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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
4章 ハルカの思惑! ジオドラゴンの昇華!
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種明かしとルゥとの対面

今回のパスワードの元ネタはタマムシシティで151番目のポケモンが釣れる例の裏技です。

 力尽き、魔法陣へと迎え入れられていくへドラゴンをカズキは呆然と見送る。勝利を確信していたのに、寸でのところで逆転劇を披露されたのだ。フリーズしてしまうのも無理はない。

 我に返った時、彼の胸の内に湧き上がってきたのは理不尽さからくる怒りであった。

「見損なったぞ、テト! てめえ、インチキを使いやがったな」

 喚き散らすカズキにライムはたじたじとなる。どうにかテトの口調を真似しつつ反論する。

「インチキなんか使ってないぜ。ちゃんとしたスキルカードの効果だ」

「嘘をつけ。じゃあどうして革命が二連続で発動したんだ」

 最後の瞬間、両モンスターに発生した現象。それはテトの切り札である「革命」とそっくり、いや、そのものであった。しかし、そうだとしたら妙なことになる。ファイトモンスターズでは、最初の五枚の手札の中に同一のカードを入れることはできない。つまり、革命を二枚以上手札に忍ばせていたとしたら、その時点で反則負けということになる。


 だが、公式にこの不可思議現象を成立させられるカードが存在する。テトに向けられている疑惑を晴らすべく、ライムは一枚のスキルカードを提示した。

「スキルカード海賊版パイレーツエディション。使用済みスキルカードを指定し、それと同一の効果を使うことができる」

「そうか。そいつで革命をコピーしたのか」

 いわば、へドラゴンのリサイクルとほぼ同一の効果が得られるのである。リサイクルは技であるので何度も使うことができるが、復活させられるのは自分のカードのみ。一方、海賊版は使い捨てだが、相手のスキルカードまでもコピーすることができる。高等戦術でリサイクルにより海賊版を復活させ、相手のスキルカードを何度も使い回すというコンボもある。

 トラッシャーに変身してスキルカードをリサイクルするという戦法を使っていたのだが、最近になってようやく海賊版のスキルカードを手に入れたのでお披露目したというわけだ。なにせこのカード、最近配信されたうえ、レアリティが相当に高い。財力の少ない中学生が手に入れるのは至難の業だったのである。


「逆鱗を使い回して攻めていたが、まさか同じようにスキルカードの使い回しを喰らって負けるとはな。お前に勝つにはまだまだってことか」

「でも、正直危なかったよ。咄嗟に海賊版を使えなかったら負けてたし」

「いずれにせよ、俺も修行のやり直しだ。テト、来年だ。来年の大会こそお前を倒す。今度はこうはいかないからな」

「うん、楽しみにしてるよ」

 拳を突き出し、カズキは宣戦布告をする。負けじとライムは胸を張って応える。真っ当なライバルを相手に、テトと一緒に戦えなかったのは心残りだった。全力でぶつかっている相手にはこちらも全力で向き合うというのが礼儀だからだ。そんな意味でも、テトはできるだけ早く合流したい。

 しかし、テトの側は予想だにしない厄介な出来事に巻き込まれつつあるのだった。



 ジェリーに連れられ、テトたちは森の中を進んでいく。太陽光が遮られ、暗鬱とした影が周囲を覆っている。通常プレイだと草陰からいきなりモンスターとエンカウントすることがある。なので、テトはつい癖で雑草が生い茂る道端を注視してしまうのだった。

 野生のモンスターはおろか、トラップにすら遭遇しない。あまりに順調に進むことができ、逆に不安になってくる。

「なあ、本当にケビンはこの先にいるのか」

「黙ってついて来なさい。私、あまり陸地を歩くのは慣れてないから」

 元がクラゲのせいか、ジェリーの声は明らかに弱弱しかった。さすがに水棲系のモンスターが陸地に召還されると、呼吸困難で戦闘不能になるなんて細かすぎる仕様は採用されていない。とはいえ、水地が恋しくなっているのは自明であろう。


 道なき道を労しつつ歩いていると、不自然にツタで通行止めされている箇所に行き当たった。他に道はなく、一見すると行き止まりということになる。

「ねえ、道を間違えたんじゃないの。これじゃ進めないよ」

「そうとも限らないな。ツタによるトラップは実在しているからそいつかもしれない。ハルカだっけ、君は炎属性のモンスター持ってるか」

 森のダンジョンにおいて隠しアイテムを手に入れるために突破しなくてはならないトラップだ。解除方法は単純で、炎属性の技を使用すること。ライムであればヒートショットを使って楽に突破できたのだが、あいにくミィムでは技の攻撃属性を変更できない。

「えっと、炎属性ならバ……いや、持ってないわね」

 何かを言いかけたが、必死に首を横に振る。地面へと伸ばしかけた手を慌てて引っ込めていた。


 疑念の眼差しを向けたテトであったが、まずはこのツタを排除するのが先決だ。炎属性のモンスターに変身するという手もある。しかし、ミィムの変身能力はその場にいないモンスターを対象にできるほど卓越していない。その他に炎属性の技というと……。

「ライム、お前自爆するか」

「テト、冗談にしてはたちが悪いよ」

 一応炎属性の技なのでトラップは解除できる。だが、同時にジェリーや技を使った当人までも吹き飛ばしてしまいそうだった。無論、本気で提案しているわけがないのだが、ミィムはムキになってテトをポカポカと殴りつける。


「予め言っておくけど、このトラップは炎技では解除できないわよ」

 本当に自爆されかねないと危惧したのか、ジェリーはあっさり種明かしする。彼女の額からは尋常ではない量の汗が噴き出していた。

「炎が無理ならどうすりゃいいんだよ。まさか突破できないってわけじゃないよな」

「ちゃんと解除方法はあるわ。ツタをよく見なさい」

 そう言われてツタを観察すると、テトの頭上辺りに赤い葉っぱが生えていた。その他が一様に緑色なので、妙に目立っている。そこから等間隔に合計三十枚の赤い葉っぱが混じっていたのだ。

「赤い葉っぱのうち、上から十四番目をちぎって『BB』と叫べば扉が開かれるわ」

「十四番目をセレクトしてBBか。幻のポケモンが出て来そうだが、本当にそんなので大丈夫か」

「私に聞かれても困るわよ。とりあえずやってみればいいんじゃない」

 疑い半分だが、テトは上から律儀に赤い葉っぱを数えていく。そして十四枚目になったところでそっと引きちぎり、「BB」と叫んだ。


 すると、複雑に絡みついていたツタが勝手に移動を開始する。意図的に行く手を阻むようにしていたのが空洞を作り、人ひとりが歩いていけるスペースが生じた。その先にもまた森が続いているようである。

 テトが先に進むのを躊躇しているうちに、ジェリーが先行して侵入していってしまう。続いてハルカも後に続く。女性陣に後れをとっては面目丸つぶれなので、深呼吸して森の奥へと踏み入れていった。


 これまで以上に木々が生い茂げり、陽の光をほとんど防いでしまっている。ほんのりと明かりがあることから今は昼だろうが、夜になったとしてもそんなに大差ないだろう。トラップで隠されていたこともあり、魔獣の類が潜んでいたとしてもおかしくない雰囲気だった。

 ふと、「アオ~ン」という遠吠えが響く。イヌ科の猛獣に独特の吠え声というのは容易に予想がついた。そして、森で遠吠えする魔獣といえば連想できるのはあいつしかいない。

「テト、もしかして狼さんがいるの」

「そうみたいだな」

 やがて、雑草が擦りあわされる音がする。何者かが草むらを掻き分けて疾走してきているのだ。不意打ちを警戒し、テトはミィムにいつでもバブルショットを放てるように準備を促す。


 そして、駆け足が大きくなり、テト達の前に飛び出してきた。すぐさまバブルショットを放とうとするが、その意思はくじけることとなる。なぜなら、そいつは予想外に小柄だったからだ。

 それどころか、四足歩行の魔獣ですらなかった。獣の耳と尻尾を有しているが、スラリとしたモデル体型で二足歩行をしていた。露出の多い毛皮でできた衣服を身に着け、乱れた髪を掻き分ける。その様に対し、獣という単語を使うのは場違いであった。彼女を形容するのならば、「少女」と言うしかない。


「ルゥ!」

 ハルカが真っ先に声を上げた。少女は一瞥すると上唇を引き上げる。そこから覗く犬歯は獣のそれであった。

「私の名前を知ってるってことは、戦ったことがある相手かしら。あまり過去に拘泥しないからよくわかんないけど」

「私のことを忘れたの? あなたのパートナーのハルカよ」

 必死に訴えかけるが、ルゥと呼ばれた少女は斜に構えるばかりだ。ハルカは謎の相手によりルゥという狼のモンスターを奪われたと話していた。名前といい特徴といい、彼女こそがハルカの手持ちモンスターであったことは間違いない。


「そこにいるのはライムかしら。聞かされていた特徴と一致するし」

 標的をテトへと変更して舌なめずりをする。ミィムは否定しかけたが、先んじてテトが、

「そうだ。お前らが捜しているっていうから、わざわざ出向いてやったぞ」

 と、宣告しておいた。すると、ルゥは半円を描くように跳躍し、ミィムの前に降り立った。まじまじと観察され、ミィムは顔を引きつらせる。

「予想外に小さいのね。まあ、いいわ。ライムさえ手中に収められれば目的は達せられるから」

「お前にとって都合はいいかもしれんが、そう簡単にライムを渡してなるものか。そして、お前の洗脳も解いてやるぜ」

「私が洗脳されてるって言いたいわけ。片腹痛いわね」

 一笑に付し、飛び跳ねながら距離をとる。両手の爪を剥き出しに、前傾姿勢で唸りをあげている。テトがミィムに合図を出すと、彼女は勇んで進み出る。ハルカも負けじと魔法陣を展開させ、手持ちのモンスターライガオウを召還した。


 ミィムとライガオウという二体のモンスターに阻まれ、ルゥの顔色に陰りが生じる。だが、すぐさま機敏に飛びのくと指を鳴らした。

「さすがに二対一じゃ分が悪いもんね。私の相棒を紹介してあげるわ。来なさい、ジオドラゴン」

「ジオドラゴンだと」

 テトが驚愕の声をあげる。他人の空似ならぬ他龍の空似であることを信じるばかりだった。だが、草陰より姿を現したのは微かな希望を一瞬にして打ち砕く存在であった。

スキルカード紹介

海賊版パイレーツエディション

使用済みのスキルカードを復活させて再利用することができる。

ゲームのルール上同一のスキルカードを二連続で使うことはできない。そのルールを打ち破ることができる、いわばトラッシャーのリサイクルと同一の効果を持つカードである。

リサイクルという技と異なるのは、相手が使ったスキルカードまでも再利用できるという点。強力かつ利便性が高いことからレアリティが高く、マニアの間ではかなりの高額で取り引きされている。

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