株式会社ゲームネクスト
東都の多賀谷区にあるキュロットビル。その二十二階に株式会社ゲームネクストがオフィスを構えていた。
オンラインゲームの開発を主軸に業務展開していたのだが、設立当初はこれといったヒット作を提供することができずにいた。業績が傾いてきた頃に発表したゲームが空前の大ヒット。今では任天堂やガンホーといった歴代のヒット作を作り出して来た企業と肩を並べるほどにまで成長している。
そんな経緯から「ゲームネクスト」を救ったゲームとも評されているのがご存じファイトモンスターズである。
そのオフィスの一室、二対の長机が並べられ、最奥に巨大なモニターが備えられた会議室に数人の社員が集っていた。白髪の混じった初老の男性から、まだうら若い女性社員まで年代は様々である。ただ、彼らに共通しているのは、プログラミングやグラフィックといったそれぞれの部署のトップであるということだ。
「次世代のゲームをつくる」を社訓として構えるゲームネクストは、積極的に新技術をゲームに投入していくという点で同業他社と差別化を図っていく。それは社風にも反映されているようで、優秀な能力があれば若手でもプロジェクトリーダーになれる実力主義が浸透していた。
ここにいるのは、いわばそれぞれの部門のトップに立つ精鋭社員たちであるが、それを束ねているのがモニターの前に立つ黒縁眼鏡をかけ、背広を着こなした三十過ぎの男性社員だ。彼の名は田島悟。ファイトモンスターズのチーフプロデューサーであり、このゲームの生みの親といっても過言でもない男である。
「全員そろったようだな。では、ファイトモンスターズチャンピオンシップに向けたイベント企画会議を行う」
田島がそう号令すると、モニターにパワーポイントで作成された議題が表示される。ゲーム中で幾度となく開催される限定イベント。その内容を決める会議が始まろうとしているのだ。
今年で二回目となるチャンピオンシップの開催に合わせ、その連動イベントを行うということで主要な議題はまとまっていった。現在主流な戦法となっている速攻攻撃に対抗するため、耐久力に優れたモンスターやフィールド操作のスキルカードを新規投入する予定である。
「やはり、スミロドスやギルシャークを使ったプレイヤーが上位を独占するんじゃないですかね」
達観して語るのはプログラミング担当の秋原だった。年のころは田島とほぼ同じだが、生真面目なサラリーマンという印象の田島とは打って変わり、ちょいわる親父という愛称が似合いそうなワイルドな男である。
「それじゃ面白みがないから、今回のイベントでバランス調整をかけるのだろう。フィールド操作の新スキルカードはアニメとも連動させやすそうだしのう」
豊満な顎鬚を弄りながら、初老の男性園田が答える。元々は子供向けアニメのシナリオライターとして活躍していたのだが、田島が目をつけ、ストーリーモードのシナリオ担当に抜擢した。現在はアニメ版ファイトモンスターズのメインライターも担っている。
「トラとかサメとか男の子受けしそうなモンスターばかり流行しているから、そろそろ可愛い系のモンスターも入れたいのよね。耐久型のハムスターモンスターなんかはイチオシよ」
紅一点かつ最年少である木下がウインクを飛ばす。新卒でこの会社に入社し、類まれなグラフィックの才能であっという間にリーダーの座に着いたキャリアウーマンだ。学生時代にイラストのコンクールで幾度か優勝した経歴をもっており、田島が彼女を採用した時もそれが決め手になったという。
「とはいえ、スミロドスの戦法が発見されてから長いことそれが主流になってるわけじゃないっすか。このまま本大会まで流行が続くのが濃厚なんじゃないっすかね」
木下よりも年上だが、男性陣の中では最年少である黒田が頬づえをついて発言する。サラリーマンよりもロック歌手をやっていた方が様になっていそうな男だ。担当しているのがサウンドというのもそれを後押ししている。
会議もまとまり、そろそろお開きといったところで、唐突に秋原が挙手した。資料をまとめていた他の社員は怪訝に彼を見遣る。
「田島さん、そういえば妙な噂が流布しているってご存知ですか」
「どんな噂だ」
「これなんですけど」
ノートパソコンを広げ、とあるページを最奥のスクリーンに映し出した。それは大手掲示板2ちゃんねるのファイトモンスターズについてのスレッドであった。「ファイモン対戦考察版」とあり、全国対戦で主流の戦法などについてユーザーが話し合うスレッドである。悠斗はよくこの掲示板をチェックして、話題になっている戦法を徹人相手に披露している。
その最新の書き込みで、とあるモンスターが議題になっていた。
765 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:27:32
そういえば、全国対戦でこんなモンスター見かけたんだが、知ってるやついる?
追加配信されたやつだと思うけど、どこにも情報ないんだよね。
その下にファイトモンスターズの対戦のスクリーンショットへのリンクが記載されており、秋原はそれをクリックする。そして映し出されたのは、長い髪をたなびかせ、指先からバブルショットを放つ彼女。カチューシャをつけたその姿は紛れもなくライムであった。
それを受けて更にスレッドは続く。
768 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:34:12
>765
こんなモンスター見たことないぞ。ガチャ産のキャラじゃないかな。
っていうか、普通に欲しいんだがww
769 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:38:19
俺、このモンスターと戦ったことあるけど、滅茶苦茶強かった。スミロドスとかが可愛いレベルの火力出してたし。
770 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:38:54
詳細希望
771 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:40:00
>770
防御重視のゴウラタートルで挑んだけど、いきなりスタンガンアームされてHPを半分以上削られた。単体同士で能力が上がっているにも関わらずだぞ。
相手もスキルカードで強化してきた様子もないし、正直異常だった。
772 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:41:11
ゴウラの体力を一撃で半分削るってチートすぎだろwww
あいつ、婆さん使ったスミロドスのライファでも余裕で耐えきるぐらい固いぞ。
婆さんとはスキルカード「狂化」を指すネットスラングである。ゴウラタートルはスミロドスの攻撃力を二倍近く上昇させて攻撃したとしても、HPを四分の一ほど残して耐え切るほどの耐久力を誇る。それに対して、一切攻撃力を上昇させずにHPを半分削ったとしたら、攻撃力はライムの方が上ということになる。
778 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:49:29
上で話題になってる謎のモンスターと俺も戦ったことあるけど、確かライムって呼ばれてた。
信じられるか、あいつAI搭載なんだぜ。
779 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:50:01
>778
ジオドラを遥かに超える火力ってAIモンスター始まったな。運営はAIがゴミって言われ続けたからついに本気出してきたか。
780 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:50:59
>779
火力重視の戦法が非難されてんのに、更に火力が上のモンスターを突っ込むほど運営はアホじゃないだろ。っていうか、どう考えてもスミロドスを超える火力を素で出せるってのはおかしいし。
もしかすると、バグとかチートなんじゃねえの。
781 通りすがりの名無しさん 2035/10/21(日)17:52:11
これだけ強力なモンスターを追加するなら、公式でアナウンスがあって然るべきだし、バグの可能性が高いと思う。
こいつの使い手はさっさと運営に報告しろって話だが、運営もこいつをいつまでも野放しにしとくなよ。
その後は、ライムが公式配信されたキャラかあるいはバグかの議論になったが、最終的にはバグという説が濃厚になっていった。スレッドを読み終え、田島は顎に手を当てて唸った。
「木下、お前こんなモンスターデザインした覚えあるか」
「ないわよ。そりゃ、可愛いモンスターを入れたいとは思ってたけど、こんなオタク受けしそうな美少女なんて考えもしなかったし」
「僕としても、スミロドスを超える火力のモンスターなんて設計した覚えはありませんね。さっきの会議で耐久型のモンスターを増やそうって結論に至ったばかりですし」
ステータス面を設計しているプログラマーと、グラフィック担当はこぞって知らないという。そもそも、田島自身もこんなモンスターを追加しろと命じた覚えはなかった。
モンスター紹介
ゴウラタートル 水属性
アビリティ メタルアーマー:相手の攻撃を受けた際にクリティカルが発生することがない
技 スピンクラッシュ
圧倒的な防御力を誇る亀のモンスター。苦手な属性であるはずのスミロドスの攻撃を受けても余裕で耐えきるほど固い。
現在主流である速攻戦法に対抗できるモンスターとして、上位ランクのプレイヤーにも重宝されている。




