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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
4章 ハルカの思惑! ジオドラゴンの昇華!
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正気を取り戻せ! ライトVSダイナドラゴンその2

 吹きすさぶ風にミィムの長髪が揺れる。両腕で顔を庇った途端、その腕に大粒の雨が降り注いできた。暴風と合わさり、ミィムの小柄な体を瞬く間にずぶ濡れにしていく。未知の新技アクト・オブ・ゴット。天災を引き起こし、三属性による連続攻撃を繰り出す。既に風と水の二連撃が発生し、ミィムの体力値は一ドットにまで追い込まれる。戦闘不能にならなかったのは九死に一生でフォローしたからだ。

 咄嗟に強制的にアビリティを発生させたものの、暴風雨に晒されていることもありミィムの体力は大幅に削られてしまっている。そんな彼女に容赦なく、ダイナドラゴンは木の葉を巻き込んだ息吹をお見舞いする。下手に躱そうとすればまともに息吹を受けてしまう。そうなれば、アビリティを強制発動する暇もなくノックダウンだ。ならば、真正面から受け止めるしかない。


 九死に一生再発動に狙いを定め、ミィムは息吹を待ち受ける。呼吸を整えるのすら精いっぱいだったが、負けじと胸に手を当てる。ライトのためというよりも、ここであっさり負けたらテトが失望してしまうというのが目に浮かんだ。彼女としては、それだけは絶対に避けなくてはならない。こんな時、ライムだったら余裕で攻撃を耐えるだろう。ならば、自分だってできない道理はない。


 ただの木の葉が鋭利な刃物並の殺傷能力を発揮し、ミィムの肉体の節々を切り裂いていく。ダメージ判定が発生し、僅かに残った体力を容赦なく奪い去ろうとする。負けじとミィムは嵐の中で大声を響かせた。


 暗雲が去り、激しく降り注いでいた風雨も消え去っていく。まさに台風一過といったところだ。すさまじい天災に視界を奪われていたハルカだったが、まず目にしたのは雄々しく立ちふさがるダイナドラゴンだった。獲物を仕留めたという自負か、恍惚と鼻息を鳴らしている。やがて、地表の様子が判明していく。

「ミィちゃん!!」

 ライトの呼びかけに、ミィムはブイサインで応えた。あれだけの暴風雨を受けながら、彼女はしっかりと大地を踏みしめていた。未だ健在であることは体力ゲージも示している。残り体力一。風前の灯ではあるが、彼女たちの勝利への灯でもあった。


 「よくやったわ」とミィムを労い、ライトはすぐさまスキルカードを発動する。下手にパムゥに介入されては、これまでの努力が無駄になってしまう。このタイミングを逃してはならない。

「スキルカード発動、革命チェンジザワールド。あなたの体力を逆転させてもらうわ」

 八割以上残していたダイナドラゴンの体力が一気に瀕死ラインにまで減少する。代わりに、ミィムの体力が回復していった。テトが立ち去る時に託したスキルカード。それこそ革命チェンジザワールドだったのである。


 これにより、相手に一発でも攻撃を当てれば勝利が確定する。ライトの作戦を汲んでか、ミィムは右手で鉄砲を象り、狙いを定める。

 が、ライトは予想だにしない一言を発した。

「さあ、ジオ。さっさと攻撃してきなさい」

 高圧的に胸を張り、挑発をかける。ミィムが悲鳴にも似た絶叫をあげるが、ライトは気にせず発破をかける。いくら体力を回復したとはいえ、ダイナドラゴンの技は並のモンスターを一撃で葬り去る威力を有しているのだ。九死に一生を再発動させる自信もなく、命中してしまえば即敗北に繋がる。


 うろたえるミィムを嘲笑うかのように、ダイナドラゴンはあぎとを開き、彼女を標的に入れる。口腔に集約していく高圧のエネルギー。放とうとしているのはガイアブラスターだ。

 絶望からミィムはうずくまってしまう。そんな彼女を呑み込む悪夢の光線が発射されようとする。が、勢いよく首を伸ばすと同時に、ダイナドラゴンは苦悶の表情を浮かべた。伸ばした首を見えざる手でわしづかみにされた。そうとしか捉えられない状況であった。


 不可視の敵を払い去ろうと、ダイナドラゴンは左右に鎌首を振り回す。巻き添えになった木々が薙ぎ倒されていく。あまりに大胆な伐採行為にミィムはついに尻もちをついてしまった。やがて倒木を枕に長首を横たえる。

 あまりに衝撃的な出来事の連続にミィムは腰が抜けてしまっていた。ただ、ここ一番の衝撃はダイナドラゴンの体力値だろう。ミィムが一切技を発動していないにも関わらず、ゲージはゼロになっていたのだ。


 あまりに意外な幕切れに、ミィムは自分が勝利したという実感が沸かなかった。恐る恐る木の枝でダイナドラゴンの鱗をつつく。びくりと反応があったので慌てて木の枝を放りだすが、ダイナドラゴンは起き上がる気配がない。

 それどころか、予想外の変化が起きた。ダイナドラゴンの全身が発光するや、段々と巨大な体躯が縮んでいく。やがて、ひときわ大きな光の塊が放出されると、それは空中で細長い蛇を象った。しかも、ただの蛇ではなく遊泳するためのえらが処々に備え付けられている。融合の瞬間を最初から目撃していたミィムはすぐに正体は分かった。ジオドラゴンの融合素材とされたウミヘビモンスターサーペントである。


 ジオドラゴンと同じように横たわっていたサーペントだったが、すぐに次なる変化が訪れた。細長い巨体が丸まっていき、下腹部から無数の触手が生えそろってきた。水中であれば優雅に動き回っているだろうが、陸上では傘のような体をへたらせ日干し状態となってしまっている。

 この干上がったクラゲこそ、ジェリーの正体であるフラジェリーであった。強制融合状態で戦闘不能にされたので、少女の形態を保てずに本来の姿を晒しているのである。


 融合素材とされたモンスターが分離したことで、ダイナドラゴンは一回り小さな体躯へと変貌した。ゆったりと首を持ち上げると、一息つくように鼻息を鳴らす。

「我は一体何を……」

 惚けて目をぱちくりとさせる巨竜にライトは抱き付く。ジオドラゴンが二の句も告げずにいるうちに、彼女は嗚咽を漏らしながらしっかりと腕を引き寄せていく。

「よかった、本当によかった」

 自らの腕で泣きじゃくるパートナーに、ジオドラゴンは優しく鼻先を寄せるのであった。


 ライトが落ち着きを取り戻したところで、ミィムは疑問に思っていたことをぶつけた。

「ねえ、私が攻撃していないのに、どうしてジオドラゴンを倒すことができたの」

「それはね、ジオというか、ダイナドラゴンのアビリティを逆手に取ったの。ダイナドラゴンは凶撃により、技を発動する際に体力値を減少させてしまう。自動回復がかかってはいたものの、あのカードの効果が発揮されるのは技が発動し終わった後。つまり、一度体力を削られてから回復するという流れになっていたわけ。

 で、革命のカードでジオの残り体力は『一』だった。そんな時に凶撃を発動させてしまったらどうなるか」

 あとは言われなくとも分かった。要するに、自らのアビリティのせいで自滅してしまったのである。


「ううむ。よもや、自滅により敗北とは。記憶がなかったとはいえ、過去の自分を戒めたい」

 穴があったら入りたいのか、ジオドラゴンは首を茂みに突っ込んでいた。ライトは目元を拭うと、そっとジオドラゴンの鱗に手を添える。

「あんたが単純だったから為し得た作戦だったのよ。もし、パムゥみたいな狡猾なのが相手だったら、革命を使った時点で警戒されてたわ」

「褒められてるのかけなされているのか分からんぞ」

 泣き言を言うジオドラゴンに、ミィムとライトは大声で笑いあうのだった。


「どうにかそのドラゴンの洗脳を解いたようね」

 斜に構えて近寄ってきたのはハルカとルゥであった。ルゥは所々火傷で煤汚れていたが、どうにか無事のようだ。彼女たちもトリスとの戦闘の末に勝ち上がり、合流を果たしたのだ。

「残るはパムゥか。ノヴァとムドーが相手してたはずだけど、大丈夫かしら」

「確か、全国一位のプレイヤーよね。そう簡単には負けるはずはないと思うけど」

 互いに顔を見合わせ、森の奥に視線を移す。今もなお、時々噴煙が巻き起こっている。ノヴァが炎の技の使い手からして、戦闘中であることは明らかだ。

 合流しようと駆け出すが、ミィムだけはその場にとどまっていた。もじもじと後方を気にしている。


「ミィちゃん、どうかしたの」

「あ、あのさ。テトのところに行ってもいいかな」

 時間を鑑みるに、もう大会の決勝戦が開始されていてもおかしくはない。本来のパートナーの動向が気になるというのは自明であった。

 ライトはミィムに近寄ると、優しく彼女の頭を撫でた。

「協力してくれてありがとね。ここは私たちでどうにかするわ。だから、あなたはテトの応援に行ってあげて」

「うん、分かった。気を付けてね」

 それだけ言い残すと、ミィムは駆け足でログアウトしていった。ライトもまた、テトの試合の状況が気になるところだが、まずは目の前の問題を片づけるのが先決だ。ハルカと共に、森の奥へと進んでいくのであった。

次回からいよいよライムVS朧の開始です。

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