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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
5章 明かされる真実! 顕現する究極の敵‼
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無敵のキラー

 コンピュータープログラムの発展により、人間の文明社会は大きな成長を遂げた。社会基盤のほとんどにおいて、コンピューターが重要な役割を担っているのは間違いない。だが、裏を返せばキラーの言う通り、コンピューターに過労を強いていることにもなる。それこそ、ケビンの正体である小森が忌諱しているブラック企業が可愛く思えるほどの勤労ぶりだ。

「お前の言うことも分からないでもない。けれども、堂々と人間に復讐すると聞かされて黙っていられるか。いくぞ、ライム」

「う、うん」

 テトに発破をかけられるが、ライムは浮かない表情をしていた。孤高の女王を前に臆病風が吹いた。それもあるだろうが、怖気づいている理由は他にあるような気がしてならない。


 そんなライムの両隣に朧とノヴァが並び立つ。さらに、背後にはダイナドラゴンも控えている。

「ライムにばかりいい顔はさせられない」

「この俺もいることを忘れては困るな」

「わ、私もいるんだからね」

 三体はまっすぐにキラーへと敵対心を剥き出しにしている。パムゥが消滅したことで、彼女らに掛けられていた洗脳の効果は解除された。なので、本来のパートナーの元へと戻ったのである。


 そして、永遠の催眠効果も解けたため、ハルカやあ~やん、アイたちも自慢のモンスターを繰り出す。物量作戦からしても脅威だが、場に出ているのは各々が持ちうる最強の相棒だ。各個撃破するのも難しい強者たちが集結しており、刃向える者は皆無であろう。

 だが、最強の布陣を前にしてもキラーは涼しい顔で腰に手を添えた。

「愚か者め。我に刃向えると思うか」

 舐めるような口調に、ライムたちは総毛立つ。怒号を浴びせられるよりもよほど肝を冷やされる。パムゥもまた不遜な態度が目についたが、キラーに対しては嫌悪感を差し挟む余地すらなかった。まさに絶対君主。ただ一言を発するだけで、戦意を根こそぎ奪ってしまう。


 それでも、テトは歯を食いしばり、圧力へと抗う。

「そんなの、やってみなくちゃ分からないだろ。ライム、バブルショット」

「後れを取るな。ノヴァ、ヒートショットだ」

 主の命を受け、ライムは指先から気泡の弾丸を放つ。続いて、ノヴァは裾を振り上げ、火炎弾を発射した。水と炎、異なる二属性の弾丸がまっすぐにキラーへと向かう。


 変哲のない基本攻撃であり、回避は決して難しくはない。しかし、キラーは微動だにしなかった。防御の姿勢さえも見せず、それどころか片足に体重をかけて楽な姿勢をとっている。やがて、二対の弾丸が真正面から命中する。


 だが、不思議なことが起こった。技は確実に命中した。その事実はテトやムドーのみならず、場にいる全員が共有している事実であった。なのに、キラーがダメージを受けた様子はない。彼女が異常な防御力を誇っているというわけでもなかった。なぜなら、銃弾が胸を貫いたにしてはあまりにも無反応だったからだ。


 テトが唖然としていると、朧とダイナドラゴンがパートナーと共に進み出る。

「これならどう。真の太刀大蛇」

「御意」

「ガイアフォースよ」

「心得た」

 ダイナドラゴンが発した咆哮を背に、朧が一直線に切り込んでくる。不規則に振り回される太刀には大蛇の幻影が宿っていた。


 朧の袈裟懸けの直後にダイナドラゴンの息吹が炸裂する。しかし、キラーは相変わらず表情を変えることはない。それどころか、無造作に接近してきた朧の頭を鷲掴みにしようとする。身の危険を察知し、朧は即座に後退する。空を切らしたことで、ようやくわずかだがキラーの表情を崩すことができた。


「どうなっている。あいつに一切ダメージが通らないとは」

 ムドーが訝しんでいると、羽生は顎に手を当てた。

「おそらく、やつがファイトモンスターズのモンスターではないせいだろう。モンスターがアバターに攻撃を加えようとしても無意味のように、キラーはいかなる技の対象にはならないのだ」

「じゃあ、ライムではあいつを止められないってことか」

 かつて、徹人が源太郎から蹂躙を受けた際、ライムはホラー映画のゾンビを実写化して助けたことがあった。源太郎はメガゴーレムで反撃しようとしたが、技が一切通じなかった。キラーも同じくファイトモンスターズのモンスターとは認識されないため、そもそもバトル自体が成立しないのだ。


 相手が正真正銘の無敵だと証明され、一気に戦況が覆る。バトルを仕掛けられないのでは、単なる中学生の徹人たちに対抗する手立てはない。指をくわえているしかないと落胆していると、予想外の方向より暴風が吹き荒れる。ライムたちの髪を乱れさせるが、キラーには全く影響はない。

 風上に視線を送ると、褐色の肌をし、編んだ髪を揺らしている恰幅の良い男性が仁王立ちしていた。もちろん、そいつは普通の人間ではない。ファイモンプレイヤーのテトたちにはすぐ分かったが、暴風を司る男性神、風属性の上位モンスタールドラである。


 テトの陣営にルドラを操る者は存在しない。そうなると、消去法で誰のパートナーかは明らかである。

「どういうつもりだ、ケビン」

 ルドラの横で荒く鼻息を鳴らしているのは、正体を暴かれたケビンであった。

「金が手に入らないんなら、お前に用はねえ。とっとと失せろ、化け物が」

 そう叫ぶと、ルドラは腹を膨らませ、内包した空気を一気に吐き出した。息吹はそのまま暴風となり、キラーを巻き込んでいく。風属性最強クラスの技「デスサイクロン」だ。


 荒れ狂う風にムドーはある光景を思い出していた。

「ルドラの使い手といい少し引っかかっていたのだが、お前またの名をバッドというんじゃないのか」

「さすがは全国ランク一位。ようやく気付いたか。いかにも、私がバッドだ」

 名乗った後に一回転すると、ケビンのアバターが更に変化する。黒マントを羽織り、タキシード服を着用していた。蒼白な顔面に鋭い犬歯を覗かせている。その様は有名な吸血鬼ドラキュラ伯爵を彷彿とさせた。


 ドラキュラのアバターが顕わになるや、悠斗が声を上げる。

「おいおいマジか。バッドってあのバッドかよ」

「悠斗さん、あの人知ってるの」

「知ってるもなにも、ファイモンの全国ランク二位のプレイヤー。つまり、ムドーの次に強いやつだ」

 真実を知らされた愛華は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、実のところテトの反応も似たようなものだった。一方、全国ランクの上位常連であるムドーにとってはお馴染みの相手であったのだろう。


「私がいくら時間をかけてもどうしても倒せなかった相手。それがお前だった。パムゥの力を借りたとはいえ、お前を破った時はせいせいしたよ。

 まあ、今はゲームの中のランキングなんざどうでもいい。この私がキラーという最強のウイルスを駆除したと知らしめれば、私の実力が名実ともに認められる。そうすれば、自ずと億万長者の道も開けるというものだ。

 さあ、ルドラ。攻撃の手を緩めるんじゃない。キラーを完膚なきまでに叩きのめすのだ」

 ルドラははちきれんばかりに腹を膨らませると、暴風の勢いを増長させた。余波を受け、テト達はまともに呼吸することもままならない。ルドラは風属性最強の攻撃力を持つと評されている。長時間直撃に晒されていては、戦闘不能になるのは確実だった。

モンスター紹介

ルドラ 風属性

アビリティ 暴風の化身:風属性の技の威力を大幅に上げる

技 デスサイクロン

暴風を司る男性神。

風属性最強の攻撃力を持つと評される。アビリティで技の威力を上昇させることができ、デスサイクロンは並の相手なら一撃必殺できる破壊力を秘めている。

ケビンがパムゥと出会う前に好んで使用していたモンスターである。以前シルフを使っていたように、彼は風属性のモンスターを中心にパーティーを組んでいる。

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