頂上決戦! ライムVSノヴァその1
対戦システムが起動され、ドーム内に闘技場フィールドが展開する。徹人と武藤はそれぞれアバターの姿になり、互いのパートナーも並び立つ。審判のつもりか、中央ではパムゥが空中浮遊していた。
ムドーもまた、相棒となるモンスター単独で勝負を挑む傾向がある。大舞台でも例に漏れず、ノヴァだけをエントリーしているようだ。テトは当然ライム単独で勝負を仕掛ける。両者ともにステータス補正がかかり、能力差は互角となる。
「さて、審判がいないのでは締まらないじゃろう。我が直々に務めてやる」
「別にいいが、余計な手出しをしたら、その時はぶっ殺す」
「安心せい。そなたらの内どちらが勝っても計画に支障はない。せめてもの情けで、高みの見物をしといてやるわい」
不干渉を誓ってはいるが、どこまで本気か分かったものではない。ただ、注意が削がれては目前の相手に勝利するのは困難だ。なにせ、冗談抜きで全神経を傾けないと相手にすらならないからだ。
「さあ、存分に争うがいい、ノヴァ、そしてライムよ」
いちいち腹に据えかねる開幕の合図により、両者は同時に距離を詰める。ノヴァは着物の袖に炎を纏わせている。発動しようとしているのは、ファイバード時だと炎の翼で直接相手を叩きつける「フレイムウィング」という技だ。ライムはというと、右手の指先にシャボンの弾丸を充填している。こちらはほぼゼロ距離で射撃し、確実にダメージを与えようという算段だ。
しかし、そんな単純な手をムドーが見抜いていないわけはなかった。
「一コンマ八秒後に一旦停止。右翼旋回し、そのまま叩け」
指示通り、ノヴァは急停止する。その隙を狙ってライムはバブルショットを放とうとする。だが、すぐさま懐に潜られ、先制でアッパーカットを喰らってしまう。
属性相性のおかげでダメージは大したことはない。しかし、のっけから神眼の恐ろしさを見せつけられてしまった。
ライムはバブルショットで反撃に出ようとするが、ノヴァは巧みな足さばきで狙いをつけさせない。しかも、近距離のフレイムウィングと遠距離のヒートショットを組み合わせ、堅実にライムの体力を削ってくる。相手に一ダメージも与えられないまま、ライムの体力は半分に達しようとしていた。
一方的な試合展開が続くかと思われたのだが、やがて変調が訪れた。ノヴァが無傷なのは相変わらずだが、ライムもまた体力が減っていないのだ。テトがスキルカードで助太刀したわけではない。裏技を使ったわけでもなく、単純にライムが攻撃を躱し続けているのである。
「どないする、ムドーはん。うちの技が完全に読まれとる」
泣き言を漏らすノヴァ。ライムがムドーの真似事をしているというのは即座に見抜いたが、対処法は思いつかなかった。このまま、不毛な長期戦が繰り広げられるのか。
しかし、ムドーは即座に作戦を変更した。
「スキルカード炎上。茶番は不要だ。一気に決めてやれ」
炎属性の技の威力を上げるカード。大技を繰り出すことは容易に予想ができた。
カードの加護を受け、ノヴァは着物の裾を翻す。所作に合わせ、火の粉が舞い上がった。華麗な舞と共に無数の火の玉を発生させる。
「テト、相手の必殺技が来るよ」
「分かってる。できる限りのフォローはする」
短言で打ち合わせを交わすと、ライムは重心を下ろして身構えた。具体的にスキルカードを使った様子はない。いかにあがこうとも、ノヴァの十八番となるこの技は防ぎきれまい。
嗜虐的に八重歯を覗かせ、ノヴァは地面を蹴り、高々と跳躍した。
「業火絢爛」
火炎の雨の如く、ライムへと集中砲火が迫る。その場しのぎで「無効」を使ってくるのであれば、「対抗」で打ち消すつもりだった。しかし、テトが発動したのは予想の斜め上のカードであった。
「スキルカード加速」
「血迷ったか。この局面で素早さを上げてどうする」
嘲笑されても構わず、ライムは全速力で前進していく。自ら火炎弾へと突っ込むという暴挙だが、決して投げやりになったわけではなかった。
火炎弾が着弾していくが、落ちた先はすべて地面だ。僅かな間に百発近い弾丸が撃ちこまれているが、一発としてライムを捉えてはいない。よもや、ノヴァの命中精度が壊滅的に悪いというわけではない。にわかには信じがたいが、加速したことにより弾丸をすべて回避しているのだ。
続けて同様の「業火絢爛」を発動するが、ライムはこれまた間隙を潜り抜けていく。一回目はまぐれだとしても、二回連続で外すとなると只事ではなくなってくる。
「まずいで。うちの技が全然当たらへん。このまま長期戦にもちこまれたらまずいとちゃうか」
「案ずるな。あっちも攻撃が当たらない以上俺たちが負けることはない。そして、まだ奥の手がある」
「せやな。急いても仕方ない」
絶対に技が当たらないという自負からくる余裕だった。均衡状態に陥ってしまったため、どちらが先に体力を減らすかの勝負に突入した。
業火絢爛を軸にノヴァが遠距離から攻めてくる。対し、ライムは元々遠距離系の技しか持っていないので、必然的に射撃戦となる。絶えず飛ばされる指示に従い、ノヴァはノーダメージを貫いていた。
昨夜の一戦を思い出し、ライムに回避を専念させている。ノヴァに負けず劣らずの性能を発揮していることからして、彼女の計算能力もまた卓越していた。とはいえ、いつまでも逃げ回ってばかりではいられない。
テトは手持ちのスキルカードを確認する。技を必中させる「恐慌」は発動させるのには時期尚早だ。うまくノヴァの不意を突くことができれば勝機を見いだせるのだが、彼女のそんな一瞬を見極めるのは困難だった。
ならば、ムドーの先を読んで強制的に隙を作るまで。しかし、具体的な方法が思いつかなかった。
苦心するテト。前にダメージを与えた時は朧のアビリティを使ったのだが、それでは先にこちらが倒されるのが明白だ。他のモンスターに変身させるという点に着目してみるものの、適役もなかなかいない。
「テト。さすがにしんどくなってきたよ」
神眼の真似事をしながら動き回っていたため、予想以上に体力を消耗していた。泣き言を漏らすライムに対し、ノヴァは挑発する。
「元はネオスライムなんに、よう喰らいついたと思うわ。けど、あんさんそろそろ限界を知りぃや」
「意地でネオスライムを使っているだろうが、能力差は覆せない。高みを目指すなら相応の相方が必要だと肝に銘じるがいい」
ムドーも便乗し、遠まわしにけなしかかる。最強のモンスターによる無敵の戦法で頂点に君臨する。それが彼の信条であった。
もちろん、立派なポリシーであり、テトとしても否定するつもりはない。だが、己の信念を曲げるかと言うと話は別だ。
「悪いけど、僕はこいつで最強を目指すと決めているんだ。ライムにはライムにしかできないことがある。そのことを今から見せつけてやるぜ」
先ほどの言葉で思い至ったことがあった。ムドーは勝利のために必要最低限の事項を計算し、戦法を組み立てている。ならば、もしかしたらそこに隙があるのではないか。
神眼攻略の意外な戦法とは!?




