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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
4章 東海大会決勝戦! 激烈ライバル対決!!
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ムドーの依頼と衝撃の優勝者

「最強のプレイヤーがこの程度か。まったく他愛ないの」

 パムゥは髪を掻き分け、ゆったりと地面に降り立った。ノヴァへと歩み寄っていくが、その前にムドーが立ちふさがる。自らのパートナーを庇う姿に、パムゥは冷笑をぶつける。

「敗北者が粋がりおって。痛い目に遭いたいのか」

「悪いが、貴様にノヴァは渡さん。いかなる手段を使おうとも、こいつは俺が守る」

「美しき絆というやつか。反吐が出るの」

 そう言って提示したのは一枚のカード。人間の脳みそが描かれている時点でその恐るべき正体が判った。


 ムドーは歯を食いしばり、右手を地面にかざす。魔法陣が展開しようとするが、その前に進み出る影があった。ルゥとジオドラゴンである。突然の介入者に、ムドーは魔法陣の召還を取りやめた。

「雑魚どもが。我に刃向うか」

「刃向うといったらどうする。好き勝手やられて、私たちもはらわたが煮えくり返ってるのよね」

「いかにも。我を弄んだ罪、存分に償ってもらおう」

 ルゥとジオドラゴンが啖呵を切ったのに続き、使い手たちもスキルカードを広げて威圧する。ムドーに圧勝した相手だ。二対一でも心もとないかもしれない。しかし、黙って引き下がるなんて真似はできなかったのだ。


 頭数では不利であったが、パムゥは余裕を崩すことはない。とはいえ、踵を返すと空間に裂け目を発生させる。フィールドからログアウトしようとするときに生じる出入り口であった。

「貴様らごときさっさと始末してもいいが、さすがに我も傭兵を消耗しすぎた。そなたらと戯れるのはまたの機会にしておいてやろう。それに、ライムがいないのでは、話にならぬからな」

 逃がしてなるものかと、ルゥは空気の刃を放つ「ソニックブーム」を発動する。ジオドラゴンも「ガイアフォース」による息吹で追撃する。だが、パムゥは片手で光の壁を形成し、難なく両者の攻撃を防ぐ。更なる技を発動しようとしたが、既にパムゥの姿は空間へと消え去ったのだった。


 逃亡していくパムゥを黙って見送ることしかできず、ライトたちは拳を握りしめる。だが、ムドーが腰を折ったのを機に、ノヴァの周囲に集合した。

 満身創痍のノヴァはやがて少女の形態が保てなくなったのか、火の鳥の姿へと変貌していく。触れた者すべてを焼き尽くす灼熱の翼は、弱々しく炎がくすぶるばかりであった。

「堪忍やなあ。こんな情けない姿見せることになるなんて」

「いや。俺の力不足だ。あの野郎、想像以上の実力を持ってやがった。まだまだ修行が足りないということか」

 世界一のプレイヤーに泣き言を吐かせるとは、パムゥの化け物具合が推し量られる。


 ムドーは魔法陣を出現させると、ノヴァをその中に還元する。そして、一言も声をかけることなく去ろうとする。が、唐突に立ち止まると振り返った。

「ライト」

「な、なによ」

「お前、俺に協力を求める時に何でも言うことを聞くと言ったよな」

「確かに言ったわね。それがどうかしたの」

 突然名前を呼ばれてどぎまぎする間もなく、ムドーに指を突きつけられた。

「ライムとテトに出会った時、こう伝えてくれ。パムゥとの勝負には勝った。しかし、土壇場で逃したとな」

「いいけど、どうしてそんな嘘を」

「あいつに下手な同情を持たれると面倒くさい。本気のあいつをぶちのめしたうえ、パムゥも木っ端みじんにする。そうすることで、俺が最強だと証明される。ただそれだけの話だ」

 二言を挟む余地もなく、ムドーは姿を消していった。ライトとハルカは後姿をただ見送ることしかできなかった。


 約束した以上、テトに真実を明かすわけにはいかない。故に、なおさらライトの心が晴れることはなかった。パムゥは想像をはるかに超えた強敵である。そのことをどうにか伝えられないか。

 ただ、すぐにケビンと直接対決という運びになるとは考えにくい。時間をかけて対抗策を練ることができれば、あるいは勝てるかもしれない。

 しかし、ライトの淡い希望は早々に打ち砕かれるのであった。



 東海大会が幕を閉じ一週間後。地区大会では最後となる関東地区大会が開催された。これにより全国大会最後の出場者が決まる。

 ライバルの動向はどうしても気になるもので、その日は徹人も中継放送に釘付けになっていた。

「関東大会の優勝者はどんな子になるんだろうね。まあ、誰でも倒しちゃうけど」

「えらい余裕だな、ライム」

 パソコンのモニターの前でシャドウボクシングをするライムに、徹人は苦笑する。


 まもなく大会の予選が始まる。その直前のタイミングでスカイプ通信が入った。相手は綾瀬であった。やはり彼女も大会が気になっていたのだろうか。などと軽い気持ちで通信に応じる。

「徹人君。関東大会の中継見てる」

「うん、見てるよ」

「そうか。なら話が早い。大変なことが起こってるんだ」

 切羽詰った口調に、徹人は胸を詰まらせる。大きく一呼吸すると綾瀬は続けた。

「関東大会の動向が気になって、開催前に会場のサーバーにアクセスして参加者の情報を調べていたんだ」

「さらっと言ってますけど、それサイバー犯罪ですからね」

「ばれなきゃ犯罪じゃないのよ。って、それはいいわ。とんでもない事実を掴んだんだから。参加者の中にペルセポネを使う子がいるんだけど、そいつがどう見ても……」

 その先のセリフを耳にし、徹人は戦慄した。ライムもまた、全身硬直し、腕を垂らしていた。ようやく正気に戻った時には、既に大会が開始されていた。


 急いで日花里や真に連絡を入れ、共に試合を観戦する。その模様は試合とはとても言い難いものであった。予選段階から、カズキが可愛く見えるほどの独走を発揮するプレイヤーがいた。その様はまさに大量殺戮。ろくに攻撃できないまま、モンスターが蹂躙されていく。


 そして、決勝トーナメント。問題のモンスターペルセポネは更に驚きの事実を披露する。一回戦第一試合に登場した彼女にはパートナーとなる人間が付き添っていなかったのである。つまり、AIだけで並みいる強豪を倒してきたのだ。

 トーナメントでも彼女の快進撃は止まらず、あれよという間に決勝戦まで勝ち進んでいく。そして、運命の決勝戦。相手は全国ランク四位の強敵オルフ。闇属性の死神モンスターハディスを操る優勝候補だ。


 オルフのパートナーハディスもまた、高い攻撃力を駆使し、予選ではペルセポネに追随する成績で通過してきた。直接対決でも、鎌を振るって攻撃する「デスサイズ」で果敢に攻めたてる。

 だが、ペルセポネはスキルカード「傀儡パペット」で出現させた人形を巧みに操り、ハディスを翻弄している。攻撃力で圧倒してきたハディスが逆に手玉に取られているのだ。


 そして、ハディスの体力値が瀕死ラインとなった頃。起死回生の一撃として、即死攻撃「デス・ペナルティ」を放つ。アビリティで成功率が上がっているうえ、ペルセポネは単体で勝負を挑んでいる。ヒットすればオルフの逆転勝利だ。

 だが、ペルセポネは難なく回避すると、頭上に十字架を出現させた。たじろぐハディスにつまらなさそうに死の宣告を吐き捨てるのだった。

「ヘヴンズ・ジャッジメント」

 それが最後の一撃だった。ハディスの体力が尽き、ペルセポネが全国大会への出場権を獲得した。


 そいつはペルセポネという名前を登録していたが、彼女の姿を目にしたときから徹人たちの脳裏には別の名前が浮かんでいた。彼らにとって因縁のある相手。そいつが関東大会を荒らしまわっていたのだ。しかも、偽物ではない証拠に、そいつは優勝した瞬間、はっきりと呟いたのだ。

「ライム、待っておれ」


 関東大会が終わり、徹人は拳を机に叩き付けた。いつかは直接対決しなくてはならないと覚悟していた。だが、こんなタイミングで、しかもこんな形で戦うことになろうとは予想だにしなかったのだ。

「とことんふざけてるよね」

「ああ。だからこそ、全国大会ではあいつに優勝を許しちゃならない。ライム、僕たちであいつを倒すぞ」

「合点だよ」

 関東大会優勝者ペルセポネ。またの名は「パムゥ」であった。

とんでもない幕引きとなりましたが、これにて第4章完結です。

地区大会のやり直しを軸にしていたので、八割ほどバトルシーンとなってしまいました。ゲームの大会を題材に物語を進めるって意外と難しいのです。

ただ、次の第5章で物語の根幹に関わる重大な秘密が明かされます。しかも、舞台はファイモンの全国大会なので、いよいよあの強敵との直接対決も実現します。

第5章真実編は近日連載開始です。

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