に攻めたてるゾンビーガに防戦一方となっている。
「絶対に死なないなんてあり得るかよ。グレドラン、フレアブレスだ」
炎の息を浴びせるが、ゾンビーガは平然と佇んでいた。身体が崩れ落ちているのだが、即座に再生しているのだ。
「いい加減に諦めるッカ。ヘルインパクト」
両腕に禍々しいオーラを纏い、グレドランへと猛進する。炎で牽制するものの、構わず突進し続けてきた。
やがて懐に潜ったゾンビーガは、巨体目がけアッパーカットを繰り出した。もろに受けたグレドランは後方へと飛ばされる。雑草がクッションとなったものの、とてつもないダメージを受けたのは間違いない。
アキラの介抱を受けるものの、悔しそうにうめき声を立てていた。
「ヘルインパクトを受けてもまだ倒れないなんて、意外とタフだッカ。でも、もう一度受ければおしまいだッカ。ゾンビーガ、とどめを刺すッカ」
再びゾンビーガは腕にオーラを纏う。グレドランは立ち上がろうとするが、うまく腰が上がらない。ヘルインパクトの余波は予想以上に甚大のようだ。そして、息の根を止めんとする鉄槌が下される。
その時であった。疾風と共に何者かが両者の間を横切る。あまりの風圧にゾンビーガはよろめいた。
「誰だ、邪魔する奴はッカ」
ダークネクロスが威圧をかける。すると、乱入してきた謎の存在が低く唸り出した。たてがみをなびかせ、鋭い犬歯を剥き出しにしている。ライオンと虎、両方の特徴を備えた獣の王者。
「ライガオウ。じゃあ、まさか」
アキラが顔をあげると、長髪でキザな雰囲気の少年がブーツを踏み鳴らしていた。
「アキラか。お前はよく変なのに絡まれるようだな。そっちのドクロ野郎は知り合いか」
「変なのとは失礼だッカ。俺様はダークネクロス。崇高なるドクロ団の残党だッカ」
「壊滅した組織の残党か。大したことはなさそうだな、ハヤト」
ライガオウが嘲ると、ハヤトもまた微笑を浮かべた。アキラの最大の好敵手ハヤト。これまで幾度となくぶつかり合いつつも、重要な場面では協力を果たす。彼もまたドクロ団には因縁があり、いわば共通の敵というわけだ。
「まずはグレドランを倒そうと思ったが、邪魔をするなら仕方ないッカ。ゾンビーガ、ライガオウを始末するッカ」
「随分買い被られたものだな。ライガオウ、とっとと始末してやれ。サンダーファングだ」
「ベノムブレスをお見舞いするッカ」
二対の牙に雷撃を迸らせ、ライガオウは噛みつき攻撃を仕掛ける。迎撃するかのように、ゾンビーガは紫がかった息を吐きつけた。
毒に侵されるのを厭わず、ライガオウはブレスの中を突き進む。もちろんダメージは発生しているだろうが、肉を切らせて骨を切るというわけだ。相手の懐にまで達し、胸元に牙を炸裂させた。
「フルスパーク」
追撃とばかりに全身から放電する。電撃を浴びせられ、ゾンビーガの全身が崩れ落ちていく。
「ふん、たいしたことないな」
そう吐き捨てた時には、ゾンビーガの皮膚はただれ、あちらこちらで骨が覗いていた。一顧だにせず、ライガオウは立ち去ろうとする。
だが、ふと歩みを止める。背後でおぞましい気配を察知したのだ。まさかと思い、ハヤトと共に方向転換する。
すると、倒れ伏していたはずのゾンビーガが立ち上がっていたのだ。雷撃によって受けた傷が完治し、獲物を求めてすり寄って来る。
「不死身というのは嘘ではなかったか」
「たいしたことないのはお前の方ッカね。グレドラン共々始末してやるッカ。ゾンビーガをもう一体召還」
新たに魔法陣が展開され、別固体のゾンビーガが出現する。一体だけでも凄まじい嫌悪感がするのに、二体も並ぶと吐き気を催しそうになる。
ライガオウが加わったのに合わせ場数を増やした。そう捉えても不思議ではないが、アキラたちは嫌な予感がしていた。わざわざ同じモンスターを繰り出したという時点で怪しい。警戒して様子を窺っていると、ダークネクロスは肩を揺らした。
「カーッカカ、俺様が考えなしにゾンビーガを二体も出しているわけがない。そう思っているッカね。ならば正解だッカ。俺様はこのカードを使用するッカ」
「もしやと思ったが、やはりそうか」
あるカードを予想していたハヤトだったが、危惧していたことが的中してしまったようだ。
「スキルカード融合発動。アンデットモンスター二体を融合させることで、イモータルを顕現させるッカ」
カードにより放たれた光に包まれ、二体のゾンビーガの肉体が融解していく。粒子状に混じり合い、新たな肉体を生み出す。
そいつはダークネクロスの二倍はあろうかという巨人だった。ダークネクロス自体も成人男性にしては背が高いのだが、彼でさえも幼子に感じられる。
毒々しい紅の皮膚に醜悪な顔つき。漆黒の翼を生やし、耳元まで広がる口腔には鋭い牙が揃う。召還されたのは邪悪なる魔人型モンスターイモータルだった。
任意のアンデットモンスター二体と召還条件は厳しくない代わりに、融合モンスターとしては能力値が控え目だ。しかし、融合モンスター「としては」の話である。油断したらやられるというのは百も承知だ。加えて、イモータルの場合能力値よりもアビリティの方が厄介であった。
「融合を果たしたからってビビるかよ。グレドラン、フレアブレスだ」
火炎の息を浴びせかけるが、イモータルは微動だにしない。グレドランと比べても一メートル違い体長差があるため、トカゲがあがいているとしか認識していないのだろう。
「後れをとるな。フルスパーク」
ライガオウも放電して攻撃するものの、イモータルをたじろがせることはできなかった。
「ハエどもがあがいても無駄だッカ。イモータル、握りつぶしてやるッカ」
人間なら容易にペシャンコにできそうな掌底が迫る。慌てて退避したものの、地面には大きな手形が穿かれてしまった。もし、直撃していたら甚大な被害を受けていたことは想像に難くない。
イモータルは巨体を活かし、踏みつけやパンチで攻めたててくる。ライガオウは素早く動き回って躱し、着実に雷撃を撃ちこんでいく。鈍足であるグレドランでもどうにか回避できている。ただ、なかなか反撃に転じることができず、一、二回炎の息を放つのがやっとだ。
「逃げ回っているだけじゃらちが明かないな。スキルカード硬化。防御力を上げるから、反撃を気にせず攻めまくるんだ」
「助かるぜ、アキラ。くらいな、バーニングブレス」
全身をメタリック加工させたグレドランが、フレアブレスの上位互換技を放つ。反撃の拳をぶつけられるも、強硬な鱗を得ているおかげでびくともしない。
二体がかりの連撃により、イモータルの体力は相当削られているはずだ。不気味な巨体が陥落するのも時間の問題。そう思われた。
しかし、いくら技を命中させても、相手が倒れる気配はない。それどころか、グレドランたちがいたずらに消耗するばかりだ。
「イモータルは不死の王だッカ。ちんけな攻撃など全然通用しないッカ。さあ、蹴散らしてやるッカ。邪神の怒り」
イモータルが腰に手を据えると、背後よりどす黒い影が沸き起こる。そいつは人間の上半身を象ると、迂回しながらグレドランの元へと飛来していく。
攻撃に夢中になっていたグレドランはギリギリまで接近に気が付くことができなかった。いや、注意を払っていたとしても反応するのは困難であろう。出現してから間合いに入るまでの移動速度はまさしく神速であったからだ。
邪神に殴り飛ばされ、グレドランは地面に失墜する。そして、ライガオウもまた薙ぎ倒されることとなったのだ。
「俺のグレドランとハヤトのライガオウの二体がかりで倒せないなんて」
「あいつが不死の王ってのは嘘じゃないらしいな」
悔しがる少年を嘲笑うかのようにイモータルが手を伸ばす。このまま息の根をとめるつもりだ。そこですかさずハヤトがスキルカードを取り出す。
「スキルカード煙幕」
もうもうとした煙が周囲を覆い、その場にいる者全員の視界を奪う。突如攻撃目標を失い、イモータルはうろたえていた。
相手から確実に逃げることができるという補助カード。本来の目的通り、目くらましを仕掛けている間にハヤトは逃走を図る。アキラは躊躇していたが、グレドランの傷が深いことを鑑み、ハヤトに倣った。
やがて黒煙が消え去った時、イモータルの前には蜘蛛の子一つ残っていなかった。
「逃げたッカ。まあいいッカ。どうやらこの力は本物みたいだッカ。これならあいつらをひねりつぶすのは造作もないッカ」
乾いた笑い声をあげると、イモータルの融合が解除される。二体のゾンビーガと共に、ダークネクロスは再び闇の中へ姿をくらますのだった。
モンスター紹介
イモータル 闇属性
アビリティ 不死の王:戦闘不能になった時、融合元となったモンスターをランダムでどちらか一体、HP1の状態で蘇生させる
技 邪神の怒り
任意の闇属性モンスター二体を融合させることで繰り出せる魔神モンスター。
融合条件が緩いためか、融合モンスターとしてはステータスは控え目。だが、強力なのには変わりない。
更に、倒されても融合元となったモンスターを蘇生させることができる。海賊版などで融合を復活させ、再融合でもう一度召還するというコンボも存在する。
アニメでは不死の能力でアキラたちを苦しめているが、そもそもこのモンスターは不死身ではない。何らかの秘密が隠されているようだが、それは先の話だ。




