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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
5章 最強は誰だ!? 夢の舞台で雌雄を決せ!!
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神眼を再現せよ

 ジオドラゴンの一件で、ライトより神眼の奥義を聞いたことがあった。相手の動向を観察する。ムドーの場合、それに加えて常人離れした計算能力で軌道を予想しているのだが、その領域には達しようがない。どうにか真似事をするのが精いっぱいだ。

 人形はのらりとした動きで油断させておき、急に加速することで不意を突くという戦法を使用しているようだ。なので、相手が攻撃へと移行するタイミングを予想できれば、回避するのは難しくない。理屈は分かっているのだが、実現させるのは骨が折れそうだ。


 テトはとにかく、人形の動向を注視する。相変わらず緩慢な動作で歩き回っている。それでも、両手には稲妻が走っており、いつ迫ってきてもおかしくはない。じっと瞳孔を開いているだけだが、額からは汗が流れ出してくる。ふと気を緩め、腕で汗をぬぐった時だった。

「まずい、ライム。来るぞ」

 人形が速度を上げ、ライムへと突進してくる。いくらなんでも軌道まで読むことはできない。それでも、始動タイミングを伝えることができたおかげで、ライムは攻撃を往なすことができた。


 一発回避するだけでも相当神経をすり減らす羽目になる。短期決戦を狙うのであれば、早々に反撃の機会を導き出さなくてはならない。闇雲に技を放ったところで無駄なのは自明。せめて、不意を突くことさえできれば。


「また来るぞ」

 考え事をしていたせいで指示が遅れそうになるが、どうにか空振りさせることができた。なおも人形は連続でパンチを繰り出すが、ライムはフットワークを活かして空を切らせる。どうにかノーダメージで保っていられるのは、ライムが回避に専念しているという部分も大きい。テトが人形の動きを読めればライムは攻撃に転じられるのだが、いかんせん力不足であることが悔やまれた。


「すまない、ライム」

 思わずパートナーに詫びてしまうテト。すると、ライムは不思議そうに首をかしげた。

「テト、どうして謝るの」

「僕のせいでなかなか攻撃できないだろ。きちんと相手の行動を予測して指示を出さなきゃならないのに。動きを追うので精いっぱいなんだ。くそ、ムドーの奴、滅茶苦茶なことやりやがって」

 悪態をつき、地面を蹴る。自暴自棄になりつつあるテトであったが、そんな彼に対しライムは意外なことを打ち明けた。

「別にテトは無理して攻撃を読まなくてもいいと思うよ」


 開いた口を塞げず、テトは両腕を垂れ下げていた。あっけらかんと存在意義を否定された気がする。

「いやいや。僕があいつの動きを予測しないと不意打ちなんてできないんじゃ」

「えっとね、発想を逆転してみたらどう」

 狐につままれたような顔をしているテトに対し、ライムはすまし顔で続ける。

「テトには悪いんだけど、私だけでもある程度相手の攻撃が読めるもん。百パーセント回避するってのはできないかもしれないけど。だからさ、私が避けるのに専念して、テトが攻撃のタイミングを指示してみたらどう」

「つまり、役割交代をするってか」

 ムドーの場合は一人で攻守を兼任しているが、彼が重きを置いているのは防御面である。回避方法までつぶさに指示しているのが証拠だ。

 相手の攻撃軌道まで推測するのは困難だが、こちらから攻撃を当てるタイミングを指示するとなるとどうか。相手を観察しなくてはいけないのは変わりないが、駆け引きの敷居は若干低くなる。自身のパートナーと波長を合わせ、適切なタイミングで自爆を指示する。容易ではないが、まだ実現できる望みはある。


 テト達の算段など関係なく、人形は攻勢に移って来る。指示を出し損ねたが、ライムは軽々と突進をやり過ごす。咄嗟のタイミングで成し遂げたことからして、相手の動きを読めるというのは嘘ではないようだ。ライムからのサムズアップを受け、テトは攻撃タイミングの指示に集中することとした。

 相手の不意を突くなら、攻撃へと移行するまさにその瞬間を狙うべき。だが、一歩ずれればまともにダメージを受けてアウトだ。もっと最適な時があるはず。じっくり考えたいのだが、ライムの体力を考慮すると早々に一撃を入れておきたい。


 とはいえ、そのタイミングをなかなか見いだせずにいた。半ば諦めかけていたが、運命の瞬間は突然訪れた。

 人形もまた、ライムへの止めが刺せないのにイラついていたのだろう。一旦距離を取ると頭上にカードを表示させた。禍々しいドクロが描かれたそのカード。視認した途端、テトは絶句した。

「スキルカード恐慌クライシスだと」

 回避を強制的に封じられては神眼を試すどころではない。加えて、防御を下げられるのでノックアウトされるのは必至だ。人形が勝負を終わらせようとしていることは嫌でも分かる。


 罠にかかった獲物を仕留めんと、人形はゆっくりと肩を引く。直後に突進されたらアウトだ。双方共にその事実を認識しているのか、人形の動きはこれまで以上に緩慢だ。もはやゲームオーバーか。

 だが、テトはふと思い当たった。勝利を確信したその瞬間。その時こそ、最も油断するのではないか。そして、パムゥの操り人形とて深層心理には逆らえまい。

「ライム、自爆のエネルギーを溜めるんだ。そして、合図とともに後ろに大きくジャンプしろ」

「動けないのにジャンプなんかできないよ」

「大丈夫だ。僕を信じてくれ」

 泣き言を吐くライムであったが、テトは脇目も振らず人形を見据えている。彼が作戦もなしに無茶苦茶な指示を出すわけがないと信じていた。だからこそ、ライムはすぐに両脚に力を入れる。


 そして、人形が突進を開始する。そのタイミングでテトはスキルカードを発動した。

「スキルカード海賊版パイレーツエディション。僕が使った対抗を復活させ、恐慌の効力を打ち消す」

 呪縛から逃れたライムはすぐさま飛びのく。一秒でも使用が遅れたら直撃していたところだった。

 相手とはほぼゼロ距離。加えて、自爆発動に必要なエネルギーは既に蓄積されている。もはや指示されずとも攻撃の瞬間は把握していた。


 まともに爆風を喰らい、人形は四肢を変な方向に曲げられながら吹き飛ばされていく。同時に体力ゲージも一気に減少していった。

 ライムは勢い余って尻もちをついて着地してしまう。お尻をさすっているがどうにか無事のようだ。一方、人形は無残な姿で崩れ落ちていた。体力ゲージはゼロ。ライムの勝利を裏付けるように、全身が光の粒子へと還元されていった。そんな様を見届け、テトとライムはハイタッチを交わした。


 テトの肩を借りてライムが立ち上がると、彼らの前に一枚のチケットが落ちてきた。訝しみつつ拾うと、「パムゥゲーム参戦権」と記されていた。急にホログラムが作動し、パムゥの顔が浮かび上がる。

「我が刺客を撃破したようじゃの。おめでとう、君たちは明日のパムゥゲームへの参加権を手に入れた。我が目的のために存分に踊ってくれたまえ」

 それだけ言い残すと、ホログラムは即座に消え去る。チケットもまた自動消滅するかと思われたが、相変わらず手元に残されていた。


 対戦が終了したことで、観客たちはフィールドへの入場が許される。集まってきたライトたちにテトはチケットを見せた。

「戦利品にしてはチンケね」

「おまけにふざけてる」

 ライトとシンが口々に感想を言いあう。腹いせに破り捨て去ろうとも思ったが、曲りなりにもパムゥと接触するための重要な手がかりだ。しぶしぶ保管すると、ホログラムも自動的に解除していった。


 元の部屋で徹人たちは輪を組んでいた。大会前日に大それた妨害工作を働いたのだ。明日の本番で何を仕掛けてくるのか堪ったものではない。

「予防しておきたいけど、まったく尻尾を掴めないのが痛いのよね」

 綾瀬が頭を抱えていた。一連の騒動に相席していてもパムゥの足跡を特定することができなかった。立つ鳥跡を濁さずもここまで極められるとうざいことこの上ない。

「助太刀したいけど、観客席で応援するのが関の山になりそうね」

「心配することないよ。ケビンのやつなんか、私たちがぶちのめしちゃうんだから。そうでしょ、テト」

「もちろんだ。みんな明日の大会を目標にして頑張ってきているのに、あいつの好き勝手にさせてたまるか。僕たちの手であいつの野望を阻止してやる」

 拳を握りしめる徹人。そんな彼の前に手の甲が差し出された。その主は日花里だった。呼応するように、他の面々も手を重ね合わせていく。

「私たちはバトルに参加できない。けれども、できる限りのことはやらせてもらうわよ」

 応援を受け、徹人は力強く手を重ねた。一蓮托生した彼らは、改めて巨悪に立ち向かうことを誓うのであった。

裏話ですが、ムドーの神眼もノヴァの計算能力に頼っているところがあります。

それでも、回避方向を明確に指示できる時点で異常ですけどね。

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