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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
4章 東海大会決勝戦! 激烈ライバル対決!!
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朧の見破り

 再開催された東海大会は最高潮の盛り上がりを迎えようとしていた。地方大会とはいえ、全参加者の頂点が決しようとしているからだ。しかも、前回大会と同じライム対朧という組み合わせ。まさにリベンジマッチというところである。ライムが連覇となるか。はたまた、朧が雪辱を晴らすか。観客たちの注目は自然と集まっていくのだった。

 熱気あふれる歓声を浴びながら朧はバトルフィールドへと登壇する。もてはやされているものの、有頂天になることはない。瞑目し、じっと剣の柄に手を添えている。彼女の耳に有象無象の声など聞こえてはいなかった。ただひたすら無心に来るべき時を待つ。


 そして、彼女が両目を見開いた時、因縁の相手が姿を現した。朧とは対照的に無邪気に観客の声援に応えている少女。朧にとって最大の好敵手ライムである。

 チャット機能を通し、彼女に絶えず送られる黄色い声。それに対し、手を振って律儀に挨拶している。余裕の現れとも捉えられるが実際は逆であった。このタイミングになっても未だに連絡がとれないでいるテト。いくらおちゃらけようとも、心の中に生じた虚無感を埋めるには至らなかった。テトもまたとんでもない強敵と戦っているとは分かっているのだが、ついついログインの形跡を確認してしまうのであった。


「さあ、いよいよ東海大会も大詰め。奇しくも前回と同じくテト選手のライムとシン選手の朧による頂上決戦となった。果たして今回はどちらに勝利の女神がほほ笑むのか」

 ファイモンマスターの実況に、会場内のボルテージはより上昇する。ファンサービスを終えたライムは表情を一変させて朧と向き直った。

 朧は一貫して険しい表情のまま帯刀している。真剣さに触発され、ライムはそっと右手首を握りしめた。


 すると、朧は抜刀したかと思うと、切っ先をライムの喉元に突きつけた。いきなりの宣戦布告にライムは体をこわばらせる。

「どういうつもりかは知らないけど、あたいと戦うのなら本気を出してもらうよ」

「注意されなくたって、最初から本気で行くつもりだよ」

「それは、不可能」

 シンの不可解な発言にライムは眉根を寄せる。なんとなくではあるが、朧たちの態度に違和感があった。戦闘前に鼓舞しているにしては鬼気迫っている。むしろ、別の意味で糾弾しようとしているのではないか。


 そんな疑問はシンの一言で払拭されることとなった。

「あなた、テトはどうしたの」

 指摘され、ライムは口から心臓を吐き出しそうになった。カモフラージュで表示されているテトのアバターはきちんと機能しているはずである。ただ、シンも朧も真剣な表情で詰問してきており、決して動揺を誘おうという意図ではない。なにより、彼女たちがそんな姑息な作戦を取るわけがないというのは重々承知であった。


「テ、テトならここにいるじゃない」

 目を泳がせながらライムは返答する。だが、朧はため息とともに頭を振った。

「リベンジのため、あんたの戦い方は誰よりも研究してきたつもりだ。だからこそ分かるんだよ。決勝トーナメントでの戦い、あんたは本気を出していない。否、出すことができなかったんだ」

「理由は簡単。パートナーであるテトがいないから」

「パートナーがいない? これはどういうことだ」

 便乗してファイモンマスターが盛り立てる。意外な事実の白露に、会場内にざわめきが広がっていった。


「おおかた、テトからの指示を受けず、自分で考えて戦っていたんだろ。あたいと同じく自立思考能力を持っているなら造作もないことだ」

 核心をばらされてしまっては、隠し立てしようと無駄であった。諦観したテトは肩を下ろして指を鳴らす。すると、テトのアバターにノイズが走り、足元から消滅していく。やがて完全に消滅すると、会場からは驚きの声があがった。

「バレちゃ仕方ないね。テトはちょっとした用事で出かけてるんだ。だから、私が相手させてもらうよ」

「やっぱそういうことか。随分舐めた真似してくれるじゃないの」

 朧は舌うちするが、ライムは言い返すことができなかった。合流できない本当の理由を明かせない以上、不本意ながら罵倒を受け入れるしかない。


「ライム選手、これまでの戦いをたった一人で勝ちぬいてきたようだ。えっと、これはルール上ありなんでしょうか」

「大会の規定で『AIを搭載したモンスターが単独で挑んではならない』という記載はないからな。それに、明らかにハンデを背負って戦ってきたのに、反則負けさせる道理はないだろう」

 レイモンドの蛮行を許してしまった以上、ライムを反則にさせるわけにはいかなかった。田島悟にとっては苦渋の決断であったが、会場の熱気に水を差すよりはマシだろう。


 公式に反則ではないと認められたものの、朧が納得するわけがなかった。

「どんな理由があろうと、あたいはこの大会であんたと本気で戦うのを目標にしてきたんだ。それが叶わないのなら意味がない」

「で、でも、テトは本当に用事があって来れないんだってば」

「朧。私たちの我がままで大会の運営を遅らせるわけにはいかない。私も不本意だけど、このまま戦うしかない」

 試合開始時間が差し迫っており、このまま両者試合放棄となってしまっては元も子もない。朧は舌うちをすると剣を収め自軍フィールドに戻っていった。テトともう一度通信を試みるライムであったが、彼からの応答はない。


「さ、さあ、両選手の間に複雑な事情があるようだが、試合開始時間を延長することはできない。これより、テト選手対シン選手による決勝戦を始めるぞ」

「あなたが本気でないからといって、私が手を抜く道理はない。朧、あなただけで挑むわ。ボーナスでのステータス補正を利用し、徹底的にいかせてもらう」

「御意」

 宣告通り、朧にステータス補正が適用され、全ステータスが上昇する。シンはデュラハンを併用した戦法を得意としていたため、朧だけを繰り出すというのはむしろ珍しい。

 様々な不安を抱えつつも、ライムもまた戦闘準備を整える。彼女にもステータス補正がかかるので、能力差は五分だ。とはいえ、大きなハンデを背負っているということを忘れてはならない。


「東海大会決勝戦、バトルスタート!」

 ファイモンマスターの掛け声とともに、開戦のブザーが鳴らされる。まごつくライムに対し、朧は抜刀し、一気に詰め寄ってきた。

果たしてテトは試合に間に合うのか

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