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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
4章 ハルカの思惑! ジオドラゴンの昇華!
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ドモン・レイの正体

 東海大会はいよいよ佳境に入ろうとしていた。トップ四が出そろったことで、準決勝戦が開始されたのだ。

 第一試合。朧と対峙したのは体の節々が樹木のように変質している少女のモンスターであった。彼女の素体となっているのはトレント。魔力により巨大な樹木が意思を持った存在である。


「ミハル選手のトレント、右手の触手を巧みに操り、シン選手の朧を追いつめていくぞ」

 生物の如くうねる触手は縦横無尽に動き回る朧を的確に追尾してくる。真の太刀朧によりHPに差をつけたとはいえ、絡めとられたら容易に逆転を許してしまう。

 もちろん、逃げに徹するだけではなくいざとなれば反撃も試みようとしていた。しかし、気もそぞろになったところ、足元に樹のツルが巻き付いてしまった。


 それを契機に、両手両足を木の枝で捕縛されてしまう。拘束される美少女というかなり危うい場面ではあるが、戦局もまたシンにとっては危うくなっていた。

「おっと、トレントの減少したHPが回復していく。これはどうしたことだ」

「トレントのドレインウィードだろう。トレントは体力を吸収する技を得意とするからな」

 ミスターSTの解説通り、ミハルは減少した体力を補おうとドレイン技を狙っていた。

「スキルカード吸引バキューム。体力吸収系の技を使った際、より多く体力を回復する」

 更に、スキルカードの援助により全回復さえも目論んでいるようだ。それ以前に、このまま体力を吸われ続けていては朧の方が先に力尽きる恐れもある。


「いつまで拘束してるつもり、この変態。エンチャントスキルカード村正。朧、目にもの見せてやりなさい」

「御意」

 怒りを内包しつつも淡々とした口調でシンは妖刀を装備させる。体力が減少しているほど威力が増す呪いの剣。手首のスナップを利用することで、どうにか右腕の拘束を断ち切る。片腕でも自由になれば朧の意のままであった。

「真の太刀朧」

 不規則な軌道を描いた太刀筋は、そのまま大蛇を模した真空波へと変換される。それも先ほどよりも巨大だ。蛇行しながら迫り来る大蛇にトレントは為す術もない。なにしろ、朧を捉えるのに躍起になり、回避行動が追い付いていないのだ。


 折角回復した体力をも根こそぎ奪う渾身の一撃が炸裂する。ようやく拘束から解放された朧が目にしたのは、地面に横たわる対戦相手であった。

「逆転の一撃が決まった。勝者はシン、そして朧選手。前回大会と同じく決勝戦へと駒を進めたぞ」

 縛られていた両手を揉みほぐしていると、シンが歩み寄ってくる。朧は口角をあげ、自らのマスターとハイタッチを交わした。彼女が決勝に進んだことで、東都に赴きケビンの情報を得るという当初の目的を果たせる可能性が高くなった。ただ、シンと朧の本当の狙いは別にある。決勝戦を彼女らが望む最高の舞台にできるかどうかは、次の一戦にかかっている。


 その一戦に登壇するライムは正直焦っていた。丁度テトたちがダイナドラゴンという新たな強敵と出くわした頃であり、次の試合での合流は絶望的であった。下手をすれば、決勝戦までも単独で挑まなくてはならない。相手が朧だけに、ライムだけで戦うのは心元なかった。

 それでも、最低限次の試合は勝ちあがらなくてはお話にならない。ただ、相手はモンド・レイという得体の知れない相手。美少女モンスターを使用していないにも関わらずここまで到達した実力者だ。会場内の熱気は高まる一方だが、ライムは怖気づくことなくステージへと姿を現した。


 対戦に臨むライムはもちろん緊張していたのだが、彼女以上に緊張していたのは実は、運営たちだった。

「田島さん、本当にあの人の出場を許してよかったんでしょうか」

「断ったらこれからの取引に響くからな。取締役からも特例として認めろとうるさいのだよ」

 解説用のマイクの電源を切り、ミスターSTこと田島悟は頭を抱える。実況には参加していないのだが、背後には秋原が控えていた。

 彼らが頭を悩ます理由。それはドモン・レイの正体にあった。単刀直入に言うと、彼の正体はレイモンドなのである。

 なぜ、明らかに子供ではないレイモンドが小中学生を対象としたゲームの大会に参加できているのか。話は東海大会再開催の数日前に遡る。



 ケビンの乱入により散々な目に遭ったレイドボスイベント。打倒ライムに燃えていたレイモンドはお冠だった。

「許すマジ、ケビン。ライムを倒すのはこのワタシなのに」

 何度も机に拳をうちつけるので、備品を破壊されないか田島悟は内心ハラハラしていた。

「おまけに、あのムドーという坊やも許せマセン。ワンパク小僧たちにはワタシがお仕置きする必要がありマス」

「しかし、お仕置きといっても彼らと直接対決する機会なんてそうはありませんよ」

 秋原の指摘にレイモンドは睨みを利かせるが、彼の言うことも尤もだった。素直に全国対戦を繰り返して、意中の相手と巡り合える可能性が低いことはレイモンドも十分に承知していた。


 それでも、どうにかライム、そしてムドーと再戦する方法はないものか。思案を続けるレイモンドであったが、ふととんでもないことを発案した。

「そうデス。ワタシが東海大会に出ればいいのデス」

「ちょっと待ってください。あの大会は小中学生、それも東海地区に住んでいる者が対象。レイモンドさんは明らかに出場条件を満たしていないでしょう」

「問題ありまセン。やり直しの大会は完全にオンラインで実施されマス。アバターでしか使い手は判別できまセンから、ワタシが紛れていても気づかれまセン」

「確かに理屈上は参加可能だが、資格がないものを参戦させるなど、運営として認めるわけにはいかんな」

 やろうと思えば年齢を詐称して参加することもできるのだが、田島悟がむざむざと暴挙を放置しておくわけがなかった。


 しかし、レイモンドもまた簡単には引き下がらない。手元にあった雑誌を握りしめると、いたずらっ子の笑みを浮かべた。

「いいのデスか。我が社のセキュリティシステムはユーたちの会社では大切にしているのでショウ。それを失うのは痛手ではないのデスかね」

 その一言に田島悟の顔がゆがんだ。マクロソフトとは創業当時より取引があり、業界随一のセキュリティシステムを失うのは会社としては避けたいところであった。個人的な感情で重要な取引先を潰したと知られたら、上から何を言われるか分かったものではない。


 悩んだ末、出した結論は、

「よかろう。どうせ拒否してもシステムを改ざんして忍び込むつもりだろう」

 苦渋の決断であった。不正参加を認めるのは癪だが、ライムを消すことができればケビンの野望を挫けさせることができるかもしれない。有頂天となるレイモンドと対照的に、田島悟は険しい顔で窓の外を覗いていた。


 もちろん、そんな裏事情を知らないライムは、相手を謎の外人プレイヤーだと捉えていた。

「次の相手は、えっと、日本人じゃないわよね」

「イエス、生まれはアメリカのテキサスデス」

 レイモンド当人は肥満気味の男であったが、アバターはスマートで金髪なアメリカ人となっている。よもや、大人が参戦しているとは思いもよらず、帰国子女が相手だと推測する他ない。


「ライム。ユーを倒すためにここまで勝ち上がってきマシた。ワタシの最強のパートナーをお見せしマス」

 言うが早いか、ドモン・レイは指を鳴らして魔法陣を出現させる。光に迎えられ、最初に覗いたのは蛇の眼だった。カエルでなくても身がすくみそうな眼光に、さすがのライムも数歩後退する。そして、へびつかいの笛の音に合わせているかのように、全身をくねらせながらバトルフィールドへと登場した。

 黄土色の鱗に覆われた、体長五メートル近い大蛇。小動物であればゆうに丸呑みにできるあぎとを開き、ライムを威嚇する。

「どうデス。ワタシのグランバイパーデス」

 テトと練習で挑んでいた全国大会で幾度か対面した相手だ。得意な土属性なので、有利に戦うことはできる。しかし、ここまで勝ち残ってきたのだ。そんじょそこらのグランバイパーとは違うことは容易に想像できる。


 お互いにバトル前にステータス補正がかかる。ただ、一対一のタイマンとなるため、最終的に条件は五分だ。

「さあ、両選手とも準備は整ったようだ。東海地区大会準決勝、ドモン・レイ選手対テト選手。バトルスタート」

 ファイモンマスターの掛け声に合わせ、開戦のブザーが鳴り響いた。

モンスター紹介

トレント 自然属性

アビリティ 光合成:フィールドが「森林」の時、毎ターン体力を回復する

技 ドレインウィード

巨大な樹木が意思を持ったモンスター。

ドレインウィードを中心に体力を吸収する技を得意とする。フィールドが森林だと勝手に体力が回復するのでうざいことこのうえない。

樹木ゆえに動きが鈍いというのが突破口か。

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