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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
4章 ハルカの思惑! ジオドラゴンの昇華!
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ハルカの裏事情

私情で少なくとも7月いっぱいは亀更新になってしまいそうです。

 ライガオウから少女の姿に戻ったミィムはテトの傍に寄り添う。

「やったわね」

「ああ。正直、ギリギリの戦いだったぜ」

 ハルカが右手を広げて待ち構えていたので、テトは軽くハイタッチを施した。実のところ、ミィムではなく本当にライムを操っていたのなら、グレドランに変身して「ネバーギブアップ」のアビリティで攻撃力を上昇、海賊版で逆鱗をコピーして一網打尽という戦法をとることができた。実際に与えるダメージからするとそちらの方が上だからである。ただ、せっかく勝利したのにそんな遺恨があってはミィムに失礼である。胸の内を悟られぬよう、テトはしきりにミィムの頭を撫でていた。


「危ない」

 一安心して気を抜いていたところ、急にハルカから声がかかった。テトがはっとして頭を上げると、ルゥが爪を広げて襲いかかってきていた。更にジオドラゴンも拳を握っており、背後でいつでも飛び出せるように控えている。

 テトはとっさにミィムを庇うように抱きかかえる。モンスターはプレイヤーに対して危害を加えることはできない。そもそも、バトルが成立していないのでダメージが発生することもない。それでも、本来ならば上半身をズタズタに引き裂かれかねない一撃に、本能的に恐怖を感じる。

 じっと目を閉じたまま背中に力を入れる。しかし、いつまで経っても斬撃が襲ってこない。テトの腕の中で不安そうにミィムも体を縮めている。生殺しにされているような気分でじっといくばくかの時を過ごした。


 すると、テトの肩が優しく叩かれた。警戒しつつも振り向くと、破顔したハルカが立っていた。その傍ではルゥも爪をしまって腕を組んでいる。人懐っこそうな顔つきに邪気を感じることはできなかった。

「芝居はこの辺でいいでしょ、ハルカ」

「ええ、上出来よ。彼らの実力は十分に図ることができたわ」

 どうにも聞き捨てならないセリフを耳にし、テトは眉をしかめる。咄嗟に立ち上がって距離を取るが、ハルカたちは友好的な態度を崩すことはない。怯えてばかりのミィムもゆっくり立ち上がり、テトの上着の袖を握った。


「芝居ってのはどういうことだ。ルゥを洗脳されて奪われたんじゃないのか」

「洗脳されたこともあったわね。でも、今はいたって正気よ。あなたの協力を得るため。そして、敵の目を欺くためにわざと敵対しているフリをしていたの」

「それじゃまさか、僕に助けを求めたのって」

「実は、あなたに接触した時点で芝居は始まっていたわね。事実上、あなたに嘘をついていたことになるけど」

 表面上は申し訳なさそうにしながら、ハルカは頭を下げる。だが、これまでの出来事がすべてハルカとルゥの策略によるものであるのなら、どうにも許すことができなかった。次第に食いしばる奥歯に力がこもってくる。


 なにせ、現在進行形で東海地区大会が開催されているのだ。東北地方の代表者がその事実を知らないわけがあるまい。意図的に大会出場の邪魔立てをするつもりであったのなら、ここで彼女らと決別するのも辞さない覚悟だった。

 しかし、テトの怒りを収めたのは意外な存在であった。

「テトよ。ハルカとルゥのことは許してやってくれぬか」

「ジオ! お前までこいつらの肩を持つのか」

 ハルカの隣に並び立ったのはジオドラゴンであった。未だ操られていて彼女らの弁護をするつもりであろうか。しかし、ハルカに倣って頭を下げる姿に悪意は感じられない。警戒を緩めることができずにいるテトに対し、ジオドラゴンは話を続ける。

「我もまた洗脳は受けておらん。そう断言すると語弊があるが、少なくとも今は正気である。ハルカ嬢の意思を汲み、諸悪の根源を断つために協力していただけだ」

「この事件の真犯人を倒すって目的は分かったけど、いまいち何をどうしたらこの状況になるのかってのが分からないんだよな」

「断片的にしか説明していないからそうなるわよね。ハルカ、一から話した方がいいんじゃない」

「そうね。そうした方が信じてもらえると思うし」

 頭を上げたハルカは路傍の石に腰掛けた。長話になることを予感し、テトもまた近くの木に背を預ける。



 事の発端は約一か月前。テトたちがイナバノカミのレイドボスイベントのテストモニターを終えた頃であった。折しも、東北地区の予選大会も決着がついており、ハルカは優勝の余韻に酔いしれていた。

 全国大会に向け、調整も兼ねて対戦を繰り返していた時、見知らぬ相手より挑戦を受けた。使い手のアバターが表示されていないが、正常に戦闘は受け付けられている。不審に思いつつも、ハルカはその対戦を受諾した。

「そして、現れたのは天使みたいな装束をした少女だったの」

 その頃、ハルカの最大のパートナーであるルゥは四足歩行の狼ソニックウルフのままであった。ルゥが尻尾を立てて威嚇するのを前に、天使の少女は余裕の笑みを浮かべていたという。

 その特徴を耳にし、テトには思い当たる存在があった。

「もしかしてそいつってパムゥか」

 此度の事件の黒幕の最有力候補。と、いうより、そうとしか考えられない相手。ケビンのパートナーであるモンスターだ。


 ハルカがケビンと既に接触していたという点でも驚きだが、テトはそれ以上に気になることがあった。彼女の発言には大きな矛盾が発生しているのである。

「ちょっと待てよ。確か、ルゥは猫耳のモンスターに奪われたって言ってなかったか」

「私もそう聞いた。まさに異議ありだよ」

 裁判を題材にしたゲームの主人公よろしくミィムは指を突きつける。初対面の際、実際に場に出ていたのはライムであったが、ミィムは控えにいる間に盗み聞きしていたのであろう。

 あまりにも決定的な指摘にうろたえるかと思いきや、ハルカはあっけらかんと反論した。

「ごめんなさい。猫耳のモンスターに襲われたってのも嘘よ」

「嘘ってどうしてそんな」

「パムゥに襲われたなんて話したら、あなたを直にケビンのところまで連れていくしかなくなるじゃない。その前にワンクッション入れたかったから、正直には言えなかったの」

「そこらへんの事情はこれから追って説明するわ」

「うーん、よくわからないけど、結局猫耳のモンスターって何者なの」

 ミィムが尤もな疑問をぶつけると、ハルカは右手を広げる。


 魔法陣が展開され、そこから現れたのは現在話題となっている猫耳であった。勢いよく飛び出してきたそいつの見てくれは少女そのもの。しかし、ぱっちりと開いた大きな目に、せわしなく動く細い尻尾と人間の少女には似つかわしくない器官が備わっていた。彼女を称するなら「猫娘」とするほかない。毛づくろいのつもりかしきりに腕を舐めまわしており、その所業もまた猫そのものである。ミィムがちょっかいを出そうと手を伸ばすと、「シャー」と威嚇された。

「もしかしてこいつって」

「私の手持ちモンスターバステトよ」

 少女のなりをしているが、ウイルス能力は有していない。エジプト神話に登場する猫の神がモチーフだが、どう見ても猫耳美少女という定番萌えキャラと化していた。


 ファイモンでは戦闘時に三体まで参戦できるので、いつも使用している手持ちの内の一体に汚れ役をお願いしたというのが真実のようだ。汚れ役ということであればルゥもまた同様ではあるが。

「話が脱線してしまったけど、パムゥと戦った時のことね。やつはスキルカードの傀儡を駆使して攻めてきたわ。手持ちの三体のモンスターを総動員したけど、まったくもって歯が立たなかった」

「大会の優勝者でも歯が立たないって、あいつどれだけ強いんだよ」

 パムゥとは対面したことはあるが、まともに手合わせしたことは一度もない。ただ、大会優勝者のモンスターを手駒にできるぐらいだ。とんでもない実力を持つとみて然るべきだろう。

モンスター紹介

バステト 炎属性

アビリティ 豊穣の女神:毎ターン一定確率で状態異常を回復する

技 マジカルフレア

エジプト神話に出てくる猫の神がモデルとなったモンスター。

一応神様なのだが、その外見は近年の萌えアニメに出てくる猫耳美少女でしかない。元からこんな姿なので、ライムのようなウイルスの能力は持っていない。

愛玩用かと思いきや、状態異常を回復する能力や威力の高い炎技を使いこなすなかなかの実力者である。

ちなみに水木しげるの漫画に出てくるねずみ男を追い回している娘とは何ら関係はない。

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