東海大会頂上決戦! ライムVS朧その1
「三の太刀鳴神」
「御意」
剣に稲妻を纏わせ、突撃の勢いを味方に振りぬく。咄嗟に腕で防いだが、裂傷により悲鳴をあげる。ライムの苦手属性を狙っているあたり、朧に容赦はない。
バブルショットでの反撃を試みるも、朧は回避することなく突っ込んでくる。被弾しているのを厭わず突貫したことで、次なる一太刀をクリーンヒットさせた。既にライムの体力値は半分近い。弱点属性で攻撃されただけではなく、朧のアビリティで反撃されているのである。
地面にひれ伏すライムに、朧は無慈悲に剣を差し向けた。
「あんたの実力はそんなもんじゃないだろ。いつまでも腑抜けてるんじゃねえ」
「言ったな。ライトニング」
ライムの指先に仄かな光が宿る。闇属性の朧に対し弱点となる光属性の射撃技だ。朧は眉を潜めたが、シンはすかさずカードを取り出す。
「スキルカード脱力」
「シン選手、スキルカードによりライムの攻撃力を下げてきた。弱点を突かれたとしても被害を最小限に抑えるつもりか」
威力が減少してしまったことで、朧の体力を二割程しか減らすことができなかった。それどころか、アビリティによる反撃を受けてしまう。
腕を庇いながらもライムは立ち上がる。そんな彼女が目にしたのは、剣をくねるように振り回す朧であった。不可思議な軌道は獲物を狩ろうとする大蛇を連想させる。バブルショットを放つものの、巧みな剣裁きによって切り払われてしまった。
「真の太刀大蛇」
太刀に大蛇の幻影が合わさり、牙を剥き出しにしてライムへと襲来する。朧本来の属性である闇の剣戟だ。
「シン選手の朧、必殺の一撃を繰り出した。早期決着を狙うつもりか」
必死に大蛇の軌道を読もうとするものの、アトランダムに躍動する太刀筋を予測するのは至難の業だ。最終的に考えるのをやめ、我武者羅に逃げ惑う。が、大蛇に足元を掬われ派手に転倒してしまう。
直撃は避けたものの、ついにライムの体力は半分以下となる。足をさすっていると、近寄ってきた朧が首に剣を突きつけてきた。
「拍子抜けだな。今のあんたを倒してもあたいらの気が晴れることはない。でも、ケビンの情報を得るためには道楽を優先させるわけにもいかない。残念だけど、ここで終わらせてもらうよ」
ライムに接近したまま、朧は腰に剣を構える。睨みを利かせたまま、柄を握る右手に力を集中させている。朧と幾度か交戦したライムは、彼女がこれからいかなる技を繰り出そうとしているか予想がつく。自身の防御力を犠牲に相手に大ダメージを与える「諸刃切り」。まともに喰らえば体力ゲージの大半が削り取られてしまう。
そのうえ、シンはスキルカードを組み合わせる。
「スキルカード剣舞。朧、勝負を決めなさい」
「シン選手、早くも勝利宣言。剣舞は剣で攻撃する技の威力を上げるカード。これを受けると逆転は厳しいぞ」
「それどころか、ライムの防御力ではそのままノックアウトも有り得る。果たして、どう防いでくるかな」
期待の眼差しが注がれる中、ライムはじっと目をつむっていた。パートナーの助力がなかったとはいえ、敗北の報告をしなくてはならないというのは口惜しい。けれども、逆転の手立てがどうしても思い浮かばないのだ。彼女にできるのは、観念して来るべき攻撃に備えることだけであった。
右手にありったけの力を籠め、今にも振りぬこうとする。ライムはぐっと瞼を閉じた。
「スキルカード回復」
どこからともなく響いた声により、体力回復のスキルカードが発動される。それにより、ライムの体力ゲージは満タン寸前にまで復帰した。
このカードの使用により、シンは諸刃切りの発動を撤回した。とどめを刺せる見込みがないため、防御力減少がマイナスに響いてしまう危険性がある。朧は右手を脱力させ、深く息を吐いた。
間一髪事なきを得たが、ライムには疑問点が残った。土壇場でスキルカードを発動させた謎の存在。それは一体何者なのか。
「遅れちまってすまないな、ライム」
呼びかけられ、ライムは目を輝かせた。ずっと待ちわびていた愛しのパートナー。彼がようやく駆けつけてきたのだ。
「遅いよ、テト」
ライムの使い手であるテト。彼がスキルカードを構え勇猛に立ち向かっていたのである。
パムゥの特殊フィールドから脱出したテトは脇目も振らず東海大会の会場へとアクセスした。その時には既にライムと朧との試合が開始されてしまっており、歯がゆい思いをする羽目になった。が、諦めずに試合への介入を試み、寸でのところでライムの窮地を救ったのだった。
離別していたのは数時間のことであったが、両者ともに悠久の別れを体感していたようだった。そのためか、人目も憚らず抱擁を交わす。「心配したんだからね、馬鹿」と罵りながらも、ライムは溢れる涙をせき止めることはできなかった。そんな彼女をテトは優しくなでてやる。
「まさにこれは奇跡。絶体絶命のライムを救ったのは彼女のパートナーであるテトだった」
正義のヒーロー顔負けの登場の仕方に、観客たちのボルテージは上昇の一途をたどる。さすがに恥ずかしくなってきたのか、テトが咳払いするとライムは涙を拭って朧へと対峙した。
「ようやく現れたわね、テト。遅刻してくるなんて、宮本武蔵気取りかしら」
「本当にすまない。でも、僕が宮本武蔵なら、この勝負もらったも同然だぜ」
「シン、あたい佐々木小次郎より宮本武蔵の方が好きだからさ。今のはちょっと聞き過ごせないよ」
「細かいことはどうでもいい」
不平を一蹴され、朧は頬を膨らませる。シンは真剣な眼差しでテトを指差した。
「あなたのことだから、遅刻してきたのにはそれなりの理由があるはず。けれども、ライム単独で挑むなんて舐めた真似をしてくれた以上、こっちも本気で叩き潰す」
「確かに、複雑な事情があるけど、今はバトルに集中するのが礼儀ってもんだよな。ライム、こっちも僕たちの本気を見せてやろうぜ」
「オッケだよ、テト」
パートナーと合流したことで、ライムはようやく本調子を発揮できることとなる。だが、朧側も対策を施していないわけではなかった。むしろ、決勝でライムと本気で交戦することを想定し、ある秘策を用意していたのである。
ヒーローは遅れて登場する。




