タッグバトル VSジオ&ルゥその2
距離を置いていてもなお圧迫感のあるエネルギー弾。実際に放たれたらどうなるか、想像するのもおぞましい。本能的に後退してしまうミィムとライガオウを尻目に、ジオドラゴンは威勢よく掛け声を発する。それを合図に破壊光線が発射された。
しかし、テトとハルカは同時に防御用スキルカードを使用する。
「スキルカード硬化。ライムの防御力を大幅に上げる」
「スキルカード残像。ライガオウ、回避して」
ミィムの全身が鋼鉄状に輝き、そのまま光線をやり過ごす。直撃を受けたとしても、九死に一生で耐える寸法がある。このカードを使ったのは防御力を上げることでダメージを軽減し、ミィムの負担を減らすためだ。そうすることで確実にアビリティを発動させるのに集中してもらうことができる。事実、アビリティのお陰かミィムは残りHP一で踏みとどまった。
一方、ライガオウは見事な足さばきを披露し、易々と光線を躱す。元々素早さが上昇していたうえ、カードの効果で回避性能を上乗せさせたのだ。しかも、次のターンに追加攻撃権を得ている。
必殺の一撃が空振りに終わり、ジオドラゴンは舌うちをする。安堵するテトだったが、ハルカは早くも反撃に転じていた。
「残像の効果を有効活用させてもらうわよ。こちらもスキルカード満月を発動。ライガオウの攻撃力を更に上昇させる。そして、最後のスキルカード。エンチャントスキルカード火炎爪。早駆の代わりにフレイムクローを発動可能にする。あなたたちは揃って炎属性が苦手だから切り札に取っておいたのよ」
ライガオウの前脚が燃え盛る。それは月光により煌びやかに輝いていた。相手の致命的な弱点を見極め、温存していたカード。手札をすべて使い切ったことからも裏付けられる通り、彼女もまたここで勝負をかけるつもりだ。
木々の間をかいくぐり、ライガオウは疾走する。前脚の炎が風になびき、さながら火炎弾が突貫しているようである。目標は迷うことなくルゥ。彼女は辺りを注視していたが、やがて気配を察知して爪を伸ばす。しかし、時すでに遅しだった。迎撃態勢を整えた時には既に、ライガオウの火炎の爪が肉薄していたのだ。
追加攻撃も合わさり、ルゥの体力は一気に削られる。そう期待していたハルカだが、数秒後に期待は裏切られることとなった。
「スキルカード身代。我に攻撃を集中させる。そして、スキルカード無効」
カードの発動と同時にライガオウの軌道が強制的に修正させられる。矛先はジオドラゴンに向けられ、その上牙が肉体に到達する寸前に特殊バリアによって防がれてしまう。
身代は複数体同時バトルでのみ効果を発揮するカード。その名の通り、使用者にすべての攻撃を集中させる。加えて、いかなる攻撃も無効化するカードを組み合わせる。このコンボを人工知能が編み出したと考えると戦慄する他なかった。
愕然と立ち尽くすハルカを体現しているが如く、ライガオウは敵陣の中で停止してしまう。そんな恰好の獲物をルゥが見逃すはずはなかった。
「じゃあ、そろそろ消えてもらおっか。ソニックラッシュ」
爪を一舐めしたルゥは目にも止まらぬ速さで切り裂きを繰り出す。脇腹に切り傷を受け、ライガオウは苦悶の声を発する。あえてライガオウに効果の薄い風属性の技を選択したのは余裕の現れであろう。なにせ、クリティカルが発生し、これが致命傷となったのだ。
ライガオウが戦闘不能になったことで、敵の目標はミィムへと集中する。スキルカードで攻撃力が大幅に上がっている強敵が二体。明らかに身に余る相手であった。
「ライムよ。そなたの目論見は分かっている。どんな技でもアビリティで耐えようと考えているのだろう。だが、それは無駄な考えであるぞ」
「そうね。私たち二人が連続で攻撃すれば、いくらあんたでも耐えきれないでしょ」
迫り来る二体にミィムは怯えきっている。革命を使えば最悪一体は倒せるかもしれない。しかし、対抗を発動されたら無意味となる。ライムを目標としている以上、二体のうちどちらかが所有していると考える方が自然だ。それに、倒しきれなかった場合、もう一体から反撃を受けてお陀仏となる。
ならば、正攻法で落とすしかない。テトは意を決して天を仰ぐ。ハルカが召還した満月が未だ輝きを放つ。そのもとで彼女は戦いを終えたライガオウをいたわっている。爪に宿っていた炎が弱弱しく燻っていた。
その光景を目の当たりにしたテトはしっかりとライガオウを指差した。
「ライム、ハルカのライガオウに変身するんだ」
「またあのライオンさんに変身するの」
首をかしげたミィムであったが、軽く飛び上がると全身を輝かせる。空中で四つん這いの姿勢になると、全身が巨体化していく。華奢な細腕は大地を踏みしめる立派な剛脚となる。長髪をたてがみへと変質させ、牙を剥きだしにして咆哮を上げた。
フィールドに出現した二体目のライガオウ。よもやこんな手で攻めてくるとは思ってもみなかったのか、ルゥたちは瞠目して後ずさっている。
テトがわざわざ「ハルカの」と注釈したのには理由があった。ミィムが変身した個体の前脚には火炎爪が備わっている。ハルカの発動したエンチャントスキルカードを継承させたかったのだ。
「私たちが苦手な炎技を使いたいがためにライガオウに変身したってわけ。分からなくはないけど、それだけで倒せるなんて片腹痛いし」
「もちろん、それだけで終わりじゃないさ。スキルカード海賊版。こいつでハルカが発動した満月の効果を僕のライムにも適用させる」
満月の光を浴び、ミィムは高らかに遠吠えをする。既に使用したカードの効果を再現させる海賊版。それによりミィムの攻撃力を引き上げたのだ。
「いくぜ、ライム。フレイムクローだ!」
前脚を燃えあがらせ、ミィムはジオドラゴンへと突進していく。逆鱗で防御力が上がっているという自負もあり、ジオドラゴンはどっしりと待ち構えている。一方で目標から外れたルゥは斜に構えていた。
だが、テトは余裕を醸し出している彼女を放置するほど甘くはなかった。
「お前もまた餌食になってもらうぜ。スキルカード拡散」
「ちょっと、嘘でしょ」
ミィムが前脚を掲げて振り下ろすと、空気を切り裂く衝撃波が発生する。それは火炎爪の効力を受け炎の刃と化していた。そして、テトのスキルカードによりジオドラゴンのみならず、ルゥにまでも襲いかかる。
完全に油断していたルゥは刃によって胸を袈裟懸けに切り裂かれた。満月の効果で防御力が低下していたのが災いし、残り体力が一気に消滅してしまう。
耐久面に弱点を抱えていたルゥでならまだしも、ジオドラゴンも同じように倒せる見込みは薄かった。なので、フレイムクローが被弾する直前、テトは温存していたスキルカードを取り出す。
「スキルカード恐慌。動きの素早いルゥに対して使おうと思っていたけど、まさかお前に対してごり押しのために使うことになろうとはな」
「よもや、そんなカードを隠し持っていたか」
ジオドラゴンは驚愕し、顔を歪める。刃に先行して禍々しい巨大ドクロが巨漢の肉体を呑み込む。直接的なダメージはないが、体が強張り回避が不可能となる。しかし、テトの狙いはそこではなかった。恐慌のもう一つの効果。それは防御力を大幅に下げること。逆鱗で上昇させた耐久値を打ち消されてしまったらどうなるか。答えは空となった体力ゲージが示していた。
スキルカード紹介
身代
複数体同時バトルでのみ使用可能なカード。相手の攻撃を自分に集中させる。
防御力が弱いモンスターを補助する目的で使われることが多い。相手にとっては作戦が崩されてしまうので非常に厄介なカードだ。




