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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
5章 最強は誰だ!? 夢の舞台で雌雄を決せ!!
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頂上決戦! ライムVSノヴァその2

「ライム。ちょっと窮屈な思いをしてもらうけど平気か」

「作戦でもあるの」

 ライムからの返答は喜々としていた。無言で首肯すると、彼女に接近戦を挑むよう命じる。


「ムドーはん。相手は近接戦を仕掛けるようやで」

「業火絢爛では分が悪いか。フレイムウィングだ」

 着物の裾に炎を宿し、真っ向から迎え撃つ。俄然ライムは突進してくる。だが、ほんの少し違和感があった。接近戦に持ち込むのは間違いないが、具体的な技が指示されていない。それでも、ライムは一心不乱に接近してくる。


 動きがあったのは、ムドーのフレイムウィングの間合いに差し掛かろうとしたときだった。

「今だ。ライム、ゴブリンに変身しろ」

 全身が発光し、彼女よりも一回り小さい小鬼へと姿を変える。棍棒を振り回し、醜悪な顔つきでノヴァを睨む。

 序盤のフィールドで腐るほど出現する土属性のモンスター。冒険を始めたばかりのプレイヤーの相手をするだけに、ステータスは全体的に低い。

 いわゆる雑魚に変身したわけだが、初めてムドーの顔に陰りが生じた。ゴブリンはちょこまかと飛び跳ねながら距離を詰めていく。そして、怯んでいるノヴァに棍棒の叩きつけ攻撃「ゴブスマッシュ」が炸裂する。

「即時、六時方向に退避」

 間一髪、ゴブリンに空を切らせる。指示を下した時、ムドーの額に汗が滲んでいた。命令が遅れるなど、彼にとってはあってはならぬ失態だった。


 惜しい所で外れてしまったが、テトはすかさず追撃する。

「次はプチモスに変身だ」

 ゴブリンよりも更に小型。テトの膝小僧辺りまでの体長のモンスターに変化する。全モンスターからすると小型ではあるが、モデルとなった生物からすると化け物並に大型であった。なにせそいつは、全身緑でまだら模様をした芋虫だったのだ。


 ゴブリンと同じく、序盤フィールドで相手をすることになるプチモス。最終進化形となる蛾型モンスターギガモスでさえそれほど強い個体ではない。まして、進化前となれば雑魚中の雑魚であった。

 放ったのは単純に突撃するだけの体当たり。かろうじて躱すが、プチモスの動きが鈍かったのに救われた。ノーダメージで済んだのに、ムドーは頭を抱えていた。


 その後も、テトは次々と変身を指示するが、出てくるのは序盤の雑魚ばかりだった。陳腐な技のオンパレードに次第にムドーはリズムを狂わされていく。そして、ついに決定的な瞬間が訪れた。

 火の玉モンスターボボボールに変身していたライムは急に距離を取る。ムドーは相手が射撃技を使用すると予想をつける。読み通り、遠距離攻撃技を発動する。ただし、元のライムの姿でだった。

「五秒後、八時方向に退避」

 そう言った途端、ムドーは後悔した。とろくさい動きのモンスターに順応しようとしたため、回避タイミングを遅らせていたのだ。一線で活躍できるライムが相手では、この指示だと遅すぎる。


 しかも、指示を言い直すにはあまりにも時間がなさすぎた。はっと振り返ったノヴァの胸に水泡の弾丸がぶち当たったのだ。

 まさか、こんな瞬間が訪れると誰が予想しただろうか。ノヴァの体力ゲージが減少した。残り体力は七割以上あるが、それ以上に与えた衝撃の方が深刻だった。なにせ、削られることはないと思われていた体力がついに削られてしまったのである。


 偉業を達成したことで、ライムとテトはハイタッチを交わす。呆然としているムドーに堂々と言い放った。

「どうだ。これが僕の作戦だ。いくらお前でもいかなるモンスターの動きも読めるはずがない。全国対戦で頻繁に使用されるやつを特定し、技の傾向を予想していたんだろう。

 ならば、まず全国大会で使われないようなモンスター、ゴブリンやプチモスに変身して攻めればリズムを崩すことができる。そうすれば自ずと攻撃を当てる隙もできるってわけさ」

 ネタプレイでしか使われない雑魚モンスター。全国対戦での頂点しか眼中にないムドーにとっては相手にする価値もない。だが、まさかそんな奴らに寝首を掻かれるとは思ってもみなかったであろう。


 弱点属性による基本技を撃たれただけ。問題ない一撃ではあったが、ムドーの誉れは深刻な傷を受けていた。しばらく無言で肩を揺らしている。不穏な動きに、パートナーのノヴァですら心配そうに見守っていた。

 すると、面を上げるや豪快に笑い飛ばした。圧倒されるテトにびしりと指を突きつける。

「まさか、ここまでやるとは思わなかったぞ。テト、そしてライム。やはりお前らは俺が本気で相手をするのにふさわしい。敬意を表して、俺たちの真の必殺技を見せてやろう」

「真の必殺技だって」

 神眼ですら十分驚異的な秘技ではあった。それを超える大技を宣言され、テトはたじろぐ。


 ムドーが片腕を伸ばすと、ノヴァの全身が燃え上がる。決して比喩ではなく、着物に炎を纏わせているのだ。下手に触れようとしたら即座に火傷しそうである。

 そんな彼女に対し、ムドーは手持ちのスキルカードすべてを投入する。

「スキルカード強化エンハンス狂化バーサーカー本気アーネスト発動」

 どれも攻撃力を上げる効果を持ったカードだった。ちなみに、本気は体力値が半分以下の時に発動でき、攻撃力を大幅に上げることができる。発動時に体力を減少させる狂化とはコンボになっていた。

「そして、エンチャントスキルカード神速の翼。飛行系のモンスターに装備可能で、素早さを上昇させる」

 大手を広げると、所作に合わせて背中に翼が出現する。ノヴァの正体は伝説上の不死鳥ファイバード。人間形態では翼は反映されていないが、エンチャントスキルカードの影響でお目見えした形になる。パムゥもまた翼を有しているが、それと比べると揺らめく炎が合わさり非常に神秘的であった。


 スキルカードを使いきったうえ、どれもが能力上昇系のカード。しかも、防御を捨てた特攻型だ。並の相手なら瞬殺できそうなポテンシャルを秘めているが、ムドーの秘技はここからが本番だった。

「いくぞ、ノヴァ。気炎万丈きえんばんじょう

 纏わせた炎が更に激しさを増す。もはや近寄っただけでダメージが発生しそうだった。だが、ムドーが指示したのは攻撃技ではない。それも、単純な攻撃技より数倍厄介な代物であった。


 目に見えて変化が訪れたのはノヴァの体力ゲージである。狂化により減少していたのだが、それが更に減少する。やがて、残り体力が一になった時点で停止した。

 よもや、自滅するという馬鹿技を繰り出してきたわけではあるまい。何らかの効果のデメリットが発生したのだろう。

「ライム、相手の好きになんかさせてたまるか。バブルショットで先に仕留めるんだ」

 ライムは指先に弾丸を宿し、ノヴァに標準を定める。そして、気泡弾を発射する。ノヴァは直立したまま回避する素振りがない。呆気なく勝利を収めるか。


 しかし、ノヴァの胸へと到達する寸前、信じがたい現象が起こった。身にまとっている気熱により、気泡弾が蒸発してしまったのだ。当然、ダメージは発生しない。

「どういうことだ。確実に命中したのにノーダメージなんて」

「ノヴァの業火は陳腐な技など燃やし尽くしてしまう。余程の攻撃力がないとダメージを与えられないぞ」

「そんな、ノヴァちゃんの防御力が上がってるの」

「上がっとんのは防御力だけやあらへんで。ムドーはん、いきなり瞬殺してもつまらんやろ。ネタバレしてもええよな」

「好きにしろ」

 許しを得たノヴァはゆっくりと近寄って来る。滴る汗は熱波のせいだけではなかった。


「気炎万丈はステータスを上昇させる補助技や。けれども、そんじょそこらの技とは訳が違う。攻撃力、防御力、素早さを十倍近く引き上げるんやからな」

「待てよ。それって全ステータスが上がってるじゃないか」

 かつて、防御力が四倍近く引きあがったゼロスティンガーと戦ったことがあった。あの時もまともにダメージを与えられなかったが、今回はダメージを与えるという次元の話ではなかった。あまりにも防御力を高めすぎたために、発生したダメージ値が一以下となってしまったのだ。

「単純にステータスを引きあげただけだと、ゲームサーバー自体の処理能力に負荷がかかりまともに戦闘が進行できなくなる。なので、ノヴァの体力を減らすことでバランスをとったのだ。残り体力が一でも、攻撃を躱してしまえば問題ない

 加えて、技を使う前のステータスが高いほど効力も大きくなることが分かった。なので、スキルカードで予めステータスを上げておいたのだ」

 神眼という離れ業を持っているからこその自負だった。ライムの自爆辺りなら突破口となるだろうが、当たらなければ意味はない。そして、これまで触れていなかったが、真の恐ろしさは別にあった。

モンスター紹介

ゴブリン 土属性

アビリティ 危機回避:相手から逃げやすくなる

技 ゴブスマッシュ

ゲームの序盤に登場する小鬼。

いわゆる雑魚キャラであり、正直ストーリーの前半ぐらいまでしか活躍のしどころがない。

全国対戦でこいつを使うのは自殺行為に近い。

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