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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
5章 パムゥ死す!? 封印解除を阻止せよ!!
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パムゥ死す!?

 あまりに傲慢な態度に、対峙しているテトの方が及び腰になる。余程の胆力がないと使いこなせない能力ではあるが、パムゥの肝の据わり方は想像を絶していた。

 ただ、勝てば封印を死守できると分かった以上、テトとしても負けるわけにはいかなくなった。

「無駄話はこれまでじゃ。我が人形よ、ライムに攻撃を加えよ」

 今度は腕から水しぶきが迸っている。炎属性のノヴァに変身しているのに対応し、水属性で攻めようという魂胆だ。


 残り体力が「一」のため、命中したら即敗北となってしまう。背水の陣を敷いているため、相手の動向を血眼になって追う。そんなテト達を嘲笑うかのように、人形は上半身をねじりながら勢いよく拳を繰り出す。

 だが、ライムは体を反らすことで攻撃を受け流した。接近したことを利用し、人形は連続で突きを放つ。それでも、ライムはフットワークを活かしてすべて空を切らせている。

「神眼発動ってね。避け続けられれば負けはないぜ」

 ノヴァに変身していることもあり、本家本元の離れ業を再現しているかのようだった。なおもジャブの応酬が続くが、一向に体力が削られる気配はない。


 焦れたパムゥは袂よりスキルカードを取り出す。

「スキルカード恐慌クライシス。ノヴァの神眼とやらもスキルカードには抗えないのは分かっておるぞ」

 回避を封じるスキルカード。もはや完全に詰みか。ライトらの陣営から悲鳴が上がる。

 しかし、テトはほくそ笑んでいた。

「お前がそいつを使うのを待っていたぜ。効果を無駄にしないために必ず攻撃してくるからな」

「戯言を。そなたの体力は一じゃぞ。人形の拳を受ければジエンドじゃ」

「いや、人形には攻撃はさせない」

「先に技を繰り出すつもりか。ならば、ターン・コントロールで打ち消すまで。そして、対抗のスキルカードも無意味じゃぞ」

「スキルカード爆破ボンバイエ。こいつで傀儡人形を攻撃する」

 発動したのはアニメでお馴染みの黒い球体爆弾が描かれたカードだった。相手に直接ダメージを与えるカード。威力は決して高くはないが、パムゥの体力の一部によりできている人形を倒すぐらいは活躍してくれる。


 爆弾が出現したのを確認し、パムゥは指を鳴らす。もちろん、スキルカードをターン・コントロールで打ち消すためだ。だが、いくら鳴らしても爆弾は消えることはない。高圧的な態度を保っていたパムゥの顔に陰りが生じる。

「どうやら、僕の読みは当たっていたみたいだな。いくらお前でも爆破は打ち消すことはできない」

 手にしていたカードをよりはっきりとパムゥに見せつける。歯ぎしりをしている相手にどや顔で解説を加えた。

「スキルカードは自分のターンに発動するだけでなく、相手のターンに割り込んで発動できるものもあるんだ。お前が懸念していた対抗なんかがまさにそうだ。相手が使うスキルカードにカウンターとして使うカードだからな。

 僕は、お前が攻撃してくるのに対抗し、先に爆破で人形を倒そうとした。つまり、お前のターン中に割り込んで攻撃しているってわけさ。フェイズとしてはまだお前のターンだから、ターン・コントールでは打ち消されないんだ」

 ターン・コントロールは無敵のように見えて、実は致命的な弱点がある。ファイトモンスターズに限らず、RPGには相手の行動をトリガーとして発動できる技が存在する。それらが効力を発揮しているのは相手のターン中。まだ自分のターンは回ってきていないので、いくらターンを飛ばされても効果を無効にすることはできないのだ。


 ファイトモンスターズにおいて、そのような効果を発揮できる代表格はスキルカードだ。単純のようで本質的な弱点を露呈され、パムゥの拳は怒りで震えていた。

 だが、息を吐き出すとすぐにいつもの冷静さを取り戻す。あまりにも早い立ち直りにテトは訝しむ。

「さすがじゃ。と、言いたいところじゃが一歩惜しかったの。人形を倒されたとしても、我には転生の導きがある。即座に復活させ、次ターンで攻撃し直せばいい」

 パムゥの素体となったペルセポネだけが扱える転生の導き。戦闘不能になったモンスターを蘇生させる禁断の技だ。人形もモンスターとして認識されているため、転生の導きで蘇生させることができる。テトの策略を警戒し、意地でも本体で攻撃しない作戦のようだ。


 しかし、テトがペルセポネの代表的な技の対策を怠っていたわけがなかった。取り出したのは鼻息を鳴らす闘牛に赤いマントを見せつけているカード。いわゆる闘牛士のパフォーマンスを表しているのだが、それを目撃したパムゥの顔が曇った。

「スキルカード挑発プロボーク。お前は攻撃技しか使えない」

 オールアップによる異常な能力値上昇を防ごうとして入れていたカードだった。だが、必殺のコンボを決めるために温存しておいたのだ。攻撃しかできなくなるため、補助技を中心に覚えているパムゥは一気に行動が制限される。


 先に発動していた爆破ボンバイエにより、人形が爆撃される。技の発動が完了する前に破壊されたため、未だパムゥのターンだ。

「なるほど。意地でも我が直接攻撃により葬り去られたいか。そなたほどの相手を人形ごときに始末させるのは確かに惜しいのう。よかろう、望み通り引導を渡してやる。ヘヴンズ・ジャッジメント」

 天空に出現させた巨大な十字架。煌々と輝く光はまっすぐにライムを狙っている。

「未だ攻撃していないため、恐慌の効果は継続されておる。覚悟がないわけではあるまいな」

「テト、本当に大丈夫なの」

 処刑寸前になり、ライムが心配して声をかける。普通に考えて、パムゥの最後の一撃が発動する危機的状況だ。だが、テトは窮鼠猫を噛むを体現せんと意気込んでいた。


 薄暗い空間を真昼のように照らすまばゆいレーザー光線。パムゥが右手を振り下ろすと同時に十字架を保ったまま照射された。直視するのも阻まれるレーザーがライムを襲う。

 そいつが到達するより前に、テトは大声で指示を飛ばした。

「ライム、朧に変身するんだ」

「ここであたいかよ」

 対象となった当人が身を乗り出す。シンもまた瞠目していた。


 体型は少々スマートになったが、着衣は相変わらず和装だ。ただ、着物ではなく道着に袴というじゃじゃ馬娘へと変貌していた。髪をポニーテールに結わえ、剣を帯刀している。

 朧に変身したものの、ヘヴンズ・ジャッジメントは到達寸前。もはや技を発動している暇はない。


 折角の変身も無駄骨か。そう思われたのだが、テトは切り札となるスキルカードを発動した。

「こいつで最後だ。スキルカード革命チェンジザワールド。ライムとパムゥの体力を入れ替える」

「な……なんじゃと!?」

 この戦闘中、最初で最後のパムゥの根っからの驚愕であった。


「ノヴァに変身している時に使った気炎万丈でライムの体力は一にまで減少している。一方、お前は傀儡人形を生み出しただけでろくにダメージを受けていない。そいつが逆転するうえ、逆鱗を加味して防御力も上がっているんだ。まともに喰らってもライムは十分に耐えることができる。

 そして、攻撃が命中した瞬間に朧のアビリティである反撃の刃が発動する。残り体力が一となったお前がこいつを受けたらどうなるか分かるな」

「くそ、ターン・コントロール!」

 パムゥは指を鳴らそうとするが、テトの言葉が遮る。

「無駄だ。朧のアビリティは相手の攻撃に反応して自動的に発動する。ターンを飛ばしたとしても防ぐことはできない」

「馬鹿な。我が秘技は完璧のはず。こんな、こんな小僧に我が敗れる……だと」


 ヘヴンズ・ジャッジメントが直撃し、ライムの体力が減少する。パムゥ本体の攻撃力が低下していたため、かすり傷程度のダメージしか受けることはなかった。それでも、ダメージはダメージだ。朧のアビリティが発動し、パムゥの体力が削られる。それにより、パムゥのゲージは完全に消滅していた。


 終戦のブザーがなり、けたたましい歓声が沸き起こる。元の姿に戻ったライムは満面の笑みを浮かべてテトへと飛び込んでいった。ついに仇敵を打ち破ったのだ。同時に、封印が解かれることもない。口々に労いの言葉を掛けられ、テトは照れくさそうに笑いあう。


「見事と言っておこうか、小僧共」

 不穏な気配を察し、テトは顔を向ける。そこには腕を庇い、前屈みになったパムゥが目を細めていた。敗北した直後なので、満身創痍でも不思議ではない。しかし、テト達が息を呑んだのはあからさまな異変が生じていたからだ。

 なんと、パムゥの翼が徐々に粒子へと変換され、消滅していっているのだ。翼だけに限らず、両手、両足と浸食は広がっていく。敗北と同時に完全消滅する。ターンを操るという禁断の技の代償は嘘ではなかったらしい。


 一瞬、同情したくもなるが、これまで悪の限りを尽くした仇敵だ。心を鬼にして突き放す。

「もう終わりだ、パムゥ。お前の野望は達成することはない。素直に負けを認めるんだ」

「ああ。もはや我が戦うことは不可能。やつらの洗脳もじきに解けるじゃろうな。だが、我が目的だけは果たさせてもらうぞ」

 強気な発言とともに、テトは違和感を覚えていたことに気が付いた。自分が消滅するというのに、パムゥに失望やら恐怖といった類の感情は窺い知れない。含みのある笑みを浮かべるその顔は言外に訴えていた。「ざまあみろ、小僧共」と。


「忘れたわけではあるまいな。あの扉の封印を解く条件を」

「ライムたち五人を揃え、それによって現れるパスワードを入力する……」

 そこまで言いかけて、テトは慌てて扉を確認する。ライトたちも倣い、続々と恐怖に顔を歪めていった。


 扉の上部にはしかと刻まれていたのだ。「PANDORA」というパスワードが。


「バトルに夢中で見落としていたのがまずかったのう。人形にライムの相手をさせている間、密かに最後のパスワードの入力を完了させていたのじゃ。そして、遠隔操作で実行させれば、封印は解かれる。消滅までのわずかの間でもそのぐらい容易い」

「そんなことさせない。羽生さん、実行命令を邪魔すれば」

「駄目だ。私たちが今から介入するには時間がかかる。どう考えてもパムゥの実行命令の方が先に発動する」

「それじゃ、封印を阻止することはできないわけ」

 ライトのヒステリックな声とともに、突然地響きが襲った。


「みんな、あれを見て」

 シンが指さす方に視線を移す。どうにか体のバランスをとりつつ、テト達はとんでもないものを目撃してしまう。

 完成したパスワードは「COMPLETE」との文字列に変わる。中学英語の知識でも、その意味は十分に理解できた。パムゥの肉体が消滅していくのに比例して、扉をがんじがらめにしていた鎖も消え去っていく。そして、扉もまたきしみながらゆっくりと開門していっているのだ。

「ついに復活してしまうのか。やつが」

 羽生が激しく机を叩く。絶望的な存在が顕現しようとしている最中、テトは走馬灯のように思い出していた。パムゥとの直接対決の直前、羽生より語られたライムの出生に関する事実を。

今回、扉を開くためのパスワードが明らかになりましたが、これにはきちんと理由付けがあるのです。

ヒントとしては、パムゥがパスワードを出現させるためにライムたちを並べた順番ですが、その順に並べて、各々の名前をローマ字に変換してみましょう。


パムゥ(PAM)

ノヴァ(NOVA)

ダイナドラゴン(DAINADRAGON)

朧(OBORO)

ライム(RAIM)


まだ分からない人のために最終ヒント。頭文字に注目してみましょう。




もうここまで言えば分かりますよね。パムゥから順番にローマ字の頭文字を拾っていくと「PANDORA」になるのです。この回より前に気付いた人はいるかな?


そして、次回は物語の核心に触れる最重要回となりますので、乞うご期待。

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