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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
5章 最強は誰だ!? 夢の舞台で雌雄を決せ!!
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もう一人の挑戦者

 ケビンが表舞台に立っているということで、観客席の綾瀬はさっそくアクセスログを調べる。しかし、幕有メッセ内からの不審なアクセスの形跡はない。どうやら、会場とは別の場所から遠隔操作しているようだ。

「簡単に電波ジャックを許すなんて、お父さんは何をしているのかしら」

「前にちょっかいを出した時と比べて、ケビンのネットワーク操作の技術が上がっている。こんなの、並の技術者じゃ対抗できそうにないわ」

 綾瀬ですら手玉に取られているのだ。プログラミング技術で刃向うのは非常に困難となっていた。


 騒然としていた会場だが、ケビンが口を開くと一転として沈黙が広がった。

「私にはとある目的がある。それを達成させるためには、全国各地の猛者が集まるこの大会は好都合なのだ。諸君には私の悲願のために礎になってもらおう」

「そうは言っても、特別なことをしてもらう必要はないので、安心するがいい。我らがまず欲するは、あくまでライムだからの。そのために開催するのがパムゥゲームというわけじゃ」

 不可思議なゲーム名を出され、あちこちでひそひそ話の声があがる。愉悦に入り浸りながら、パムゥは続けた。

「ルールは簡単。本来この大会に出場する者たちは、各地の大会を勝ち抜いてきた猛者。つまり、日本最強の精鋭といえる。そんな者たちでトーナメントを行い、優勝者と我での一騎打ちを開催する。もし、我に勝つことができれば大人しく引き下がろう。まあ、そんなことはあり得んがな」

 豪快に笑い飛ばすが、集中したのは冷たい視線だった。「ふざけるな」という罵声まで飛ばされる始末である。だが、いかに汚い言葉を浴びせられようとも、パムゥの不遜な態度が崩れることはなかった。


「加えて、本大会に出場できる精鋭を既に選抜してある。雑魚どもによるくだらん子供の遊戯を観戦しているほど、私は暇ではないからな。さあ来るがよい、私に刃向う愚か者よ」

 控室と会場を繋ぐ扉にスポットライトが当てられる。強烈な光に迎えられながら、徹人はゆっくりとドーム内に入場していった。

 道中、ライムが自動的に実体化すると、割れんばかりの歓声が響いた。もはやアイドル同然の存在となっているうえ、状況的にふざけた発言をしている酔狂者を打倒する救世主にもなっているのだ。恥ずかしさが先行しそうだったが、照れている場合ではない。舞台へと登壇すると、パムゥは髪をかきあげた。

「予想通りではあったが、我のプレゼントを倒すことができたのはライムだけのようじゃの。くだらん戦いを見物しなくて済み、好都合だ」

「パムゥ、そしてケビン。この大会はすべてのファイモンプレイヤーが楽しみにしていたんだ。それをお前の都合で好き勝手やりやがって。お前の思い通りになんてさせるもんか」

 徹人が指を突きつけると、「そうだ」と便乗する声が続く。ブーイングの嵐を受けてさえ、パムゥは動じていなかった。


 このままだと、いきなりライムとパムゥとで直接対決となる。そう思われたのだが、徹人より遅れて舞台へと向かう足音があった。スポットライトに照らされ正体が明らかになる。

「俺を忘れてもらっては困るな。あんなクソなプレゼントなど、対処するのは容易い」

「ホンマや。で、パムゥはんを倒すのはうちらってのも覚えとき」

 紅の着物を纏った美女を引き連れゆっくりと歩み寄る少年。同年代にしては背が高く、徹人の頭上が丁度肩の位置にくるぐらいであった。大人びた風貌も合わさり、一目しただけなら高校生と見間違えてもおかしくない。


 「リアルで」会うのは初めてであったが、ノヴァを連れていることから正体ははっきりしていた。全国ランク一位。最強のプレイヤーと称されるムドーこと武藤龍騎だ。

「お前もプレゼントを倒したんだな。それにしてはさっき姿がなかったじゃないか」

「どうせ参加してくるのはお前とケビンぐらいだと思ったからな。試合時間ギリギリまで最終調整をしていたんだ。この大舞台でライム、そしてパムゥを倒すために」

 宣告すると喝采が響いた。ライムに加え最強のプレイヤーまで参戦してきたのだ。もはや敵なしといえた。


 実のところ、武藤が姿を現さないので嫌な予感をしていた徹人だった。しかし、彼が健在であれば尚更心強い。

「ムドー。見ての通り緊急事態なんだ。あいつの言いなりになって僕らで争うことはない。まずは二人がかりであいつを倒すんだ。その後だったら気兼ねなく対決できるだろ」

 複数体同時バトルが実装されているため、二対一で挑むなんてこともできる。例えパムゥでも、ライムとノヴァが同時にかかればひとたまりもないだろう。


 しかし、ケビンがそんな単純な戦法に対して策を講じていないわけがなかった。

「私の計画に背くつもりか。ならばこうしてやろう。パムゥ」

 言われてパムゥは指を鳴らす。すると、観客席の至る所に人形が出現した。気色悪い乱入者に悲鳴が沸きあがる。

 怯えて無抵抗となっている観客たちを前に人形はスキルカードを発動する。枕が描かれたそれは容易に効力が予想できた。

「まずい。モンスターを眠らされるぞ」

 徹人が大声で叫ぶと、皆一様に手持ちを確認する。だが、もはや後の祭りであった。わずか数秒の間に観客たちの手持ちモンスターはすべて眠らされてしまったのである。


「おいおい、どうなってるんだこりゃ」

「うむ。非常に不可思議なり」

 唯一無事だったのは実体化している朧とジオだけのようだ。綾瀬のレディーバグといい、愛華のピクシーといい、それ以外の面子は軒並み被害に遭っていた。状態異常を回復するアイテムを受け付けず、遥のルゥと同じ永久の眠りについてしまっているようだ。

「私の発明した特殊スキルカード永久睡眠エターナルスリープ。解除できるのはパムゥだけだ。テトにムドーよ。君たちが下手な真似をしたなら、解除プログラムを即座に破壊する。そうすれば、ここにいる者たちのモンスターは永遠に眠ったままだぞ」

「くそ、会場のモンスターを人質にしようっていうのか」

 解除方法が分からないため、素直にケビンに従うしかない。そうなると、不本意ではあるがムドーと真っ向からぶつかるしかないのだ。


 覚悟を決めかねている徹人は武藤を正面から見据える。彼は一貫として無言であった。探りを入れようとしても、下手な発言で事態をややこしくしてはと一歩踏み出せなかった。双方押し黙ったままだったが、先に口を開いたのは武藤だった。

「俺は別にどちらが先かは構わん。さっき言ったとおり、ライムとパムゥを倒すためにここに来たのだからな。徹人と言ったな。俺と戦うのを躊躇しているのなら遠慮はしないぞ。全力でライムを叩き潰し、その勢いでパムゥを撃破する。俺が為すべきことはそれだけだ」

 イレギュラーな騒動があろうとも決してぶれない姿勢。己が最強となるために障壁となる相手は倒す。圧倒的なまでの強さが裏付けられたようだった。


 ならば、彼の本意に沿うのがベストだろう。下手に即席のコンビを作ったところで、連携が取れずに根絶やしにされる可能性もある。むしろ、ムドー側が非協力的で共闘どころでないかもしれない。心を決めたことで、徹人は武藤に告げる。

「ケビンの言いなりになるのは不本意だけど、まずは君たちを倒させてもらう。そして、ケビンもまた僕が倒す」

「ほんなら、その言葉そっくり返させてもらいましょか。ええよな、ムドーはん」

「無論だ」

 双方合意により、現時点で最強とされる両者の真っ向対決が実現する。ならず者により制圧されているという緊急事態ではあるが、会場内のボルテージを上げるには十分だった。

スキルカード紹介

永久睡眠エターナルスリープ

ケビンが作成した違法スキルカード。

眠りのターン数を増加させる「永眠」と似た意匠となっているが、効果は別物。かつ、凶悪となっている。

なにしろ、絶対に治療できない眠り状態へと誘うのだ。解除できるのはパムゥだけであり、まさに最悪のカードといっても過言ではない。

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