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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
1章 敵はチート!? ゲームネクストの陰謀!!
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アクセスエラー

 開発陣でさえ把握していない謎のモンスター。そうなれば、掲示板で示唆されていたある可能性が残されることになる。

「このモンスターが出現したのって、AIが搭載された後みたいだから、あれを導入した時にバグってできたんじゃないっすかね」

 黒田が頭の後ろで両手を組みながら、核心的なことを口にする。それには異論がないようで、会議室の面々は一様に頷いた。

「このままバグを放っておけば、いずれ他のシステムにも影響が出るだろうな。早々に対処しておいた方がいい」

「しかし、このモンスターの使い手に断りなくデータを弄るというのは心苦しいの」

 田島は冷酷に判断を下すが、それに園田が難色を示す。木下も同様のようで渋面で頬杖をついていた。


「気持ちは分かりますが、運営としてバグを放置しておくほうがもっと問題ですよ。せめて、このモンスターのデータだけでも解析しておかないと」

 秋原は開発用のデータベースにログインし、プレイヤーのデータ一覧を検索する。今回のように掲示板で露呈したり、ランキングイベントで明らかにおかしな得点で上位を獲得したりしていれば、不正ツール使用の特定は容易い。グラフィックの異常なデータに着目してしらみつぶしに一覧を探っていったところ、あるIDに行きついた。

「おそらく、これじゃないですかね。プレイヤー名はテト。全国対戦で主に使用しているのはネオスライムみたいですが、そのグラフィックデータが明らかに見慣れぬ文字列に書き変わっています」

「そのようだな」

 秋原と田島は二人で納得するも、プログラミングには疎い他の面々は首を傾げるばかりだった。田島はこの会社に入社する前はIT企業で働いており、プログラミングの心得がある。むしろ、典型的なブラック企業環境でほぼ一日中プログラムと睨めっこしていたら、嫌でも知識がつくというものだ。


「それよか、ネオスライムって今どきそんなモンスターを使っているやつがいるってのは驚きだな」

「あれは最初期に登場したモンスターだったの。むしろ、今でも愛用している者がいるというのはうれしい限りだ」

「あの子のデザインにも関わったことあるから、思い入れがあるのよね」

 プログラマー組以外の面々がネオスライムについての想いを語っている間、秋原は手慣れた様子でキーボードを操作し、そのデータを改変しようとする。


 最初は軽快なタッチで操作していたのだが、次第にその動きが鈍くなる。目を細めたかと思うと、何度もエンターキーを押したり、あるいはデリートキーを連打したりする。だが、いくら操作しようと、文字列に変化が訪れることはない。秋原の顔色に焦燥が浮かび始めていた。

「どうしたんだ。早く改変したまえ」

「おかしいんです、それが」

 半ばまくしたて、更にキーボードを激しくタッチする。だが、一向に画面は変化することがない。ついには深いため息とともに、椅子へともたれかかった。

「どうなってるんですか、これ。こちらからの操作を一切受け付けないんです」

「そんなバカな話があってたまるか」

 秋原に代わって田島がパソコンを操作する。しかし、いくらキーボードを叩こうと、これまた文字列が変化しない。唯一の変化があるとすれば、入力エラーを知らせる警告音が鳴り響くだけだ。


 この異常事態に、ライムの存在を擁護していた二人も怪訝に画面を見つめだした。いくらチートツールを使っていたとしても、大元のデータを改変してしまえばその効力は無くなる。しかし、データの改変さえも受け付けないとなると、これは単なるチートツールではない。もちろん、ゲーム上のバグでもないことは濃厚だ。

「まずいな。これは予想以上に深刻な問題が起きているかもしれない」

 どうにか打開策がないかと、田島は食い入るようにプログラミング言語の文字列をチェックしていく。明らかに正常なデータではないのに、それを直すことができない。ならば、それを拒んでいる要因がどこかに潜んでいるはずだ。


 そして、とある行に差し当たった時、田島の手がピタリと止まった。ただならぬ様子に、他の面子は息を呑む。吃音を漏らしながら、田島は瞠目し、指先を痙攣させる。

「一体どうしたんですか、田島さん」

 たまらず秋原が声をかける。田島はどうにか声を絞り出し、驚くべきことを告げる。

「このモンスターはすぐさま排除しなければ、今後重要な問題につながる」

 会議室に緊張が走った。強制的にデータを改変するというのも大事であるが、それを通り越しデータそのものを削除するに至るとは。

「削除って、そんなに事を急ぐ必要はないんじゃないっすか」

 努めて明るい調子で黒田が茶化す。しかし、田島の態度が軟化することはなかった。むしろ、沈痛な面持ちでメンバーたちに向き直った。

「このモンスターに生じているのはただのバグではない。チートツールを使用しているとも思われたが、そうでもなさそうだ。いや、チートツールが子供だましに思えるほど性質の悪いものがとりついている」

「チートツールが子供だましって、一体何が起こっているというのです」

 秋原に促され、田島はある事実を告げる。


 それはあくまで憶測でしかなかった。だが、田島より語られたその事実は、その場にいる全員を驚愕させるに十分であった。本当にこんなものが混在していたとしたら、ゲーム全体に関わる大惨事を引き起こしかねない。

「もし、田島さんが言うことが本当なら、一刻も早くこのライムというモンスターを排除しなければなりません」

「でもどうするのよ。こっちから介入できないんじゃ対処の仕様がないじゃない」

「方法はある。あまりやりたくないのだが、目には目を歯には歯をというやつだ。ただ、これを『作成』するのには少し時間がいる。今回の件は私と秋原で対処する。余計な混乱を防ぐためにも、この場で話したことはしばらく秘密にしてほしい」

 田島が釘を刺すと、固唾をのんで首肯した。企業の面子という点からしても、このことは露呈するわけにはいかなかった。コンピューターにとって最悪の存在がこのゲームに介入してしまっているなんて。

スキルカード紹介

狂化バーサーカー

HPを削る代わりに攻撃力を大幅に上昇させる。その効果値は二倍ともいわれている。

速攻戦術が主流の現在、最重要とされているカード。ネットの世界では「婆さん」という愛称で呼ばれている。

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