ダイナドラゴンVSブレイズレオ
テトとハルカの前に顕現する巨大龍ダイナドラゴン。かつてのレイドボスイベントで巨大モンスターと対峙する機会はあったが、ここまでの威圧を感じたことはなかった。データ上の虚像。それも正体は知り合いの相棒であるジオドラゴン。そこまで分かっているはずなのに、迫り来る巨体に腰が引けてしまう。
「ダイナドラゴン。こいつが本当にジオドラゴンの成れの果てなのか」
変貌する一部始終を目撃していたので当たり前のことではある。だが、口に出して確認したくなるほど、衝撃も一塩であった。
ライムは準決勝を戦っている最中であり、決勝戦まで時間がないことは明白であった。パムゥを叩くにしても、まずはダイナドラゴンの相手をしなければ話にならない。
「ハルカ、洗脳を解く手っ取り早い方法ってないか」
「ルゥの場合は効力が弱かったからどうにかなったけど、あのドラゴンはかなり強力な洗脳術が施されているみたい。手っ取り早くもなにも、一度倒すしか方法がないかもしれないわ」
「戦うしかないってことか」
覚悟を決めようにも、あと一歩が踏み出せずにいた。ただ、躊躇している暇もないことも確かだった。ミィムを目配せすると、テトは雄々しく手を広げた。
「悪いが、そのドラゴンを倒させてもらう」
「ダイナドラゴンに刃向うというのか。愚かな。こやつはそなたの友人のモンスターのはずだぞ」
「それは分かっている。でも、あいつの目を覚まさせるためには僕がやるしかないんだ」
拳を握るテトにハルカが並び立つ。
「乗りかかった船だし、私も協力するわ。あんな化け物、あなただけじゃ心元ないでしょ」
皮肉をかますものの、彼女の顔は笑っていなかった。相手がレイドボス以上の強敵だと仮定するなら、二対一でも安心できない。実際、持ちうる力を誇示するかのように、ダイナドラゴンは両翼を大きく広げる。耳をつんざく咆哮は何人をも寄せ付けぬ誉れであった。
テトはミィムに「強化」を使用し、バブルショットを放つ。一方、ハルカはライガオウに「疾風爪」を装備させる。「早駆」とアビリティによるコンボ攻撃を狙っているのだ。ライガオウ、ミィムの順に技を命中させる。しかし、ダイナドラゴンは痒そうに胸を引っ掻いたのみ。体力ゲージもろくに減少していない。
「ジオドラゴンのやつ、防御力が上昇しているのか」
「それだけじゃないわ。水属性のサーペントを融合しているのなら、自然と水の複合属性になっているはず。風ぐらいしか安定してダメージを与えられる属性がないわ」
ライムであれば攻撃属性を変化させられるものの、このままでは不得手な技でごり押しするしかない。
相手の堅牢さに怖気づくのも束の間、パムゥが追い打ちをかけてくる。
「ダイナドラゴンはタフなだけではないぞ。ガイアブラスターで蹴散らすがよい」
全体攻撃へと昇華した破壊光線。準備のために息を吸い込むだけでも呑み込まれそうになる。風圧に捕えられているうちに、すさまじい光線が放出される。「よけろ」と言いかけたが間に合わず、ミィムとライガオウは光線に晒されてしまう。
共に体力値は四分の一ほどにまで減らされる。自然属性の最強クラスの攻撃とはいえ、異常なまでの威力であった。加えて、ダイナドラゴン自身にも異常事態が発生していた。なんと、技を使用した直後に僅かではあるが体力値が減少していたのだ。テトが顔をしかめていると、パムゥが先んじて解説を加える。
「ダイナドラゴンのアビリティ凶撃じゃ。体力値を削ることで、通常以上の威力で技を放てるのだ」
驚愕する間も与えず、ダイナドラゴンは強靭な爪での切り裂き攻撃を仕掛けてくる。基本技でさえも体力の減少が発生している。
どうにか回避できたが、ダイナドラゴンは追撃の機会を窺っている。攻撃を躱し続ければアビリティの効果で勝手に自滅させることは可能だ。しかし、レイドボス並の体力を削り切るには相当なターンを費やさなければならない。そんなことをしていては東海大会の決勝戦が終わってしまう。また、ムドーの神眼でも使わなければ全弾回避など不可能だ。
正攻法で戦うとしても、これといった決定打がないのが痛手だった。様子見でミィムに待機を命じる一方、ハルカはスキルカードを手にしていた。
「まさか、私のとっておきをこんなに早く披露することになるなんてね。テト、勘違いしないでね。あいつ相手に長期戦は不利だから使うだけよ」
「ツンデレはいいから、対処法があるなら早くやってくれ」
ふてくされたように頬を膨らますハルカだったが、ライガオウの隣にバステトを並び立たせた。そして、手にしたカードを掲げて大声で叫ぶ。
「スキルカード融合発動」
「何だと」
不覚にもテトはパムゥと唱和してしまった。ただ、それだけハルカが発動したカードが衝撃的だったのだ。
ライガオウの全身が発光したかと思うと、バステトの体も光に包まれる。バステトが跳躍したと同時に、粒子状の光へと還元され、ライガオウの肉体に合流していく。赤と黄色の光が混じりあい、ライガオウの全身が変貌していく。
たてがみが炎のように燃え上がり、体毛の処々に炎が点る。ライオンと虎の中間の風貌であったのが、完全にライオンの顔つきへと変化する。火の粉をまき散らしながら犬歯を剥き出しにし、雄々しき獅子が咆哮をあげた。
「普段はあまり使うことはないんだけどね。私のとっておき、ブレイズレオ。ライガオウに炎属性の獣系モンスターを融合させることで誕生させることができるの」
存在自体はテトも知っていた。アニメのファイモンで主人公のライバルが披露していたからだ。融合の効果で減少していた体力が完全回復する。加えて、炎と雷という優秀な属性の組み合わせを有している。
「ブレイズレオ、フレイムダッシュよ」
ハルカの指示を受け、ブレイズレオは全身の体毛を燃え上がらせる。そのまま突撃していく様はさながら火の玉であった。無論、超高速で移動しているため、ダイナドラゴンが感づいた時には既に胸の中へと飛び込んでいた。
直撃により、ダイナドラゴンの体力が二割ほど減少する。ライガオウとミィムの連携でろくに減らせなかったことを考えると、かなりの威力を発揮している。
「続いて早駆」
ライガオウの時より引き続き装備している疾風爪を利用し、なおも突撃を繰り返す。ダイナドラゴンにぶち当たる度、ブレイズレオの動きは俊敏になっていく。同時に、ダイナドラゴンに与えるダメージも上昇する。
「ブレイズレオは確か、ライガオウと同じく光速の覇者のアビリティを持っている。素早さが高まると同時に攻撃力も上がってるんだ」
テトが感心している間にも、ダイナドラゴンの体力は半分以下にまで達している。アビリティで攻撃力が上がった今、高火力の決め技をぶつければ勝負を決めることも可能だ。
しかし、パムゥが黙って見過ごすわけがなかった。指を鳴らすと一枚のスキルカードが浮かび上がる。
「スキルカード激怒。ダメージを受ける度に攻撃力が上がる。そして、ヒーリングじゃ」
カード効果でダイナドラゴンの周囲に真紅のオーラが迸る。更に、パムゥの技で減少していた体力が回復してしまう。下手にダメージを与えればダイナドラゴンの攻撃力を上げてしまう。回復技と合わせ、こちらを牽制させる寸法である。
実際、集中的に技を繰り出していたハルカはブレイズレオに待機を命じる。スキルカードを吟味していると、ダイナドラゴンが吼えかかって来る。
「作戦を練り直す時間など与えんぞ。ダイナドラゴン、アクト・オブ・ゴット」
両翼を広げ、天空へとエネルギー弾を撃ちだす。雲をも割り、一筋の光の柱が形成される。仰々しい技名のくせにスカか。などと楽観する間もなく、辺りに暗雲が立ち込めてくる。
さすがに不穏な空気を感じ、テトとハルカは身構える。やがて、ブレイズレオを集中砲火するように大粒の雨が降り注いだのだ。それどころか、大量の木の葉を巻き込んだ突風にも襲われている。ハルカが手を伸ばすものの、ブレイズレオの体力は急激に減少していく。一旦はゲージが止まったものの、すぐに減少を開始し、やがて体力値はゼロとなってしまった。
唖然としているテトとハルカをパムゥは嘲笑う。
「アクト・オブ・ゴット。日本語で言うところの『天災』じゃな。水、自然、風という複数属性による三回連続攻撃を行う。よもや、二回目で力尽きるとは軟弱極まりないの」
これまで目にしたことがないので、ダイナドラゴンに昇華した際に習得した技だろう。しかも、融合モンスターを一撃必殺できる辺りとんでもない威力を秘めている。
「さて、そこの嬢ちゃんは戦闘不能かの。ならば、じっくりとライムのまがいものを痛めつけ、本物をあぶりだすとするかの」
「ふざけないで! 私にはまだルゥがいるわ」
怒鳴り散らしたハルカに呼応し、ルゥが前かがみで唸りをあげる。ミィムも負けじとファイティングポーズを取るが、ダイナドラゴンが迫る度に及び腰になってしまう。現時点でもほとんどのモンスターを一撃で葬り去れるぐらいの攻撃力を秘めている。だが、パムゥは更に絶望に突き落とすようなカードを使用してきた。
「そなたらのちんけな希望など打ち砕いてやろう。スキルカード逆鱗」
相手がドラゴン系であるのなら最も警戒すべきカード。攻撃力どころか、堅強な防御力までもが上昇してしまう。もはや、相手の攻撃をすべて回避したうえ、途方もない体力値を削るしか勝ち目がなくなってしまった。
モンスター紹介
ダイナドラゴン 自然属性
副属性 水
アビリティ 凶撃:使用する技の威力を上げるが、技を使用する度体力が減少してしまう。
技 ガイアフォース ガイアブラスター アクト・オブ・ゴット
ジオドラゴンがサーペントと強制的に融合させられ生まれた姿。
自然と水という属性の組み合わせは非常に優秀であり、唯一弱点を挙げるとするなら風属性ぐらいである。また、融合により全能力値が上昇しているので、並の相手ではすぐに蹴散らされてしまう。
融合により習得したアクト・オブ・ゴットは、天災と呼ぶにふさわしく、水、風、自然の三連撃を食らわすという荒業。アビリティの凶撃も合わせると手の付けられない威力を発揮する。




