事件の黒幕とジオドラゴンの最悪進化
仕事関係で忙しいわりにポケモンGOにハマって更新遅れてごめんなさい。
だが、彼らの指が触れ合った途端、ライガオウが唸りをあげた。ルゥとバステトも険しい顔で木々の間を注視している。雑草を掻き分ける音が響き、何者かが迫ってきていることがいやおうなく感じさせられる。
「我を欺こうとは舐めた真似をしおる。このままだまし通せるとでも思っておったのか」
耳に残る老獪な声。一陣の風により、細長く茂る雑草が薙ぎ払われる。その間より覗いたのは天使かと見紛う少女だった。
「パムゥ」
テトは知らぬ間に声をあげていた。全容を現した少女パムゥは巨大な翼をはためかせた。
「なぜ、あなたがこんなところに」
ハルカの額から一筋の汗が伝う。ルゥたちは依然として警戒の唸りを発していた。テト達がいるエリアはおそらくパムゥが独自に構築した隠しフィールドの一部。監視システムを仕掛けられていて動向が筒抜けだったという可能性も有り得る。だが、現実はもっと単純であった。
不気味な笑い声をあげながらジェリーがパムゥの隣に並び立つ。パムゥはそっとジェリーの頭を撫でた。その様子を前に、テト達は決定的な過ちを犯していたことに気付いた。
「この私を無視するなんて愚かね。ルゥ、あんたは最初から臭いと思っていたのよ。だから、パムゥ様に居場所を報告していたってわけ」
「話が違うじゃない。あんた、私たちに協力するって言ったわよね」
ルゥが憤るのも尤もだった。ジェリーはバトルに敗北した後、ハルカが予め指定したエリアまで案内した。つまり、予めハルカと約束してテトとパムゥを対面させないようにしていたはずなのだ。
「我が洗脳術を甘く見たの。そなたにかけた洗脳が解けたことは把握済み。じゃから、残る先兵にはより強力な洗脳を施しておいたのだ。従順そうにさせて、本心は我に忠誠を誓う。そんな器用な真似もできるというわけだ」
「結局、あんたを欺いたようで、最後まで手のひらで泳がされていたってわけね」
ルゥが悔しそうに吐き捨てる。作戦を立てるにあたってはパムゥの方が何枚も上手だったということである。
改めて敵の狡猾さを突きつけられてしまったが、テトにとってはむしろ好都合であった。落胆を隠せないハルカに反し、挑戦的にパムゥと対面している。
「お前の方からやってきてくれるなんて好都合だぜ。折角の大会を邪魔しやがって。この落とし前はつけさせてもらうぞ」
宣戦布告を受け、パムゥは悠然と腕を組む。相変わらず斜に構えた態度を崩すことはない。それどころか、挑発するように人差し指を立てた。
「我の作戦を警戒し、ライムの替え玉を用意していることぐらいお見通しじゃ。だから、そこの小娘には用はない」
「用がなくて悪かったわね」
ミィムが憤慨するが、パムゥは彼女ではなくジオドラゴンを一瞥する。
「どれ、ライムを引きずりだしてやるとするかの。丁度、我が目的に必要となりうる手駒がおることだし」
カードゲームで手札を広げるような所作を披露すると、パムゥの右手に五枚のスキルカードが展開した。その内の一枚が勝手に浮上していく。絵柄がはっきりとするや、テトは息を呑んだ。そこには人間の脳みそが描かれていたのだ。
「スキルカード洗脳。ジオドラゴンよ、我が配下に戻るがいい」
カードより脳みそが召還され、更に二本の腕が伸ばされる。頭をわしづかみにされ、ジオドラゴンは苦悶の叫びをあげる。必死に振り払おうとするも、魔手はしっかりとしがみつき、決して放そうとしない。そもそも、スキルカードは回避不能なので、ジオドラゴン単独ではどうにも対処できないのだ。
「ハルカ、ジオドラゴンは君の手持ちということになっているはずだ。ならば、対抗を使えば洗脳を消せるはず」
「そ、そうね。スキルカード対抗」
テトの提案を受け、ハルカはスキルカードの効果を打ち消すカードを発動する。しかし、カードより放たれた光は途絶えてしまう。何事かとパムゥに視線を移すと、彼女もまたスキルカードを発動していた。
「邪魔はさせぬ。スキルカード対抗」
同様の効果を持つカードにより、ハルカの妨害工作は失敗に終わってしまう。テトは追撃しようとしたものの、ミィムが攻撃対象にならない限りパムゥに手出しができない。為す術もなくジオドラゴンは目の色を変え、凶暴な唸りを発していた。
ルゥでさえもたじろいでいることから、ジオドラゴンは完全にパムゥの元に下ったようである。にわかには信じがたかったが、パムゥが左手を広げるや、ジオドラゴンの口にエネルギー弾が充填される。「危ない」とテトが叫ぶや、一同は銘々に地面に伏せた。一瞬後、彼女らの頭上をエネルギーの波動である「ガイアフォース」が通過した。
「どうじゃ、ジオドラゴンの力は」
「いい気になるんじゃないわよ。こっちには私の手持ちの三体とテトのライムがいる。あんたらはジェリーも合わせると三体。戦力差としてはどっこいどっこいになっただけじゃない」
ハルカの指摘する通り、単純なモンスターの頭数で比べるなら四対三。条件としては互角であるはずだが、パムゥは勝ち誇ったように見下していた。
「烏合の衆という言葉を知らぬようだな。木偶の坊が集ったところで我の足もとにも及ばん。まあ、我が手を下すつもりもないがの。ケビンのやつと共同開発したこのカードの威力を試してやるわ」
そう言って、手札の中央に位置していたカードが浮かび上がる。絵柄がはっきりと示されるやテトは愕然とした。
数あるスキルカードの中でも最も警戒すべきとされている強力無比な代物。だが、一方で本来ならこの局面では無意味のはずの一枚であった。
「スキルカード融合」
発動したのは特定モンスター同士を融合させ、新たなモンスターを生み出すカード。これにより大幅に能力値が上昇するうえ、体力が完全回復してしまう。しかし、基本的に似たような形質のモンスター同士でないと効果がない。パムゥは天使族でジェリーは不定形、そしてジオドラゴンは龍族だ。ハルカの手持ちならともかく、パムゥ側に融合可能なモンスターは存在しないはずであった。
「血迷ったわね。ジェリーとライムなら不定形同士で融合できそうだけど、そもそも敵のモンスターを融合素材になんてできない。完全にスカカードじゃないの」
ハルカは鼻で笑うが、パムゥは意に介していないようだった。堂々と無意味なカードを使うというのも不気味ではあるが、テトは確信していた。パムゥは決してスカカードを使用しているわけではない。
カードの対象となったのはジオドラゴンであった。赤色のオーラがまとわりつき、高々と雄たけびを上げる。これまでおっさんの形態を保っていたのだが、たまらず元のドラゴンの姿へと戻ってしまう。
この場でドラゴンはジオしかいない。一体どいつと融合させるつもりなのか。緊張が高まる中、ジェリーが一歩進み出た。
「普通なら融合相手がおらずスカとなってしまうがの。我が力を以てすればこんなこともできるのじゃ」
パムゥが指を鳴らすと、ジェリーは軽く地面を蹴って跳躍する。すると、彼女の全身が発光した。気を付けの姿勢を維持していると首と両脚が瞬く間に伸長していった。
元の三倍以上の体長まで成長したジェリーは空中でとぐろを巻いていく。長髪はそのままたてがみへと置換された。可愛らしい少女の面影はなく、醜悪な蛇の顔を顕わにしている。鱗を陽光に反射させて輝かせているそいつは「ウミヘビ」と称するしかない代物であった。
「そなたらなら知っておるだろう。ウミヘビのモンスターサーペントじゃ。こやつもまたドラゴン系のモンスターに分類されている」
サーペント自体はテトも知るモンスターであった。水属性で毒や拘束攻撃といった嫌らしい技を得意としている。相手にしたくないモンスターではあるが、問題はそこではない。ウミヘビ故にドラゴン系統だと分類されている。そして、フィールドには融合待機状態のジオドラゴン。以上から示される最悪の展開は言わずもがなである。
パムゥの手持ちカードから発せられた青の光がサーペントに変貌したジェリーに降り注ぐ。彼女の全身が再び光へと還元され、ジオドラゴンの体内へと吸い込まれていく。
ずっと苦悶の叫びを発していたジオドラゴンであったが、その激しさがより一層増していった。聞いているだけで胸が苦しくなる。どうにかしたくても、スキルカードを打ち消すのならば「対抗」を使うしかない。しかし、既にパムゥによって打ち消され、実質対処法がない状態だ。
喘ぐ一方であったジオドラゴンだったが、身にまとっている光が収まって来ると同時に肉体に変化が生じ始めた。二対の翼が肥大化し、あぎとより覗く犬歯がより太く、鋭くなっていく。全身を支える四肢が盛り上がり、鱗が刃のように鋭利に変質する。たてがみから尻尾にかけてサーペントに由来する体毛が生えそろう。個々の変調を受け、全身が一回り大きく成長していった。
ひときわ大きな咆哮をあげたそいつはジオドラゴンとは似て非なる存在であった。ジオドラゴンの面影を残しているものの、威圧感はこれまでの比ではない。簡単に形容するのであれば、ジオドラゴンが進化した姿とでもするべきだろう。
「どうじゃ。これこそ我が融合の神髄。強制的に融合させることで生み出された最強のドラゴン。名づけるのならばそうじゃの、ダイナドラゴンとしておくか」
ジオドラゴン改めダイナドラゴンは血走った眼でテト達を見下す。その雄々しき姿にただただ圧倒されるばかりであった。
モンスター紹介
サーペント 水属性
アビリティ ヘルパラライズ:相手が麻痺状態になった時、行動不能になる確率が上昇する
技 ミステリアスアイ ダイダルウェイブ デススパーク
巨大なウミヘビのモンスター。
水属性版グランバイパーともいわれ、補助技を絡めた嫌らしい戦いを得意とする。特に、相手を麻痺状態にする技を主軸にしている。
また、水属性でありながら雷属性の技も使えるので、思わぬ奇襲を喰らうこともある。




